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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第四章

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第六十六話 オルディアと、赤の零式と。

オルディアに到着したのは夜明け前。

黒い煙が立ち昇る、科学の国の入り口が見える。


この国へ来るのは、三度目。

まだアークネイヴァーという名前だった時。

ドラゴンの討伐クエスト報告に立ち寄ったのが最初。

二度目は──アレクシオの奪還、そして、エイル、グラディオとの戦いだ。


空はまだ黒とも青ともつかない色をしている。

俺はアレクシオを見る。


「どうした?安心しろ。もうお荷物にはならないぜ」

そういって笑うアレクシオは──少し背が伸びたように感じる。

もう、ミサキとそう変わらない。


さらわれ、監禁された記憶が、いいものであるわけがない。

しかし、もう乗り越えたように感じる。

俺は、少し安心する。


イエナが、目を閉じる。

場所は遠くとも、今はイエナの中にある〝アウレオの森〟との接続が始まる。

イエナを中心に、俺たち全員に緑の波動が繋がっていく。


「これで、全員にオートヒールがかかった。

少しの怪我なら問題ない。──けど、大怪我は直せないから、用心はしてね」


体が軽くなる。身体能力の向上と、自動回復。

これから何が起こるのか分からない。

素直に対話ができるとは──思っていない。

戦闘準備はしておいた方がいい。


「ユイト」

不意に、アルマに呼び止められる。

「エイルが死んだのは……ここか?」


「……ああ。もう少し中心部だが。いずれにしてもノクスの元に行くには近くを通るけど……行くか?」


「いや、いい」

アルマはそういうと目を閉じ、手を合わせた。


少しの沈黙と、時間。

「もう大丈夫。行こう」


アルマは一つの仕事を終えたように、そう言った。

スクエアの民ならではの──あるいは彼女ならではの一つの通過儀礼なのだろう。


「ユイト……予想通りだべ。生体反応、数十体。近づいているべ」

探知をしていたミサキが言った。

「この嫌な感じ……多分、こっちも探知されているべ。あの女だべな」


リーヴァ。俺たちのいわば奇襲を──予想していたということか。

目の前に、数十体の大型魔獣が怒号を上げながら近づいてくる。

その先頭を──赤い髪の女が歩いている。

──誰だ。


「あれー?思ったより人数多くない?」

甲高い、女の声。


「……エルデネ」

アレクシオがつぶやく。


──あれが、霊峰ライゼルに来たと言う赤の零式。


「いきなり、強敵のお出ましだな」

俺が呟くと同時に、皆戦闘陣形を取る。


「魔獣の相手は、剣士の仕事だな」

テリーズが呟く。


「よっしゃ!腕の見せ所だな」

カイが刀を抜く。


「……久しぶりだな。この感じ」

シャインの周囲が、冷気に包まれる。


「私が陽動する」

アルマは、魔獣たちの方へ瞬間移動する。



「じゃあ、俺たちは本命が相手か。って、おい」

俺が呟くと、すでにエルデネは特大の火球をこっちに向けて放とうとしている。まずい、先手を取られる。

「タツオ!」


俺が叫ぶと──タツオも同じ気持ちだったようだ。

すでに火球が宙に浮かんでいる。


火球の光で、まるで昼になったかのように明るくなる。

──巻き添え食らったらひとたまりもない。


俺はとっさにアースホールで穴をあけ、簡易シェルターを作る。


エルデネとの距離は数十メートル。

この火力がぶつかり合ったら──どうなってしまうんだ。


俺は、青の式でタツオの周囲に霧を作る。


「気休めだ。火力勝負──負けるなよ」

俺が言うと、タツオは頷く。


それを合図に──火球が放たれた。

「インフェルノ!」


二つの巨大な火の塊は真ん中でぶつかり合う。

それは互いのエネルギーを吸収しながら混ざり合い、

巨大な炎の竜巻へと姿を変える。


空へと昇る炎。


巻き添えになった魔獣たちが、燃える。


その向こうに──エルデネは笑っていた。

まだ燃え盛る炎の竜巻の横を、平然と近づいてくる。


「うわー。すごい。私と同じくらいの火力じゃん。

ねえ、君、名前は?」


「……タツオだ」


「へえ。私、君に興味が湧いちゃった。ねえ、私と結婚しない?」



……たった今とんでもない火力の殺し合いをした相手が、求婚している。

明らかに、空気がおかしくなった。


俺より先に、ミサキが穴から飛び出す。


「あんた、なにいってるべ!あんたは敵!オルディアだろ!」

怒っている理由は別だと思うが、言っていることは正しい。


「え?私は別にオルディアの人間じゃないよ。楽しそうだからノクスのところで働いてただけ。私くらいの式術者なんてあったことないもん。ねえ、二人で最強の子どもを作ろうよ」

タツオに近づき、腕を組む。


ミサキの髪が、逆立つ。


──まるで、ハルカゼみたいなノリだ。

しかし、疑わしすぎる。


魔獣たちは、まだ変わらず俺たちを襲ってくる。

先鋒チームがそれに応戦している。


「……あんたは一体何者なんだ。まず、あの魔獣たちを止めろ」

俺は言った。


「あの魔獣はリーヴァが精神制御しているから、私じゃ無理だよ。

結婚してくれるなら、燃やすのは協力するけど」


……一体どこまで本気なんだ?


「まず、エルデネ——あんたが何者か、そして何が目的かを言え」


「私は、この国の孤児。海に流れ着いたところを拾われた、どっかの異国の生まれ。この国では、式術者は厄介者扱いされるんだよ。知ってた?

ふらふら闇の仕事をしているところを、ノクスからスカウトされた。

でも、最近ちょっと飽きてたんだよね。テオロッドは、式術者いっぱいいるんでしょ?ね、結婚してよ」


──怪しい。怪しすぎる。

が、この状況で敵の情報を知るものがこちら側についてくれれば、これ以上ない戦力だ。

そして執拗な求婚──。


「……ということだが、タツオはどうなんだ」

俺は、タツオを見る。


「え。無理だよ。僕が好きなのはミサキだもん」

タツオは言った。


──は?


なんだ、こいつ。


ものすごいさらっと、ものすごいことを言ったぞ。


ミサキを見ると──顔が真っ赤になっている。

そして──言葉を失っている。


「お前、今なんて……」

耳を疑った俺は、聞き返す。


「だから、僕はミサキが好きなんだって。

だからこの人とは結婚できないよ」


「……お前、そんなこと言っていたっけ?」


「え?言ってなかったっけ?皆知っていると思ってた」


……この局面でスーパー天然を出してきやがった。

そして、堰を切ったようにゆでだこ状態のミサキが叫んだ。


「わ、私も言うべ……!

私も……タツオが好きだべー!」

辺り一面に、響く。


一体何が起きているんだ。


目の前では、魔獣と戦っている仲間がいるというのに。


そして、何故か、俺の横でイエナが泣いている。

レイン、フィル、ノエルは頷いている。

アレクシオは、目を輝かせている。

「すげー、恋ってこうやって始まるんだな」


……いや、まったく参考にならないと思うぞ。


そのミサキの叫びに対し、タツオは平然と返答した。

「え?知っているよ。何をいまさら」


やばい。本格的にやばい男だ、こいつは。


「……知っているならなんでそんな態度なんだべ!!」

ミサキはタツオの首を絞めた。


「あれだけ好意を向けられれば誰でも気づくでしょ……やめて、死んじゃう」


気づいていたのか。

全く読めない男だな……。


一連の流れを見ながら、エルデネはがっかりした様子だった。

「なーんだ。コブつきか。じゃあ、諦めるか。

でも、仲間にはしてよ。こっちの方が面白そうだし」


エルデネは、赤い髪の後ろで手を組みながら言った。

……果たして信用していいものか。

もしかして──ミサキなら何か分かったりするのか?


「ミサキ、お取込み中悪いが、この人の心の中覗けたりするか?」


俺は、タツオにチョークスリーパーをかけ続けるミサキを呼んだ。

タツオは失神しかけている。


「できると思うべ。ただ高位式者が相手だ。心を〝開いて〟もらわねえと」


「っていうことらしいが。覗いてもいいか?」

俺はエルデネに確認する。


「いいよー。嘘なんてついてないし。とりあえず、ぼーっとしてればいい?」

そういうと、エルデネは座り込み、目を閉じた。


目の前にミサキが座り、目を閉じる。

紫の霧が二人を包み──ミサキとエルデネが〝つながる〟。


魔獣討伐に参戦しようとしたが──概ね片付いているようだ。

改めてあの四人の火力が恐ろしい。


少し経つと、二人は目を開けた。


「ユイト。この女、本当に好奇心だけで動いているべ。

悪意が全くない。

そして──タツオへの恋心も一切消えているべ!」


余計なものまで覗いていたな。


「恐ろしく飽きっぽい、ってことか……?

まあ、いい。仲間になったら──オルディアのこと、教えてもらうぞ」


「やったー。もちろん。とりあえず、ノクスのところに行きたいんでしょ?

話し合うつもりなんてなくて、完全に迎撃態勢だから頑張ろうね」


……嫌なことをいう。

やはり、戦いは避けられないか。


皆が来てくれて、本当に良かった。


夜明け前。

オルディアの入り口で、一つの恋が成就し、

一人の女が仲間に加わった。


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