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テオロッド戦記 —異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第四章

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エピソード・オブ・アウトランド 第一話

最近、世界は安定しているように思える。

各国と連携し、式術による犯罪を取り締まる国際法を制定したことも大きいだろう。

テオロッド国内で運用されていたものを参考に改定したものだ。


冒険をしている間は知らなかったが、テオロッドの法律はよくできている。

対人における式術の使用は即実刑。

正当防衛の場合も、綿密な調査をされる。

事実上、生活の利便性向上以外に式術の利用は制限されている。


三百年間、黒の式の発動を抑え込めたのは、この法律に則った国家づくりを推進したことが大きいだろう。


今のところ、黒の式者──本来の循環機能が動き出す様子はない。

発動条件の解明はタツオが取り組んでくれている。

タツオ曰く、かなり高度な数式で構築されているようだ。

解明に向けてはやはりPCレベルの演算機能は必要になってくるようで、

むしろ式術の解明に向けて科学の発展が必要と言う皮肉な状況になっている。


式術と科学の融合した平和な世界。

発展と制御の両立。


なりゆきで新国家──アルカディアの首相を務めているが、

完全に能力が追い付いていない。


ノクスに言われた言葉がのしかかる。


「そこまで言うなら、お前がやってみるがいい」


……あれからもう八年くらいが経つが、そんなに簡単じゃないことを思い知る。


式術の方は、脅威となりうる人材の把握はできている。

ミサキが、子育ての合間を縫って〝大いなる意志〟とアクセスし、調べてくれているからだ。


現状、危険因子とされる零式は、

タツオ。ミサキ。シャイン。リーヴァ。ユラ。

そして、もはや森と融合しある意味人間を超越したイエナ。

──観測者アルマもある意味零式以上だが。


いずれにしても、全員身内だ。


リーヴァの意識が元に戻るようなことがない限り──危険はないだろう。


この、ロッド大陸内においては。


あえてそう言ったのは、かねてから気になっている別の大陸の状況だ。

──文明は過去に滅びたと聞いてはいるが……本当にそうなんだろうか?


元の世界の記憶をたどれば、到底信じがたい。

それを指し示す存在が──エルデネだ。


唐突にオルディアからこちら側についたエルデネは──

〝大陸から流れ着いた孤児〟

と言っていた。


つまり、外の大陸に少なくとも人間が存在している可能性が高い。


しかし、ミサキが〝大いなる意志〟の情報を調べても、その痕跡はない。

──落ち着いたら、直接大陸に行かなければならないだろうな。


現状、それどころではないのだが。


アラタは、もうすぐ四歳になる。

最近産まれた二人目──ミライと名付けた男の子に母親を取られると思っているのか、若干反抗的だ。


随分早い反抗期だな。

最近仕事ばかりで全然家族のことができていないし──

大陸の前に、家族旅行にでも行こう。


行き先は、マルカドールか、スクエアか。

カイ、テリーズ夫妻のいるセブンスロッドでもいいかもな。


科学長官タツオの躍進で、ここ数年蒸気機関車は世界中に張り巡らされている。

現在は電気の実用化に取り組んでいるが、それもそんなに時間はかからないだろう。


タツオ家族も誘ってみてもいいかもしれない。

というか、そういうきっかけがなければタツオは仕事ばかりしていそうだ。

まずはミサキあたりに声かけてみるか──


議長室で考え事をしていると、扉がノックされた。


「どうぞ」

俺が言うと、扉が開いた。


そこに立っていたのは、灰色の髪の男──アルカディア騎兵団長だった。


世界は安定しているとはいえ、オルディアが放った魔獣たちの残滓は残っている。

世界最強と言われた騎兵団は、治安維持のためにも残しておいた。


「カタギリ議長。ご多忙の折、申し訳ございません。

相談がございまして」


騎兵団長は、仰々しく頭を下げる。


俺は、ため息をついた。


「そういうの。やめてくれ。いつも通りでいいよ」

俺が言うと、団長は頭を上げて笑った。


「相変わらず、嫌いなんだね、こういうの。

分かったよ。ユイト」


アルカディア騎兵団長──グライスはそう言った。



セブンスロッドの一件で──グライスは投獄されていた。

その後の処遇については、新たな議会と、ナギに任されたが、

死刑とはならなかった。

ククノチの森に近い離島に流刑され、懲役をこなしながら現地開発に携わっていた。

グライスは、いわゆる模範囚として絶大な信頼を獲得した。

刑期を大幅に短縮し、出所したグライスは──祖国に帰ってきた。


この国アルカディア。

オルディアとなる前の名前はアークネイヴァー。

そして、礎となった国は、ネイヴァルド。


世が世なら──グライスは王族としてこの国を統治していた人間だ。



一年前の突然のグライスの来訪には驚いたが──

目を見るだけで、彼がどんな時間を過ごしてきたかは分かった。


俺たちは、多くを語らず抱き合った。


グライスは、騎兵団に入りたいと言った。

自分が役に立てるのは、恐らくそれくらいだろう、と。


──彼が、父親から入団を拒否された騎兵団に、

形を変えて入ることになったのは、何かの因果かもしれない。


当時の騎兵団は、グラディオの死、オルディアの崩壊と立て続けの政変で、

統率が取れているとは言い難い状況だった。


その騎兵団をまとめ上げ、一年で騎兵団長まで登りつめたのは、

グライスの力に他ならない。



「で、相談って何だ?新たな魔獣被害か?」

俺は、応接用のソファに座ったグライスに聞いた。


「最近は、人間に直接危害を加えるような被害は減ってきているよ。

生来の魔獣は山間で暮らしているし、人工魔獣の子孫も駆除が進んでいる」


「……魔獣じゃないとすると、人ってことか?」


「そう。西部を中心に、盗賊団による犯罪の被害が進んでいると聞いた」


盗賊団。


なんとも物騒な響きだが、懐かしくもある。

俺は、ブレイヴェンを思い出した。

ラグナ。そして、彼が作ったレムナント。


彼らは革命を目指した組織を自称していたが──やっていることは盗賊団だった。

物事は、見る立場によって名前を変える。


「また西部か……」

俺は、頭を抱えた。


「西部──旧フォージリア領土は、まだまだ整備が進んでいないからね」


旧フォージリア。

オルディア崩壊に伴い、俺たちはオルディアとフォージリアの領土を合わせ、アルカディアとして再編した。

この建国には、テオロッドのレオニスやトランジアのハルカゼなど、隣国首脳も絡んでいる。


だが、領土が広すぎる。

本来、三分割もしてもいいくらいの領土を、まだ十八歳の俺に任せようと決めたレオニスやハルカゼもどうかと思うが──責任を取れと言われてしまっては仕方ない。


西部については定期的に騎兵団を派遣し治安維持を行っていたが、

やはり独特の文化形成がなされている。

主に、中央──旧オルディアで何かしらの問題があった人間が流れ住むような土地になってしまっている。


「どうやら、トランジアの犯罪者たちも合流しているようだ。

──噂では、独立国家の樹立を目指しているとも聞いた」


……また、どこかで聞いたような話だ。

そこまで話が大きくなっていれば──規模も相当なものだろう。


「……構成員はどれくらいいるんだ?」


「数千人から、一万人とも言われている」


……もう国じゃねえか。


俺は、更に深いため息をついた。


「それだけの規模なのに、今まで問題になっていなかったのが不思議だよ」

俺は呟いた。


「彼らは、殺傷などを好まない。純粋な〝盗み〟や、詐欺行為が中心だ。

僕たち騎兵団が対応する事件は、魔獣被害や規模の大きい紛争問題だからね。

情報が入るのが遅れた」

グライスは、申し訳なさそうな顔をした。


「今回発覚した理由は?」


「近く独立国家を宣言するという情報が入った。国内に別の国ができれば──それは紛争の火種となりうる。早いうちに状況を把握しなければ」


「……俺も行った方がよさそうだな」


「話が早くて助かるよ、ユイト。出発は早ければ早い方がいいんだけど、

明日でいいかい?──トランジアからも、ドモン議長がやってくるそうだ」


──ハルカゼか。

それは少しだけ楽しみだ。

最近会っていないが──もう四十を超えているはずだ。

お祭り男も少しは落ち着いたんだろうか。


タツオも連れて行くか。

どうせ研究所にこもってばかりだ。


しかし、家族旅行のことを考えていたのに、急な出張が入るとは……

異世界でも、社会人は忙しい。



「それまた随分急な話ね。──まあ、仕方ないけど」


イエナは、なんやかんや寛容な奥さんだ。

乳飲み子のミライと赤ちゃん返り中のアラタを相手にしながら、

快く送り出してくれる。


どちらかと言えば……問題はこっちの家庭だろうな。


「なんでタツオを連れて行く必要があるべ。ユイトだけ行けばいいべ」


たまたま家に遊びに来ていたミサキは、膝で眠っているキセキの頭を撫でている。


──あの時の赤ん坊は、もう二歳になった。

最近は話もするようになったらしいが、まだまだ赤ちゃんだ。


寝顔は、タツオにそっくりだ。


「まあまあ……ハルカゼも来るらしいし、せっかくだしということで」


「だったら私もアゲハに会いにトランジアに行きたいべ!

まったく、男はいつだって自分の都合ばかりだべ」


ミサキはぷんぷんしている。

そして──おおむね正論なので分が悪い。


「お土産買ってくるんで、勘弁してくれ!ほんの二、三日で済ませるから」

俺は両手を合わせ、ミサキに頭を下げた。

恐らく世界一情けない国家元首である。


「……美味いものたくさん買ってくるべ。それで手を打つ」

ミサキはしぶしぶ納得したようだ。


っていうか、なんで俺がよその家庭のために頭を下げなければいけないんだ。


……タツオじゃ無理だろうと分かっているから仕方ないが。


なんとか了承を得たところで、俺は身支度に入った。

目的地までは、馬車ではなく蒸気機関車の旅。

大分楽にはなったが、着替えくらいは持っていかないとな。


「ところで、イエナ。サイレスのところはいつ生まれるんだべ?」


「来月だって。この年になって新しくいとこができるなんて思わなかったわよ」


「サイレスも堅物のくせにやることやってたんだべなあ」


女性陣は別の話題で盛り上がっている。

──子どもの前でするような話じゃないだろ、と思ってアラタをみると、

目が合った。


「パパ、どっかいくの?」

つぶらな瞳で俺に聞いてくる。


「うん、ちょっと、お仕事でね」

そういってそそくさと準備に戻る


アラタが俺を恨めしそうに見たような気がしたが……気づかないふりをした。

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