エピソード・オブ・カイ 友との誓い
「結構な数揃えたねぇ。さて、坊や。
ガンガンぶっ潰すよぉ」
エルデネは先頭を歩きながら、もう火の凝縮をはじめている。
「坊やはやめろ。アレクシオだ」
アレクシオは、答えながら雷を呼び寄せる。
晴天の空に、雷雲が立ち込める。
「フィル、俺たちは防御を固めよう。
ノエルはアレクシオと一緒に雷で攻めてくれ」
レインが指示を出す。
ブルーオーダーのリーダーとして、ここは譲れない。
「さて。カイ、私たちはどうする」
テリーズはカイに聞いた。
「エルデネ、だったか。そのガクというやつはどこにいる?」
カイはエルデネに確認する。
「この戦車軍の中心に軍部があると思うよ。
まぁ——この大群を全滅してからかな」
エルデネは答えた。
「いや、それを待つ必要はない。走破する」
カイは準備体操をする。
「面白い。——私もここにいても暇だ。
付き合おう」
テリーズが笑って言った。
それを見ながらエルデネは笑った。
「テオロッドって、頭おかしい人ばっかりなんだね。
面白い」
「……お前が言うなよ。
おい、エルデネ。あいつら、気づいたぞ。
こっちに砲身が向いてる」
アレクシオが言った。
エルデネは、溜めていた火を放つ。
凝縮された火は火線となり、前列の戦車に向かう。
その超高温の火線は——
戦車を焼き切った。
「さて、全滅作戦行っちゃおう!」
エルデネは軽やかな足取りで走り出す。
それに続くように、皆走り出した。
「トニトルス・ゼロ!」
アレクシオが放つ雷が、後部の戦車を貫く。
ノエルも火力は及ばないが、それに続く。
混乱を始めた戦車隊が砲撃を始める。
レインが青の式、フィルが土の式でそれを防ぐ。
混乱を縫って——カイとテリーズが駆け出す。
数々の戦いを超えてきた二人はまるで駿馬のように、疾い。
戦車を踏み台にしながら戦場を駆け抜ける二人を、砲弾は捉えられない。
カイとテリーズはあっという間に敵陣に到達する。
兵士たちが周りを固める建物が見えた。
——あそこが司令部か。
唐突な敵の登場に、動揺を隠せない兵たち。
隊列を崩したまま、襲いかかる。
——が。
カイとテリーズの相手になるわけがなかった。
二人は、背中合わせになったまま、襲いくる敵を瞬時になぎ倒していく。
「やるな。テリーズ。こっちの剣技も、なかなかだ」
カイが息も切らさず言った。
「よく一撃で仕留められるもんだ。それは独学か?」
テリーズも返す。
「示現流と呼ばれる剣だ。ずーっと昔から、伝承されている。ここまで極めたのは——俺だけだな!」
カイは叫びながら、再び一刀両断を繰り出す。
兵士たちは、次々に倒れていく。
建物を囲む兵士が全滅すると——二人は中は入った。
建物の中には——
一人しかいなかった。
白衣を着た、眼鏡の男。
——どこか疲れた表情で、侵入者を見つめる。
「やぁ。カイ。久しぶりだね」
男は、そう言って右手を挙げた。
「——ガク。やっぱり、お前だったのか」
カイは、呟いた。
そうであって欲しくなかった。
いや——会えることを、期待はしていた。
しかし、十五年ぶりの再会が、敵として出会うことになるなど、想像もしていなかった。
「君は、いつからテオロッド側についたんだい?」
ガクは、再会に喜ぶ様子も、驚く様子も見せない。
「……こっちが聞きたい。無の領を出てから、お前はオルディアにいたのか?」
カイが聞くと、ガクは立ち上がった。
「そうだよ。——僕は、君たちにはなれないと分かったからね。カイ、そして、ナギ。君たちは——僕の憧れだったよ」
「憧れ……?何言ってるんだ?俺たちは——友達だろ。
毎日一緒に遊んでたじゃないか」
カイは、少しだけ子どものような表情に戻る。
「そうだね。僕が勝手に、君たちに憧れていた。
バカだけど、豪快でリーダー気質のカイ。
いつも周りが見えていて、話の上手い、人望に厚いナギ。
僕は——二人についていただけだ」
「俺はバカじゃないぞ!だけど……一番頭が良いのはお前だったじゃないか。俺たちが困ったら、アイデアを出すのはいつもガク、お前だった!」
カイは叫びに近い声で話した。
テリーズは腕を組みながら壁にもたれ、黙ってそれを聞いていた。
——立ち入っていい話ではない。
そう感じていた。
ガクは、それを聞いて笑った。
「カイ、覚えているかい?あの時の——三人の約束。
秘密基地でした、未来の話」
「……もちろん覚えとぉよ。俺は——世界一の剣士になる。ナギは、セブンスロッドを守る男になる。
ガクは——その頭脳で、世界を救う、やろ?」
カイの言葉が——子どもの頃の、方言に戻る。
ガクは、初めて嬉しそうに笑った。
「そう。僕はね、世界を救うために——ノクス様の下で学んだんだ。科学を。生物学を。そして作り上げた。
この戦車を。生物兵器を」
「……お前の作った戦車は、セブンスロッドの民を、たくさん殺したんだぞ」
カイは、手を握りしめる。
「全員、ノクス様に従えばそんなことにはならないさ。
人は間違えるんだよ。恐怖で、感情で、無知で。
だから僕は——間違えない仕組みを作るんだ。
早く世界はオルディアの下、ひとつになればいいのさ。
そうすれば——世界は救われる」
「……正気か?理不尽な殺戮の先に、平和が生まれるわけがない」
テリーズが、口を挟む。
剣を、握った。
それを、カイが制する。
「ガク、お前は間違えた。——でも、引き返せる。
悪いのはノクスだ。そうだろ?
なぁ、一緒にセブンスロッドに帰ろう」
カイは、懇願にも似た説得を伝えた。
ガクは、ため息をつく。
「相変わらずバカだね。——僕は、君たちと住む世界が違うんだ。世界を統べる王、ノクス=ルミナスの片腕として、世界の未来を創る側なんだ。今更あんな田舎に帰るわけがないだろう」
「……ガク」
カイは、言葉を失った。
——もう、言葉は届かないのか。
そして三人で笑い合ったあの時間は、戻らないのか。
テリーズは様子を見ながら、言った。
「……私が斬ろう」
剣を抜き、カイの前に出る。
しかし、カイが再びそれを制した。
「これは、俺の仕事だ」
背中の刀を抜く。
「ガク、俺の剣に——二の太刀はない。
この一撃で、お前を斬る。
——言い残すことはないか」
「僕を斬っても……世界の流れは止まらないよ。
もう科学なしに、人々は生きられない。
その世界で、僕は必要な人間だ。
——それでも僕を斬るのかい?」
カイは、唇を噛んだ。
頭の中に——三人で過ごした思い出が蘇る。
一緒に作った秘密基地。
大人たちを騙した、あの日。
未来を語り合った——幼き日々。
そして、全てを断ち切るように目を開いた。
「お前が作った戦車は、セブンスロッドの多くの罪もない民を殺した。俺も——ナギも、許すわけにはいかない。
ガク。俺の一生の友よ」
足を前に踏み出す。
——足が、一瞬だけ止まる。
それでも、構えは崩れない。
一閃。
だが、自分の背中を押すように一言だけ呟いた。
「さらばだ」
刹那。
ガクの体は、上下に分断される。
鮮血が飛び散る。
カイの顔に、生暖かい友の血がかかる。
上半身だけになったガクは、まだ、絶命していない。
激しい痛みの中——優しい微笑みを浮かべながら、話す。
「カイ……僕は、間違ったのかな……?」
カイは、溢れ出す涙をそのままに答える。
「ああ。お前……頭がいいはずなのに、バカなことをしたんだ。俺たちが一緒にいれば……止められたのに」
ガクは、青白くなっていく口元を少し歪ませる。
「カイに会えて……よかったよ。
ナギは元気か?最後に……会いたかったな」
そう呟くと——科学庁副長官、ガクは目を閉じた。
カイは、その亡骸を抱き抱え、嗚咽する。
テリーズは、黙ってそれを見ている。
しばらくすると、カイの肩を叩いた。
「……行こう。ノクスを倒す。それが、弔いだ」
カイは、涙を腕で拭くと立ち上がった。
「ああ。——テリーズ、ありがとう。俺にやらせてくれて」
「私も——この国で、父と呼んだ男を斬った。
自分で決着をつけるのは、剣士の矜持だろう」
テリーズの言葉に、カイは小さく頷いた。




