第六十二話 シャイン=カムイと、温泉と。
「えー、というわけで、遠路はるばるカムイからシャイン=カムイ……国王がやってきてくれました」
俺は、シャインを連れてレオニスの元へ向かった。
一応、挨拶をさせておいたほうがいいだろう。
「ああ。さっき会ったぞ。お前の家を教えておいた」
レオニスはこともなげにそう言った。
俺はシャインを見る。
何も言わず、そうだよ、と言わんばかりに頷いている。
……言えよ。
だから真っすぐ俺の家に来たのか。
「シャイン=カムイ国王、改めて、感謝する。
そしてこの縁をつくってくれたユイト、お前にもな。
今このテオロッドに、カムイ、オウシュウ、スクエア、セブンスロッド。
五か国の代表が揃った。
いわば──世界の総意だ。
オルディアに向き合うには、十分すぎるほどだ」
レオニスは言った。
普段は国王と思えないくらい軽いが、こういう時はびしっと締める。
さすがだ。
「現状、オルディアからの返答待ちだ。しばらくゆっくりしていくといい。
ユイト、お前も少し休め。旅続きで疲れているだろう」
レオニスが言った。
「はい。温泉でもゆっくり浸かって、泥のように寝ます」
すると、シャインが俺の肩を叩いた。
「ユイト。温泉とは、お前が言っていた──でかい風呂のことか?」
あ、忘れていた。
そういえば、シャインにその話をした気がする。
あの時はまだなかったが──今はテオロッドにも温泉施設ができているはずだ。
サイレスと二人で設計した渾身の作品を、見に行こう。
俺はシャインを連れて、王宮裏の山へ向かった。
目当ての場所にたどり着くとそこには。
──がっつり温泉宿が出来上がっていた。
想像以上に素晴らしい。
木造の建物、和のテイストを意識した建築様式。
立ち昇る湯けむり。そして、石畳の道。
まるで温泉地に来たかのような雰囲気。
そしてそこには──浴衣を着たサイレスが立っていた。
「待っていたぞ、ユイト。お前が考えた服も、この通り完成している」
似合う。サイレスもその端正な顔立ちとすらっとした体躯。
それでいて、きちっと帯が閉まっている、エレガントな着こなし。
俺とシャインは、サイレスに渡された浴衣に着替え、草履に履き替えた。
完璧だ。
やはり、温泉は雰囲気も大事である。
中に入ると、一階は男湯と女湯に別れていた。
入り口は、もちろんのれん。
概念を伝えるのが難しかったが──サイレスはきちんと再現してくれていた。
最高のビジネスパートナーである。
のれんをくぐり、浴場に向かう。
三種類の室内風呂に加え──大露天風呂を備えている。
俺たちは体を流すと、露天風呂に向かう。
今、季節は二月ごろだろうか。
テオロッドは雪こそ振らないが、厳しい寒さだ。
しかし、その寒さこそが──温泉を最高のものにする。
俺は足からゆっくりと露天風呂に沈んでいく。
肩まで浸かると──思わず吐息が漏れた。
「ああ……最高だ」
俺は呟く。
「どうだ。君の望み通りになったか?」
サイレスは少しだけ自慢げに言った。
「完璧です……。あなたは天才だ。
そして、風呂のことをよくわかっていらっしゃる」
俺は天を仰ぎながら言った。
横で、シャインが恍惚の表情をしている。
そうだろう。言葉にできないほど、素晴らしいだろう。
「後で、サウナもいくといい。かなり改良したぞ」
そうか──サイレスはもともとサウナーだった。
この人が作ったのなら──さぞかし素晴らしいものだろう。
俺はもう何も考えられなくなっていた。
しかし、サイレスは構わず話を始めた。
「ユイト、思わぬ形で私の願いは叶ってしまったが……白の式の真実はまだ分かっていないのだろう?」
願いというのは──〝王族の呪い〟のことだろう。
イエナがあっさりと積年の願いを叶えてしまったから、
拍子抜けしているかと思ったが、そんなこともないらしい。
心から安堵しているようだった。
そうだった。この人は──自分の命を犠牲にしてでも、
レオニスやアレクシオの命を延ばそうとしていた人だ。
そのために、自身の短い命を──青春のすべてを捧げている。
「俺は、サイレスさんの呪いが解けたことが、一番嬉しいですよ。
……白の式は、話した通りです。新たな式を生み出すきっかけ、としか分かっていません。新たに──式を無効化する力を手に入れましたが」
「……なんだと?だとすれば、君は無敵じゃないか」
「まあ……対式術に関して言えばそうかもしれません。
でも、体術や剣術を防げるわけじゃないですし、相変わらず一人じゃ何にもできませんよ」
俺はあくびをしながら言った。
あまりの気持ちよさに、このまま寝てしまいそうだ。
「一体、君はどこから来て──なんのためにこの世界に生まれたんだろうな」
そうだ。サイレスにも、俺が異世界から来たことは言っていなかったな。
タツオが一回さらっと言ってたけど、冗談として流されたっけ。
いつか言った方がいいんだろうな。
──いずれにしても、戦いが終わってからだな。
「なんででしょうね。何のためにと言えば──シャインさん、
あなた、テオロッドに何しに来たんですか?」
俺がそういうと、シャインは急にまじめな顔になって語気を強めた。
「世界を、科学の支配から守るためだ。
──オルディアを倒すんじゃないのか」
「ちょ、ちょっと、いきなり怒らないで。
まず、交渉してみようってなったんですから。
──まあ、オルディアとの対話にシャインさんが来てくれたら心強いですけど」
俺はシャインをなだめる。
気が付くと、あたりは急に冷気を増している。
──怒りで無意識に式力発動させやがったな。
「ならいい。一つだけ言っておく。俺は──友は裏切らない。覚えておけ」
「……ありがとうございます。そろそろ、のぼせちゃうから出ますか」
俺は、照れくさくなって話を切り上げた。
シャインも──過ごしたのはたったの数日だ。
なのに、一生涯の友のように言ってくれる。
人が信頼関係を作るのに、年月は関係ないのかもしれない。




