十話 力の使い方
鋭い光が胸を刺す。痛みと熱が体を充満していく。
『すまない。俺を、私を許さないでくれ。』
見上げれば赤い瞳が私を見据えて──
「!!!」
目を覚ます。
全身にかいた冷や汗が気持ち悪い。
「殺される夢を見るなんて……。最悪。」
起きてから痛みが走る胸の傷痣を服越しになでる。
「夢の人森羅さんに似てたような……。」
嫌な考えごと振り払うように頭を振ってベッドから降りる。
今日は力の使い方を教わる日だ。
それに調査の件もある。悪夢を見たぐらいで立ち止まってはいられない。
シャワーを浴びて(なぜか増設されていた)思考を洗い流し、広場へと足を進めた。
広場には一足早く森羅さんがうろうろと歩いていた。
まずい。この寒い中手持無沙汰になるほど待たせてしまっていたみたいだ。
「お待たせしてすみません。よろしくお願いします。」
「おはよう!!今日も起きれたみたいで良かった!」
とても快活に返された返事になんだか先ほどまでの憂いも吹き飛んでしまった。
この人朝から元気が良いタイプなんだな……。
「じゃあまずは神力の使い方ね。」
「はい。」
「まずは自分……のことを神様だと認識すると良いのかな?あとは中心の熱を隅まで行き渡らせるような感じでやればいいんじゃない?」
「……やってみます。」
随分ざっくりとした説明だけど本当に出来るのか?
まず体の中心の熱を認識する。
はっきりと感じるほどの強いエネルギーが湧いている。
それを体の隅に流し込む……。
出来たと言おうとして森羅さんの方へ目線を向けた。
「あれ……?」
──これより神性創造を──
──アウトクラトル家より神が誕生し──
「あ……、れ……?」
──お願いします。俺を──
──俺が……てもどうか──
流れてくる古い映像のような何かに思考が押し潰されそうになる。
目の前にいる森羅さんの幼い頃を映したような……実験施設のようなその映像が途切れ途切れに見える、聞こえる?
あれ?私は森羅さんを何処かで見たことがある?
見覚えがあるような気がした。
「う、ぐ。」
情報量に耐えられず吐き気が迫り上がってくる。
「さくちゃん!!」
キョウに支えられ意識が今に戻るのを感じた。
どうやら心配で見ていたらしい。
「あ、瞳に神力を流し込むと君の場合多くのものが見えすぎるから流し込みすぎない方がいいよ。」
「いうのが遅い!!講師としてヤバいだろ!」
「そっか、ごめんね。さくら。」
「いえ……今のは?実験って?」
はぐらかすようににこりと笑われる。聞いてはいけないことだということか。
「さくらは過去が見えるのかな?でも人と目を合わせただけで映像が流れ込むと負担が凄そうだからひとまずオフにしようね。」
「さくちゃん、秋の一族の力を使えるんだ……そうか当主野郎は秋の一族の血だもんね。」
あまりにも負担が大きかったようでひとまず休憩することになってしまった。
……まだなにも出来ていないというのに、ダウンするなんて。
「じゃあさくらの休憩中についでに君に講師します。」
「え、おれも参加するんですか?」
「君は神ではないけど力の使い方を分かってないみたいだからサービスで。」
キョウは夏の一族の血が強いのにうまく力を扱えないことにコンプレックスを抱いている。
だけど力の使い方とはなんだろうか、まさかこの間言っていた玉虫色の何とかって奴の……?
「折角人じゃなくてこっちよりなんだから。さくらに仕えるんだし触手ぐらいはうまく出来るようにならないと。」
「おれが人じゃないって話と関係あるんですね。どう、使えば良いんですか?」
「うーん。こう、体をぐっと伸ばす感じで!こう!なんかめっちゃ伸ばそー!みたいな。」
「あんたよくそれで教祖できてますね。諸々雑すぎる。」
そう言いながらうんうん唸り手をバタバタふるも何も起こらないことにガックリしてこちらにとぼとぼ歩いてくるキョウ。
「ねえ。この間鳥になってたでしょう?あんな感じで手の形を伸ばすとかどうかな。」
「……やってみる。」
左手を右手で抑え目をこらし力を流し込み始めた。
やがて褐色の腕は銀と玉虫色に染め上がり柔らかい何かになった。
これが触手というやつなんだろうか?
「変わった……!けどちょっとあれかも。キモいかも。」
「そんなことないよ。イカとかタコだと思えばいけるよ。」
「フォローになってないよさくちゃん……。」
「おお。おめでとう。じゃあ次の段階。そのまま誰もいない方向にそれを伸ばしてみて。」
言われた通りに伸ばされたそれは生えていた木にぶつかり木を数本薙ぎ倒し、広場の石畳に罅を入れた。
……まるで鋭い刃のようだ。
「うまいうまい。この様子なら数人ぶち抜くぐらいできそうだね。」
「ぶち抜くって……いや、あの、弁償……。」
「ああ、気にしなくていいよ。治しとくから。」
「すみません……。」
本当に強い力だ。
キョウはこの力を知らないまま生きてきたのか。
みやこさんはキョウの力を知っているのだろうか。
……いつかちゃんと教えたいな。
「それを上手く威力まで使いこなせるようになろうか。……俺に伸ばしてみて。」
「さっき木が数本お亡くなりになったのにあんたにやって平気なんですか……!?」
「早く早く。」
キョウの伸ばした玉虫色の触手は鋭い速さで森羅さんを貫く……かと思われたが白い何かがそれを弾き飛ばし溶かした。
キョウの触手は半分から先が焼け焦げたようになってしまっていた。
「うん。このくらいか。もっと強くなってもいいかもね。」
「キョウ、腕……。」
「あ、元に戻せるっぽいから大丈夫。ちょっと痛いだけ。」
「そっか、よかった。……白い力は貴方のですか?」
「そうだね。見えてたんだ。まあ、君には見えるよね、唯一って本当に凄いなあ。あ、従者くんの触手は腕じゃない所から伸ばせるようになろうね。腕も使える方が効率良いし。」
そろそろ体調もましになってきたのでキョウを座らせ戻る。
神力を全身に流し込み凝縮させる。
剣を取り出ししっかりと目の前にいる人を見据えた。
「こちらの方でお相手いただけますか。……まずはこれを使いこなせるように戻りたい、です。」
「いいよー。じゃあ何処からでもおいで。」
石畳を強く蹴りだし突進する。
今までよりも体の動きが軽くなっているのを感じる。
それでも相手の伸ばす何かは一瞬しか見えない。
一瞬しか見えないそれが視界に移るたび剣で弾く。
後ろから迫るものを避け相手への距離があと一歩という所で腕と足に絡み付くものに阻まれた。
……強い。
今まで手合わせをしたどの人間よりも圧倒的な実力差があると実感する。
「はい。さくらの負け。」
「……ぐ。……これなんですか。」
「俺の触手。ついこの間まで寝たきりだったとは思えない体の動きだね。触手も何本か弾かれたし。」
解放され視界に映る森羅さんの触手は純白色……私の剣と同じ色をしていた。
「でも……手加減されてました。最後のは全く動きを追えていなかった……。」
「今日初めて本格的に力を使う相手に本気だしたらまずいのはさすがに俺でもわかるよ。……というかボコボコにされたかったってこと?」
「……いや。なんというかその、手加減された上に負けたのがちょっと。」
取り敢えず先ほどの触手から捕まらないようになろう。
その段階を合格したい。
「取り敢えず昔みたいに素振りからした方が良いかな……。」
白い剣をみつめひとりごちた。




