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猫を追いかけて異世界  作者: ふー
奈落侵攻編
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攻勢

お読みいただきありがとうございます

「『生命与奪サクリファイス』」

 側にいたキマイラがドサッと倒れる。


 シロが大きく息を継いだかと思うと、ボロ雑巾のようだった毛が再び白く輝き出す。


「シロ?」


 シロはぶるっと身震いすると立ち上がりちょっと肩を舐める。


「シロ・・・生き返ったの?」


 シロは決まり悪そうに視線をそらす。

「シロ!」

 沙耶はシロの首にすがりつく。

 湿り気を帯びた毛の、嗅ぎなれた匂いがする。




 遠巻きにしていた他の中位種や上位種のキマイラが再び騒ぎ出す。

 沙耶とシロは身構える。


「『ひれ伏せ』」


 その声にキマイラたちが地面に押し付けられる。

 そしてその一部がモーゼの十戒のように割れて一団が飛び込んでくる。


「ケンジ!」


「やあ、サヤッチ。どう?カッコイイ能力でしょ?」

 しれっと立っているのはケンジだった。

「『どうして?』って聞いていいよ?」


「は?」


「聞いてくれなきゃ、助けてあげないよ?」

 緊張感がない。


「どうしてですか?」


「女はベッド以外に泣かせる奴は許せないのさ!」

 ケンジはサムズアップをする。


「・・・とりあえず助けに来てくれてありがとう。


「とりあえずってその投げやりな感謝は何だよ!」



「サヤ様、大丈夫ですか?」

 近寄るウェブ。

「ウェブ!シロを助けてくれてありがとう!」

「上位種のキマイラともなればシロと同じ体格ですから。」



「「「『咆哮ハウリング』」」」

 シロと沙耶の前に立つアビスとアーカネ。

「無事でなにより。これでティルルに殺されずに済む。」



「なるほど・・・技の名・・・つまり攻撃の種類を言えばいいのか・・。では『ナパーム』」

 悦に入るマクベイン。


「ごめんね。サヤおねえちゃん。助けに来たかったんだけど、なかなか出れなくて。僕って臆病だから。今あいつらをやっつけるからね。『行け!タイタン』」

 ズシンという地響きとともに、巨大なゴーレムがキマイラを蹴散らす。


「状況が異常なので参戦することにしました。『生まれよ。ムルガン』」

 シンの手から生じた種から、戦斧をもった人?が現れてキマイラに襲いかかる。


「一回退くぞ。」

 ティルルが声をかける。


「何でティルルがここに居るの?」

 思わず目をこすりそうになった。

 自分が死ぬ前にどんなにティルルに会いたいと無意識に思っていたか自覚した。


「お前だけを戦わせるつもりはない。自分の目の届かないところで危険な目にあっていると思うだけで気が狂いそうだ。この落とし前はとってもらうからな。それとシロ!これは大きな貸しだからな。」


 嬉しすぎるけど・・・

 シロにいってもわからないと思うし・・・

 しかも皇帝が自分の国を放り出すって・・・


 まだ戦闘は続いているし、キマイラもその一部を削っただけなのに、仲間がそばにいるということはこんなにも心強いのか。


「立てるか?」


「大丈夫。私も負けてらんない。シロの敵は打つ。生き返ったけど。」


「お前は一旦俺と一緒に下がれ。マクベインとシロ、アビスもだ。」


「あとは俺たちにまっかせなさ~い。」


 大丈夫か?

 顔に出たのだろうケンジがむくれる。


「大丈夫だよ。あいつらも直に体勢を立て直すために引くはずだ。」

 シンが後押しする。


「わかった。気をつけてね。」



 ☆

 後方の本陣に帰り着くと、沙耶は倒れ込んだ。

 長時間集中して能力を行使したための、疲労は半端ではなかったのだ。


「休め。」


「いろいろ聞きたいことがあるのだけど。」


「休んでからにしろ。俺は軍議がある。セエルがそばにいるからな。安心して休め。」

 出ていこうとするティルルの洋服を掴む。

「なんだ?」


「ありがとう。来てくれて。」


「俺のために来ている。」


「でも、ありがとう。みんなにもありがとうって。」


「それも後で直に言え。」


「ん・・・」





 シロはキマイラを捕食して、全回復状態だ。

 遅れをとったのが気に入らなかったのか、ずっと銀色のままの戦闘態勢だ。

 指揮所の前で毛づくろいをしながら、声がかかるのを待っている。


 ティルルは連合軍の総司令官になっていた。

 当然のことだろう。

 この中で、社会的地位が一番ダントツに高く、責任を取れる立場だ。

 彼は『生還しなかった場合は元老院の推薦する人物を次の皇帝とする』という無茶苦茶な誓約書にサインをしてこの場に来ている。

 事実上『皇帝』の位を投げ打ってきているわけだ。

 そんな彼に兵たちが熱狂しないわけはない。

 安全な内地で控えているはずの者が最前線に来て、自分らと戦ってくれるのだ。


 戦神子たちもシンの予想通りに、キマイラが一旦退いたところで戻ってきた。

 ケンジは元気いっぱいでユリルが『ど・ストライク』だそうで後をついて歩いて離れない。

 タフだ。

 兵たちも五大国すべての軍が集合した。

 士気はかなりの被害を出しているにもかかわらず、回復している。





 指揮所の天幕の中に、五大国軍の各国の司令官とティルルと戦神子たちが集まっている。


「エステリオ、マッシュール、エリドゥの戦神子の戦場への遅参の責任問題は、今後の功績によって下す。これよりはばらばらでキマイラに当たることなく力を結集して、キマイラに対し攻勢に出る。」


「「「「「はっ!」」」」」

 ティルルの檄に司令官たちが一斉に首肯する。


「今回の“ポロロッカ”でのキマイラの行動は、異常である。規律があるかのような行動だ。それが第一の疑問点。第二にキマイラがどこをそして何を目指しているかだが、サヤが異常に襲われたところを見ると、目的のひとつにサヤが入っていると思われる。」


「まさか!」


「もちろん、女をさらってはいるがサヤをさらうことが第一の目標になっている。」


「キマイラも面食いってことか?」

 この発言の主は誰だかわかりますね?


「こちらから攻勢に出る場合、それを逆手に使えるだろう。つまりサヤとここにいる女性に囮になってもらう。我々はキマイラをおびき出し包囲し殲滅する。」

 ティルルは沙耶を見る。

「もちろん危険だ。必ず守るが・・・やってくれるだろうか?」


 自分さやが見えないところで危険にさらされているのがたまらないと言って、皇帝を投げて戦場にきた男が、囮になってくれという、これで嫌だと言ったら女がすたる。


「私の魅力でキマイラを一匹たりとも逃さない。」

 にっこり返事をすると、軍の司令官たちが一斉に顔を赤くする。


「僕が護衛につくよ。」

 ジョニー君・・・いやグラトニーが発言する。

「そっちのほうが面白そうだよね。」


「俺もそっちがいいな。『ここにいる女性』って皆んな(・・・)だよね。女の子を守るのはヒーローの役目だものね。ユリルっちも身近で守れば、ぐっと来てくれるよね。『吊り橋効果』ってやつだよ。」


 ヒーローの単語で反応したのが、マクベイン。

「そっちのほうがヒーローか?・・・・・いや、危機にさっそうと現れるのがヒーローだな。」

 彼は待ち伏せ隊に参加するようだ。

 ケンジもいらないけど・・・


「マッシュール王国の戦神子とエリドゥ帝国の戦神子にもサヤたちについてもらおう。」

 ティルルは決定した。


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