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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第四章

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エピローグ・オブ・テオロッド

「そろそろ起きて、準備して。挨拶あるんでしょ?」


薄らと目を開ける。

開けられたカーテンから昼の強い日差しが差し込む。

目の前に立っているのは、イエナ。


——俺の奥さんだ。

その足元に、最近やっと歩き始めた小さい体が見える。


——アラタ。俺の息子だ。


幸せな風景を見ながら、俺はゆっくり起き上がった。

今日は——友の晴れ舞台だ。



会場は、テオロッド王宮の中にある来賓用のパーティー会場。王家の祝事で使われる場所だ。

今回、王様からの特別な許可で使えることになった。

王様、といっても即位したばかりのアレクシオ=テオロッドのことだが。


会場に着くと、既に参列者は揃っていた。

俺たちは、一番前のいわゆる主賓席だ。

見慣れた顔ぶれが、並んでいる。

一人一人に挨拶をする。


「おお!アラタ!大きくなったな!」

カイが、アラタを持ち上げる。

生まれた時に会って以来だから、そりゃそうだ。

知らないおじさんに抱かれ、アラタは泣きそうになる。

それを見ている女の子。

メイと名付けられた——カイの娘だ。

「メイ。後でアラタと遊んでやれ」

テリーズがそういうと、メイは、うん!と嬉しそうに言った。


——まさか、テリーズとカイが結婚するとは。

想像もしていなかった。

あの戦いの後、テリーズは騎兵団長を辞すると、そのままカイについてセブンスロッド——無の領へ向かった。

剣士同士で、何か分かり合えるものがあったのだろうか。

無の領に行く時にテリーズに言われた言葉は、まだ覚えている。

「イエナを守る役割は、お前に引き継ぐ。これからは私の人生を生きるよ」

ポニーテールを解き放つと、長い髪が風になびいた。

戦士が、一人の女性に戻る。

そんな瞬間を見ているようだった。


その横には——アルマだ。

見たことのない、ワンピースを着ている。

「アルマ。随分よそゆきの格好じゃないか。

——シャインは?」


「王位継承でもめてるから、落ち着いたら行くって言ってた」


アルマは——シャインの求婚を断っていた。

理由はシンプルで、スクエアで観測者として生きなければいけない、とのことだった。

するとシャインは、王位を捨ててスクエアに行く、と言った。

だが、ことはそう簡単には進まず——五年経った今でも王位は引き継げていない。

視察と言う名目で、定期的にスクエアには行っているようだ。

しかし王位を捨ててまでとは——あの男、意外と執念深い。


レインたちも揃っていた。

ノエル、フィル。

いつもの三人は、王となったアレクシオの側近として、テオロッド王宮に勤めている。


「やぁ。ユイト=カタギリ。テオロッドは久しぶりじゃないか?」


そう。俺たちは今——アークネイヴァー、オルディアと呼ばれた国に住んでいる。

現在の国名は——アルカディア。

過去の響き尊重し、理念を大切にする民主主義国家として、再出発をした。

王はいない。科学と式術の融合、そして世界の調和を目指し——少しずつ前に進んでいる。


主賓席には、レオニス前王、そしてサイレスの兄弟も並んでいた。横には、ガルフもいる。

「おおっ!アラタ!元気かっ!おじいちゃんだぞー」

ガルフは強面の表情を一気に崩し、満面の笑みでアラタに頬擦りをする。髭が当たって痛そうだ。


「王としてではなく出席する結婚式というのは、気楽でいいものだな」

レオニスは言った。


「レオニスさん。俺たちの式では、挨拶ありがとうございました。サイレスさんは……結婚しないんですか?」

短命の呪いを克服したサイレスも、四十近くになっているはずだ。

俺が言うと、サイレスは眼鏡を持ち上げた。

「その件について、相談がある。あとで時間をくれ」


え?なんかあるのか。

……式が終わったら研究所に顔を出すか。


話をしていると、司会の声が響いた。


「それでは皆様、お待たせしました!

新郎新婦の、入場です!」


宮廷音楽隊が、派手な音楽を鳴らす。

奥のカーテンから、今日の主役が登場する。


ミサキ——そして、タツオだ。


一同、大きな拍手で出迎える。

ミサキは、満面の笑みで手を振る。

タツオは、相変わらずつまらなそうな顔のまま、ミサキに腕を組まれている。


二人は、ゆっくりと歩くと高砂に座った。


司会が言葉を続ける。

「まずはご列席の皆様を代表して、この方に祝辞をお願いしたいと思います。

アレクシオ=テオロッド、国王陛下!」


再び会場が拍手に包まれる。

まだあどけない十六歳の新国王が、少し緊張した様子で前に出る。

——即位式より緊張してんじゃないか、あいつ。


「えー……タツオ。そしてミサキ。今日は、本当におめでとう。色々考えてたんだけど……全部飛んじゃったよ。

なので、二人への感謝を伝えます。


まずはミサキ。

一緒に旅をしたのは一度だけど、いつも明るいミサキは、俺のお姉ちゃんみたいだった。みんなと旅をしたあの思い出は……一生忘れることはないと思う。

そして、タツオ。

俺が震えて何もできなかった時、命をかけて守ってくれたこと。本当にありがとう。

嫌なことばかり言うやつだって思ってたけど、本当の格好良さは……タツオから教わった気がする。

二人は今日、家族になるけど……俺たちもずっと、家族だってことを、忘れないでくれ。

今日ここにいる皆の幸せをつくるために、

俺は一生懸命働くよ。

本当に、おめでとう」


拙い、等身大の挨拶。

だけど——だからこそ響くものがある。

ふと、レオニスを見ると、人目もはばからず号泣していた。

「セレフィア……アレクシオは立派に育ったぞっ……」

前王とて、一人の父親である。

俺はその姿を見て少し目が潤んだ。

いかんいかん。次は俺の出番だ。


「アレクシオ陛下、ありがとうございました!

続いて、乾杯のご挨拶を、アルカディア議長、ユイト=カタギリ様、お願い致します!」


俺は司会の合図で立ち上がる。

イエナと目が合う。

——変わらない、優しい微笑み。

少しだけ、緊張がほぐれる。


「タツオ、ミサキ。おめでとう。

まさかあれから五年もかかるなんて思わなかったけど、無事ミサキの執念が叶ったんだな」

俺がそういうと、会場から笑いが上がる。


戦いの後、すぐにでも結婚すると思いきや、タツオはのらひくらり交わしていた。

その態度に何度もミサキから怒りの愚痴は聞いてたが……。

ミサキの辞書に〝諦め〟はない。

勝手に会場を押さえ、タツオをオウシュウに連行し両親に合わせるなど、既定路線を作り上げていた。


「皆さんもすでにご存知の通りですが——俺とタツオはこの世界の人間じゃありません。

ですが、テオロッドはそんな俺たちを受け入れてくれた、素晴らしい国です。

その国で今日二人が新たな門出を迎えることを、友人として、心から嬉しく思います」

笑いがおさまり、会場は静かに聞いている。

俺は、少し深呼吸をして続けた。


「ミサキ。いつも俺たちの旅を盛り上げてくれたのはミサキだった。それに、軍師としての活躍も。ミサキがいなければ、俺たちがこうやって皆で笑い合うこともできなかったかもしれない。

——今日のドレス姿、最高に綺麗だよ。

あとでタツオにいっぱい褒めてもらえよ。


そして、タツオ。

俺をこの世界に連れてきた、迷惑な男。

最初はそう思ってたよ。

でも日々を過ごす中で、いつしか俺にとって本音で話せる本当の友達になっていった気がする。

いまでも、相変わらず訳わかんないところはあるけど……

そんなところも含めて、タツオらしいと思う。

これからも……親友として、一緒にアルカディアを作っていこう。頼むぜ、科学長官。

それじゃ、長くなっちゃったんで、そろそろ。

皆さん、グラスを持って、ご起立ください」


俺の言葉に、会場の参列者が立ち上がる。

皆グラスを上げる。

アラタがそれを真似て、小さい手を挙げた。


俺は、空にグラスを掲げ、目一杯声を上げた。


「乾杯!」


タツオと、目が合った。

さっきまでの仏頂面が解け、笑顔になっていた。


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