皇森羅(ノエルアウトクラトル)という男について(日輪帝視点)
「ねえ……思うんだけどあの皇森羅って男いつもあんたにあんな態度なの?いくらアウトクラトルの嫡男とはいえラフすぎないかしら。」
隣を任せていた古くからの友佐々木紫雲の言葉に思わず笑ってしまった。
ちなみにそんなことをいう紫雲の口調が親しげなのは私がそう頼んだからだ。
「ちょっと。それに面布を外したのもどうしてよ。あんたそのままでも見えるじゃない。」
「そうだね。ノエルくんに対しては私の方がある程度気を遣う立場だからねえ。」
「……確かに神力を感じたから神なのは分かったけど。あんたは二千年越えて続くこの陽月國の太陽神の血を引く太陽の象徴よ?新参の神に気を遣うほどなの?」
眼をもとに戻し外していた面布を付け直しながら皇森羅という男についての推測を口にした。
「皇森羅……いや、ノエル・アウトクラトルか。あれはアウトクラトル公爵家の嫡男というだけじゃないよ。」
「アウトクラトル公国に出来た白皇教の教祖兼祭神でもあるのでしょう?それも分かっているわ。」
「……紫雲はアウトクラトルという国がなんとよばれているか知っているだろう?」
「ええ、神の息途絶えた不作の大陸。我が國が神に祝われし國と謳われているのとは対称的よね。」
「そんな土地にどうしていきなり神が降り立ったのだろうね。人の祈りから生まれたにしてはあまりに力が大きすぎる。」
アウトクラトル公爵家
我が陽月國の北に位置する大陸全土を治めるアウトクラトル公国の第一位公爵家であり国の始祖。
白皇教は三年程前から新しく出来た新興宗教でありながらアウトクラトルの国教として認定されている。
その勢いもあって半年程前から我が国にも分教会設立を認めた。
だがそれだけではない。
あれは人間ではない、新しい信仰により生まれた神でもない。
祈りの定着しない土地に突如として現れた強大な神。
それなのに神性をもたなければその事実を見えないようにさえされている。
人より多くのものを見通す眼窩にはまる太陽の瞳が捉えてしまった事実。
それは。
「まさか……。」
「そう、あれは原初の神だよ。人の信仰がなくても存在できる太古の神。そして私の予想が正しければ……この星を造る程の神だと思う。」
「原初の神……。そんな大きな神がどうして人として活動してるのよ。それに公国はどうしてそんな神を呼び出せたというの……!?」
「分からない。だが彼の目的は今日少し分かった、神月朔来はあの神の伴侶たる神なのだろうね。まるで陰陽のように対をなしていた。」
すっかり青ざめた紫雲が思い浮かべたであろう予想を肯定した。
「皇森羅。彼の機嫌を損ねればこの星ひとつ容易く吹き飛ぶだろうね。それでは民が浮かばれない。アウトクラトル公国の考えも未だに掴めていないのもあるけど。」
「だから神月朔来を國で神性管轄をせず神月家当主候補にするつもりなのね?」
「ああ。元々それだけの神を封印するほうが無茶だったのさ。だからといってその罰として神月家を無くせば夜の間結界をはるものが無くなってしまう。なら却ってこの国に縛り付けてしまえば牽制になる……といいのだが。」
年々術師の間では月の神を祖とする『月派』と太陽神を祖とする『帝派』の対立が進んでいる。
その中で月の神の再来と称される神月桜と純白の神力をもつ神月朔来が生まれた。
「まあ、妹の方は『月派』の春の一族と婚約をしているのだから姉の方を私の方に取り込んでおいて損は無いだろう。……ゆくゆくはお互いに協力し合えればいいけれどね。」
三年前に起きた事変以来我が国の結界には綻びが生じ、強い魔や鬼が現れる頻度が増えている。
それによる汚染で作物などにも影響が出ている。
術師同士で争っている場合では無いのだ。
「それに朔来くんを死刑になどしたら陽鞠に大泣きされた挙げ句絶交を言い渡されそうだ。」
「ああ……姫巫女様のお気に入りでもあったわね……。全くもう厄介なこと。」
神月朔来を取り巻く運命は複雑でこの目をもってしても見えぬことが多い。
國の行く末は一体どうなるのか。
「まあ、よろしく頼むよ佐々木紫雲防衛機関総監殿。」
また仕事を増やす気かという嫌そうな顔を隠しもしない友を見て笑いを浮かべた。




