八話
調査隊に出頭しようとして断念したのにいきなり帝ご本人に謁見するなんて、思ってもみなかった。
自室に戻りキョウを招き入れる。
「呼び出してごめんね。色々と、話がしたかったんだ。」
「いいよ。さくちゃんは何が聞きたいの?」
「あの日にあったことと、それからキョウがどうしてたか。」
あの日に何があったのか、私はあまり覚えていない。
覚えているのは多くの血肉と二人がいない景色。
「あの時、さくちゃんはおれたちを守ってくれたんだよ。気付いたらおれは神都の海辺にいたんだ。……多分転移の術とか?だからおれはそれ以降の神月家のことはよく知らない。」
「……そっか。転移って高度な術だよね?詠唱とかしないと無理じゃなかった?」
「うん。だからおれは皇さんが言ってたさくちゃんが神さまだっていうのに納得したんだ。じゃないとあの時起こったことに説明がつかない。」
最初は二人を殺してしまったのだと思った。
生きていると知ったとき私は自分が二人を殺していなかったことにまず安心した。
だけど傷つけた事実に変わりはなく、奇跡的に生きていたのだとそう思っていた。
でも守っていたのだと、傷つけられてすらいないとキョウは言っている。
嘘でも気遣いでもなくそれが真実なのだとわかった。
「そっ、か。私はずっと謝りたかったんだ。二人を傷つけてしまったとそう思った。でも本当に守ったなら今度こそ私は二人を守れてたのかな。」
あの時確かに守らなきゃとそう強く願った。
守れる力が欲しいと。
「守られてたよ。おれはずっとさくちゃんに守られてたって知ってるよ。」
「そうかな。」
「うん。それ以降はさくちゃんがどうなったのか知りたくて神月家に戻ったんだけど……。なんか春の一族が居て、捕まりそうになって。それからずっと姿を変えて逃げてたかな。」
「半年近くその生活だったなら眠れていないでしょう。聞かせてくれてありがとう。」
「さくちゃん。隣で寝ても良い?……なんか生きてるって実感が湧かなくて。」
そう言ったキョウの身体は震えていた。
きっとずっと耐えていた感情が今追いついたのだろう。
震える背中を撫であやすようにその日は隣で眠った。
それでもここに大切な人が生きて存在しているということは自分に安堵を感じさせた。
その日は毎日のように見ていた悪夢を久しぶりに見なかった。
とうとう帝へ謁見する日になった。
どうやら公的な場でなくまず私的に訪ねることになったらしい。
キョウも私も謁見をするための格好に装い白い車に乗せられ向かうこととなった。
相変わらず首元の傷痣に配慮されたデザインになっている。
……治療の際に傷痣を見られたのだろう。
御所の更に奥の部屋へ案内される。
そこには黒い髪を一つに高くくくり顔に面布をつけた男性がいた。
初めて帝の姿を拝見したためとてつもない緊張感があった。
帝の左には紫の髪に所々金が混じった紫眼の男性がついている。
「やっほー。帝さん、来たよ。」
「やあ。よく来たね。ノエルくんも、久しぶり。まずは座ってくれ。」
「ノエルじゃなくて皇森羅の方で呼んでって。いつもいってんのに。」
促されるまま座ったソファは正面に私が来るように案内された。
正面にこの國を治める方がいる。
その事実に肩に力が入り萎縮してしまう、背筋を伸ばはないといけないとは分かっているけれど。
「現世の太陽たるお方に拝謁が叶い幸甚にございます。」
「まあ、そう硬くならずに。今日は半分私的な場だしね。
……君が神月家に隠されて育った神月朔来さんだね?君が神性暴走を起こしたことに間違いはないかな?」
「はい、間違いありません。……私はどのような罰も受ける所存です。」
「君に処罰を下すつもりはないよ。処罰をすべきは神月茨の方だ。」
そういうやいなや面布を外しこちらを見据える帝。
その瞳は黒曜石のごとき麗しさだった。
「やはり、君には神性がある。それも生まれつきだ。」
「あの、私は陛下の尊顔を見てしまっているのですが不敬にあたりませんでしょうか?」
「余が自分でやってるから大丈夫。それで君の父は君が神性を持っていると知りながら國になにも言わず封印の処置を施した……君にさえ合意をとらずに。」
「更には封印を打ち破るほどに成長した君にもう一度封印処置を施すため星外大量汚染事変の際に拉致し君の意識、記憶、身体に干渉した容疑もある。」
「私は……拉致された記憶は……、保護された記憶しか。」
三年前の12月この國で張られている全ての結界が破られ外から大量の汚染生命が流れ込んできた。
暗澹の日や汚染事変とも呼ばれているその日は私が実家である神月家に保護された日でもあった。
「そうか。やはり記憶に……。君はどうかな?青葉キョウ君。」
「あの日に行われたのは保護ではなく拉致でした。」
「君も拉致されたのだろう。何があったのか教えてもらえるかな。何分あの日の出来事は汚染体に邪魔されてうまく見えなかったんだ。」
帝の目は太陽のような鮮やかな橙色をしていた。
帝は太陽の心眼をもち國に起きたことを把握していらっしゃる。と、本に書いてあったはず。
覚悟を決めたようにキョウは一息ついてから顔をあげた。
「お話します。あの日に何があったのかを。」




