四話 戸惑い
向けた筈なのに。
男はぴしりと固まったまま動かなくなった。
動かなくなったままどんどん冷えきる瞳が怖いと思うのに反らせなかった。
どうしよう。また間違えた?
笑わない方がよかった?
「……君のその笑顔は誰のものなのかなあ。」
「……え?」
「笑いたくないなら笑わなくていいよ。俺はそんな顔がみたいんじゃない。」
じゃあ私に何を求めているの?
見返りのないものなどこの世にはないし、私にできるのは誰かの真似事だけなのに。
「あーあ。なんかもう、嫌になってきたな。君にそんな顔しか出来ないようにした奴全員なくしちゃおっか。」
怖い。
やっぱりまた間違えた。
「ごめんなさい……。」
「なんで君が謝るの。……俺、どうすればいい?」
強張ってしまった私の体を強く抱き締めてうずくまる男は落ち込んでいるようだった。
「貴方が私を望まれたようでしたからそれに答えただけ、なのに。なぜ、そうも悲しそうなんですか。」
「俺はずっと、君に会いたかった。他の誰でもない君に。なのにずっと君は君じゃない誰かのような顔をしてここにいる。それが嫌。……俺は君のことを知りたいのに。」
他でもない私?
凜々花さんでも父でもない、私自身を求める人なんて滅多にいない。
ましてキョウや桜、かつての友人達のように親愛ですらない、何かを向けられている。
それは父が凜々花さんに向けていたものに似ているようで少し違う。
初対面の私にそんな熱量をぶつけるだなんてどうかしている。
「(誰か正解を教えてほしい)」
私は私として生きていたことが少ないから自分のことなのによく分かっていなかった。
この人の求めることに満足に答えることはできないだろう。
だけどどうしたらいいのか分からなくて抱き締められたまま呆けてしまった。
あれから数日たった。
結局あの日はずっと抱き締められたまま過ごしてしまった挙げ句キョウの情報は得られないまま。
早く、見つかってほしい。
この施設にも少し慣れてきてしまったので使徒の人を探して歩く。
進む先に使徒の方が集まっているのを見つけた。
見つかると恐らくあの白い男のもとへ連れていかれるためこっそり様子を伺うことにした。
「この者はどうやらあの神月家での事故の重要参考人として追われているようだ。」
「恐らく姿を変えながら逃亡しているのやもしれん。」
「皇都湾岸付近で近頃目撃されたらしい。」
皇都湾岸付近。
ここからそう遠くない位置だ。
しかも追われている?
あの家で起きたことは全て私のせいなのにその事でキョウが罰せられるかもしれない。
それは駄目だ。
私が裁かれるべきなのだから。
「(よし、捕まりにいこう)」
近頃目撃されたとのことだから調査隊が組まれているとして、そこ付近を捜索しているかもしれない。
足を翻し部屋へと戻る。自分に与えられたこの部屋にはメモを残しておくことにしよう。
そうして、出口へと駆け出した。




