従者は願う(青葉京キョウ視点)
森羅が朔来ちゃんに抱える感情のほんの一部。
素振りを始めたさくちゃんをみて顔がひきつった。
なんであの人この間まで寝たきりだったのにあんなに早く動けるんだよ。
というかあの教祖相手に手加減されてたとはいえ触手をいきなり弾くのもやばい。
おれの触手は焼け焦げたし、あの動きもあんまり追えなかったのに……。
「さくらってさあ……。相当負けず嫌い?」
「あー。まあ、そうですね。自己肯定力低いのもありますけどその分自分に出来ることは極めたいってなるタイプですね。」
「へえ。というか手加減してたとはいえ初日で弾かれるとは思わなかったんだけどなあ。ちょっと興奮するね。」
自分に剣先を向けられて興奮するとか変態の類だ。
おれがそう感じたのを気付いたのか張り付けた笑みをこちらに向けて呟いた。
「俺は対等であって欲しいんだよ。唯一あの子だけが俺と対等になれる。」
「……そういえばあんた何者なんですか?」
「ん?」
「さくちゃんはあえて聞かないみたいだけど。アウトクラトルって北の大国の公爵家だよね?なんでこの國にいるの?」
帝へ謁見したあの日、帝はこの男をアウトクラトルと呼んでいた。
アウトクラトルの公爵家の人間(?)がなぜわざわざ教祖として活動しているのか。
いや……そもそもどうして白皇教がさくちゃんを皇妃として仰ぐのかもわからない。
さくちゃんに執着する理由はなんなのか。
「俺は唯一の存在、魂の番を探してたからこの國にいる。教祖もその手段の一つでしかない。」
「そのためだけにわざわざたった三年で國に認めさせたのか……。」
「三年もかかったの間違いでしょ。もっと早く動けていたらさっさとあんな家から連れ出せたのに。」
「どうしてそんなにさくちゃんに執着するの?」
ずっと疑問だった。
さくちゃんはほとんど社交界に出たことがないらしい。
恐らくこの男とも初対面だろう。
なぜそんな会ったこともない自分の主人に執着するのか。
魂の番だとか自分にはよく分からない。
たったそれだけでどうしてそこまで必死になるのかも。
理解の及ばないその思考にもはやそれは狂っているのではないかとさえ思った。
「考えたことはある?何でも出来て何でも解る。それなのに何一つ満たされない、心が動かない。空虚なまま生きる苦痛。対等なもののいない日々。そんなものには耐えられない……神であろうとね。」
先程まで浮かべていたいつもの薄い笑みを消した男の顔はその言葉通り虚無の空洞な瞳をしていた。
その瞳はゾッとするような光があって、そしてこれこそがこの男の本性に近いのかもしれないと本能的に感じ取れた。
この男の抱える虚無の狂気はとてもではないが人のそれではない。
その虚無を埋められるのが己の主人……。
「さくちゃんはあんたと唯一の対等になれる存在ってかとか……。」
「そうだね。だから探してた。……ずぅっと。」
「あんたはさくちゃんを……代替品の人形になんかしないよな?」
祈るようにそう言った。
主人の顔は社交界で随一の美貌と称された神月凛々華の華やかで儚い顔立ちに父である茨の鋭さを滲ませた美貌をしている。
どちらもその美貌故に数多の人間を狂わせていると聞いたことがある。
姉であったあいつからきいた話だと二人に人生を狂わされた人間がさくちゃんの顔に面影を見て求めることが多かったのだそうだ。
そうでなくても彼女自身が人を狂わせるような顔立ちをしているためご当主野郎のように頭のおかしい連中が寄ってくる。
……もうあんな目には合って欲しくない。
「は、ありえない。俺にとってあの子以外の誰かなんて対して区別つかないし。……それにどんな姿になっても俺が見間違う訳がない。」
「なら、いいですよ。とりあえずはね。」
「この俺が他の凡愚と比べられるなんてね。……ん?あれ?さくら!さくらさーん!?そろそろ休憩!病み上がりでしょ!」
走りさっていく背中を見つめる。
きっとあの言葉は本心なのだろう。
容姿が変わろうときっと愛してしまえるのだろう。
宇宙の果てまで逃げても捕まえてきそうな重さだ。
自分の主人はそのときどうするのだろうか。
嫌がるようであれば全力で守るけれど、どうなるかは未知数だ。
長い目で見守るしかないな。
現実逃避に空を見上げた。
空はさくちゃんの瞳のような紫色をしていた。




