無事を祈る(桜視点)
私のせいでお姉さま達がいなくなってからもう数ヶ月が経った。
あの日父に首を絞められていたお姉さまから強い力を感じたのと同時に私は家の自室に飛ばされていた。
家の外に出られぬよう結界で閉じ込められ、外で何が合ったのかなにも分からず。
やがて婚約者である千春の兄である光一お兄様に保護された。
捜索をしてくれるとのことだったけれどお姉さまもキョウ君も見つからない。
それにどうしてあの日に真っ先に神月家へ入ることが出来たのかも分からなかった。
保護され家の外へ出たときにそこにあったのは紫色の空と白い美しい花が当たり一面に咲いていた。
あり得ない景色がそこに広がっている。
つまりは神域が完成していたということ。
つまりお姉さまは神様だったということで。
神域には実力のある術師しか入れない。
光一お兄様には申し訳ないけれど今までみたどんな神域より遥かに強大な力を感じるここにどうしてすぐに入ってこれたのだろう。
本当に彼は人間なの?
そもそもどうしてあんなに早く駆けつけられたの?
(何を考えているのでしょう。私は……。)
そんな疑心に囚われ朝華家に保護された後も気が休まることはなかった。
そんな中みやこさんと接触するのは躊躇われた。
私がツテとして頼ったのはキョウ君のお姉さんであるみやこさんだった。
もし、もしあの日にお姉さまを閉じ込めたままにしようとしたことに朝華家が関わっているのなら私との関係を悟られてはならない。
ただでさえそれ以前から交流があったのを婚約者にさえ隠していたのだから。
既にあの日に私が青葉家を頼ったことを気付かれているかもしれない。
だけど確信を与えてはならないと思った。
作戦も失敗し弟を巻き込んだ挙げ句共犯として疑われている現状のなか何も言わない私に対してみやこさんはやがて話しかけなくなった。
……ごめんなさい。
学園に復帰した後私に姉がいたのかと言う驚きと姉が殺人事件を起こしたとの醜聞を信じ好奇の目をむけられることが増えた。
「神月さま、お可哀想。ご両親を実の姉が殺しただなんて。」
「わたくし達は桜さんの味方ですからね。」
そんな薄っぺらい言葉で慰められた。
違うのに。
お姉さまはなにもしてない。
そういっても逆効果。
なぜか『術師としての力を持たない娘が逆恨みで殺人に及んだ』ということが事実のように語られた。
どこからそんなでまかせが出たのかも分からない。
一つ一つ否定して回るにも多すぎる人間がそれを信じている。
術師の界隈中に噂が広がってしまっている。
やめて。
あの人がどれほど苦しんでいたのかしらないでしょう。
あの人は蔑まれても自分に出来ることをしようと必死に努力していたのに。
姉があの体調の中でもいつも書物を読み自力で勉学に励んでいたのを知っていた。
それなのに、ここまで名誉が汚されていることが許せなかった。
その反面父はずっと可哀相な被害者として語られている。
父のあのおぞましい所業も何もかも父が死んだことによって明るみにすらならない。
あまりにも無力でどうすることも出来ない日々だった。
国の中央に位置する大社にて祈りを捧げる。
今年の年越しの大祓は当主であった父が亡くなり引き継ぎも無い中でなんとかつつがなく終わらせることができた。
そのことへの感謝とそして姉の無事を祈っていた。
神都中央に位置する大社の奥は神々の住まう神苑に繋がっている。
他のどの社よりも神に祈りが届くであろうと縋るように毎日参拝をしていた。
「桜様。今年の大祓の舞、見事でございました。」
あとから続くように声をかけられ顔を上げ振り向いた。
大祓を終えたことへの挨拶に四季名家含む術師達が順番に並んでいる。
婚約者である千春も朝華家の人間として同行していた。
「ありがとうございます。皆様も無事今年を迎えられて何よりです。」
「桜様が大祓を恙無く終えられたおかげですわ。……それよりも大祓がようやく終わったというのにもう祈りを捧げていらしたのですか?」
暗にまだ無事を祈っているのかと聞かれている。
当たり前だ。自分の姉の無事を祈ることの何がいけないのか分からなかった。
だけれどこの人達は自分達が正しいと信じて疑わない。
でも端からみたら『殺人を犯した姉をそれでも無事に見つかることを祈る優しい桜様』にみえているのだろうと思うと酷く嫌気がさした。
ふとその顔ぶれにみやこさんがいることに気付いた。
夏の一族時期当主として大祓の準備にも携わっていたけれど話しかけることはなかった。
目があったと思うとふ、と反らされた。
柔らかい拒絶に胸が傷んだけれど当たり前の反応だとも思う。
未だ二人は見つからない。
誠実な対応もしていない私に憎しみを向けられないだけ優しい。
「桜様?」
かけられた声に我に返る。
いけない。弱みを見せるわけには行かない。
しっかりしなくちゃ。
「いえ……なんでもありません。」
「それでは青葉家代表としてのご挨拶も終えましたのでこちらで失礼いたします。」
深く一礼をして去っていくみやこさんの背中。
手を伸ばしかけて寸でで止めた。
私に引き留める資格は無い。
翻した袖から嗅いだことの無い変わった香りがした。
何か違和感を覚えた。
「みやこ様がどうかなされました?」
「あ、いえ……変わった香の匂いがしたような気がしたものですから。」
「みやこ様は桜様と並び学園の才女と名高いですから。もしかしたら季節に合わせてあるいは儀式に沿った香をお選びなさっているのかも。」
「……そうですね。私も見習わなくてはいけませんね。」
何かを見過ごしているような予感がしたのを振り払うように笑みを浮かべた。




