十二話 西風へ
その子の住んでいた店に連絡をしたところ現在も在住であるらしい。
よかった。ついている。
秋の一族の領街である『西風』には龍華国の影響を強く受けた龍華街がある。
そこには桃花楼という舞や歌など様々な美しいものがみられるお店がある。
そこに幻術の天才は暮らしている。
「でも、どうしようかな……。西風へは飛行機が早いけれど、私が西風に入ってあの人の耳に入りでもしたら……。」
「さくちゃんは秋の一族に養子にいってたんだよね?あ、でもそっか。神月家に帰ってきたってことは……。」
それだけじゃない。
私が死なせたあの人は秋の一族第一分家である暁山家の人だった。
私が一時養子になったのもその家。
あそこにはあの人の実子……荊兄さんがいる。
私の顔を見たくなんてないだろう。
どうしよう……。
「うーん。そんなにあれなら、車か列車で行けば?転移だと記録に残っちゃうしね。」
「そう、ですね。飛行機よりも検査が緩いので、そちらで向かいましょう。」
列車で向かうことになったので早々に支度をする。
特急でも二、三時間ほどかかるだろう。
皇都の駅へつき、皇西線の特急切符を買う。
ICカードは身分証が必要なため持っていない。
ちゃっかりついてきている森羅さんが切符を全て買ってくれた。
……帝に謁見したとき調査費用は負担すると言われているのに。
そもそも、神性を持つ私には国から支給されるお金が今月から渡されている。
そのお金から払うつもりだったのに。
「旅行だー。旅行したことあんまりないから新鮮。」
「調査でしょ。目的別になってますけど。」
列車の窓から景色を眺める森羅さんに呆れたようにキョウが口を開く。
そういうキョウも少し回りをキョロキョロ見回している。
ああいってはいるけど本人も少し新鮮なんだろう。
あまり夏の一族の領街である南陽からでたことがないそうだったから。
少し騒がしいなかようやく西風駅に着いた。
ここから龍華街までは車でいった方がいいかな。
タクシーを呼び龍華街までと頼む。
降りる際に支払おうとして森羅さんの速度に負けた。
……普段そんなに速く動いたことないよね?
龍華街。中心部にある桃花楼は一際大きい建物だ。
その入り口に立っていたのは桃の花のような色の髪を大きく1房に三つ編みにし、残りの髪を肩に流している。
蜂蜜色の瞳をしたその人は私のかつての親友、リーディエ。
医院に入院しているころ文通をしていたのが最期になってしまっていた。
「久しぶり。朔。」
開いた麗しい唇から聞こえるのは甘い蜜のような声。
「覚えてくれてたんだ……。久しぶり、リーディエ。」
「忘れるわけないでしょ?まあ、取りあえず入って。」
桃花楼は夕方からの営業。
今は昼。
わざわざ時間を作ってくれたのだろう。
一番奥の個室へ案内される。
久しぶりに入った場所は相変わらずだ。
龍華風の内装が華やかで、とても良い香りがする。
香だろうか?
「へえ。中々良い店だね。」
「えっとおれたちも入っていいんですか?」
「もちろんよ。適当に座ってくださいな。」
案内されるまま座る。
そして綺麗な翡翠色の髪をした女性が茶と菓子を持ってきてくれた。
「今の人、新しい人?」
「そうね。手紙でどこまで話したかしら。あたしあの後龍華へいったのよ。去年?くらいにこっちに帰ってきたの。その時連れてきたのよ。」
「そっか。お母さんは元気?」
「一応今はね。……それより本題は?連絡してきたのはなんでなの?」
少し言い淀みそうになってしまって視線を落とす。
リーディエは夢魔だ。
正確には夢魔と人のハーフ。
だけど本人は夢魔の力が使えることを嫌っていた。
その力を貸してくれといっていいのだろうか。
「実は……その、今やらなきゃいけないことがあって。幻術について教えて欲しいんだけど……。」
「ふうん?いくらだせるの?」
「えっと、今だせる限りは出すよ。それで足りない時は...…分割払いはデキマスカ。」
「冗談よ。あんたには借りがあるからそれでチャラね。
どんな術について教えて欲しいのよ。」
調査隊の記憶の混濁。
翡翠の焔……浄焔の力が辺りを燃やした後発生した煙について話す。
「なるほどねえ。幻術でしょうね。朔はその煙が怪しいと思ったの?」
「うん、勘というかなんとなくだけど。」
「煙を媒介にした幻術は炎の力と相性がいいのよね。燃やせば煙がでるし。辺りに術を巡らせる心配もない。」
「……本当に詳しいね。」
ふっと自嘲的な笑みを浮かべ、リーディエはカップを手に取った。
「まあ、半分夢魔だし。こういうの散々学ばせられたのよ。」
「そっか。ごめん。色々聞いて。」
「あたしが本題に入ってって言ったのよ。そこの二人は聞きたいこと、無いの?」
「俺はついてきただけだし、特にはないね。」
「あの、幻術ってこんなに土地をまたいでかけられるものなんですか?どんなに使い慣れてても遠い土地からかけるなんて無理だと思うんですけど。」
確かに。
なんでそこを失念していたのか。
術に対しての勉強が足りてないことを痛感する。
「さあ?そこは術者の力量とか術のかけ方次第じゃないかしら。」
幻術使いであってもそこら辺は未知数なんだろうか?
何か隠されているようなそんな気がした。
「ちょっと!リーディエ!さくらちゃんが来てるって本当!?」
それについて聞こうとしたと同時にバタンと音を立て一人の女性が入ってくる。
艶やかな黒髪にを紫からオレンジにインナーカラーを染め2本に高くくくっている猫目の美人。
「琥珀さん?」
「琥珀姐さん。ノックしなさいよ。」
「さくら~!!久しぶり!会いたかった!相変わらず綺麗。流石よ。髪伸ばしたのね?似合ってる。」
抱きつかれ頬擦りをされる。
身長の高いその人に思い切り抱きつかれ首が悲鳴をあげつつあった。
「た、助けて……。」
リーディエがため息をつき思い切り琥珀さんにデコピンを入れた。
それと同時に森羅さんに引き寄せられ抱えられる。
「ちょっと。いきなり人に抱きつくなよ。俺だって抱きついたこと無いんだよ?」
「そこかよ。」
「あの、森羅さん。助けてくれてありがとう。でも放してください。」
口を大きく一文字に伸ばしじとっとした瞳で見つめられる。
いかにも不機嫌ですといっているようだった。
「というか抱きついてきたことありますよね?」
「は?あるのかよ。」
「あ、確かにやったね。でもなんかこう、文脈がさ?違うじゃん?」
意味のわからないことを言いながらも解放はしてもらえたのでキョウを盾にする。
「痛た……。酷いわリーディエ。抱きついただけなのに。」
「相手が嫌がっているんだからやめなさい。」
「ワタシはただ綺麗な子が好きなだけなのに...…。そこの子も綺麗な顔ね?」
盾にされたキョウはじろじろみられることに戸惑ったようにこちらを振り返った。
キョウは確かに綺麗な顔をしている。
夏の一族らしい顔立ち。
カラメル色の滑らかな肌に灰緑青の髪がよく映える。
分厚い睫毛に覆われた明るいネオングリーンの瞳は中々みられる色ではない。
「はあ……。ごめんなさいね。琥珀姐さんは一度こうなると止まらないから。今玄関まで送るわ。」
「ワタシもい「姐さんはお留守番よ。馬鹿。」」
玄関までの階段を降りながら店の内観を眺める。
変わってないなあ、この店は。
ここでみられる舞や歌、演奏はとても優雅で桃源郷に来たのではないかと言われるぐらいだ。
すっかり日も暮れていた。
日が暮れると寒さが一際沁みる。
龍華との間にある海は荒くて寒さもそれなりに厳しい。
「じゃあね。朔、元気で。」
「うん。あ、リーディエ。手紙を送ってくれてありがとう。……返せなくなってごめんね。」
「ほんとよ、心配したんだから。でもまあ、会えてよかったわ。」
手を振るリーディエに同じように手を振り行きと同じように車に乗り込んだ。




