最終決戦 前編
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「なんだ?」
「私が六人目の戦神子ですと言いました。」
ケンジがその青年を上から下までまじまじと見る。
「俺のナンバーワンの座を奪った奴に似てんのな、お前。まぁいいや。で、なんでキマイラの足につかまってご登場なわけ?」
「君は頭が悪そうですね。」
「なんだとぉ!ちょっと痛い目を見るか!」
「そうですね。そうしましょうか。」
そう言うと彼は傍の上位キマイラに触れる。
触れたとたんキマイラは姿を消した。
「! どこへ行っt」
ケンジがその言葉を全部言い切ることはできなかった。
「ケンジ!」
ケンジの目の前に突然キマイラが現れてケンジの頭を前足で叩く。
「お前、パクったのか?」
ケンジの声がキマイラの前足のところからする。
生きていた!
ケンジは反射的にキマイラの自重を10倍にしたのだ。
それによりキマイラは自分の前足を上げていることが精一杯になったので、彼へのダメージはなくなったのだ。
「冗談じゃねえぞ。味方じゃないのかよ。お前パクっただけじゃないな。」
いつものちゃらさのない声が続く。
ケンジはキマイラの前足に手を置く。
「50倍。」
キマイラが地面にめり込む。
Guwa!
「始めのでこうなるはずだ。だが、止めるのがせいぜい。一体何をした?」
「へえ、まるっきり馬鹿なわけじゃないんだ。でも解説するほど親切じゃない。」
中性的な美しい顔を酷薄な笑いに歪ませて答える『奈落』の戦神子。
「でも、少しの間名前を呼ぶことは許してあげようか。キマイラたちは、発声できないものがほとんどで私の名を呼んでくれるモノはごく少数だからね。」
周りのキマイラが一斉にうずくまる。
その光景はまるで王の登場を迎えた臣下のようだった。
「私の名はカシム=ミコト=ガンダルヴァ。」
☆
ジョニー=グラトニーは自分の作ったゴーレムの残骸の隙間に倒れていた。
急に至近距離に現れたキマイラたちに直に襲われたのだ。
警護についていた兵たちのおかげで致命傷は逃れられたが、瀕死の状態だ。
「痛いよ・・・助けてよ・・・」
「ピイピイうるさいぞ。泣いていても何も変わらないだろうが!」
体に施した『呪紋』の力で、傷口は閉じつつある。
「怖いよ。」
「うるさいって言ってんだろうが!おかしい・・・なんであの場所にキマイラなんて出てきたんだ?シンが『地脈』を封じたはずじゃないのか?」
「帰りたいよ。」
「泣く事しか言わないのだったら少し黙れ、第一お前が帰りたい場所なんてそもそもあるのか?」
一人で話して答えているのだが、顔の表情声の高さまで違っている。
「それは・・・」
「お前はなあ、そうやってピイピイ言っているだけで、何も状況を変えようとしたことがないんだよ!逃げて逃げて逃げて逃げた結果が、“グラトニー”だろう。」
「仕方がないじゃないか。」
「俺はお前が逃げたあとを、埋めてきた。汚いものを見て、痛い目をみて、それ以上のことをやり返して・・・俺はそれが楽しいと感じるようにお前が生んだわけだからいいが、お前はそれをいいことに『なかったこと』にしていたじゃないか」
「な、なんで今そんなことを言うのさ・・・」
「この傷だ。二つに分かれていたら助からないだろう。俺は消えることになる。もともとお前を助けるために生まれた存在だからな、それこそ仕方がない。もう、押し付ける相手がいなくなるんだ。しっかりと見ろよ。」
「一人にしないでよ。」
ジョニーは泣き顔になる。
「一人じゃないはずだ。多分な。お前、俺を振り切ってあのラーヴェラルの戦神子を助けようとしただろう?あれができれば大丈夫なはずだ。」
「うん。でも・・・・いっちゃやだ。」
「どこにもいかない。お前に戻るだけだ。」
イライラとした口調で話していたグラトニーが穏やかな声になる。
「じゃあな。しっかりやれよ。もし今度俺が戻ってくるとしたら、今度は譲らないぞ?お前が消えることになるんだからな?」
「う、うん。がんばるよ・・・ありがとう・・・グラトニー。」
☆
ジョニーの場所の異変に気がついたシンは直ぐさま手のひらから、新たな種を生じさせた。
「主様、これ以上はお止めください。」
「ここで引けないよ。主導権を戦神子でとっておかなくてはならないし、ちょっと異様なところもあって戦いを長引かせたくない。地脈を封じているのに、現れるなんて最悪の事態かもしれない。行け、『ブラフマン』」
三面の顔を持つ神が跳躍してジョニーのもとに向かう。
「回復系ですか?」
「ゴーレムが崩れたところを見ると、操者になにかあったはずだからね。」
そう答えたシンの眼前にキマイラが突然現れる。
同じ操者であるシンは、前線には出ず、後方から『神』たちに指示をしていた。
従って『神』たちはシンを守れない。
後方ということでついていた警護の者もとっさのことに動けなかった。
Gurua
ヒュッと風を切る音がした。
「あ、主様?」
チャヤがシンを見る。正確にはシンの体があった場所だ。
彼の男にしては華奢な体は5メーターほど飛ばされていた。
首がありえない方向に曲がっている。
「神子様が!」
「神子様!」
あまりに急激な状況の変化に訓練がされている兵士たちも浮き足立つ。
野生動物であるキマイラがそれを見逃すはずはない。
主戦場から離れた場所での上位キマイラによる一方的な、狩りが始まっていた。
「主様・・・」
チャヤはシンの亡骸の傍から動かない。
「主様に救われた命。今お返しいたします。『自己犠牲』」
チャヤは『生命与奪』は使えない。
使えるのは自分の命を使って他者を生き返らすことだけだ。
「・・・・。」
シンが起き上がった時は、キマイラは違う狩場を目指して移動したあとだった。
そこら一帯は、生きて立っているものはいなかった。
シンは脇に横たわっている小さい少女の亡骸を見る。
常に消身させているのでシンも久しぶりに見る。
「チャヤ。君の行き易い世界を作ってあげるつもりだったのに、こんな人間の代わりになるなんて、君は本当についていない子だね。」
チャヤの顔を撫でる。
その顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。
「さて、じゃあ今度は君のために生きようか。」
まだ、力が入らない体を無理やり起こすと種を生じさせる。
「くっ!一つがせいぜいか。だらしがないぞ!戦神子の世界を作るのだろう!」
自分を叱咤する。
「『ドゥルガー』」
インドの神で実は最強とされている神だ。
美しい女神が力が抜け、膝をついたシンを見下ろす。
六本の手にはそれぞれインドの神の武器が握られている。
「行け・・・人を・・・守れ・・・」
女神はりんりんと鈴を鳴らし優雅に踊りながら、キマイラの中へ飛び込んで行った。
☆
背後に突如現れてマクべインを襲ったキマイラの攻撃は、彼を援護するために文字通り体を張った兵士によって防がれた。
「しっかりしろ!」
定型文でそう声をかけたものの、その兵士は返事ができないどころか人の形さえとどめていない。
「御子様を守れ!」
惨劇を目にして一瞬はひるんだものの、マクベインを守るために瞬時に立ち直った兵士たちは流石である。
数はいるが中型から小型のキマイラだ。
小さければ弱いということもないのだが、心理的な圧迫感は少ない。
「良くもやってくれたな。」
マクベインを慕って頼りにしてくれた者―――仲間を殺られて怒りがわく。
彼の場合怒りは原動力だ。
「『掃射モード』」
両手を突き出すと現れたキマイラたちに向けて舐めるように動かす。
見えない機関銃から無反動で何千発もの弾丸がキマイラを襲う。
バタバタと倒れていくキマイラ。
「すごいぞ!さすがは神子様。」
「よし!うち漏らしたキマイラに止めをさせ。」
マクベインが腕を降ろそうとしたとき、地中から鞭のようなものが突き出て彼の腕を貫く。
「!!!」
激痛が襲う。
「マクベイン様!」
地面が割れて中型のキマイラが姿を現す。
マクベインの腕を貫通したムチ上のものは二本の尾だった。
HIYAAAA
「タイミングを合わせるぞ!『咆哮』」
キマイラの体が飛び上がるように跳ね上がってそのまま地面に落ち、苦しみ悶える。
マクベインより体格の良い男が、そのキマイラに近づくと肩に抱えていた大きな破壊鎚を振り下ろす。
グシャと音がしてキマイラは潰れた。
「遅くなりました。腕をやられたのですか?」
眼鏡の男が近づいてくる。
確かラーヴェラル帝国の対奈落部隊アビスの隊長だった男だ。
「ああ『呪紋』をしてもらっていたので、治って言っているがしばらくは能力を使えない。次にキマイラたちが襲ってきたら、援護はできん。」
「そのために援護に来ました。治るまでの間持ちこたえましょう。」
「我々『英雄の系譜』部隊もおります。マクベイン様には一指も触れさせません!」
「では、見通しが付き次第我々は、中央部の支援に向かわせていただきます。」
「戦況が悪くなっているのか?」
「後方でエリドゥの戦神子の動きが止まりました。エステリオの戦神子もそろそろ限界が近いようです。明らかに押していたはずの形勢が逆転しつつあります。数はかなり減らしていますが、戦神子なしでだと、かなりきつく悪くすれば共倒れ覚悟でも数十体は残ってしまうかもしれません。」
「わかった。打てるようになり次第攻撃を再開する。」
「お願いします。」
奈落の戦神子の出現で戦況は逆転したかのようだ。
窮地に陥る戦神子たち
奈落の戦神子は何者なのか?
その能力は?
『決着』




