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猫を追いかけて異世界  作者: ふー
奈落侵攻編
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終わりの始め《最終話》

お読みいただきありがとうございます

「ずっとあれからを覚まさないのですか?」

 シンがサヤを見舞いに来た。


 あの時、ウェブが『奈落マレフィスクの戦神子』の反撃にあって、頭を打ち抜かれて死んでしまったマクベインと『奈落マレフィスクの戦神子』を『生死与奪サクリファイス』で生死を逆転させた。

 あっけなく『奈落マレフィスクの戦神子』は崩れ落ちた。

 もう少し遅ければサヤを連れて行かれただろう。

 間一髪だった。

 その後はマクベインとアビスと連合軍でなんとか残ったキマイラを掃討した。

 つまり勝利をかろうじて得たわけだ。


 マッシュールの戦神子は瀕死の重傷だったが、今は回復途中にある。

 シロもかなりの手傷を負っていたが、仕留めたキマイラを食べて一気に回復した。

 アビスや連合軍の戦死者も大きかったがあそこまで内地に入れ込まれていたのに、一般庶民の被害が少なかったのは幸いだった。


 皆が痛手から回復しつつある中、取りこぼしたようにサヤだけがあの時から意識を取り戻さない。

 少しあった体の傷も治っている。

 点滴という異世界の手段がない以上眠り続けるということは、『緩慢な死』に向かっていると同義だ。


 そこにシンからの連絡だ。

「サヤに栄養を補給させることができるというのは本当なのか?」


「本当だよ。種をサヤに寄生させる。その種を芽吹かせて逆にその寄生草に栄養を与えてサヤを養ってもらえばいいのです。つまりサヤが逆に寄生し養ってもらうということですね。」


 胡散臭い。

 帰省した植物がサヤに危害を加える、またはサヤが操作されるという危険性は多分にある。

 しかしとティルルは思う

 死んでしまうより、サヤを失ってしまうよりはマシだ。


「やってくれ。」


 シンとしても芽吹かせて逆に養わせるということは、初めての試みだ。

 経過を観察するために、ラーヴェラル帝国に滞在することになった。


 眠っているサヤは時折とても苦しそうな顔をする。

 それを見るのがとても辛い。

 シロも出歩くことをせずにサヤについている。

 サヤがうなされるとシロがすかさず鳴き声を出す。

 そうするとすぐに静かになるのだ。


 芽吹いた寄生草の様子を見ながらシンが必ずシンが、サヤに会うときは必ずついてくるティルルに言う。

「サヤは帝国民にしたわれているんだね。」

 城門前にはサヤの快癒を願う人が絶えず訪れている。


「帝国民だけではない。他国のものも見受けられる。」


「そうか。サヤは人の方を向いて彼らの力になれるようにって行動していたからね。」

 侍女たちが絶えず世話をしているので、綺麗に手入れされた手を取る。

 桜色の可愛らしい爪を持つ小さめの手だ。


 対抗するようにティルルはサヤのなめらかなハリのある頬に手をやる。

 くるくると変わる表情はそこにはない。





『あ~ん な~ん うにゅ~ん』


 シロだ

 シロが寂しくて人恋しくて泣いている時の声


 手とか頬のあたりが温かくなる


 《目を覚ませよ》

 《さみしいよ》

 《撫でてよ》

 《愛している》


 温かい波動を感じる

 重かった体が浮いていくのがわかる


 《よかった・・・・戻れそうだ。》

 《どっちに?》

 《元いた世界に?それとも道具として召喚された世界に?》

 《道具・・・そう道具として召喚された》

 《今は?》

 《今は仲間・・家族・・大切な人達・・向こうの世界より多いかもしれない自分を必要としてくれる人たち》

 《うん。帰ろう》




「戦神子はわがままで衝動的で自己中心的で歪んでいて享楽的で懐疑的ですきになれなかった。戦神子は自分がいないと世界が成り立たないというのを逆手にとってなんでも思う通りにしてきたからだ。戦神子を俺は認めたくなかった。できれば戦神子なしで世界を守って行きたかった。アビスを組織したり動物混じり(ミクスチャー)を重用したのもその意図があってこそだ。」


「それは君たちが我々を道具扱いしていたからだ。誰も知る人がいない世界に突然流されて、戸惑い心細い我々に君たちは何をしてきた?」


「サヤを見ていてわかった。こちらのせいでもある。」

 ティルルはサヤを挟んで座るシンを見る。

「戦神子が世界の中心になるという話はまだ諦めてはいないのだろうな。」


「当然だよ。国教会には表向きたっていてもらってもいいと思う。急激な変化に人は反発するからね。それとは別に戦神子同士で連携を取れるように、聖都に近いところに拠点をつくろうかと思って準備は終えている。」


「この寄生草でサヤも操るつもりか?」


「これは栄養補給に特化させなくてはいけないからそれ以上は無理かもね。」


「サヤは帝国妃となる女だ。お前には渡さない。」


「別にいいよ。結婚自体は構わない。向こうの世界では離婚は日常茶飯事なんだ。我々戦神子にとってそれはハードルではない。むしろ帝国妃の肩書きは嬉しいくらいだ。そうそう不倫も結構メジャーだよ。」


 言っていることは不明な言葉もあるが、充分理解できる。


「サヤはそういったことができるほど器用なやつじゃない。」


「・・・それは認め」

 言いかけたシンの目の前にシロが顔を突っ込む。


「なんだ、シロ。サヤの上に乗っかったら潰れてしまうぞ。」


「・・・大丈夫。体重はかかっていないよ。」


 は?

 シロが女の声で喋った?

「少しの誤解と思いやりの不足が、かけちがった結果だと思う。どちらが悪いのでもないのじゃないかな。また甘いって言われるかもしれないけど、今だって互の立場を変えてみることができたのだから。」


「サヤ!」

「サヤ!目が覚めたのか!」

 二人の声に部屋の隅で控えていた侍女たちが走り寄ってくる。


「サヤ様!」

「サヤ様!痛いところとかないですか?」

「お医者様をお呼びします!」


「おい。これはもう必要ないな。」

 寄生草を指差す。


「そうだね。せっかく芽吹かせたのに・・・サヤの花なら綺麗な花が咲くと思ったのに残念だよ。」

 とったままの手に軽くキスをする。

「おはよう。サヤ。よく眠っていたね。本当は王子様のキスで目覚めるはずじゃないのかい?」


「『眠れる森の美女』?私はオーロラ姫より『美女と野獣』のベルの方が好きなんだけどな。」

 クスクスと笑う。


「じゃあ、野獣はシロ?」


「そう!変身して王子様になるの。ねえ、シロ?」

 シロは会話のBGMをゴロゴロと響かせている。


「最大のライバルはやはりシロか。」

 ティルルがボソッと言う。

「あれから起きないから心配したぞ。」


「・・・・キマイラは・・・あの『奈落マレフィスクの戦神子』はどうなったの?」


「ウェブが能力を使った。」


「そっか、代わりに生き返ったのが私?みんなは無事?」


「死んだのはマクベインです。今はピンピンしてます。他の戦神子も皆無事です。」


「アビスと侍女たちも無事だ。」


 思い出したのか目を閉じ苦しそうな顔をする。

「どこか痛いのか?」


「どこも痛くない。ウェブにお礼を言わなくちゃ。」


「そうだな。だが今は会えないぞ。まずは元気になってからだ。」


「会えない?いないの?」


「能力を公にしてしまったからな。帝国内には居づらい。シンのところに行っている。」


「世界を救ったのに姿を消さなくちゃいけないなんて。」


「キンヨンダ《カメレオン》は私たちに似ているね。強すぎる力が忌み嫌われ頼られ、願いを断ると非難される。まったく人は勝手な生き物だと思いませんか?」


「シン、サヤを誘導しないでくれないか。」


「険悪になって取り返しがつかないことになる前に、退散するよ。聖都マエールからこれからちょくちょく呼び出しが来ると思うけど、必ず来て。」


「ありがとうございました。」


 シンは彼に似合わず照れくさそうに、優雅にお辞儀をする。

「礼を言われることじゃないよ。同じ世界の人間だ。これからは助け合うこともできるようにしていくつもりだ。」




 ☆

「意識が戻ればもう大丈夫でしょうが、念のため診察いたしましょう。」

 駆けつけた宮廷医師が沙耶の顔色が良いのにホッとしながら、『終わったらすぐ呼べ、いいな?』と念を押すティルルと“ショーロ(またたび)”でシロを外に出す。


「脈も平常、生体電磁波も良好。一週間ほど寝込まれていたので、筋力が低下しています。立ち上がる時にはご注意ください。」


「ありがとうございます。皆に心配をかけてしまいました。」

 確かに体を起こすだけでクラクラする。

 こっちに来た当時倦怠感に悩まされていたが、それと似たような状態だ。


「同じ世界から来た戦神子の方々や、身近な者たちばかりではありません。帝国民が皆心配申し上げておりました。」


「そうですよ。城門の衛士たちは毎日サヤ様のご様子を皆に報告するために、立札を立てたり、目が覚めたら差し上げてくれと見舞いの品を預かったり、日頃の仕事と違う仕事をさせられていたのですよ。」

 駆けつけてきたユリルがニコニコ笑いながら横から言った。

 皆が自分を待っていてくれたのが嬉しい。

 笑ってくれているのが嬉しい。


「本当に“ポロロッカ”は終わったんだね。」

 やっと実感が湧いてきた。


「サヤ様はこれからも大変なことが待っています。」

 セエルの言葉に一同が頷く。


「え?まだ戦わなくてはいけないの?」


「ある意味では・・・」


 できればもうゴメンだ。

 ググって帝国の皆が笑って暮らせるように、みんなで考えたり、侍女さんたちとネット小説で盛り上がったり、シロと遊んだり、それからそれから・・・・平凡に暮らしたい。


 不安いっぱいの顔になってみんなの顔を見ると、そちらはニヤニヤという言葉がぴったりの笑い方だ。


「何がおかしいの?」


「皇帝陛下はこの部屋を出てすぐに、帝国中に触れを出しました。」

 アーカネが、診察が終わったということで入ってくる。

「『婚姻の儀式』を執り行うという触れです。日時はサヤの体調が戻り次第。今でもできれば執り行いたいみたいです。」


「もうどこにも誰にも盗られたくないんだよね~」


「これ!はしたないですよ。」

 クレイをセエルがたしなめるが、その顔も笑っている。


大団円になりました。

ウェブも力尽きる予定でしたが、シンのもとの保護されることになりました。


これでお付き合いいただいたお話は無事当初の予定の完結までこぎつけました。

皆様のお気に入りと感想で随分と励まされました。

ありがとうございました。


おまけ『婚姻の儀式』を明日投稿します。

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