二話 お話
案内された部屋には質の高いソファが並べて置いてあり、他の部屋より多少の色彩があることにほっとした。
自分と向かいのソファに腰を下ろした男がテーブルに指先を翳すと何もないところからティーセットが現れた。
術だろうか?0から物を造るのはさすがに高位の神でも滅多にできることではないし……。
恐る恐る口をつけると茶葉の心地よい香りが広がり、見た目だけの得たいの知れないなにかではないとわかった。
男に目線を向けるとその赤い瞳を緩やかに細め少し嬉しそうにしていた。
頭の上に生えている1本のアホ毛と一房だけ伸ばされた髪が揺れている。
どういう仕組みなんだろうか。
「……それじゃあ、本題に入ろっか。まず、君は神性暴走を起こした。ここまではいいかな?」
……本当に、自分が神性暴走を起こしたのだろうか。
だとしたら相当の被害者が出たのではないだろうか。
……自分は人を殺してしまったのだろうか。
「俺がこの国にきてから少したった夏の日にあまりに膨大な神気を感じた。轟音と共にね。その発生源に急いで向かったところ死にかけだった君と半壊状態の神月家があった。」
「……それでどうして私が神性暴走を起こしたとなるのですか?もしかしたら、強い鬼が出ただけなんじゃ。」
「それはない。俺が着いたとき結界は塗り替えられていた。破られていたんじゃない、塗り替えられてた。この意味がわかる?」
神月家の霊力によって貼られた結界を塗り替えるということは神月家より膨大な力をもっていないと出来ない。それはつまり、まさしく神力をもった神があの場にいたということに他ならない。
「あの場は神域と化していた。神秘的だったよ、純白の花がたくさん咲いていてね結界内の空は朝なのに夕焼け色で。神域はそれを作った神が死なない限り消えない。そして、その神力と同じものが君に宿ってる。」
男の話す言葉はつまり、私が神性暴走を起こしたという事実を突き詰めるものだった。
──やっぱり、私は人を殺してしまったんだ。
神性暴走を起こした状態は実力の高い神祓師や浄化師がいないと対処できない。
神月の家はこの国で最も実力をもつ術師達だ。その家が半壊していて、さらに私が死んでいないということは全員を返り討ちにしてしまったということだ。
「……私は、また人を殺してしまった……。そういうことですね。」
「また?いや、最初に言ったでしょ。君は神性封印をされていたのかもしれないって。もし君が神性をもっているとしっている状態で封印を無理に施していたのならその時点で対応がおかしいんだよ。」
神性封印。するとしたなら手間のかかる儀式を行わないと出来ない。だけど私にはそんな儀式を受けた記憶なんて無い。やはり唐突に眷属と化してしまったのでは……。でも、眷属だとしてもあの家が半壊するほどの神なんて最高位の神でもない限り無理だ。
最高位の神ともなれば神々のいる神園に永くいない限り会うことすらない。
だとすると……記憶が消された?
誰に?意図的に消されたのだとしたら目的は?
思い出さないと……。
そこまで考えた瞬間頭に強烈な痛みと何か古い映像のようなものが流れ込む。
脳内に流れるのは血肉が撒き散らされた実家の景色。
そして、二人の姿を探していたときの光景。
耐えきれず体勢を崩しテーブルを掴む。
ティーセットがガチャリと音を立てた。
「大丈夫?!あ、もしかして何か視えたのかな……。
ゆっくり呼吸をして、スイッチをオフにする感じで意識して。」
何が見えたのかと背をさすりながら問う男。
「大事な人達、二人がいなくて。どこにも、いなくて。……あるのは血と肉塊だけで。きっと殺した景色だと思います……。」
「……神性暴走で人が死ぬのは珍しくないけど。君がそんなに苦しむなら記憶を消してあげようか。」
背に当てられた手を緩く振りほどき座り直し、首を振った。
「いえ。どんな理由があろうと私が二人を人を、殺したことに変わりありません。……どんなに願っても償うことすら出来ない。……だから、いっそもう、私も苦しんで死なないと二人に合わせる顔がない……。」
「ごめん。それは聞けないかな。君が苦しむくらいなら俺はこの世界を壊すよ。」
先程までの緩やかな光はどこにもなく剣呑な鋭い瞳はまるで血のような色で恐怖から逸らしてしまった。
「……君が視たのはその大事な人がいないって景色だよね?ならその二人が生きている可能性だってあるでしょ。」
「どんな確率ですか……。奇跡でも起きない限りあり得ない。」
そうだ。何が起こったにせよ私は力をコントロールできなかったのだから。
「うーん。まずは君の大事な二人について教えてよ。そこから情報を集めるから。」
二人について教えてもいいのだろうか。
今更だがどうしてこの人は私に良くしようとするのだろう。
「あなたに支払える対価がありません。どうしてそこまで私に、私を生かそうとするのですか。」
「俺が生きる理由が君だからかな。俺達は運命なんだよ。君のためなら世界だって壊せる。」
どうして運命と言うのか分からない。
なぜ私を選んだのかも分からない。
だけど。何故かその言葉を懐かしいと思った。
いつかにきいたような気さえする。
それに二人が生きているのなら私がどうなろうと構わない。
だからもしこの人に裏切られこの命が対価となろうとも二人の命に変えられるのなら。
「わかりました。二人についてお話しします。」
得たいの知れない神であっても利になるのなら頷いて見せた。




