六話 再会
キョウは何処かに移動してしまったのだろう。
走り疲れた体から力が抜けその場に座り込んでしまった。
波打つ音と潮の匂いが虚しさを駆り立てる。
先ほどまで期待していた熱が冷め今が冬であるのを思い出した。
海辺ということもあり酷く寒い。
これからどうしよう。
大人しく紅鏡防衛機関に出頭すればいいのだろうか。
神紱師が所属する機関だから神性暴走事故について調査してくれているだろう。
そうしたらキョウも被害者として保護されるだろうしその後学園に通うことも出来るだろう。
キョウと姉のミヤコさんが和解したのを見届けたら死ぬことにしよう。
ふと頭が重くなった気がして顔をあげると一羽の鳥が目の前に飛び立ち指に止まった。
小鳥は灰緑青の羽につぶらなネオングリーンの瞳をしていた。
その色合いはキョウを思わせる色で思わず腕を降ってしまった。
その小鳥は空中に投げられた後少しずつ姿を変え人の形へと変わった。
明るい灰緑青の髪にネオングリーンの瞳。
探していた青葉キョウ、その人だった。
「……キョウ?本当にキョウ?」
「朔ちゃん、やっぱり朔ちゃんなんだね!」
迷わずに抱き締めた。
あの日失ってしまったと思った存在が確かな温かさをもってここにいる。
泣かないと決めていたのに視界が滲んで震えた声が喉から漏れた。
「ごめんなさい。あの日あなたを傷つけた。恐ろしい目に合わせてしまった。そして、今も。」
「さくちゃん……。」
艶やかな明るい灰緑青の髪は輝きを失くし滑らかな褐色の肌は青ざめていた。
痩せぎすの体は事故が起きた夏の日から今日までろくな食事をとれていなかった証だった。
自分の起こした事のせいでしなくてもいい苦労と苦痛を強いてしまったことに違いなかった。
それでもこうして生きてくれている。
「さくちゃん、おれがんばったよ。ずっとさくちゃんが生きてるって信じて、探していたんだ。」
「本当に……ごめんね。」
いつまでそうして互いの無事を喜びあっていただろうか。
気がつくと少し先の方から大勢の足音が聞こえる。
恐らく先ほど使徒の方の話で聞いた調査隊だろう。
この子を守らなければならない。
「神月朔来だな。お前を神月家における殺人の罪で逮捕する。」
白い軍服は帝の直轄の浄化師が纏うもの。
調査隊にほかならなかった。
殺人。
本当にとても大きな罪を犯してしまった。
「そこのお前も、共犯の疑いがある。大人しくついてこい。」
「待ってください。この子は何もしていません。巻き込まれただけの被害者です!」
そんなこと知らぬと云わんばかりに取り囲む調査隊。
帝の直轄の調査隊だというのにあの日が神性暴走によって起きたものと把握していない?
神性暴走は起こしたものは保護され、その後國の管轄となる。
だけど神月家が崩壊した以上、通常の処分は行われないだろうと予想はしていた。
だけど神性暴走に共犯の疑いをかけるなんて聞いたことがない。
「朔ちゃん下がって。この人達なんか……おかしいよ、雰囲気が気持ち悪い。」
人よりも多くのものを感じとるキョウが警戒を強め見据えるのを制す。
「キョウこそ下がりなさい。あなたの言うことが本当ならこれ以上危険な目に会わせるわけにはいかない。」
キョウにしか聞こえないくらいの声量で呟く。
神性暴走を私が起こしたのなら神力が扱えるはず。
それでこの場をどうにかしなくてはならない。
「抵抗するのなら実力行使させてもらう。」
強引に伸ばされたその手を強く拒絶したと同時に白い障壁が展開される。
成功した。
数歩下がり距離をとる、キョウを庇いながら。
そのまま逃げきれるか?
障壁を自動的に周囲に展開しようと試みて……体に走る激痛からよろめいた。
「さくちゃん!」
障壁も溶け消え武具を片手に襲いかかるそれらからキョウを抱き締め庇ったところで鮮やかな翡翠の焔が視界を彩った。
……これは夏の一族が扱う浄焰の力。
焼けた軍帽からは濃いダークローズの髪。
それは春の一族の血を引くことの証だった。
帝の調査隊は実力あるものが選ばれる。
春の一族のみに調査を任せるなどあり得ないことだ。
焔は消えず春の者らを焼き続けとうとう燃やし尽くしてしまった。
そのときに確かに人形の紙がヒラリと落ちその後自ら燃えたのを見た。
辺りには私達しか残っていなかった。




