シロの冒険 1
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「二ヶ月でこれを?」
目の前には建坪400坪以上の平屋が建っている。これは豪邸と言って良いレベルだ。
「らしいですね。流石にエステリオ王国というべきなのでしょう。」
「アーカネ、冷静すぎる!」
(手土産も持ってこなかったし・・・)
案内されて中に入ると、エントランスホールに一抱えもある花瓶に色とりどりの花が活けられていたり、ふかふかで足が不安定になるほどの絨毯が敷き詰められていたりと、ずっと使うつもりなのかと思うほど、きっちりかっちり細心の配慮で整えられている。
少しいるだけの場所にこれだけの労力をかけられるほど豊かな国なのだと思う反面、貧乏性の沙耶は『労力と資源の無駄使いはやめましょう』とつぶやいてしまう。
『ラーヴェラル帝国の戦神子とその愉快な仲間たち』御一行は五大国会議から二ヶ月後、再び聖都マエール近郊までやってきた。
目的はシロに持たせた『種子つきの種』が見ているものをエステリオ王国の戦神子シンと見るためである。
帝国からもシロからも遠いこの土地で、シロに何かあっても駆けつけることはできないし、シロを24時間体制で監視するわけにはいかない。
持久戦になることを見越して、建てたのだろうが豪華すぎる。
「良く来てくれたね。長旅で疲れただろう。なるべく快適に過ごせるように造らせたのだが、気にいってくれた?」
輝く後光を背負うように出迎えてくれるシン。
「素晴らしいです。まさかこのためだけに建てたというわけではないですよね?」
ドライブに誘われて軽い気持ちで来たら、新車を買って待っていましたというような感じで『重い』。
「好みが合わないところがあったら、直させるよ?」
「とんでもない!」
思わず後ずさりする沙耶を見て可笑しそうに笑う。
「冗談だよ。前から聖都の近くに離宮が欲しいと考えていて準備をしていたのですよ。」
「そうですか。」
ほっと胸をなでおろす。
「サヤは、もう少し図々しくなったほうが良いね。戦神子の存在が前提の世界で、こちらは無理やり連れてこられた身。負い目はこの世界の方にあるのですよ。」
「そうは言っても、根が小心者なのでかえって肩がこります。」
「サヤらしいね。とても新鮮だよ。」
シンの提案は、帝国のメリットではなくエステリオ王国のメリットの方が大きい。
データーを保存するために沙耶たちは、スマホとタブレットを持ち込んだ。つまり手の内をひとつ明かすことになる。
シロの能力もエステリオ王国の知るところとなる。もう一つ切り札を失う。
シンの能力を知り得たことはこちらのメリットにはなるが、シロはもともと帝国内を自由に歩き回っている。
当然我が家である王宮内にも。情報のダダ漏れ状態はかなりデメリットだ。
それを考慮してもシンに同意したのは、やはり『奈落』に対する危機感がある。国同士の綱引きよりも国自体の存続、ひいては“人”の存続の問題の方が優先順位は高いのだ。
エステリオ王国と連携を強めることによって五大国の中で優位に立てるという計算もある。
『虎の威を借る狐でも構わない。』
とティルルは言った。
メールの着信音がする。
シロの外出を知らせてきたのだ。
「便利だね。大地電話はあっても電波の速度には勝てない。ラーヴェラル帝国はサヤのこの能力だけでも感謝しなければいけないのに、よりによってサヤを一時期無能呼ばわりしていたと聞いているよ。」
シンがアーカネを見ていう。
そんな情報まで伝わっていたとすれば、もしかしてあんなことも、こんなことも伝わっているかもと沙耶は冷や汗が出る。
「帝国の経済が持ち直してきつつあるのは、『ルイーズの女神』の功績であると、臣民の中には定着しております。」
アーカネは他国の戦神子なので、多少はオブラートに包んで言い返す。
アーカネは事前にアーガイルから忠告を受けていた。
聖都マエールでキンヨンダの気配を感じたと。
どこのものだかは判明したわけではないが、エステリオ王国の戦神子とともに移動したところを見ると、シンの配下である可能性も出てくる。
固有能力が消身だけならいいが、生命与奪を使える者だと危険度は跳ね上がる。ここに来る前にキンヨンダの気配は覚え込んできた。それにあの親子は一旦王宮内に隠れてもらうことにした。
(『冷徹なる宣告者』の能力さえ今回本人から知らされるまで、召喚師と伝わっていたくらいだ。何を隠しているかわかったものではない。)
場所を移そうと言われて連れられて入った部屋は、中央に室内とは思えないほどの大きさの噴水があった。
その脇にはディバン(カウチのようなもの)がいくつか置かれているほかは何もない。
「ここなら、君たちにも見せてあげれるからね。」
そう言うとシンは『種子』を噴水に落とす。
噴水に風景が映し出される。
「ここは?」
「ラーヴェラル帝国帝都。」
「水をスクリーンがわりにして投影させているわけですか?」
「そう。音が聞こえないのがネックだけどね。」
シロは城外に出たらしい。街並みが映る。
「あれ?ここ見覚えがある。」
サヤの見知った女性が映る。
「『白猫亭』ですね。」
アーカネも頷く。映っているところはシロがよく水を飲みによるところであり、サヤのアルバイト先だったところだ。
昔は『アカシヤ亭』と言っていたがシロが寄るようになって、名前が変わってしまった。
シロを撫でて何か話しかけているようだ。
☆
シロは餌を探しに出かける前に、水飲み場へやってきた。
『うな~ん』
尻尾をぴっぴっと動かして挨拶をする。
シロは人懐っこいが好みがある。熟女好きだ。女将さんはシロのストライクゾーンで、かなりお気に入りの人間の一人だ。
「女将さん!シロ様が水を飲みにいらした!」
下働きに雇った子が奥に声をかける。
「井戸から水を・・・お前じゃ危ないね。今行くよ。」
シロは女将が汲み立ての冷たい水を舌ですくって、飲む。
下働きの子は、シロの大きさにビビりがちだ。
「そんなに怖がらなくてもこの子は何もしやしないよ。」
飲み終わって、身を震わすシロに近づこうとしていたが、やっぱり下がる。
「大丈夫さ。ほら。見慣れないものをつけているね。サヤ様がつけたのかね?落としちゃダメだよ。」
そう言うと女将は濡れているシロの口の周りを前掛けで拭う。
「ちゃんと歯磨きしているかい?」
そう言うと口をめくる。子供の腕ほどの太さがありそうな犬歯がむき出しになる。
「犬歯もまた伸びたね。」
「お、女将さん、大丈夫ですか?怒られやしませんか?犬歯というより《牙》ですよ。怖くないんですか?」
「私はシロがこんなに小さい時から知っているからね。ほら口を開けて。」
シロは素直にくわっと口を開ける。
大きく開いた口は、女将さんの頭がすっぽりと入ってしまいそうだ。
女将は持っていた台拭きを水で洗うと、シロの牙を拭き始めた。下働きの子は気が気じゃない。ぱくっと口を閉じられたら女将の手は、細い棒キレよりもたやすくもげてしまうだろう。
「お、女将さん、やめてください!心臓に悪いです。」
「そうかい?よし!これで綺麗になった。また帰りにおいで。」
女将さんはシロの頭を撫でるとそう声をかけた。
シロはしっぽと瞬きで返事をするとひとっ飛びで、屋根の上に上がる。音はしない。猫の肉球が音を吸収しているのだ。
空は晴れ渡っている。今から行けばちょうど“狩りどき”だ。
ザラザラの舌でちょっと体を舐める。
猫は犬とは違って長距離走者ではない。丸い背中がそれに向いていないのだ。かと言って走れないわけではない。犬にはない跳躍力もある。
シロは帝都の家屋の屋根を音もなく、跳び駆け抜ける。下では人々が忙しく行きかっているが、音もしないで軽やかに屋根をわたっていく姿を目に止めれた者は少なかった。
帝都の郊外に出たシロは一旦止まる。いつも此処の樹に体をこすりつけることにしているのだ。帝都は自分の家、ラーヴェラル帝国は自分のテリトリーであり、狩場。巡回と餌探しは定期的にしている。
少し前に自分のテリトリーを犯したよそ者がいた。
シロの家族に危害を加えようとした。
シロは戦おうとしたが、向こうの方が少し強かった。シロは本能的にもっと『強くなる』ことを望み、最近は自分のテリトリー外での狩りも試みるようになっていた。
擦りつけが終わると、シロは地面の臭いを嗅ぐ。
シロの毛並みが白から銀色にと変わっていく。
それとともに地面が泡立つように盛り上がり、その中にシロが沈んでいく。
シロは単独でどんなことをしているのでしょうか?
雰囲気は児童書の『ウォリアーズ』のノリで、次回はシロ(猫)目線100%でお送りいたします。




