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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第四章

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第六十五話 仲間たちと、オルディアの回答と。

それからの数日間は──

久しぶりともいえる、日常が過ぎていった。


この世界に転移してからは、怒涛のような日々だった。

巻き込まれ続けた日々。

タツオ曰く、俺の性質によるものとのことだが──

気が付けば世界の行く末に深く関わってしまった。


そして、不思議なことに、気が付けばそれを自分事として受け止め、

責任感すら覚えている。


ミサキから指摘があった通り──恋愛どころではなくなっていた。

それほどまでに、世界の動きは激しい。


だが、決着は近づいている。

オルディアからの返事次第で──時勢は一気に動く。


俺は、この凪のように訪れた時間で仲間たちと話をすることにした。

最初に訪れたのは──王宮近くの迎賓館。


カイ、アルマ、シャイン。皆、王宮が用意した部屋に仮住まいしている。

それぞれ、各国の要職者だ。

俺から見ればただの仲間でも、国から見れば国賓。

当然の扱いだろう。

最初に訪れたのは、カイ。

というか、迎賓館の庭で刀を素振りしているところに出くわした格好だ。

相変わらず──刀を振るう姿は、普段とは別人のように凛としている。


「おお!ユイト!どうした!」


「いや、手持ち無沙汰でさ。皆と話でもしようと思って」


「人生の先輩である俺に相談したいってことだな!分かった!いいぞ」

カイはそういうと刀を鞘に納めた。


……そんなことは言っていないんだが、まあいいか。


「カイは、オルディアと決着がついたら──無の領に帰るのか?」


「それは分からん!だが、帰っても俺の仕事はなさそうだな。

セブンスロッドはナギがいれば問題ない」


「信頼が厚いんだな」


「二十年の付き合いだ。ナギは体は強くないが、心は俺よりもはるかに強い。どんな苦境でも諦めない。だから人がついてくる。

あれは──俺にはできん」


カイにしては──まともに分析している。

バカそうにふるまっているが、一応元領主。

意外とちゃんとしているのだろうか。


「なんか、もう一人幼なじみがいるって言ってよな。

その人は何してるんだ?」


「まったく分からん。俺たちに何も言わず──姿を消した。

生きているのかも分からんが……俺たちの中で一番頭がいいのはあいつだったな」


「なんか寂しいな。で、決着がついたら何かしたいことあるのか?」


俺は改めて聞いた。

なぜこんなことを聞いているかと言えば。

──俺自身が見えていなかったからだ。


この世界で生きていくのか。

元に戻る方模索するのか。

それさえも決心がついていない。


「そうだな。どっかで示現流の道場でもやってもいいかもしれないな」


「カイに、誰かを教えるなんてできるのか?」

俺は笑いながらそう言った。


「俺の剣を見て、勝手に学んでもらえばいい」

カイは自信たっぷりに言った。


「旅をしてみて、どう?」


「そうだな。セブンスロッドを出たのは初めてだが……

世界は広いな。もっといろんな国を知ってみたい気持ちはある。

多分、強いやつも一杯いるしな」


「マルカドールの闘技場に行ってみてもいいかもしれないな。

剣は使えないけど、強い奴は集まってると思うぞ」


「いいな。それ。もちろんユイトは一緒に来てくれるんだろうな」

カイに言われて気が付いた。

この男の強みは剣じゃない。

人に頼る力だ。

そして、頼るべき人を見抜く──観察眼だ。


もし元の世界なら、意外とこういう人間が経営者や管理職に向いているような気がする。

いるだけで周りを明るくする空気。

安心感。


俺はカイとの話を終えると、迎賓館の中で入った。

ロビーのソファで、シャインが本を読んでいた。


「シャインさん。相変わらず読書ですか」

俺が声をかけると、シャインは顔を上げ、本をテーブルに置いた。


「ああ。さっき書庫から拝借してきた。この国は、本が多いな。

特に、歴史の話は興味深い」


「歴史好きですもんね。

戦いが終わったら──霊峰ライゼルとか、スクエアのクアドリス峰に行ってみるのもいいかもしれないですね」


「ああ。世界を旅して──見聞を深めたいと思っている。ユイト、お前の故郷にも行ってみたい」


「……そうですね。ところで、以前話をしていた──科学者のことなんですが。ノクスの師匠、って話でしたよね」


科学が世界を滅ぼすと言っていた男。

シャインが、オルディアに科学発展の抑制を提言させたおとぎ話。

それは──俺のよく知る世界から来た男だろう。


「そうだ。男は、言っていた。自分の弟子が最近どんどん成長していると。

近く、科学長官の座を譲るつもりだと。その後、その科学者が死んだと聞いた。そして、弟子が後を継いだとな。

俺は──ノクス=ルミナスが殺した可能性もあると考えている」


──師匠が、弟子を?

そんなことがあるのだろうか。


昨日集めた情報では、テオロッドを出たあとのノクスの足跡は分からない。

いかにして科学者の道を歩み、地位を得たのか。

ただ、想像するに、その科学者がノクスの親代わりだったのではないだろうか。

となると、ノクスは──親代わりの恩人を殺したということか。

シャインは続けた。


「死因は、事故死と聞かされた。だがそれはあくまで対外的な話だ。

──その後のノクスの異例の若さでの科学長官就任やこれまでの動きを鑑みると……その可能性が高いとみている」


「……真相は闇の中ですね。あとは──直接ノクスに問いただすしかない」

俺が言うと、シャインが頷いた。


「そうだな。その上で見極めるしかない。

ノクス=ルミナスが世界にとってどういう存在なのかを」


シャインの目線は──世界の行く末を見ている。

それが、国王という立場からなのか、彼の人間性なのかは分からない。

だが、民を守るということは、そういうことのなのだろう。

広い視野と高い視座で、自分の置き所を決める。

時にはそれが奴隷や、闘技場の闘士という立場だとしても、

置かれた環境でのベストを尽くす。


──それが、シャイン=カムイという人間なのだろう。

俺は、次にアルマの部屋に向かった。


「ユイト。……そこ、座れ」


「ああ。──旅はどうだ?」


「新しいもの、発見ばかり。温泉は、スクエアにも作りたい」


アルマは、セブンスロッドで温泉に入って以来、

すっかり温泉にハマっているようだ。


「そうだな。スクエアなら作れるだろう。

──戦いが終わったら、作りに行くよ」


俺が言うと、アルマは表情を輝かせた。

スクエアの時には気が付かなかったが──

たまにこういう年頃の女の子らしい顔を見せる。


表情を出さない訓練をしていたと聞いた。

灰忍衆という──スクエアの特殊な護衛集団。

その首領として多くの任務をこなしてきたのだろう。


事実──その戦力はすさまじい。

アルマがいなかったら、命を落としていたかもしれない場面がいくつもある。

〝速い〟ということは、それだけで大きなアドバンテージがあることを知った。


「助かる。ユイト、生きるって──苦しいけど、楽しいな」


ふと、アルマが言ったことに、胸が痛くなる。

姉を──エイルを殺したのは、俺たちだ。

タツオは殺したのは自分、と言っていたが、

その判断を下したのは間違いなく──俺だ。


その真実をアルマは受け入れ、赦し──感謝した。

エイルを止めてくれて、ありがとうと。


その心の中では──様々な葛藤があったのだろうと考える。


その上でアルマは生きることを〝苦しいけど、楽しい〟と表現した。

その等身大の言葉が──なんだか嬉しかった。


アルマはあくまで〝観測者〟として俺たちと一緒にいる。

だが、一緒に旅をする中で生きる意味を見出してくれたこと。


それはもう、〝仲間〟と言っていいんじゃないだろうか。


アルマとの話を終え迎賓館を出ると、

アレクシオとブルーオーダーの皆に出会った。


「ユイト=カタギリ。偶然だね」

レインが手を挙げ、笑顔を振りまく。

白い歯が光る。


「お揃いだな。皆でどこに行くんだ?」

俺の質問に、ノエルが答える。


「アレクシオが、いっちょ前に装備を整えたいっていうからよ。

ハーラッド商会に、武具を見に行くんだ」


「なんだよいっちょ前にって。……これから戦いになるかもしれないんだ。

装備は大事だろ!」

アレクシオが反論する。

金髪が二人並んでいるとまるで本当の兄弟みたいだ。


「面白そうだな。俺も行っていいか?

アレクシオを着せ替え人形にできるんだろ?」

俺は言った。


「おっ、分かってるね。皆でアレクシオで遊ぼうぜ」

ノエルがそう言うと、アレクシオはノエルを叩こうとするが──避けられる。

それを見て、レインとフィルが笑った。


もうすっかり、チームって感じだな。

俺はみんなと一緒にハーラッド商会に向かった。


店の中は、相変わらず物々しい。

充実した武具が揃っている。


──イエナと二人で来たのが懐かしいな。


早速ノエルは色んな防具を物色し、アレクシオに試着をさせる。

──だが。


「ぎゃはは!ぶかぶかじゃねえか!やっぱり十年早えよ、アレクシオ」

ノエルが腹を抱えて笑っている。


アレクシオがつけた兜は、アレクシオの鼻まですっぽり覆っている。

まあ、大人向けに作られているから、そりゃそうだ。


その後も様々な防具を試着するが……どれもサイズが合わない。

アレクシオはだんだんむすっとしてくる。


「ふむ。困ったな。アレクシオ──これは諦めるしかないかもしれないぞ」

レインが呟く。


「子ども用がないか聞いてみようか」

フィルが気をつかう。


「あるわけないだろ。女性用ならいけるかな」

ノエルも、なんだかんだ真剣に探している。


「あ。──あれ」

アレクシオが呟く。何かを見つけたようだ。

小走りに向かっていく。


アレクシオが戻ってきた時手に持っていたのは、

──鉢金だ。


俺が、アークネイヴァーとの戦いにつけていったものと同じもの。

確かにこれなら、サイズの調整もきく。


「ユイト。俺もこれにする」


ノエルがそれをアレクシオの頭に装着する。

サイズを調整し、ぴったりになる。


「うん。いいんじゃねえか。なんか強そうに見えるぜ」

ノエルがそういうと、アレクシオは少し照れくさそうにする。


「ユイトも、タツオもつけて来いよ。レイン、ブルーオーダーも全員これ買うぞ」

アレクシオが言った。


「えー?髪型が崩れちゃうよ」

ノエルがぼやく。

おかっぱ頭に、こだわりがあったのか。


「いいんじゃない。どうせなら、皆お揃いで」

フィルが笑って言った。


「そうだな!全員分買おう!」

アレクシオは指折りで仲間の人数を数え、

店主に在庫を確認すると、全員分の鉢金を頼んだ。


「お会計は?」

店主の質問に、王子は答えた。

「テオロッド王室につけてくれ!」


さすが、王子様である。


アレクシオたちと別れると、俺は騎兵団のいる訓練場に向かった。

先日の侵攻以来、訓練は増加しているようだ。

まさに有事である。


数百人いる騎兵団が剣を振るう中、

凛とした立ち姿のポニーテールが指揮を振るっていた。

──テリーズである。


思えばこの旅の始まりは、この人との面談からだった。


「ユイト。珍しいな、こんなところに」


「ちょっと、テリーズさんと話したいなと思って。

しばらく、アレクシオばかりでしたから。

たまには俺にも構ってくださいよ」

俺は年下の男らしく、可愛げを演出する。

すると、テリーズはふん、と鼻を鳴らして言った。

「あまり、あっちこっちにいい顔するな。イエナに怒られるぞ」

そのまま、俺についてこいと言い、歩き出す。


──え?もしかして……色々ばれている?


「あれからもう半年以上か。お前らも──すっかりテオロッドの民だな」


あれから、とは。

俺たちがテリーズとイエナを護衛した、あのクエストのことだろう。


「はい。自分でも不思議なんですが──もう故郷のように思っています」


「──そうか。私の故郷はもうない。

私にとっても──テオロッドが故郷だ」


その話を聞いて、イエナの話を思い出す。

確か──テリーズはカシラギのどこかの村の出身だと聞いた。


「私の故郷──セイランは滅びたが、お前らは、帰る場所があるんだろう」

テリーズは、俺の顔を見た。

俺たちが異世界から来たことは──まだ伝えていない。


「いえ。俺たちも──似たようなものです。帰る場所は……ここです」


「ここでお前は──守るべきものを見つけたのか?」


不意に問われ、俺は考える。

思い浮かぶのは──出会った人々の顔。


「そうですね。守るべきもの、がたくさん増えちゃったかもしれません」

俺がそういうと、テリーズは笑った。


「では、その分お前が大きくなったということだな」


テリーズらしい解釈。

俺は、小さく頷いた。


「オルディアとの決着後は──どうするか考えているのか?」


「……まだ、考えていません。まずは──決着をつけないと」


「同感だ──早く騎兵団が要らない、争いのない世界になることを祈るよ」


──テリーズは、カイやグライスたち戦闘狂とは、少し違うようだ。

戦うために戦うのではなく──守るために戦う。


俺は、テリーズに挨拶をすると、訓練場を出た。

出際に、一言声を掛けられる。


「イエナなら、アウレオの森に行くって言ってたぞ」


……なんで俺の次の行動が分かるんだ。

歩いて行くと、少し遠い。

騎兵団から、馬を借りることにした。


イエナは、すぐに見つかった。

森の入り口で、あの時と同じように、木にもたれかかっている。

あの時と違うのは──目を開けている。

そして、イエナの周りを、緑の霧が包み込んでいる。


俺に気が付くと、イエナの合図で、霧が晴れていく。


「イエナ。何してたんだ?」

俺は、イエナの横に座った。


「森と対話していたの。この戦いで──私に何ができるかなって」


「……何か分かった?」


俺が聞くと、イエナが頷く。

「オートヒールは──常時接続できると思う。

よほどの大怪我じゃなければ──森の力で皆回復できるはず」


「よほどって?」


「四肢の欠損、とか……」


「なるほど」


常時回復があるというのは、かなり戦いにおいて有利になる。

しかし。

それは、森の生命力、つまりイエナの命を犠牲にするということだ。


「イエナは、その……怖くないのか?」


「怖いって、何が?」


「……森に命を捧げること。森が滅びたら──イエナの命も滅びるって言ってただろ」


俺は、イエナがあっさりと告げた〝契約〟の中身を思い出す。

イエナは、俺の問いに笑って答えた。


「怖いに決まっているよ。だけど、私しかできないことだもの。

──まだ、実感はないけどね。

世界を守るためなら、私の命くらい、安いものでしょ?」


「──駄目だよ。それは。そんなこと……言っちゃ駄目だ。

犠牲にしていい命なんて、ない。ましてや、イエナがいなくなったら──俺は」


──つい、本音がこぼれそうになる。

気持ちを伝えるのは、戦いが終わってからと決めていたのに。


「じゃあ、ユイトも同じだね」


「え?」


「皆、犠牲になんてなっちゃ駄目。皆で戦って──皆で勝ち取ればいい。

そういうことでしょ?それについては、私も同感。

アウレオ=テオロッドの考えは、古いのよ」

イエナはそう言って笑った。

「というわけで、約束ね」


イエナは、小指を突き出して言った。


「一人で犠牲になるのは禁止。危険も喜びも──皆で分かち合いましょ」


俺は、その言葉に──胸が痛んだ。

だが、差し出された小指をそっと結んだ。


「なんだろう。イエナと話したいこと、たくさんあるんだけど。

──戦いが終わったら、全部話すよ」


日が沈み始めている。

俺は、乗ってきた馬の後ろにイエナを乗せる。

イエナの手が、俺の腰に回る。


背中に──イエナの頬が当たる。

言葉はなかった。


だけど、イエナの呼吸が、体温が。

背中を通して伝わってきた。


家に着くと、タツオが居間で作業をしていた。

──また、何かの工作だろうか。


ミサキは──昨日十分話した。


残すは、タツオだけだ。


全て、こいつの途方もない仮説と実験から始まったこの物語。

巻き込まれた俺は──気が付くとタツオを巻き込んでいた、らしい。


振り返ってみれば──いつの間にか、与えられた選択肢を選んできたのは──

俺になっていた気がする。


最初は、流れに身を任せているつもりだった。

迷惑な異世界転移に、正体不明の白の式術を探る旅。

気が付けば、世界のいざこざに巻き込まれ──と思っていたが。


俺は自分で選んでいたんだな。


断ることもできたけど、自分の考えに従って、正しいと思う行動をしてきた。

タツオは──それに巻き込まれただけだ。


「タツオ、お前、この世界好きか?」


俺の唐突な質問に、タツオは作業の手を止める。


「なに。いきなり」


「本音は、元の世界のほうがいいだろ?──前に俺を見届けるって言ってたけど……お前ひとりで帰るって選択肢もあるかなって。

飯は不味いし、生活は不便だし」


俺がそういうと、タツオはこっちをじっと見て言った。


「──だけど、人はこっちの世界のほうがいい」


意外だった。

タツオが、まさかそんなことを言うなんて。


「お前にも、そんな感情あるんだな」


俺が少しおどけると、タツオは真剣は顔をした。


「元の世界では、僕と普通に話す人なんて誰もいなかったよ。

家族は前も話した通り個人主義者だし、子どもの頃は誰も僕の話を理解できないし。

──天才の孤独ってやつだね」


「……まじめな話かふざけているのかどっちだよ」


「まじめだよ。つまり僕はユイトがはじめての友達で、仲間と言える存在は、こっちの世界にしかいないんだ」


最初から、コミュニケーションに違和感を感じていたが、そういう背景があったのか。

──でも孤独感なんて見せたことはなかった気がする。


「……孤独を好むタイプなのかと思っていた」


「寂しさとか、辛さとかはとっくの昔に捨てたかもしれない。どうせ死ぬときは一人だと腹をくくったからね。

でも──やっぱり誰かといるほうが楽しいってことを、この世界で知っちゃったみたいだ」

タツオはそう言うと、立ち上がった。


「ユイトはどう?ずーっと薄い壁みたいなものをまといながら人と接してると思ってたけど。

最近は──ユイトらしくなってきたんじゃない?」


俺らしさ。

それは一体なんだろうか。


薄い壁。確かに俺は八方美人で、それでいて人を信用しきらないところがあった。

ぶつかり合うことを恐れていた。


でも。


この旅の中で、人と向き合い、ぶつかることで得る信頼があることを感じていた。


旅で出会った人たちの顔が浮かぶ。


ラグナ。自分の意志で選び、戦う、強い大人。

ガレオン。信念がすべて。それに捧げる覚悟と潔さ。

シャイン。俯瞰する力。自分の役割を果たす矜持。

ハルカゼ。周りを巻き込む力。人生を楽しむ豪快さ。

ナギ。心の弱さと強さを曝け出し、誰かから信頼される力。


出会いが俺を変えた。

でなければ──ノクスとの対話など考えもしなかったかもしれない。


「そんなこと言ってくれるやつ、誰もいなかったよ」

俺はそういうと、立ち上がり自分の部屋に向かった。

「俺も、最初の友達はお前かもな」

そういうと、部屋に入った。


皆との対話も終わった。

あとは──やるだけだ。


昨日。ミサキとの対話の後。

俺はレオニスとサイレスに呼び出され、王宮に向かった。


「オルディアから返事が来た」

サイレスがそういうと、俺に書簡を渡した。


「読めば分かるが……端的に言えば、会談は了承、ただし場所はオルディアでということだ」

レオニスが説明する。

「十中八九、罠だな。危険極まりない」


「……なんで俺だけにこの話を?」

俺は聞いた。


「リーダーは、ユイト、お前だろう。今後の対応について相談したかった」

レオニスは言った。


「なるほど……まあ、罠ですね。相当な戦力を確保して、迎撃するつもりでしょう。

話し合うつもりがあるなら、中立地を選ぶはずだ」

俺が答えると、レオニスとサイレスは頷いた。


「同感だ。事実上の決戦になるだろう。こちらも、総力戦で向かうか?」

サイレスが言った。


「いえ──皆には、黙っていてください。俺が行きます」


「行くって…一人でか?」


「はい。俺は今、白の式術で式術を無効にできます。他の皆は……リーヴァの精神干渉を防げない」


「だとしても……戦車や騎兵が来たら防げないだろう」


「その辺はなんとか逃げますよ。俺は──どうしてもノクスと話がしたい。

そのための危険に、皆を付き合わせたくない」


俺なりの覚悟。

自分で決めたことだ。テオロッドのためではない。


「しかし……君にすべて担わせるわけには」

サイレスが眼鏡を上げる。


「早い方がいい。明日。明日の夜出発します。身軽でいきたいので、馬を用意しておいてください」

俺はまくしたてる。


「意志は固いようだな……。分かった。ただし、三日。三日戻らなかったら、交渉が決裂したと判断し、援軍を送る」

レオニスが、逡巡を飲み込んで意思決定をする。

サイレスはまだ何かいいたそうだったが、口を噤んだ。




俺は、タツオやミサキが寝静る時間帯に、こっそりと家を出た。

今から出発すれば、夜が明ける前にオルディアに着く。


敵が何を準備していようと、夜に紛れてノクスのいる科学研究所まで侵入してしまえばいい。

これまで培った式術がある。大丈夫だ。


俺は自分に言い聞かせながら、深夜の王宮へ向かう。


一つだけ──心に引っかかっていることがある。

イエナとの約束。

早速破ることになるかもな。


──いや。犠牲になるつもりはない。

対話をして、何か答えを見つけ──無事に戻ればいいだけの話だ。


深夜の王宮は静かだ。

サイレスが一人。馬に跨って待っていた。

横にもう一頭。俺用の馬が並んでいる。


「ユイト。私はまだ一人で行かせることには反対だ。だが」

サイレスは嘶いた馬をなだめる。

「君に頼るしかないのも、事実だ。せめて──街の外まで送らせてくれ」


俺とサイレスは馬に跨り、テオロッドの街を進んだ。

会話はない。

王宮を抜け、寝静まった街を通り過ぎると、見慣れた門が見える。

もう、修復が終わったのか。


「なかなかやるだろ、テオロッドの職人たちも」


「そうですね。この門を見ると……落ち着きます」


「壊れたものは直せる。だが、人は死んだら生き返れない。

ユイト。──必ず生きて戻れよ」


「はい。またサウナに入りましょう」


サイレスと別れると、俺は手綱を握った。


後はオルディアに向かうだけだ。


すると、目の前に──馬車が見えた。

中から人が降りてくる。


「ユイト、遅いよ」

そう言ったのは──赤い髪の男。

タツオだ。


「いきなり約束やぶるつもり?」

ふくれっつらで出てきたのは──イエナ。


「リーヴァを倒すのは私だって行ったべ」

ミサキ。


「観察者を置いていくな」

アルマ。


「俺がいなければ始まらんだろう!」

カイ。


「……みんな。どうして」

俺が呆然としていると、背後からもう一台馬車がやってくる。


「おい!お揃いの鉢金、持ってきたぞ!」

アレクシオが、馬車から顔を出している。

馬車が止まると、

操縦していたテリーズに続いて、ブルーオーダーが出てくる。


「ユイト=キサラギ。おいしいところを持っていくつもりか?」

レインが髪をかき上げる。

ノエル。フィル。


俺に、イエナが近づいてくる。


「怪しいと思ったから、サイレス叔父さんに問い詰めたの。

──皆で分かち合う。約束、もう忘れたの?」


イエナが人差し指を立てながらまくしたてる。


俺は、頭をかきながら答える。

「……俺は選択を間違えた、ってことかな」


「私に相談しないからだべ」

頼れる参謀、ミサキに嗜められる。


「さあ、リーダー。皆揃ったよ。号令は?」

タツオが手を叩いて言った。


皆、笑いながら俺の言葉を待っている。

涙が溢れそうになるのを、ぐっとこらえて俺は言った。


「行こう。決着をつけに。——皆で」


俺たちはアレクシオが配った鉢金を頭につけ、夜へ飛び出した。


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