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猫を追いかけて異世界  作者: ふー
奈落侵攻編
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最終決戦 後編

お読みいただきありがとうございます

すみません

昨日の続きです


奈落マレフィスクの戦神子』と名乗る青年は、自分の傍に居るキマイラに触れるとそのキマイラは瞬時に、彼の望む場所に、強化されて出現する。

 それだけはわかった。

 沙耶とケンジは、それに対処するだけで精一杯だ。

 かろうじて持ちこたえているが、休みなく送り込まれてくるキマイラは、死角を狙ってくる。

 広範囲な防御攻撃二面の特性持ちの、沙耶とケンジだからこそまだ立っていられるのだ。

 キマイラたちを足止めし、不意打ちを食らわないように自分の周りを絶えず防御しつつ、送り込まれてくるキマイラを一撃で倒していかなくてはならない。

 それは尋常じゃない集中力を伴う。

 戦神子には、ゲームのようなMPという制限はない。

 しかし能力を発揮するうえで、イメージする力は必要だ。

 それは脳を疲れさせる。

 間違いなく限界は来る。

 それは『奈落マレフィスクの戦神子』とて同じことだ。

 我慢比べだ。


 沙耶もケンジもその中で忘れている存在がいた。

奈落マレフィスクの戦神子』を運んできた飛翔タイプのキマイラだ。

 シンは遠目でそれが、ブロウンを奈落マレフィスクに運んだキマイラではないかとわかった。

 しかし彼にも警告を発する余力はなかった。


 そのキマイラは上空でホバリングをしていたが、スイッと音もなく急降下する。

 その先には沙耶。


 ケンジの防御は上空にも及ぶが、沙耶のそれは地上付近に留まる。

 つまり上空からの攻撃には無防備なのだ。


 キマイラはその鋭利な爪を突き出し、ふくろうが獲物に襲いかかるように音もなく沙耶に向かい急降下してくる。


「サヤッチ!上!」

 ケンジが視界に取られた時には、沙耶まで三メートルほどまで迫っていた。


 地上に展開していた防御を伸ばすのには、イメージの転換が必要だ。

「間に合わない!」

『熱線』で対応するもおざなりの苦し紛れの攻撃はキマイラに身をよじられて、買わされてしまう。


 ガッ


 そのキマイラが沙耶の頭上から消える。

 シロだ。

 シロは『奈落マレフィスクの戦神子』が現れた時から、ずっと飛翔型のキマイラをロックオンしていたのだ。

 だが、飛ぶすべもないシロはその闘志を振るうことができずにいた。

 だが、降りてきたのだ。

 そのチャンスを逃すシロではない。


 シロとその飛翔型のキマイラはゴロゴロゴロと組合いながら転がっていく。

 パッと両者が離れると、キマイラのコウモリの皮膜のような羽にはシロの牙によって穴があいていた。

 おそらくシロの跳躍の射程の上に逃げることはできないだろう。

 キマイラは人がましい仕草でチラッと羽を見る。

「ハネガ ヤブカレタ イママデ ナイ」

 カタコトであったが、意味のある人の言葉を話した。


 キマイラにも発声器官を持つ物はいた。

 だが、それは真似であり意味のある言葉を発するほどの知性を持ってはいなかった。

 このキマイラは明らかに話している。

 ただ、それを聞いたのはシロのみだ。


 シロは当然ショックを受ける気配もなく、臨戦態勢を崩さない。

「オマエ ヒト デナイ コチラガワ ナノニ テキ コロース」

 キマイラは羽をたたむ。

 メキメキと音と共に、スリムだった体が膨らみ腕と足が太くなる。

 足と手の爪も長く鋭利になり、地面にめり込む。


 シロの白銀の体の毛も逆立ち、背筋に沿って波打つ。


 ガツン


 再び両者がぶつかる。




 上空からの攻撃はシロによって避けられたものの、その攻撃が起こした隙は大きなものだった。

 防御の隙間から爪が襲う。

「そううまくやらせないっての!」

 上に向けた『熱線』をそのままキマイラに向ける。

 肉の焦げる匂いがするが、それを今どうこう言える場合ではない。

 生か死か

 いや、沙耶の場合キマイラの苗床になるという根源的な恐怖がある。


「うわぁ!なんだ!」

 ケンジの声が焦燥を帯びて聞こえる。


「どうしたの?」


「こいつら!キモいって!」


 ケンジに何が起こっているかすぐに沙耶にもわかった。

 キマイラは力押しをやめたのだ。

 代わりに溶解液や粘着液、針などの遠隔攻撃を四方八方から仕掛けてくる。

 手数が多く的が小さい。

 ケンジと沙耶の防御の穴をついてきている。

 ケンジは重力という防御で自分に届くまでに落としているが沙耶にはその攻撃が通ってしまう。

 溶解液の飛沫は衣服を溶かし、肌も灼く。


「サヤッチ!合流しよう!」

 沙耶の状況が不利なのを見てケンジが声をかけてくる。

 それまでは防御の重複を嫌い、離れていたのだ。


「ありがとう!」

 呪紋のおかげで傷は一進一退だ。

 疼痛が襲い、集中が途切れがちになると余計攻撃を喰らう。


「こんな時じゃなかったら、ゆっくり鑑賞するんだけど。」


「何言ってんの!」

 確かに沙耶の服はボロボロで、肌の露出が酷くなっている。

 出るところは出てきているので、ケンジの言うとおり生唾を飲むほど扇情的だ。

 見せるのはキマイラだが。

「そうだね。すごく色っぽいと思うよ。」

奈落マレフィスクの戦神子』が答える。

 そうだ、こいつが見ていた。


「高くつくわよ。」

 むかっとした沙耶が出力を一気に上げる。

 周囲のキマイラが倒れる。

「しもべのキマイラもだいぶ少なくなっているんじゃないの?」


奈落マレフィスクの戦神子』は周りを見回す。

「確かにそうだね。通路を閉じられているんで、増援も呼べないし、本気を出したほうがいいかな?」

奈落マレフィスクの戦神子』の姿が消える!

 自分も早く動けるのか!

 ケンジが吹っ飛ぶ!

「ケンジ!」


「あの男はちょっと自分と相性が悪いからね。先に始末させてもらおう。」

 キマイラが動くより一段と早い。

 防御したつもりがする抜けられた!

 しかも力もキマイラ並み

「ケンジ!」


 吹っ飛んだケンジの応答がない。

 ケンジへの視界はすぐキマイラによって阻まれる。

「他の戦神子を片付けてくるから、ちょっと相手をしてて。」

奈落マレフィスクの戦神子』はそう言い捨てると姿を消す。


 沙耶はキマイラの圧力に拮抗しながら、お祭りの日にティルルにもらった小物入れから、携帯を取り出す。この携帯はブロウンのものだ。

『サヤ!サヤか!サヤ!』

 呼び出し音が鳴るかならないかのうちに、ティルルの緊迫した声が聞こえる。


 よかった。無事だった。

「ティルル。」


『無事か!』

 声に安堵の色が混ざる。


「『奈落マレフィスクの戦神子』が現れた。能力は高速移動、自身と触れたものを高速で移動させる。キマイラは能力も上がるみたい。他の戦神子のところに行ったから気をつけるように連絡して。」


「!・・・わかった。サヤは大丈夫なのか?」


「私を『奈落マレフィスク』に連れて行くだろうから、後回しにされたみたい。ケンジは・・・わからない。個別に戦っていては対抗できない。」


「わかった。戦神子を集めよう。サヤたちのおかげでキマイラの数はかなり減っている。兵だけで対処して戦神子たちはその『奈落マレフィスクの戦神子』に当たってもらおう。それでいいな?」


「うん。」


「もう少しだ。もう少しでこちらが勝つ。それまでなんとしても生き残っていてくれ。」


「うん。」


「サヤ!このまま通話にしておいてくれ!いいな!」


「うん。」

 正直、立っているのがやっとだ。

 治癒の速度がついて行っていない。

 痛みのためのうめき声が、歯を食いしばっていないと漏れてしまう。

 そっけない返事しかできないのはそのせいだ。

 沙耶ががっくりと膝を折る。


 Gufu


 キマイラが近づくのを一閃する。

 肩で息をする。

 負けるわけにはいかない。

 崩れたらキマイラはティルルの元へ行く。

 沙耶は耳に携帯を押し付け、向こうのティルルの指揮をする声を聞きながら、機械的にキマイラを退けていく。



 ☆

 押していたはずのこちらが押されている。

 サヤが連絡してきた『奈落マレフィスクの戦神子』によって。

 しかし!

「キマイラの数は少ない。盛り返しているといっても長くは続かない!数ではこちらが依然として優っているはずだ!数で押し返すんだ!」

 叱咤する。

 言うほどたやすくはないだろう。


「陛下!アーカネからメドーの戦神子が負傷!治癒に時間がかかるとのことです。」


「陛下!エステリオの戦神子のところにキマイラが直接乱入。戦神子が召喚した『神』が消滅しました!」


 同時に起こっているこの状況は『奈落マレフィスクの戦神子』が出現したことによって引き起こされているのか?

 それともほかにいるのかがわからない。


「テピアス!サヤの言っている『奈落マレフィスクの戦神子』以外に同じようなモノはいるか?」


 テピアスと呼ばれた男はティルルのいる本陣から『俯瞰』を使って戦局を見ているものたちの隊長だ。

「はっ!・・・キマイラだけしか確認できませんので、おそらくサヤ様のところの『奈落マレフィスクの戦神子』が一人―――であると思われます。」


「エステリオの戦神子は無事なのか?サヤの言った通り他の戦神子にも警戒するように、連絡をしろ!」

 スローン《通信隊》に怒鳴る。


「了解いたしました!」


 壁が崩れ落ちたままの後方では、ジョニーを探させている。

 ゴーレムが復活していないところを見ると、まだ見つからないらしい。


 五人のうち今戦っているのは、サヤとケンジだけだ。


「本隊を投入する!中央部へ戦神子を確認次第集結させろ!決戦だ!この局面を乗り切ったほうが勝ちだ!」

 ティルルはスマホを握りしめて駆け下りる。

「サヤ!今いく!」


「ティルル・・・」

 声に力がない。


「踏ん張れ!今そっちに行く!」


「踏ん張るけど・・・もし間に合わなかったら、マクベインに私を打つように頼んでくれる?」

 思わず足を止める。


「何を言うんだ!」


「キマイラに『奈落マレフィスク』に連れて行かれるくらいなら死んだほうがマシ。怖くて自分ではできないから、マクベインにお願いって・・・」


「そんなことにはならない。必ず助ける。もし『奈落マレフィスク』に行ったとしても、必ず取り戻す。そんなことは考えるな!」


次話『決着』

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