戦友
お読みいただきありがとうございます。
うそ・・
なんでいるの?
兵隊のひとりひとりに『再生の呪紋』をつけているユリルを見つける。
『呪紋使い』は専門の部隊が編成されているのに、何故ここに居るのか。
「はい、次の人。」
「ユリル様、手伝いましょう。」
「武器の『呪紋』は終わったのですか?」
「あちらは『呪文使い』がするそうです。まだまだかかりますでしょうからこちらに行ってくれと言われました。」
そう言うとセエルがユリルに並んで兵に『呪紋』をつけ始める。
「俺、ユ、ユリルさんの方が・・・」
ユリル目当てで並んでいた兵が思わずぼやくのを、ひと睨みで黙らす。
セエルまで・・・
あの小さい影は・・・シオ?
ひときわ小さい影が小気味よく動き回る。
「『再生の呪紋』について説明します。」
聞きなれた声がする。兵を集めて話をする女性だ。
シオの母親ヴェブだ。彼女はもう戦わないと言っていなかっただろうか?
辛い思いをしてやっと安住の地を見つけた彼女を誰が戦地に引っ張ってきたのだろうか。
沙耶はそちらに向かう。
周りが沙耶に気がつき始めた。
「はい、皆んなちゃっちゃと集まる!」
しきっているのはレシュだ。
「大事なことを申し上げます。『再生の呪紋』は多少の傷は身体の自然治癒能力を高めるものです。切り傷は見ている間に治ります。しかしちぎれた手足は戻ってきません。傷がふさがるだけです。動けない傷と判断した人は下がってください。また、治癒スピードと拮抗する傷を受け続ける場合」
ここでウェブが言葉を切る。
「『死ぬに死ねない』状態が続きます。その時は・・・死にたい時は私に声をかけてください。私はキンヨンダです。『生命与奪』の能力を持っています。死にたい時は引導を渡して差し上げます。あなたがたの命は引き継ぎます。それからその能力で生き返らす対象は、体が八割以上残っている者に限ります。死ぬときはなるべく五体満足で死んでください。」
ウェブの言葉に驚愕していた兵たちは続けられるウェブの言葉に聞き入り失笑をもらす。
「それと『生命与奪』は同程度の体格どうしに生じますから、あなたがたは大きなキマイラと戦ってください。」
「死んだら同じくらいのキマイラと入れ替わって復活するってことか?」
兵の一人が声を上げる。
「そうです。無駄に死なないでください。」
「きついな~。副作用は?」
ザワザワという中から質問が飛ぶ。
「ありません。意識が遠のきそして戻るだけです。その前の痛みは忘れることはできませんが、手足の欠損くらいなら戻ります。むざむざやられないで下さいね。」
ウェブってこんな性格だったっけ?
「ウェブ!ちょっと!」
沙耶は声をかけて引っ張って連れ出す。幸い話は終わったらしい。
『ルイーズの女神』だと声が上がるが、無視させてもらう。
「なんでここに居るの?戦いはもうゴメンだったはず!」
戦わなくてもいいように素性や能力を隠して帝国内で生活していたはずだ。
「シオがサヤ様を助けるのだと、ここに来るのを選びました。私も人の意思ではなく自分の意思で戦ってみようと思います。今まで逃げてきたこの能力を使って。」
「シオを止めればよかったのに。あの子はまだ子供だよ。」
「エリドゥの戦神子も子供です。キマイラにとって、男は子供であっても餌に過ぎません。」
「だからって。」
「サヤ様だけに戦わせるわけにはいかないじゃないですか!」
クレイが立っている。
そうだ。ウェヴやシオだけじゃなかった。ユリル、セエル、レシュ、クレイ、多分セリーンもいるのだろう。こちらに来てからサヤと共にいてくれた人たちがそこにいる。
「なんで・・・危険なのに。」
「何度も言わせないでくださいよ。サヤ様はドジでヘタレで残念美人なんですから、放っておけないでしょう。」
腰に手を当てて威張るように言うクレイ。
「それにサヤ様がそれこそ飛び上がるような人も来ることになっているんです。」
「アビスでしょ?もう驚かないよ。」
よかった。シンと対立してまで守ることを選んで・・・
この人たちを危うく見捨てるとこだった。
「もちろん陰険眼鏡氏も来ていますがもっと意外な人です。」
「?」
もしかして、シロも来ているのか?
「まだ秘密です。来るための根回しに時間がかかっているので。」
そうだろう。シロは帝国の防御の要だ。こちらにアビスもシロも来るとなれば帝国の防衛を固めておかなくてはならないだろう。
「そっか、頼もしいな。」
鼻の奥がツンとしてきそうだ。
ケンジ、人に媚を売っていると言っていたけど、私はこっちの世界で命の危険があっても手を差し伸べてくれる戦友がいたよ。
☆
「こんな数のキマイラは見たことがない。」
セリーンの声が震えている。
沙耶の目には米粒以下で捉えることができないが、『俯瞰』と『鷹の目』が使えるセリーンには指呼の距離なのだろう。
「構成はわかるか?」
アーカネが腕組みを解いて聞く。
「きちんと隊列があるみたいに分かれています。一団になっていてリーダーがいるみたい。」
そう言うと身震いをする。
「前衛は小物クラスで動きが早そう。数は・・・多いわ・・・・もしかして400以上。そのあとに中型。これは半分位?」
「その後ろには上位キマイラクラスか。」
帝国は対奈落のアビスが起点になって統率されている。ウェイの第六騎士団も訓練を一緒にこなした第三、第四騎士団、伝令部隊の第十騎士団もアーカネが統率することに不服はない。『呪紋使い』の特殊部隊も皇帝陛下からの厳命があるので指揮下に入っている。
帝国はしっかりとした部隊編成で望んでいるといえよう。
「メドーやマッシュールはもっと前にいるのよね?」
自分の領土に近いのでそれだけ分厚い陣を引くことができたはずだ。本来なら二カ国で当たるところを他の参加国からも軍が出ているといいうことは、心強いはずだ。
「油断は禁物だ。今回のキマイラの動きは“ポロロッカ”としては異質すぎる。忌々しい国教会だが、今回各国に軍の要請をしたことは先見の明があったと言えるな。」
「余裕こいてていいの?」
「戦神子が五人揃っていない時点で、余裕なんてものはハナからない。」
シンのことはサヤから聞いた。
戦力には数えられないと。
アーカネには戦神子たちを非難する気持ちは薄い。
よりによってこんな時にと思う苛立ちだけだった。
国教会はシンのコメントを公表しなかったが、シンは逆に公表した。
勝てないーーーーーーその思いから逃げ出さずに踏みとどまったのは、人の世界を守るのは自分たちだという想いと、一緒に戦うことを選んでくれた戦神子がいるからだった。
「サヤ、悪いが当てにさせてもらう。」
「アーカネからそんなこと言われたのは初めてかも。」
凶暴でむき出しの殺意に、歴戦の兵士たちも足がすくむ
その中で沙耶にキマイラが襲いかかる 『死地』




