罠と餌
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本陣にいた女性は全部で13名。医療や補給の役割を受け持つものが7名。あとの6名はラーヴェラル帝国の者、つまり沙耶、セエル、ユリル、セリーン、クレイ、レシュだ。
囮になったのは10名だ。これが囮として機能するかはやってみないとわからない。
沙耶は自分だけでいいとティルルに提案したが、『数が多くないと引き付けられない』と言われてこの人数になった。
サヤは殿を馬で行く。
『女神のヴァルキュリア』も馬だ。こんな異名が着いたのはうちの侍女さん三人だ。
つけ主はアーカネ。
アビスに引き入れたいくらいの凄腕なんだそうだ。
信じられない。
先頭はシオとジョニー。
シオの腕には鷹が止まっている。
ジョニーが見つけてシオが育てて訓練した鷹だ。その横をシロが尻尾をを立てて歩いている。
猫が尻尾を立てるときは、親猫が子猫に『ついてこい』をする時がある。
多分今シロは親猫の気分なのだろう。
『生き返った』ことによる後遺症はなさそうだ。
その後ろにシャンシャンと歩くたびに足首につけた金属のアクセサリーが涼やかな音を立てるインドの神様が歩いている。
シンが召喚した『チャンドラ』という神様だ。
シンが言うには、『回復系の』神様だそうだ。
その後ろにセエルとユリルとほかに四人が乗っている馬車。
その馬車にぴったりと付き添っているのがケンジだ。
「彼女はどこの人?マッシュール?そっか、じゃあこの戦いが終わったらデートしてくんない?デート。知らないの?」
あの男って馬に乗れたんだ・・・・
馬車の窓にすがりつきそうな体勢で、馬に乗れるなんて・・・・
「マッシュール王国の戦神子様って、ああして恐怖をほぐそうとしているのかしら?」
セリーンが沙耶に問う。
そうか。
そういうこともあるのか。
「セリーン、多分それはないと思うわよ。あれはただの女ったらし。」
クレイがきって捨てる。
クレイは沙耶と同じくらいケンジの言動を聞いているので、そんな男じゃないと思っているらしい。
ホストに『女たらし』は褒め言葉かもね。
緊張感が内容に見えるが、沙耶は自分の後ろに微弱のマイクロ波をずっと流し続けている。
先頭のシロも耳は絶えず全方向に向けられて五感を研ぎ澄ませているのが見て取れる。
セリーンとクレイも『俯瞰』と『聴音』でキマイラとの距離を絶えず図っている。
近づいてくるならば速度を上げなければならない。
だが、囮である以上ある程度は引き付けなくてはならない。
キマイラの目的が本当に自分ならば、諦めずについてくるだろう。
「少し引きつけて速度を上げたほうがいいかも。」
出発して気がついたのだが、このチームには指揮官がいない。
ジョニーとシオは子供だし、ケンジは・・・・ケンジだし、シロは・・・うん戦闘経験はたっぷりだが、話せないし。
ここは頼りないが私が仕切るしかないか。
《秘技 猫じゃらし》の腕の見せどころか?
雲が出てきたので、日が暮れるのが早そうだ。
暗くなればキマイラの方が有利になってしまう。
☆
「落ち着きなさい。」
配置に着いてからというものの、ティルルは采配を手に打ち付けたり、そこらを歩いてみたりと落ち着かないことおびただしい。
「司令官がそう落ち着かないと、士気に関わる。」
「サヤはまだか?」
「その答えも何回もしたと思うが、近づけば『大地ネットワーク』が知らせてくる。」
アーカネがやれやれというポーズを取る。
「サヤに囮を頼んだから、腹をくくったのかと思ったが違っていたようだ。」
「悪いか!愛している女を危険に晒しているんだぞ?俺に力がないために、こんな手段を取るしかないなんて、男として失格だ。」
「サヤはそんな小さいことを気にする女ではないけどな。」
「お前がサヤを『女』呼ばわりするのは許さん。」
「その勢いは後まで取っておくんだな。」
☆
シロが三度目のチョカイを出して帰ってくる。
その度に少しずつ速度を上げているがもういいだろう。
これ以上キマイラを煽る必要はない。
「シロ、ご苦労さま。」
まだ遊びたそうなシロをなだめる。
「水を飲んでおく?」
抜け駆けして突出してきたキマイラを、『沸騰』させると、シロに水を出す。
シロの『死』以来キマイラに対する遠慮やためらいはなくなった。
彼らは沙耶が油断すれば、沙耶の大事な者を奪いに来る。
「目的の場所まであと10分くらいです。」
セリーンが異世界換算してくれる。
異世界人が多いこの中では、非常にスムーズだ。
「おっし!もう少しだな。ハニー、僕の華麗な勇姿をみてくれ。“『キマイラ20体』でデート”約束だからね。」
ユリル、何を約束してんの?
ケンジの能力は“重力”だ。
軽くもできるし重くもできる。
キマイラ本体の重さも変えることができるし、範囲の重力を変えることもできる。
キマイラを圧死させることも可能だ。
ケンジにしては、すごい能力を得ている。
ナンパ《テイマー》よりよっぽどいいかもしれない。
本人には図に乗るのでもちろん言わない。
☆
「あと10分で着くそうです。」
サヤに持たせたあったスマホから連絡が入る。
ご丁寧にキマイラの動画付きだ。
意外に冷静で余裕があるのでホッとする。
囲まれてシロを殺された(復活したが)のが、トラウマになっていないか心配だったのだ。
それをアーカネに言うと眼鏡の奥の目が、小馬鹿にしたような光を帯びる。
「サヤはそんなに弱々しいタマではないですよ。」
「そうですね。」
シンが頷く。
「サヤを『タマ』呼ばわりはするな。」
「『皇帝妃』とでも呼べと?」
アーカネではなくシンが答える。
「後で顔を貸せ。」
こいつにも話がたっぷりある。
「無事だったらね。このままではいかなそうだから。」
意味深な言動をする。追求しようと思ったが今は間近に迫っている戦闘が第一だ。
「諸君!戦闘準備!各自持ち場で合図があるまで待機。正面は囮が入る場所を開けておけ。今までの借りを返すぞ!」
☆
「スピードを上げて!」
サヤは指示すると、一人留まる。
すっぽりと誘い込まなくてはならないので、最後まで粘るつもりだ。
「そういうのは《格好いい》《モテる》《男》の役目と決まっていると思うけど?」
いつの間にかそばにケンジが来ている。
「なに?その意外そうな顔は?」
「別に?ただ・・・面倒くさいことは嫌いみたいに思えたから。」
「面倒なことが嫌いというのはあっている。今まで面白おかしく暮らしてきて、いざ店を持ったら面倒なことばかりで、最後には投げやりになって借金まみれ。肝臓を取られそうになって逃げ回っていた。」
「本当にあるんだ、そんな話。」
「あるんだ。そんな話。」
目の前にキマイラが迫るのにこんな悠長な話をしていていいのか?
「あのなあ、この間の・・・ゴメンな。」
「?」
「シンについた時の俺の言葉。」
「あ・・・本当のことだもの。結構きつかったけど。」
「本当にごめん。あれは自分に言ったことでもあって・・・俺バカだから言って自分も落ち込んじゃったよ。」
「あはははは。じゃ、アイコだね。これ以上言うとフラグが立って死んじゃうかもよ?」
「え?マジ?じゃ、今のなしってことで・・・ユリルッチとデートをせずに死んでたまるか・・これもフラグ?」
「かもね。」
「・・・ま、いいや。俺強いもの。」
「油断せずに行こう。」
ティルルがキマイラの包囲に選んだ場所はセオリー通りにすり鉢状の場所だ。
統率が異様に取れているキマイラとはいえ、人並みの知能を備えているわけではない。
そして本能を理性で抑えて行動できるというわけでもない。
キマイラは、『サヤ』という目の前の餌を求めてティルルらが待ち構えている罠に入っていく。
自分めがけて殺到するキマイラを見ると思わず踵を返したくなる。
しかし理性と意地がそれを押し留める。
(ケンジが逃げないのに私が)
ま、そういう意地だ。
「ケンジ。お願いがあるんだけど。」
「俺とデートしたいって?」
「そこから離れろ。私の能力って混戦には向いていないの。」
熱戦も電子レンジも個別じゃなく範囲攻撃の方が、効率が良い。
「味方の『煮る』ってことか。ゾッとするねぇ。」
「だからさ。ケンジがあの『ひれ伏せ』ってので動けなくしてくれたら、直接“マイクロ波”をかけれる。」
「あれに触るの?」
キマイラを指差す。
彼らは文字通りめちゃくちゃだ。いろんな雑多な生き物をツギハギしたような生き物で、頭がいくつもあるかと思えば何もないのっぺりとした体の個体もいる。
「正直ゾッとする。でも生き残るためには仕方がない。私はこの世界で生きていくって決めたんだから。」
「あの皇帝という男に惚れてるの?」
「うん。一緒に生きていきたいと思っている。本当は結婚してるはずだったんだもの。」
恥ずかしいので前を向いたままだ。
キマイラの姿が見える。
「もうやっちゃったか・・・」
「は?」
「なんでもない。いい女はいつも誰かのモノってね。じゃあ、さっきの件頼まれた。さくっと勝って、俺はユリルッチとデート。サヤッチは愛しい男のもとへ行こうじゃないの。」
戦場に揃った五人の戦神子と連合軍とシロ
彼らは鬱憤を晴らすかのようにキマイラを蹂躙していく
勝利は目前だ
『戦神子』




