番外編
お読みいただきありがとうございます
100話・・・なんかいい響きだ。
というわけで?記念番外編です。
帝国の練兵場は帝都の城下から少し離れたところにある。
以前はマッシュール王国と同じく王宮の近くにあったのだが、ある事情で規模をそれまでの二倍として城下から少し離れたところに作り直したのだ。
「俺、今日生きて帰れるかな?」
「お前の骨は拾ってやる。」
「死にはしないよ・・・多分。」
「先日帰ってきたやつらは『真っ白な灰』になって戻ってきたという話じゃないか。」
「今日は来ませんように。来ませんように。来ませんように。来ませんように。」
口々にぼやきながら練兵場に入る第四騎士団。
彼らは帝都守護の第一騎士団や国境管理の第六騎士団とは違って、主に兵站を担当する部隊だ。
戦闘とは比較的遠い方に位置する部隊だが、重要な部隊だ。
第一騎士団はすべての騎士団を下に見て、反感を買っているが第六騎士団などは兵站の重要さを知っているので、対等以上に対応している。
戦闘からは遠いところにいるといっても騎士団である以上訓練は必要だ。
今日はその日に当たる。
彼らが泣き言を漏らしているのは、訓練が厳しいからではない。
この場所に練兵場を移した理由が原因だ。
「揃ったな。今日はこの物資を森の向こうの目的地に運ぶ訓練だ。行程三キロ。途中キマイラを設定したジャマーが出る。」
そこで隊長は並んだ部下たちを見る。
「本日はボスクラスが出る予定である。皆心してかかってくれ。」
隊長とて武技が秀でているわけではない。
どちらかというと運用の采配が優れているということでの隊長職だ。
「それと本日は共同訓練ということで特別に《アビス》も参加する。」
思わず直立の体勢を崩して仲間と顔を見合わせる。
お互いの顔には安堵と不安が混在しているのが見て取れる。
ざっと音がして一団が現れる。
動物混じりで構成される《アビス》は雑多な集団の集まりの印象を受ける。
第一騎士団曰く『ならず者の集まり』だ。
だがこの部隊は対奈落の戦闘力を持っていることは間違いない。
彼らが一緒に参加する以上安心という気持ちととてつもなく悪い予感がするのは、彼らがいるということは、参加が決定しているということなのだ。
「《アビス》のアーカネです。元来我々は警護をしない部隊ですが、今回の訓練では皆さんについて移動します。ただ、協力はしないので自分の身は自分で守ってください。」
スラッとした体格で眼鏡の男が話す。
泣く子も黙る《アビス》の隊長アーカネだ。
見た目はとても武闘派には見えない。
「ということだ。みんな生きて帰るぞ。」
「「「おう!」」」
訓練で生きて帰るって・・・・・
さながら野戦病院の様な有様だ。
あちらこちらでうめき声が聞こえる。
想定された物資はとうの昔に放棄されていた。
キマイラに指定されたジャマー部隊も、味方についていた。
アビスもいた。なのにこの有様だ。
「訓練で重傷ってどういうことだ?」
皇帝ティルルが報告書を見て、紙を指で弾く。
「今回の訓練には守護獣様が参加しておられまして・・・」
気持ちの悪い汗をかきながら訓練教官が話す。
第四騎士団長は片腕をつって痛々しい姿で頷く。
「いままでもあの練兵場はシロを仮想キマイラと設定して、訓練してきたが今回のような被害は出ていないぞ?」
お前たち、補給部隊だからといってたるんでるのではないだろうなという意味が多分に含まれている。
「それは!」
「それはございません。基本的な戦闘力は劣るとは思いますが、今回は訓練を設定した本官の落ち度でございます。」
訓練教官が深く頭を下げる。
「どういうことだ?」
「実戦を想定してアビスとの共同訓練を設定いたしました。守護獣様はアビスが相手ということで本来手を抜いてお相手してくださっているのですが、今回アビスとの訓練で第四部隊にもアビス並の攻撃が及んでしまった模様です。」
「遊びが本気になったということか?」
所詮獣はわれを忘れると手加減ができないのか?
「アビスのアーカネ隊長の話ですと、手加減はされている。遊びと思っているという答えでした。第四騎士団長にもお聞きしたところ、やはり手加減はされているとの答えでした。」
『本気だったら、肉片になっているところだと思うぜ。』
同期の気安さからそう言われたことは伏せておく。
「死亡者はいないのか?」
「はい。重傷者も問題なく全快いたします。」
猫ゴコロに悪いと思ったのか、先日病室にキマイラの死体がシロによって持ち込まれた事で、ショックを受けているものがいたとかいないとか。
☆
夜の中庭
「クレイ、誰も入ってこないようにって言ってくれた?」
「はい。“いつもの”と言ってありますので近づくものはありません。」
「じゃあ、やりますか!シロ、遊ぶよ!」
そう言うと中庭を見回せるバルコニーに立つ。
沙耶は指先から赤い光を出して、暗い中庭に赤い点を落とす。
レーザーポインターだ。
白く大きいものがザッと木を揺らす。シロの動きに合わせ逃げるようにポイントを縦横無人に動かす。
中庭を囲む城壁の上、木のてっぺん、広場、中庭の泉水
「狙っています。腰がフリフリしてます。そろそろきます。」
レシュが止まっているシロを見て実況中継してくれるので、それに合わせて動かす。
「う、今一瞬遅かった!」
「サヤ様、頑張ってください!」
「次は私たちですね?」
そう言うとクレイ、レシュ、セリーンが中庭に降りていく。シロは息を整えて休憩中だ。
このあとの遊びを心得ていて、目はらんらんにひかり、ヒゲはピンと張っている。
三人は中庭のあちこちに隠れる。
『かくれんぼ』だ。
見つかったら今度はシロを探す。
慣れたものでシロは見つけると、翻って尻尾をふくらませて逃げていくのだ。
シロが帝都にいるときは、一週間に二度ほどこうして遊ぶ。
サヤの三人の侍女さんたちはこうして、騎士団から『守護獣と余裕で遊ぶ女性』として恐れられていく。
次話からは怒涛の(?)勢いで話は流れて行きます。




