七話 二回目の保護
全てが私達を置き去りにしたまま終わってしまった。
「この力、あいつの……。何が、どうなって『ああ、やっぱりここにいた。』」
教会で聞いたあの人の声が聞こえる。
そして景色は砂浜から白く無機質な空間へと変わりキョウとも引き離されていた。
これは、離れている先の空間への転移の術……。
「何も言わずに消えないでよ。危ないし、心配するでしょ。」
「キョウ……は。」
「いるよ?使徒と一緒にね。それよりもさようならってなに?俺、さよならなんてしないからね。」
不機嫌な瞳は鋭い光を帯びて私を見ている。
怖いから逃げたのだと言ってしまいたかった。
その瞳を向けないでと言ってしまいたかった。
キョウのことをどうでも良さそうに言っているのも嫌だった。
「すみません、でした。……さよならはしないのでキョウと会わせてください。」
「……わかった。」
使徒に連れられて戻ってきたキョウ。
どうやら手荒な真似はされていないらしいがどうにも嫌そうな顔をしていた。
「あの人達、なんかおれのことを素晴らしい出来だ!とかなんとか言ってたんだけど……。意味不明だし怖いし……。」
「ん?」
白い男がキョウに詰めより頭から爪先までじとりと見詰め続けるのを止めるように間に入った。
「キョウに何か。」
「なにもしないよ。直接見て分かった。お前、混ざりもんだね。半分が人か。」
キョウの生い立ちはあまり詳しく聞いていない。
キョウ自身も両親のことは詳しくないと言っていたしキョウにとって家族の話題はあまり触れない方がいいものだったから。
「……え、おれ人じゃない?」
「母親かな?あの玉虫色の生き物でしょ。だからこんなに一途に仕えてたのかあ。あー納得した。」
「玉虫色の生き物……?何を言って……。」
「まあ、君たちならいいか。朔ちゃんの近くにいても。」
「さくちゃん、この人何者……?」
「……分からない。」
ひとりで勝手に納得し頷く男。
やはり魂の姿を認識できると思った方がよさそうだ。
「というか、朔ちゃん。さっき無茶したでしょ。あの人数相手にいきなり神力で戦闘とか、ついこの間まで意識不明だったの分かってる?」
「いえ、それは……。キョウが犯人として捕まるくらいならと、思って。」
「だとしても俺をうまく使えば良かったのに。俺が治したとはいえ今まで使ってなかったものをいきなり使えば反動が来るでしょ。」
言われていることはごもっともだ。
あの場で私一人行ったことで逆に状況が悪化してしまった。
この人が来なければ自分達は……。
「というか、あんた誰なんですか。さくちゃんと知り合い?」
「あ、自己紹介するね。俺は皇森羅!君の主の運命だよ!」
「おかしいだろ!なに言ってやがるんだあんた!」
「ちなみにもっと言うと前世からの運命で夫で番だよ!」
「さくちゃん!こいつ頭おかしいよ!」
「何だろう。なんか良く分からなくなってきた……。」
「しっかりして!」
「まあゆっくり現実を受け入れてくれればそれでいいよ。俺は君と添い遂げる気しかないし。」
「こいつストーカーだよ!」
相変わらず意味が良く分からないことしか言わない男。
キョウが警戒するのも無理はないな。
「事実しか言ってないんだけどなあ。まあ、いいかそれについては追々信じてもらえばいいし。とりあえず君たちはお風呂入って。その後ご飯にしよ。」
男のだした指示によって現れた使徒の人たちによって浴場へ案内される。
今までは簡易シャワー室を使わせてもらっていたがとうとう風呂に監視がつくらしい。
そのまま服を脱がされそうになり慌てて止めた。
傷のような痣を見られたくない。
自分の意思が薄いままに生きてきたと自覚しているが、さすがに風呂の面倒を見られるのをスルーは出来ない。
「あの、一人で入れます!」
「皇妃の世話は一任されておりますが……。」
なんとか攻防に押し勝ち自分で体を洗えたのまでは良かったが髪を乾かして適当に拭いて出ようとしたのを見咎められやたら質の良いヘアケアをされてしまった。
そのせいで髪の毛が艶々としている。
同じタイミングで出てきたキョウも髪の艶が少し戻っていたのと顔が死んでいたのでケアを受けたのだろう。
「おれ実家でもこんな丁寧な世話されたことないよ……。」
「私もだよ。髪の毛乾かそうとしたらヘアケアされるし……。」
お互いにとぼとぼ歩きながら案内された先の食卓へついた。
やはり白一色で整えられた空間のテーブルには
男がすでに席についていた。
そしてその正面に案内されそうになり内心抵抗しながら席に着いた。
この男の正面で食事をとるのは少し憂鬱だ。
何せ私の本質を見るためなのかまじまじと顔をみられるから。
運ばれて来たのは牛肉がトマトで煮込まれたものと柔らかく仕上げられたリゾットとサラダ。
一口口に運ぶ。
……おいしい。ほろほろと崩れるように煮込まれているから今までお粥しか食べられなかった体にも優しく作られている。
芳醇なコクのある香りが突き抜けたあとに後味が爽やかな酸味がひろがる。
隣に座ったキョウはかなり吟味するように噛み締めていた。
久方ぶりのまともな食事だ、ゆっくり味わって食べているのは良いことだ。
それにキョウの安否が分からなかった頃は食事の味がしなかったから共に食卓を囲めてうれしい。
「これ隠し味に良いワイン使ってる……。作れるかなあ。」
ワイン……。
──さあ、飲んで──
あの人の声が鮮明に甦る。
ワインを飲んであの人は、私は……。
「大丈夫?」
「うん。なんでもないよ。」
キョウが心配そうにこちらを見ている。
いけない、しっかりしなくては。
直に飲んでいる訳ではないから大丈夫。そういい聞かせて口に運び飲み込んだ。
目の前の男は食事をとりながらこちらをじっと見ている。
目を合わせたら負けのような気がしたので目の前の皿を見つめ続けた。
「そういえば、そっちの子はなんていう名前なんだっけ。」
「おれは、青葉キョウといいます。」
「へえ。じゃあ青葉家の次期当主とされているのは君のお姉さん?顔が似てる。」
「元、です。おれは家から捨てられた身分なので。」
違う。
みやこさんはキョウを捨てたかったわけではない。
みやこさんは苦痛を押し潰してキョウを私に預けたんだと言おうとして、やめた。
みやこさんに言わないでくれと止められていたから。
お互いの事情を知っているのに何もいえないのが歯がゆくて仕方ない。
「そうなんだ。まあ、なら逆に好都合かな。朔ちゃんの従者として自由に動けるし。」
「おれのやるべきことがあるんでしょうか。」
「うん?いや、違うよ。朔ちゃんには神月家の次期当主候補として公にでてもらおうと思って。君はその従者として働いてもらおうかな。」
「待ってください。神月家の当主は素質ある霊力をもつものしかなれません。……私にはその素質が無いです。」
神月家の霊力は白き霊力とされている。
よって他家の血が濃ければそちらの霊力に強く影響されやすい。
そしてそれは髪や瞳に現れる。
だから神月家を継げるものは金髪など色素の薄いものしか継げない。
他家出身の父が当主を名乗れたのは先代である祖父の遺言によるものだった。
しかも現在次期当主とされている桜は白銀の髪。
神月家の始祖として語られる月の神と同じ色彩をもち生まれたあの子があの家を継ぐことに異を唱えるものはいない。
「まあ君には霊力がない。それは事実、でも神力をもっている。それに君の神力は純白の色をしているからね。十分素質ありってことで。そのことで明後日に帝に会うことになったから。」
「帝!?え、いきなりそんな謁見なんて……。」
「まあ、準備はこっちがするから。よろしく。」
余りに急な話に頭がついていかなかった。
緊張でその後の食事は味がしなかった。




