手紙
読んでいただきありがとうございます。
サウナでかいた汗を流して、乾かすとかなりさっぱりとした気分になる。
「サヤ様、髪に少し香油を付けますね。」
「まだ臭い?」
「いいえ、もう匂いませんよ。ですが、サウナで髪が痛みますのでサヤ様の世界で言うところの、トリートメントをいたしましょう。」
セエルが出してきた香油は、甘い香りがした。
「花の香り?」
「麝香でございます。」
「向こうの世界でもあったけど、同じものかな?」
香水をつける習慣がなかったので、香りを嗅いでもわからない。
「サヤ様、もうお支度はお済みになりましたか?」
セリーンが顔を出す。
「皇帝陛下がお呼びになっていますが。」
「ティルルが・・・」
「どうなさいますか?」
セエルが聞く。
優しく背中をなでてくれて、いたわってくれたティルルには感謝している。
まだ、自分の中で結論が出ないが、お礼は言っておくべきだろう。
「行きます。」
「サヤ様の軽食を何か見繕ってきなさい。」
セエルがセリーンに指示する。
「私は陛下に少しお時間をいただけるようにお願いしてきます。サヤ様は」
「私は自分で着替えられる。」
「そうでございますね。クレイをよこしますのでしばしお待ちを。」
そう言って小走りに二人が出ていく。
「・・・・自分で着替えられるって。」
過保護だと心の中で呟きつつ、着替えを取る。
着替えのポケットに何か紙が入っている。
「?」
手紙のようだ。差出人は・・・Meister・・・マイスター?親方?・・・師匠・・・マッシュールの?
中を見てみる。
読めん。英語であっても危なっかしいが、おそらくドイツ語だろう。
師匠はドイツ人だったから、この手紙の差出人は師匠で間違いないだろう。
一体何が書かれているのだろう。手紙をさらに見てみると、こちらの言葉がひとつ書かれていた。
『戦神子の契約の秘密』
それが、なんだというのだろう?
「サヤ様、お着替えの手伝いに参りました。」
レシュが声をかける。
サヤはあわててポケットに手紙を入れた。
「済んだよ。」
「陛下がサヤ様のお部屋にお越しになっています。一緒に軽いものをお召し上がりになられるということですので、ご用意しております。」
「はあ~」
どういう風に接したらいいかわからなくて盛大にため息をつく。
「サヤ様、いい加減に陛下と仲直りなさいませ。」
「うん・・・でもね、ティルルと私の考え方が違うのをうやむやにしていいのかなって」
「私見ですがいいのではないのですか?同じ考えの人っていないと思いますよ。私なんてそんな人が側にいたら気持ちが悪いです。」
「そう言われたら、そうなんだけど。」
素直になれない。
☆
気まずいのはティルルも同じだが、理性ではどうにもならない自分の気持ちを認識していて、それに逆らわないと思うだけ、話が簡単だった。
「サヤ様が、お戻りになりました。」
甘い香りとともに顔を火照らせたサヤが入ってくる。
「お待たせしました。」
まだ、表情は硬いがキマイラとの戦いの影響は少ないようだった。
「体の方は大丈夫か?」
「なんともありません。」
テーブルにお茶と小さいパンが置かれる。
「陛下もサヤ様もおつまみください。お二方とも少しは何かお腹に入れませんと体に毒でございます。」
「ティ・・陛下も体の具合が悪かったのですか?」
「ティルルでいい。することがあっただけだ。」
陛下と呼ばれて舌打ちしそうになる。
「あ、あの・・・ゴキ・・・」思い出すと気持ち悪くなりそうなのだろうつっかえる「スベルトではありがとうございました。」
「数が出ると厄介なやつだ。サヤのおかげで助かった。」
そう言うとほっとしたように顔が少しほころぶ。
「笑っていろ。サヤは笑っているのが一番綺麗だ。」
「!・・・」
真っ赤になってアタフタとテーブルのお茶を一気に飲み干すと小さいパンを手にとって、口に入れる。
「あ、おいしい。中に具が入っている。」
「ナーソーの漁師の軽食で、ガティというものだそうです。」
セエルがお茶のおかわりを注ぐ。
「最も漁師のガティの具は、野菜のごった煮ですが。」
確かにひき肉が入っていて、ジューシーだ。沙耶はこういったB級グルメのような食べ物の方が性にあっている。
「変わっていないな。」
ティルルが確かめるように言う。
「?」
一口食べるとお腹の減っていたことに、気がついた沙耶はついほおばってしまいティルルの言葉に返事ができない。
「いつものサヤだ。」
ティルルの言葉は沙耶が一番言って欲しかった言葉だと言われて初めて気がついた。
キマイラの『殺戮』で自分が、何か違うものになってしまったのではないかと密かに恐れていたのだ。
「ありがとう。」
口の中のものをお茶で流し込むと、きちんと頭を下げる。
その言葉にティルルの方も、口元が緩む。
冷笑ではなくて、真からの笑みはその整った顔を、魅惑的にする効果がある。
二人を邪魔しないように部屋の隅に控えている侍女たちが、思わず息を呑むほどの甘いマスクに変貌する。
(ルススなんて足元にも及ばない・・・)
(いつもこんなだったら、この世界の半数近くを掌握できるのに。)
動悸を抑えつつ心でつぶやく。
仲直りと言っていいのかもしれないが、これは一体どちらが謝ったことになるのだろう?
賭けをした者たちのあいだで緊張感が増す。
ついにその取り分をめぐって帝国を二分しかねない争いが勃発する!
待て!次話
嘘です。




