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猫を追いかけて異世界  作者: ふー
奈落侵攻編
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戦神子の反乱

お読みいただきありがとうございます

予想された通りにそれはメドー公国とマッシュール王国の緩衝地帯から始まった。

あらかじめ一般人は避難済みだったため、人的被害はない。

キマイラは野生の動物を捕食していく。

マエール国教会が描いた絵は、国教会が招集した戦神子がなだれ込んできたキマイラに国単位ではなく、戦神子という集団で圧勝(・・)し国教会の判断と権威を人民に知らしめることであった。

その描いた絵になるべく戦神子はギリギリまで聖都に留め置かれた。


キマイラの侵攻“ポロロッカ”は、常態のキマイラの行動とは大きく異なる。

個別にまたは同種の小集団で国境地帯や地脈の周辺を徘徊しするのが常のキマイラの行動である。

“ポロロッカ”では彼らはキマイラという集団を作り、ある一定の地域に圧力をかけ楔を無効化する。

そして人の世界に踏み込んでくるのだ。


男・老人は喰らう。

女は奈落マレフィスクにさらっていく。

子を産ませるためだ。


学者曰く

“ポロロッカ”によってキマイラは種の個体数を維持しているのだ

と言う。


確証はない。奈落マレフィスクに行って帰ってきた者などいないからだ。

人々にとって殺されて喰らわれることは脅威だ。

それにもまして奈落マレフィスクに連れ去られることは恐怖だ。


キマイラの侵攻は人を求めて、緩衝地帯からマッシュール王国方面に転進した。

そこで、初めて沙耶たちは移動を開始した。


国教会は誤った。

いや、予見したものはいなかっただろう。

今回の“ポロロッカ”は異常だった。

彼らは何かを目指すかのようにマッシュール王国領をかすめ聖都の方に向かってくるのだ。

国教会は信じなかった。

何故、人を喰らっていかない?

何故、人をさらっていかない?

否。

男を、老人を喰らっている。

女を拐っている。

だが、そこで歩みを止めないのだ。侵攻しているキマイラは明らかに通常よりはるかに力も強いし、知能も高い上位種ばかりだ。


「戦神子たちよ。キマイラをこれ以上人の世界に立ち入らせるな。」

教皇の宣下が下る。





「断る。僕らは国教会の道具ではない。もともと望んで来たわけでもない世界。この世界の理を戦神子という名の生贄に頼るな。もし頼るのであれば相応の対価、つまり世界を統べる権利を寄越せ。アルーン=ミコト=シンはここに宣言する。」




「え?」


「そういう事なんだよ、沙耶。この世界が戦神子の存在を前提として成り立っている。だったら、この世界に君臨すべきは戦神子であるべきだ。使われ使役されるのではなく、自らが主人になる。自分の世界と思えば懸命に守りたくもなるというものじゃないかな?」


「わからないことはないけれど、でも今はキマイラが攻めてきているのよ?たくさん人も死んでいるしこの戦いで戦神子として功績があれば発言力はますと思うけど、それではダメなの?」


「だめだね。サヤより長くいるから知っている。たやすくこの世界は我々を切り捨てる。バールは全盛期を過ぎてから疎まれ、ブロウンは種馬扱いで孤独だった。喉元をすぎればまた繰り返す。」


「少し痛い目をみて、僕たちの価値を再認識してもらうチャンスだよ。」

その言葉を発した人物を見て沙耶は我が目を疑う。


「ジョニー君?」


「今はグラトニーっていう名前。ジョニーは寝てる。戦うのが本当は好きじゃないから、いつもこういう時は寝ちゃうんだ。」


「二重人格?」


「解離性人格障害って言ってほしいな。ジョニーは向こうの世界で虐待を受けててね。そこで強い僕が生まれた。こっちの世界は僕をすんなり受け入れてくれたよ。」

同じ体のはずなのに、優しい感じは一切ない。顔つき、仕草でさえ違う人のように見える。


「グラトニーは僕に付くって言っている。」

ケンジとマクベインにシンは向き直る。

「君たちはどうする?」


「まって!契約の印があるのを忘れている!反抗できない仕組みになっているはず。」


「サヤ、君の印は不完全で効果を発揮しないはずだよ。私はエステリオ国王が絶対に発動しないと断言できる。エリドゥのガランティアも発動しない。ケンジとマクベインもサヤに習って不完全な印にさせた。」


「させた?」


「そう。君は正しい。私の種を植えつけられた人は私の目になるとともに、私の言うことには逆らえなくなる。エステリオとエリドゥはすでに私の言うなりになっている。完全な操り人形ではないよ?自己保全本能に巣食う命令だから本人たちは自分の考えだと思っている。自分のいいように解釈してね。」


「シン・・・」


「すげぇ。俺はシンの方に乗るぜ。ウガリッドの野郎も気に食わない。あいつは俺を馬鹿にした目で見やがるし、リ、リスペなんたらというものもない。ムカつく野郎だ。」


「ケンジ!何を言っているの?キマイラに蹂躙されようとしているのは、あなたの国「知るかよ。ここで生まれたわけじゃない。」


「サヤは向こうに付くの?皇帝と仲が良いといっても所詮世界が違う者同士、根本のところでは判り合えない。」


「でも。」

この世界に守りたい人がいる。


「おい、お前!イライラすんだよ。人によく思われようと立ち回りやがって、糞も垂れないセイヒトキミコのつもりか?一人でスカしてんじゃねーよ。」

ケンジの口からそんな言葉が出る。



「立ち回っているなんて!」

突っ込むところはあるが、言われた言葉が突き刺さる。


「自分が生き残ろうとすることのどこが悪い。え?利用する気で召喚されて、ハイソウデスカと利用される馬鹿がどこにいんだよ。あ、いたな、お前か?お前は利用されて喜んでいるんだよな?」


「利用しようとしている人以外の何の罪もない人が、キマイラに殺られているのをほおっておけというの?」

どこかでケンジは自分のことを好いていてくれているのではないかと、思っていた自分が汚いものに感じる。

確かに人に嫌われるのが怖かった。

この世界に来て自分に正直に生きようと思っていたけど、やはり人の顔色を見て動いていたのか。


「俺は」

マクベインが口を開く。

「俺はヒーローになりたかった。ヒーローは例え裏切られても、弱いものを守るのがヒーローだ。見殺しにすることはできない。」

そう言って沙耶を見る。

「戦う。」


呼吸困難になりそうだった自分がその言葉で元に戻る。


そうだ。落ち込んでいる場合ではなかった。

帝国からも兵が出ている。

アビスも行っている。

沙耶が行かなければ死んでしまうかもしれない。


「シン。私は行きます。戻ってきたらもう一度、国教会と話し合いましょう。」




“ポロロッカ”の兆候があると言われてから沙耶は、ティルルから生き残るための戦闘力の特訓を厳命された。

今では可視光線は元より電磁波も自由自在に扱うことができる。

それに加えてユリルの『呪紋』の復習に付き合っているうちに自分でも覚えた『呪紋使い』の力もある。『呪紋』は接触しなければ使えないデメリットがあるので、前線向きではないがゲームで言うところの付与師エンチャンターとして使い勝手の良い能力だ。

それに『殺す能力』ではなく『守る能力』の色合いが強いのも気に入っている。


前線へと急ぎながら沙耶はマクベインに聞いておかなければならないことがあった。

「マクベインさん。以前お会いした時に能力は『銃』だと言っていらしてましたよね?遠距離型ですか?」


「子供のように指を向けてBANといえば、打てるというシンプルなものだ。但し威力は勝手に決められる。大口径、ショットガン、大砲、戦車砲までお好み次第だ。反動もない。」


こんなに話すのを聞いたのは初めてかも、と緊迫した状況なのにもかかわらず思う。

多分脳みそがオーバーヒートするのを防止するためにしていることなのかもしれない。


「頼もしいです。味方になっていただきありがとうございました。」


「いや。向こうの世界で思う通りに行かなかったのは同じだ。だが、人というものはそういうものなのだと思う。メドーは皆が皆思う通りにいかないものたちだらけだ。この世界は俺にとってはチャンスだ。」


「チャンス?」


「生き直すための与えられた機会だ。シンもケンジもあの子供さえこの世界に来て生きたいように生きている。俺もそうするだけだ。礼はいらない。」


「でも言わせてください。ありがとうございました。」



国教会は戦神子を道具とみなしているが、マクリーン枢機卿は違っていた。それは彼が若かりし日に戦神子と心を交わしたことがあるということが大きい。

戦神子だけを戦地にやることはせず、『国教会の名のもとに』と旗を振りかざして、教皇派を説き伏せ各国に増援を依頼した。

結果としてキマイラが聖都を目指す進路をとっていると知れたので、風はマクリール枢機卿を援護した。


連合軍が集結できたのは、マクリール枢機卿の手配の手際ではあったが、肝心の連合軍をまとめる存在がいない。マッシュール王国の先の戦神子バールが生きていたなら、彼のもとにまとまることができただろう。

だが、今は五大国の派遣軍がバラバラになって国ごとに集合しているだけだ。


今までの“ポロロッカ”ならば充分対抗しうる戦力ではあるし、戦神子も二人いれば十分であることからどこか弛緩した空気が漂う。これもたしなめる存在の有無だろう。


「俺はメドー公国の陣に行く。」


「はい。お気を付けてください。」

沙耶は見送る。連合軍がバラバラになっている以上、前線では合うだろうが一緒に戦うことはないかもしれない。能力は彼の言う事を信じる限りでは、キマイラと対抗できるだろう。

人の心配より自分の心配だ。

沙耶もともかくラーヴェラル帝国の陣を探す。


セイヒトキミコ

は聖人君子です。

読み方は違っていますが、よくこんな四字熟語を知っていましたね。


三人の戦神子と対立する形になってしまった沙耶。

戦うのが怖くて、殺すのが嫌な彼女だが、生きるための守るための戦いの火蓋が今落とされる

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