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三話 分からない

「二人……妹と従者なんです。見た目は妹が白銀の髪に金の瞳で。ものすごく綺麗な子なので見たら一目で分かるかと。従者の方は灰緑青の髪にネオングリーンの瞳です。夏の一族は見たことはありますか?顔立ちは夏の一族の顔です。」

「あー。なんか、夏の人?達は分かる。あの睫毛が分厚い人達ね。妹の方……うーん。その特徴って君の家で大事に扱われてるんだっけ?」

そう言うなり端末を操作し始めた。

「我が家について調べたんですか?そうです。ですので生きていたら何かしらで報道されてると思います。」

なぜ我が家について調べたのだろうとふときになった。

ああいや……他国の宗教の人間、それも上のものならこの國に入ったときに術者について軽く調べはするのか。

実際黒茶髪や茶髪の多いこの國で術者特有の色のある髪はそれなりに目立つ。

「ちょーっとまってね。うん。やっぱり」

「何か分かりましたか?」

端末をいじる手を止めこちらに画面を向けた。

その端末に写っているのは私の妹だった。

学園に通っている姿が撮られている。

日付は一月以上前だが、あの惨事よりも後であった。

「これ……どうやって。」 

「さすがに神都直轄地で起こった事故……まあ、事故は伏せられているんだけど。あの神月家付近の謎の轟音の正体を掴もうとして君の妹をゴシップとして撮ろうとしてたみたいだね。握りつぶされたらしいけど。」

じゃあ本当に生きているのか。

あの子を殺してはいなかったのか。

「本当に生きて……いきて、る。よかった、よかった……。」

心がぐちゃぐちゃになりそうだった。

傷つけてしまった罪悪感と生きていてくれたことの安堵が胸を占めていく。

眼の奥がツンとしたけれど私が泣いてしまうのは許せないからどうにか堪える。

「よかったね。じゃ、後はもう一人だね。」

「……はい。」

「それにしても君は余程二人が大事なんだね。」

「ええ、まあ……。二人は私を蔑んだりしないので。」

桜はいつも私を嗤う使用人にたいして怒っていた。

あの子とは産まれた頃から四歳になる頃までいつも一緒にいた。

使用人が私と桜を比べても、私を冷遇してもいつだってそれに呑まれることなく姉として慕ってくれていた。

母に拒絶された後もこっそり会いに来てくれたりしていたのだ。

それがあの家のなかでどれ程の支えになっていたか。

キョウとは三年程前から一緒にいる。

私が青葉家の精神病院に入院している頃に出会ったのだ。

キョウに関しては夏の一族の血が薄くそれにたいして強い劣等感をもっていた。

キョウは姉を私は妹を、お互いに優秀な双子のきょうだいに持つものとして解り合えるところがあったから側にいた。

きっと端から見たら共依存に近い関係だったのだろう。

だけれどずっと私を主人として懸命に尽くしてくれていたから、私もキョウを大事にしている。

それにキョウに関しては姉の方の考えも分からなくもないのだ。

あの二人は色々とお互いに拗らせてしまっていて結果的にキョウが姉を毛嫌いする形になってしまっている。

それをどうにかしたいという気持ちもずっとあった。

だからようやく体が動くようになったのだから今までしてあげたかったことをしたい。

それも全部キョウが生きていたらの話だけど。

「従者の方の顔立ちってさ、この青葉家の女の子と似てる?それとも君と妹さんみたいな感じ?」

「にています。というか瓜二つですよ。二卵性とは思えないくらい。」

そう、あの二人はよく似ている。

夏の日差しを思わせる滑らかな褐色の肌に明るい灰緑青の髪は内側が翡翠色になっている。

強いていうなら瞳の色と髪質くらいだろうか。

そして似ているがゆえに周りの大人に利用されるはめになってしまったのだ。

逆に私と桜は似ていない。

全くといって良いほど似ていないのでそれはそれで面倒なことが起きていた。

ともかく術師の家に生まれた双子は色々と大変なのだ。

「こっちは情報が集まらないな……。しばらくかかるかも」

「私もなにか出来ることはありませんか。」

「君はなにもしなくていいよ。安静にしておいて。」

「そういうわけにはいきません。このまま何もせずにあの子に何かあったら、嫌なんです。」

こちらをちらりとみた後に降参だといわんばかりにため息をついた男は口を開いた。

「うーん。君がそう望むならまあ、いいけど。じゃ、とりあえずついてきてもらおっか。」

指をパチリと鳴らした途端部屋の景色が変わり

豪奢な造りの広い部屋がそこに広がっていた。

先程までソファに座っていた筈なのに今はなぜか立ち上がっている。

体がついていけなくてぐらりと後ろへ倒れそうになったところを男に支えられた。

漸く慣れたところで部屋に人が複数いることに気付いた。

男女いるが全員白い服を身に纏っている。

そして全員が作り物のように同じ顔をしている。

ゾッとしてしまって思わず自分の肩を支えたままの男を仰ぎ見た。

「ん?ああ、あの子達は俺が作ったんだよね。他の信者からは使徒って呼ばれてるかな。」

「あ、の。やはりここは宗教施設なのですか。そして貴方は上の立場の方で間違いないでしょうか。」

「あれ、いってなかったけ。俺はこの白皇教の教祖だよ。」

白皇教……確かどこかで聞いたような。

確か我が国の北に位置する大陸、アウトクラトル公国にできた新しい宗教だ。

「初めまして。皇妃。わたくしたちは主によって造られた下僕にございます。」

「皇妃。お目覚めになられたのですね。」

嬉しそうに笑い話しかけてくる人(?)が皇妃と言っているのが理解できなかった。

「皇妃?あの、なにか間違えてませんか。」

「?間違えるはずがありません。主が今も御身を支えていらっしゃるのは貴女が皇妃だからにございます。」

「はい。いきなりいろいろはなしかけないの。困ってるでしょ。」

皇妃とは一体……。

何を求められているのだろう。

どう答えたらいいのか分からない。

「皆きいてー。この子の従者である一人の人間が見つからない。手分けして探してくれる?あと、情報が少しでも見つかったら俺に報告して。」

「「かしこまりました。」」

一同が礼をして霧のように消える。

やはり高度な術を使用している。

只者じゃない。

「あの、貴方は何者なんですか。それに皇妃って……。」

「俺は皇森羅。この白皇教の教祖だよ、皇妃は君のこと。ずっと探してたんだよね、俺。」

「何で...…?」

「君が俺の唯一で運命で番だから。」

当たり前のことを言うように笑う男。

運命?

何をもってして運命なのだろう、なぜずっと私を探していたのだろう。

そもそも外の國の人間があの家に隠されるように育てられた私を知る機会などないはず。

……もしかしたら、きっとこの人も私を誰かの代わりとしてみている?

凜々花さんも父も死んで似ている私を代わりに欲しているのだとしたら?

そう考える方が妥当だろう。

初対面の私をここまで求める理由がない。

父に誑かされたのか、凜々花さんに狂ったのか。

一体どちらなのだろう。

また私は誰かを模倣しなくてはならない。

あの家から逃げ出したところで私を私として見てくれる人がいるわけじゃないのだ。

「(……ああ、最悪。)」

先程まで感じていた安堵や期待が急速に冷えて吐き気がするほどの冷たい気持ちへと塗り変わっていく。

肩に乗ったままの手に緩く触れた。

あの人達ならきっとそうしただろうから。

キョウが見つかるまでの間この男の機嫌を損ねる訳にはいかない。

だから利用してやる。

この男が私に何を求めるのか分からないけれど今度こそうまくやろう。

あの日みたいにならないように。

完璧な微笑みを向けた。

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