十一話 情報収集
あれから二週間ほどたった。
今日まで広場で特訓しからだを慣らして過ごしていた。
素振りが千回を超えても体力切れを起こさなくなったことには今までの体調からみても目覚ましい成長をしているのではないだろうか。
そして力について分かったことは瞳に神力を流し込むと過去や未来についてみることができるということ。
だけどあまりにも流れる情報量……みえてしまうものが多く使った途端に負荷が大きくかかる。
「さくちゃんの能力ってさ。春の一族と秋の一族の良いとこ取りみたいな感じだよね。」
「へえ。春とか秋とかなんか違いでもあるの?」
「えっと、これ言って良いのかな?春の一族は未来が見える。秋の一族は過去が見える。他にも……」
この國の四季の名を冠する一族達には他の者とは違う能力をもつ。
春(東)の一族は未来を見通す暁霞の心眼。
夏(南)の一族は浄化に特化した浄焔の力、治癒。
秋(西)の一族は過去を見通す宵霞の心眼。
冬(北)の一族は封印に特化した氷閉の力。
「こんな感じですかね。おれは夏の一族の治癒とかは一応使える。」
「ふーん。なんか春と秋。夏と冬?で対照的だね。」
「そうですね。そこは陽月神話にまつわるので。」
「というかあんた仕事しないで大丈夫なの?」
確かに。
今一緒に話を聞いている森羅さんがつい二日前に仕事をさせるために使徒の方に連れていかれていたのを思い出す。
「大丈夫大丈夫。使徒にお願いしたから。で、陽月神話とどう関わりがあるの?」
「陽月神話では月が最初に地に降り立ったとされています。その月神が力を分け与えたのが春と冬の一族。後に太陽の神から力を与えられ春から秋が冬から夏の一族がそれぞれ分かれました。四季の名を冠しているのはその季節と相性の良いもの達だったからです。」
「最後に月は地にて尽き果てそこから生まれたのが現在の神月家……だったよね?さくちゃん。」
「うん。太陽が地に遣わしたのが帝です。ですので四季の一族はそれぞれ祖とする神の問題で対立しがちなんですよね。」
実際私の黒髪も月を祖とする家の出身でさえなければ何も問題はない。
帝が黒髪であるように、太陽を祖とする家の者は髪の色が濃い程霊力のある証だ。
私の場合霊力さえあれば秋の一族の有力候補にはなれたであろうとされていた。
「さくらの瞳は春と秋の人達と違うよね。紫眼?いや、よくみたらオレンジとピンクもはいってる?」
「確かに春の一族は青とピンクのツートーンで、秋は赤とオレンジだった気が……あ。」
「どうしたの?」
「二つの心眼の色が混ざったから紫色なんじゃない?」
そんな絵の具みたいなことが起こりうるのだろうか。
でも確かに私は過去、未来共に観ることができる。
「それが本当なら私の眼って前例が無いことになる……?」
「ばれたら他の家が引き込もうとか面倒なことになりそう。」
「……ねえ、さくら。たしか事変が起きた日に君の目が金色になったって聞いたけどそれはできないの?」
「それは、なぜかできないんです。」
何回も眼に神力を流してあの日にキョウが見た瞳……恐らく月の瞳を発現させようとした。
だけど失敗続き。
元々の過去視や未来視ばかり発動してしまって無駄に脳に負担がかかるだけだった。
「強く祈るとか何かしら条件があるのかもね。」
「……はやく、使えるようになりたいですね。」
「まあ、焦らずにゆっくりできるようになりなよ。大きい力って無理に使ってもろくなことがないし。とりあえずどこまで動けるようになったかためしてみようか。」
森羅さんが空間に手を伸ばしそこから鬼のような生命体が現れる。
転移?いや、創造!?
「はい、これを倒せるかな?頑張って。」
手をこちらに伸ばし鋭く伸ばされた爪で切り裂こうとしている。
それを大きく避け、そのまま剣を出して走る。
剣を振るい叩きつける。
が、あまりにも固い。
ダメージが与えられている気がしない。
「(そういえば、事変のとき私は銃をつきつけたのだったような。)」
手に持つ白い剣に銃に変われと念じる。
まばゆい光を放ち純白の銃に変わったそれを手に握り鬼の頭に向けて引き金を引いた。
頭から大きな穴が開き崩れ去っていく鬼。
なんとか倒すことが出来た。
やっぱりこの剣はただの剣じゃない。
私が願った形に変わる性質を持っている。
「倒せたね。おめでとう。これなら大抵の鬼は祓えるんじゃない?」
「さくちゃんの剣って剣じゃないんだ……。」
「元々が魂を具現化した力だから形は問わないんだろうね。その時に最も適した形で具現化する。いつも剣になるのは無意識に剣が手に馴染むからじゃない?」
その場にしゃがみ息を整える。
それにしても昔に倒した鬼よりも強かった気がする。
「倒せましたよ!これなら、調査に出向けるでしょうか。」
「うん。ひとまず大丈夫だよ。」
「森羅さん。あの鬼はいったいどこから出したんですか?」
「ああ、あれ?あれはね、俺の力!一から造ったんだよ。」
やはり相当な高位の神なのだろう。
一から……いや、何もないところからあんなものを造るのは並大抵の神ではできない。
何者なんだろう?
いや、今はそれを考えている暇はない。
調査を始めなくては。
キョウをこのまま重要参考人にしておくわけにはいかないし。
着替えてから使徒の方達が集まる場へ向かった。
情報の共有……私が目覚めるまでのことを聞き参考にしたい。
「お待たせしました。」
使徒の方達は相変わらず同じ顔をしているので一斉にこちらに向き直されると毎回少し驚く。
「私どもが皇妃が目覚める前調べましたのは何者が調査の妨害をしているかでした。」
「相当高い実力を持つ術者が調査の妨害を行っていると。」
「そうですね……。ねえ、キョウ。あの日見たのは確かに式神だったよね?」
「うん。ていうか翠の焔って完全に夏の一族の力でしょ。しかも他家の式を燃やし尽くすなんてあいつぐらいしか心当たり無いよ。」
「みやこさん……夏の一族が式で撹乱させているんだとして目的と理由は何だろう……。」
「おれを殺すためだよ。……この騒ぎに乗じて殺処分にしちゃった方がいいから。」
キョウは一族の中で疎まれて育った。
だからこそ自分を殺すためだと信じている。
だけど私はそうは思えなかった。
そもそも、夏の一族の中でキョウの姉であるみやこさんが術者であるという確証は無い。
「どうしようかな……。あ、そうだ。」
「なに?」
「キョウが見つかったっていう情報を夏の一族にのみいち早く伝わるようにすれば……それを元に誰がやったのかの確認はできる。」
「問題はなんの術を使っているか、だよね?」
式を使ってはいるけれど神都から離れた皇都にさえ飛ばすなんてそうそうできることじゃない。
更に春の一族らしき式を燃やし尽くしていて、調査隊の記憶は混濁している。
どの術を使っているのかによっては慎重に調査を進めなくてはならない。
「取りあえず、おれが囮に「だめです。」……なんで。」
「危険な目に合わせないって言ったでしょう。それにもし捕まったらどうするの。」
「うう、たしかに……。でも他にやりようがないよ。」
「あるよ。」
振り返った先にいたのは森羅さんだった。
どうやら急いで仕事を終わらせたらしい。
使徒の方が私の隣に案内している。
……なんでいつも向かいか隣にいるのだろうか。
「それってどんな方法なんですか?」
「キョウくんにしかできない術だよ。この間から練習した触手があるでしょ?それを使うんだよ。」
森羅さんの説明した手順は
一 触手を変化に使うときのように一部変化させる
二 それをもとに式神をつくりキョウにみえるものをつ くる
三 それを皇都から少し外れた町に飛ばす
「これなら、キョウも危険に合わずになんとかできそうですね。」
「夏の一族への情報は使徒に流させようかな。おねがーい。」
「かしこまりました。」
キョウが玉虫色の美しい触手を背から伸ばす。
それを一部キョウのミニチュア?のようにつくりそれを切り離した。
「いたた……。」
「大丈夫?痛いよね……。」
「うん、大丈夫だよ。なんかこう……膝を思い切りぶつけたみたいな痛みのれべるだから。」
「それ結構いたいやつじゃない?」
膝を思い切りぶつけたらちょっとしゃがんじゃうくらい痛いと思うんだけど……。
痛みに耐性がついてしまったのだろうか。
「じゃあ。こねまーす。えいえい。」
切り離したミニチュアのキョウを森羅さんがこねると次第にそれは本人と同じサイズの式神に変化した。
「うわ、おれだ……。」
「これを皇都外の町に飛ばすね。転移させればいっか。」
「今更ですが式との同調ってどうすれば?」
「式の一部を持ってこさせるから君の瞳で見ればOK。それを帝に言えば進展する。」
数刻の後帰ってきた式神はあちこちが怪我をした状態であった。
式神であるとわかっていても大怪我を負ったキョウがそこに横たわっているようで気分が悪い。
それをそのまま宵霞の心瞳で過去をみる。
──映るのはのどかな風景。
少し小さい町であるようだ。
そこで歩いている矢先に調査隊が現れる。
いや、調査隊ではない。
式神だ。
式神はそのまま攻撃をこちらの式に浴びせ続ける。
防いでいてもこちらの結界はやぶられ身体の複数に当たる。
式神の視界がぐらりとゆれる。
攻撃をくらい続けた身体は力が抜けてしまっていた。
そこに一つの型紙の式が飛んでくる。
それは調査隊を騙る式をまた翡翠の焔で燃やし尽くした。
燃やされた調査隊の式は今度は髪の毛の色がわからぬように染められていたようだった。──
「はっ……はっ!はあ、んぐ……。」
瞳の負担がやはり大きい。
まるで他人と五感さえ同調させているかのごとく鮮明に映る過去の映像。
いつの間にか式神は肉塊に戻ったようだった。
「良く頑張りました。大丈夫?」
そういって背を撫でる森羅さんの手は冷えきっていた。
こころなしか表情が固い。
もしかしてやり遂げられるのか不安に思っていたのだろうか?
「大丈夫です。ご心配かけてすみません。全てつつがなくみえました。これなら報告に値するかと。」
「そっか。じゃあ、これに過去の映像を想起してくれる?あと、君達二人が襲われた時の映像もね。」
そういって差し出されたのは手鏡だった。
「これはね、使用者の記憶を嘘偽りなく映すんだよ。すごいよねこれ。国宝なんだってさ。」
そんな国宝を容易く貸し出してよかったのだろうかと不安に思ったがどうやら機能面で小型化をしたレプリカであるらしい。
少しホッとした。
「あ、今ホッとした?さすがに国宝を貸せとかは言わないよ。めんどくさそうだし!」
ホッとした気持ちを返して欲しい。
やっぱりこの人テンションが高いな……。
「手鏡に額を当てて、後は見たものの記憶を思い出すだけ。……はい、できた。」
言われた通りにやってみると鏡に映るのは海で再開した日の自分達と先程みた式神の記憶。
それらが鮮明に写り映像として流れている。
高度な術式だ。
「……すごい。」
「すごいよね。まあ、これくらいなら俺もできるけど。」
台無しだ。
思わずじとっとした目で見てしまったがそのままとても嬉しそうな顔で返された。
なんなんだろうこの人。
「さ、後は術の解明だけだよ。何か方法は考えてあるの?」
「……おそらく、式には幻術のような物がかけられているかと。後半、煙になにか混ざっていたような?」
「それなら、帝がおっしゃってた『調査隊の記憶が混濁している』理由にもなるね!……でも幻術かあ。あれって確か難しいというか扱える人間少ないんじゃなかったっけ。」
「ふうん?そんなに難しくないし便利なのにね。」
幻術。
それは他者の記憶、意識に干渉し文字通り幻を見せる術。
この術をここまで正確に扱えるのは陽月でも少ない。
それを難しくないと一蹴する森羅さんの話を聞き流し思考を巡らせた。
そして、思い出した。
一人心当たりがいる。
幻術に適正があって、情報を教えてくれるかもしれない人が。
「私たちついてる。一人心当たりがあるよ。幻術の天才。」
「え、誰?」
「明日……は急か。その子が住んでた場所に連絡してみる。」
私を覚えてくれているだろうか。
かつて交友を結んだ親友。
桃色の髪をした綺麗なあの子は。
その日は連絡をして、あとは大事をとって休むようにいわれた。




