教祖の焦り(皇森羅視点)
今日も教祖としての仕事をこなしたあと休憩がてら彼女のいる部屋へ向かう。
彼女を半壊状態の神月家から連れ出したのは八月のことだった。
保護して治癒を施しても目が覚めることはなく、死へと向かうよう自分自身に呪いをかけていた彼女の術を解呪する日々。
青ざめた肌に閉じられたままの瞳。
半年近く明日には死んでしまうのではないかと人間のように死に怯えて過ごしていたから。
目覚めたときは安堵と歓喜に沸いた。
もう安心だとここには君を傷つけるものはないと、そう示したつもりだった。
なのにずっと張り付けた笑みのまま動くことはなくて。
あとは恐怖と動揺の顔などの顔しか見られなかった。
敬語はなしと言っても固い口調のまま変わることがなく。
なぜそんなに怯えているのか分からなかった。
人間の感情の勉強はしたけど役に立った気がしない。
それにあの笑みはどうにも嫌だった。
誰かに求められているから笑うような感じ。
まるでまえによく見た顔のようで。
俺は二度とあの顔をさせないために綺麗な宇宙を創ったはずだった。
幸せに生まれて幸せに生きていられる世界を。
なのに現実はどうだ。
一つも幸せに見えず擦りきれている彼女。
死を望むほどに追い詰められていた現状。
その顔をさせた誰かがいるのだろうと怒りを見せてしまったのがよくなかったのかもしれない。
ああ、どうにもうまく行かない。
普段教祖として人間の苦悩とか学ぶいい機会と思って真面目に仕事してるんだけどなあ。
彼女の部屋に向かうにつれなにやら騒がしくなっているのに気付いた。
「主!皇妃様はどちらに!?」
「え?部屋にいるんじゃないの?」
「それが、ノックに反応なさらないんです。無理矢理入るわけにもいきませんので……。」
その言葉を聞き部屋のノブを捻る。
目覚めた後の彼女の部屋には彼女の許可がないと入れないようにしていた。
だけど緊急時だから仕方ない。
部屋の扉を壊す。
……いない。
机の上にメモがあった。
「ありがとうございました、さようなら……?」
別れの言葉が簡素に書かれたメモを握る手に力が入る。
「この中に情報を漏らした者は?」
「分かりません!……ただ情報共有は先程行っておりました。」
「もしかしたら我々の会話を聞かれていたのかもしれません。……申し訳ありません!気が付かず……。」
「あの子はお前達より格が上だからね。気付かないのも無理はない。……ああ、くそ!」
しくじった。
彼女は俺と同格の神なのだから、少し考えればこの使徒に気付かれずに動くくらいは出来ると分かるだろう。
そこまで頭を回さず油断していた自分に腹が立つ。
「先程の情報をお聞きしていらしたのでしたら、皇都湾岸付近へ向かわれたかと。」
従者を迎えに行ったのだろう。
であればそこを二人まとめて保護してしまえばいい。
「従者の男は重要参考人として追われているようです。そのことも漏れているかと……。」
重要参考人として追われていると分かっていて向かったのなら話が変わる。
あの神月家でおきた事故の調査だ。この國の帝が動く事態なのは彼女も分かっているだろう。
だと、するなら。
「代わりに罰せられにいくつもりか……!」
急がなくてはならない。
恐らくわざと暴走を起こしたとでも言って従者の代わりに連れていかれるつもりだろう。
そして最終的には罰として死を言い渡されても頷きそうだ。
最悪の場合あいつに捕まるかもしれない。
そうなっては困る。なんせ何億年と待ち続けようやく出会ったのだ。
「お前達もついてこい。湾岸へ向かう。」
頼むから無事でいてくれ。




