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猫を追いかけて異世界  作者: ふー
策動編
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55/112

天敵

お読みいただいきありがとうございます。

そんなにグロくはないと思いますが・・・

嫌いな方ご飯中の方はごめんなさい。


 嫌な予感がする。

 嫌な予感しかしない。

 向こうの世界で暗がりであいつ(・・・)の気配を感じ取った時以来だ。


「サヤ様?」

 鳥肌を立てたさサヤにウェイ隊長が声をかける。

「大丈夫よ。例のものは用意してある?」

「持ってきていますよ。前みたいに油断しませんから、少し体の力を抜いてください。」


 シロが洞窟の入口で、体勢を低くして中を見ている。尻尾の先が小刻みに揺れている。

「まだ遠いようですね。」

 モンテス(やまねこ)のギイルがシロの気配を読む。


 シロがサヤを見る。

「大丈夫だよ。」

 声をかけると、そろそろと洞窟の中へと姿を消す。


「配置完了しました。」

 ウェイに部下が報告に来ている。


 サヤは深呼吸をする。

 プロ(アビス)の助言も得た。

 特訓もした、大丈夫と言い聞かせる。

 後は『キマイラ』でさえ『殺す』ということに躊躇しないことだと、アーカネに口が酸っぱくなるほど念を押された。躊躇すればやられるのは、こちら。互いに慈悲など通用しないと思えと。

 まるで、ティルルが言うことのほうが正しいとアーカネに言われているようだった。


(いけない。今は集中。)


「来た!」

 洞窟から走り出てくる気配がする。


 皆がそれぞれ臨戦態勢を取る。


 シュッ


 腰を入れて抜き打とうとするウェイに


「シロだ!」

 とギイルの声。


 シロは出るやいなや方向を変えて、洞窟に向かい唸り声をたてる。

 爪は出されたままで白銀に輝いている。体毛もいつもの柔らかい綿毛のような白ではなく、ワイヤーのような硬質的な色だ。


「おびき出してきた。来るぞ。」

 その声に一同は洞窟の中を注視する。


 黒い。そう大きくはない。シロよりは小さくセントバーナード犬くらいか。

 だが、個体数が多い。

 カラスの羽、アルマジロの外皮、猿のような6本足、触覚のようなヒゲ。


「ウェンコクロクだ。気をつけろ!弱点は腹。他は硬い外皮で致命傷があたえづらい。体液に腐食性がある!」

 アーカネが警告する。

 厄介な敵だ。シロは野生のカンで判るのか、シロの爪には外皮もただの紙のように引き裂くことができるが、爪を振るっては離れるという戦い方をしている。


「ま、まさか似てるなんて。」


 ガサゴソ地を這うように洞窟から出てくる姿は、ゴキブリそっくりだ。

 足の力が抜けそうだ。


「サヤ!そいつは虫じゃない!キマイラだ!似ているだけで別物だ!」


 その声に振り返ると、ティルルが叫んでいた。

 そう、ティルルは沙耶がゴキブリが苦手な事を知っていた。


「距離を取れ!」


「弓隊!援護を頼む。」


 次から次へと洞窟からガサゴソと這い出てくる。


 沙耶は深呼吸をする。

「入口にネットを垂らしてこれ以上出てこられないようにする!」

 沙耶の声に、金属製の大きな鎖帷子(くさりかたびら)が用意される。


 重いので四人がかりだ。彼らの安全と広げるスペースを確保しなければならない。広がったウェンコクロクはシロやアビス、騎士団が慎重に確実に葬っている。

 固まっているやつらは、

「『レーザー最大出力』」

 かつての熱線ではなく、赤い一条の光がウェンコクロクを焼く。

 瞬時に体液が固まるので、被害はない。


 熱線をくぐり抜けたウェンコクロクが最大の敵を沙耶に決めたのか、一斉に沙耶に向かってくる。

 カサゴソ

 カサゴソ

 カサカサ


「いやあ!こっちに来ないでえ!」

 さらにレーザーの出力が上がる。

 こげたウェンコクロクがすざまじい臭気を放つ。


「ネット設置完了!」


「サヤ様!」


「『加熱調理』」

 大きな金属ネットの中でウェンコクロクがのたうち始める。


「ネットをしっかり固定させろ。」

「触るなよ!」

 怒号が飛び交う。そのうちウェンコクロクの動きが鈍くなり、臭気が立つ。





「サヤ!サヤ!もういい。全部やっつけた。」


 ゆすられて、気がつく。

 あたりは目が痛くなりそうなほどの臭気が立ち込め、シロはくしゃみをしている。

 あちらこちらに炭化したような黒い物がある。


「ティルル?」


「ああ、そうだ。よく、やったな。」


(終わったんだ。)


 カサ


「ひっ!」


「大丈夫だ。お前がやっつけた。小物とは言え難敵だった。」

 まだ、座り込み焦点のあっていないような沙耶にティルルが、抱えるように話しかける。


「終わった?」


「ああ。」


 沙耶の目の焦点があってくる。

 彼女の麻痺していた嗅覚が戻る。

 グッ


 その場で吐き戻すサヤの背中をティルルが、優しくなでる。

「ごめん。ティルル、汚れちゃう・・・グッ」


「気にするな。全部吐けば少しは楽になる。そうしたらすぐにここを離れるぞ。」


 周りも撤収の準備を始める。

 沙耶は背中のティルルの手を感じながら、吐いた。




 沙耶が次に気がついたのは、ナッソーの宿舎のベッドだ。


「サヤ様、ご気分はいかがですか?」

 クレイが話しかけてくる。


 え~と

 吐いて?

 そのまま?

 気絶?

 気絶なんて初めてした・・・


「あ~!」


「どうなさいましたか?」

「まだ、お加減が?」

 とレシュとセリーンも近づいてくる。


「ティ・・・皇帝陛下は?」


「先程までいらしていましたが、今は領事様のところにおられます。セエル侍女長が知らせに行きましたので、そのうちこちらにお越しになられるでしょう。」

「体はどこも痛くはございませんか?」


「大丈夫。・・・でも何かまだ臭いような気がする。」


「ウェンコクロクの腐食液は固まるとものすごい臭いで、カルガーイなどスベルトでは役に立たなかったそうです。10回以上風呂に入ってもまだ鼻が元に戻らないと、寝込んでおります。」


「私も臭い?」


「正直もうしますと、はい。」


「動けるようでしたら、湯浴みをいたしませんか?」


 沙耶は赤くなる。

「ごめんね。」


「いいえ、皆臭いのですから、なれました。というか鼻が麻痺しました。」

 レシュが笑って言う。


「皆は無事?」


「はい。サヤ様の奮闘のおかげだと言ってましたよ。あのアーカネが。」

 セリーンが、湯浴みの準備をしながら言う。


「上がったら、飲み物と軽くつまめるものをご用意しましょうね。」


「シロは?」


「洗われましたよ。ギャーギャー言っていましたが、声だけで逃げもせずに洗われていました。屋上で日向ぼっこがてら乾かしています。」


「そう。」

 本当に皆無事に帰って来れたのだ。

「よかった。」



 領事館の中の公舎にある宿泊施設には、サウナがあった。

 岩をくりぬいて作られたもので、天井が共通の岩屋の片方で海藻をガンガン燃やす。

 その薬草が燃えきったところで、周りの部屋に人が入るのだ。岩が温められて遠赤外線を出す。加えて海藻ミネラル分を含んだ水蒸気とともに、人の肺に入るのだ。海が近く岩場の多いナッソーならではのサウナだ。

 その一室に入って、水分を補給しながらじっくりと汗を出す。

 汗とともに染み込んだ臭いを抜いていくのだ。


 ほのかな明かりしかない岩屋のサウナは物思いにふけるにはちょうど良い。

 夢中でしたことだが、沙耶はキマイラという生物を『殺した』。

 なんだろう。罪悪感がない。

『よくやった』という言葉が素直にうれしい。

 ゴキブリに似ていたからだろうか?

 人ではないからだろうか?

 生きるために仕方がないからだろうか?

 自分は変わってしまったのだろうか?

 戦神子だから、何も感じないのだろうか?

 でも、人を殺すなんてことは考えられない。

 まだ自分は麻痺していないと思う。


ゴキブリはリアルに臭いです。

しかも、一匹成虫で見ると、一家郎党30匹はいなさります。


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