シャイン・アンド・アルマ
「さて、どう戦うか」
シャインは、眼前の異形を目の前に構える。
「ノクス様のところに行かせるわけに行かないわね」
そういって動き出したリーヴァの前に、ミサキが立ち塞がる。
「あんたの相手は——私だって言ったべ」
「あら。あなた程度の式で——私に勝てるつもり?」
二人は——睨み合う。
「ノエシスは——効かないようね。
いいわ。ここはカールに任せて——相手をしてあげる。
すぐに終わらせて、ノクス様のところへ向かえばいい。
ついてらっしゃい」
リーヴァはそう言って、ユイトたちが入っていった扉とは別の場所に向かった。
ミサキは、それについていく。
ミサキは、アルマと目が合う。
アルマは、小さく頷く。
ここは任せたという意味と——任せておけという意味に感じた。
ミサキは、セブンスロッドでの試練を乗り越えた。
——負けるはずがない。
アルマは意識をカールに集中させる。
リーヴァがいなくなると、親を見失った子どものように、
カールは叫び始めた。
「フォージリアのカールと言えば……カムイでも知られる誇り高き名軍人だったがな。……話は通じそうにないな」
シャインが呟く。
「もし私たちもオルディアについていたら。
……ああなっていたかもしれない。
オルディアは——止めなければいけない」
アルマは言った。
「それはスクエアの代表としてか?
それとも、お前の意見か?」
「私の意見だ」
「同感だ。俺もカムイとしてではなく、そう思う。
——どうだ?スクエアはいい場所か?」
シャインは言った。
アルマは頷く。
「戦いが終わったら、来ればいい。
ユイトが温泉を作ってくれるらしい」
「——それは最高の報酬だな。
では、始めるか」
カールだった怪物は、四足歩行で一気に距離を縮めてくる。
「グレイシアウォール!」
シャインが叫ぶと、氷の壁が眼前に立ち上がる。
カールはそれにぶつかり、咆哮を上げる。
——理性を失っている。
「なんだその名前。かっこいい」
アルマが呟く。
「そうだろ?ユイト命名だ」
シャインが答えると——
カールはその氷の壁に向かって火を吐いた。
「っ……!それはマズイな」
壁は溶け、間からカールが突っ込んでくる。
刹那——アルマが瞬間移動で近づき、ナイフで斬りつける。
肩口を斬られたカールが叫びを上げる。
「い、た、い……」
傷を抑え、叫んでいる。
——やはり、怪物とはいえ、元は人間だ。
それも、オルディアに賛同したとは言え——オルディアの被害者だ。殺しては、いけない。
シャインは少し躊躇いを感じる。
「油断、するな。私が引きつける。さっさと凍らせろ」
「助かるよ。アルマ——だったな。
少し時間を稼いでくれ」
シャインは、目を閉じる。
式力を集中させて——技を放つ。
「アイスバインド!」
カールの足元に、氷が走る。
カールの四肢が凍りつき、地面に結ばれる。
「アルマ!この後に大技を撃つ!そこから離れろ!」
シャインは、式力を集中させる。
青い髪が、白く変わっていく。
辺りの気温が——下がり始める。
アブソリュート・ゼロ。
全てを凍らせる——シャインの奥義だ。
今まさに放たれようとしたその瞬間、
カールの背中が盛り上がり——羽根が生えた。
そして、叫びを上げると氷の拘束を破り——
空へ舞った。
「予想外だな……」
呟くシャインの元に、空から火が降ってくる。
——カールの口から放たれた火球。
「避けろ、シャイン!」
アルマは、咄嗟にシャインの元へ瞬間移動し、シャインを突き飛ばす。
アルマの背中を、火球がかすめる。
燃え移る炎。
アルマは地面を転がり、それを消す。
——が、上半身の衣服は燃え、肌が顕になる。
「アルマ!大丈夫か!」
シャインは、近寄る。
「痛みはある。だが——止まる理由にならない」
「しかし……服が」
アルマは、上半身裸の状態になる。
背中の火傷はオートヒールの力で回復していく。
「気にしている場合じゃない。早く、凍らせろ」
アルマは隠す素振りもなく、空を舞うカールを見つめる。
「……すまない。俺の油断だ。
責任は、取る。
ただ、ああ逃げ回られては——捕捉が難しい」
「分かった。地上に誘導する。その隙に力を溜めろ」
アルマはそういうと、分身を作り出す。
白と、黒。
カールはそこに向かって炎を吐くが——炎は分身を素通りする。
物理攻撃は効かない。
アルマはズボンを破り胸を隠すように縛ると、
再び素早く動き始める。
背中には——生々しい火傷がまだ残っている。
「あんな女は——カムイにはいないな」
シャインは聞こえないように呟くと、再び式力を集中し始める。
カールが地上に降りる瞬間。
そこを狙わなければいけない。
間違ってアルマを凍らせるわけにはいかない。
呼吸を合わせなければ。
アルマと二体の分身は、巧みに動きを重ねる。
カールは焦りを見せ始め、少しずつ地上に近づいていく。
地上まで一メートルまで降りてきた瞬間。
アルマは跳んだ。
跳躍とともに、ナイフで翼を斬りつける。
カールは悲鳴を上げ、地面に堕ちる。
「シャイン!今だ!」
アルマは叫ぶと、その場を一気に離れ、シャインの横に戻った。
一瞬、二人の目が合う。
「アルマ、最高だ。決めさせてもらう」
シャインが溜めた式力を解放する。
地面に氷が走る。
空気が凍り——音が消える。
アルマは、その温度に、一瞬恐怖を覚える。
「アブソリュート・ゼロ!」
シャインが叫ぶと、絶対零度の式がカールを包み——
カールは氷の像に変わった。
辺りの空気は——まだ白い。
ダイヤモンドダストが降り注いでいる。
「〝不殺〟のシャインじゃなかったのか?」
アルマが言った。
「——普通の人間なら分からんが、恐らく生きているだろう。氷が溶ければ、な。
今のうちに拘束しよう」
シャインが言うと、アルマは腰からロープを取り出し、手際良くカールを縛り上げる。
「……器用なもんだな」
「灰忍衆も、〝殺さず〟が掟。捕縛は慣れている」
答えるアルマは、背中の傷が治りきっていない。
オートヒールの、限界なのだろうか。
「……傷、残ってしまったな」
シャインは、その背中を見つめながら言った。
「問題ない。元々、傷だらけの体。気にするな」
確かに、よく見れば背中以外にも古傷が見える。
——数々の戦いを潜り抜けてきた証なのだろう。
シャインはその背中を見ながら、少し考えた。
「——いや、さっきも言ったが、責任を取らせてくれ。
王としてではなく、一人の男として」
シャインは、覚悟を決めたように言った。
「責任を取る?どうするんだ?」
「男が取る責任と言えば、一つしかないだろう」
アルマは捕縛を終え、顔を上げる。
思い当たることが——ない。
首を傾げる。
「分からんやつだな。つまり——俺と結婚してくれ」
シャインは捕縛を終えたアルマに言った。
「……は?」
敵地オルディアの中心部で、アルマの間の抜けた返事が響いた。




