拉致
予約投稿でこの話が抜けてました。
(^_^;)
今朝気がついた・・・焦りました。
お読みいただきましてありがとうございます。
沙耶はポケットの手紙をティルルに相談し損なってしまった。
侍女長以下侍女たちは今回ティルルの侍女も兼ねている。
ましてやウェンコクロクの臭気であそこに居合わせた者たちの洋服やら下着などがすべて使えなくなっている。
その手配などで、バタバタと忙しく立ち働いている。
彼女たちを煩わすのも気が引けるし、まずは読んでからと翻訳ソフトを立ち上げる。
沙耶が人に頼らないで、自分一人で解決しようとしてきたことが裏目に出るとはこの時は思いもよらなかった。
(バール師匠、読めなかったらどうするつもりだったのでしょうかね。)
左に書いてある文章を入れる。金釘流のアルファベットで打つのに時間がかかる。
「何していらっしゃるんですか?」
クレイが声をかけてくる。
「翻訳。」
眉間にしわを寄せながら、画面とにらめっこをしている沙耶を見てクレイは邪魔をしないで、自分の仕事に専念することにした。
「少しお一人にして構いませんか?」
「ん、いいよ~。」
「出来た~時間かかったな。日本語に翻訳っと」
『元気ですか。先日言い忘れたことがある。とても大事なことだ。少し時間があるので、ラールヴェルに来ている。来ていることは内緒だ。すぐに帰るので下の時間に下の場所に来てください。』
「らしくない文章だなあ。翻訳ソフトだから仕方ないか。ってもうすぐじゃない。この時間までにここへなんて行けるかなあ。」
廊下を覗くが、今に限って人影がない。
(どうしよう。一人で出かけたらまずいだろうし、かと話したら止められるし、内緒だと言ってきているし。戦神子が他所にお忍びで来るのは本当はまずいわよね。でも師匠は、何か大事なことを教えてくれようとしてる。きっと『契約の秘密』とやらのことだろう。)
沙耶はフードとクローゼットから探し出すと、かぶって人気のない廊下に出た。
王宮とは違うのですぐに街に出られる。
それはいいのだが、場所がわからない。
大体住所だけしか書いてないので、ナビOイムもゼンOンの地図もないので右も左もわからない。
(ま、こういう時には人に聞けってね。)
聴く人を物色し始めると、声がかかった。
「何か探しているのか?」
人相の悪い男だ。こんな男に道を聞いて嘘が返ってくる公算が高い。
「いえ、違います。」
すり抜けて行こうとすると、手の中の紙を取られる。
「返してください!」
「この場所を探しているのか?すぐそこだぜ。案内してやるよ。」
「い、いえ結構です。」
男は頭をボリボリと掻く。
「あんた、俺の風体で警戒してるんだよな。」
そうですとも言いにくいので
「し、知らない人について行ってはダメと遺言で。」
「わははは、面白いやつだな。場所がわからないんだから、聞かなきゃしょうがないだろう。なら教えるだけでついて来いとは言わねえよ。それにこの風体の悪いのは半分は生まれつきだが、半分はキマイラとの戦闘でついた傷が原因だ。心は綺麗なつもりなんだがな。」
そう言って、笑うと凶悪な人相が愛嬌のあるものに変わる。
「・・・わかりました。案内お願いします。」
「いいのか?」
「はい。笑顔は信じます。」
「波止場なんだがな。行き先は。今は船が入港している時間ではないから静かなところだが、船が入っていると賑やかだぜ。」
「そうなんですか。あなたは船乗りなんですか?」
赤銅色に日焼けした肌は、フィン領事と同じものだ。
「2年前に海のキマイラに船をやられて、降りた元船乗りだ。今は水先案内人をやっている。」
「2年前。」
「そうだ。そう少し女神さんが早くナッソーに来てくれたら、今も海の上を走り回っていたな。だが、女神にも守護獣にもナッソーの街は感謝している。この街は皇帝より女神の方に忠節を誓っている奴の方が多いな。」
知らないで褒められているというのは、気恥ずかしい反面とても嬉しいものだ。
礼を言うのもなんなので
「そうなんですか、すごいですね。」
などとごにょごにょごまかす。
「ここだ。」
「ありがとうございます。」
「いや、いいてことよ。だが、この住所だとここら一帯だ。大丈夫なのか?」
心もとないが、この人を連れて行くわけにはいかない。
「はい。ここまでくれば大丈夫です。ありがとうございます。」
男は振り返りつつ去っていく。
(神子だって気がついちゃったかな?)
ヒュイ
口笛が吹かれる。
「『ルイーズの女神』様、こちらです。」
近寄ると、やはり人相の悪い男が手招きしている。先ほどのことがあったので顔で判断するのはやめようと思うが、男の三白眼が蛇のような(ウルガイア、ごめん)酷薄な感じを与えるので小さく身震いをする。
本能がこいつは危険だと言っている。
ジリジリと下がるのを見て
「警戒なさるのは最もですが、職業が出てしまって申し訳ない。」
とつるりと顔をなでる。
「本当に来ていらっしゃるのですか?」
「はい。ただ街に入ると見知ったものもいるかもしれないので、少し離れた場所にいます。今からお連れしますので、小舟に乗ってください。」
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「サヤがいない?」
「申し訳ありません。30分(換算してます)ほどお一人にしている間に領事館を出られた模様です。」
セエルが真っ青になって皇帝に報告する。
「外に出たのは確かなのだな。」
「ローブがないそうです。それだけならすぐに見つかって騒ぎになっても不思議ではないんですが。」
アーカネの言葉にフィンが頷く。
「サヤ様の顔はこのナッソーでは知られてますからね。」
「遊びに出たのならいい。が、不審者の話がある。」
フィンがアーカネに目顔で問う。
「王宮に入り込んでいた奴が居たんだ。」
「人をやって探させましょう。」
「そうしてくれ。」
「陛下、神子様付きの侍女がきております。」
「通せ。」
クレイがパソコンを胸に抱えて、涙を目にいっぱいに貯めて入ってくる。
「陛下、申し訳ありません。」
声が震えている。
「今はいい。用事は何だ。謝るだけなら失せろ。」
「陛下。そのものの言い方は萎縮してしまいます。サヤ様はその事をおっしゃられていたのですよ。」
セエルが侍女長とはいえ、不敬に当たりそうな口調でティルルを諌める。
ティルルには余裕がないのも事実だ。
「許せ。気が急く。」
「は、はい。サヤ様がいなくなる前に、パソコンをしていらしたので手がかりがないかと見ましたら、これが」
パソコンを開いて画面を出す。
そこには沙耶が閉じていなかった翻訳の画面があった。
「呼び出された?」
「のこのこついて行くなんて。」
「旧知の人物で他国人か。」
フィンがつぶやく。彼には心当たりがない。
「あと、これがゴミ箱に。」
手紙だ。中身はない。中身はパソコンの文面だったろう。
Meisterと書かれている。
「貸せ。」
ティルルが翻訳ソフトの左に打ち込む。
親方・・・おやかた
さらに意味を調べる。
先生・・・師匠
「あ!」
「お!」
クレイとアーカネが反応する。
「何だ?」
「マッシュールの戦神子をサヤ様がそうお呼びになっていました。」
アーカネも頷く。
「他国の戦神子がかんでいるだと!」
「も、申し上げます!今、外にサヤ様を波止場まで送ったと申す者が来ております!」
「通せ!いや!そこへ行く!」
ティルルは紙から目を上げると、椅子から立ち上がる。
(『戦神子の契約の秘密』だと!)




