第六十一話 帰宅と書簡と、来訪者と。
「けほっ……なんだべ、これ」
ミサキは、扉を開けるや否や咳き込んだ。
「……まあ、こうなるよな」
俺たちが家に帰ると、家の中は埃が舞っていた。
元の世界でも経験があるが──人がいない家は、驚くほどすぐ荒れる。
心のどこかで誰かが維持してくれていると期待していたが。
それはおこがましい話だったようだ。
「さて、僕は釣りにでも行ってくるよ」
しれっと逃げ出そうとするタツオの首根っこを摑まえる。
「逃げるな。今日は三人で大掃除だ」
俺たちは、手分けをして家の大掃除を行った。
といっても、もとより引っ越したばかり。
換気をして、床や壁を拭くだけだ。
タツオは役に立つ式が使えそうにないので、
お手製のモップを作らせた。
こういう小道具を作らせると、タツオは上手い。
あとは俺とミサキの青の式を活用し、三人で水拭きを行った。
数時間の掃除で、我が家はきれいに回復した。
俺は部屋で一息つきながら、サイレスに渡された書簡を読み始めた。
まずは、ガレオン。
あの拝金主義商人は、元気でやっているだろうか。
「ユイトの指示にあった穀物は、早速栽培を開始した。
これまで家畜の餌になっていたのが信じられないほど美味い。
マルカドール、世界の食糧事情は大きく変わるだろう。
そして、闘技場の方だが、魔獣を廃止してにも関わらず順調だ。
オルディア連邦を脱退した結果、
経済制裁の影響でオルディアからの観光客はいなくなった。
だが、これまで血を嫌っていた女性層の観客が増え始めた。
結果、前より動員は増えたくらいだ。
残念な報告としては、ヴァルドが卒業してしまったことだ。
これで、元Sランカーは誰もいなくなった。
が、また新たな闘士が生まれてくるだろう。
興行の相談もしたい。落ち着いたらまたマルカドールへ来い。
ここ一か月の利益の一割は額が額なので来た時に渡す。
合計で二千万ソルだ。待っているぞ」
うん。色々と情報が古いが、仕方ない。
約束通り、ガレオンはオルディア連邦を抜けてくれたようだ。
米も闘技場もうまくいっているようで良かった。
それに、利益の一割という約束もきっちり覚えているようだ。
少しでもお小遣いになればと思っていたが……
二千万ソルって。闘技場の卒業、二回分じゃねえか。
元の世界だと……一億七千万円くらい?
ってことは、ガレオンは一か月で十七億稼いだってことか?
とんでもない。
手前みそだが、アドバイスが確かにした。
元の世界の知識を使って。
だが、それを実行する力──やはり、ガレオンは商売の天才なんだろう。
次の書簡。ラグナ。
まったくそんな印象なんかなかったが、意外と筆まめなのか?
開いてみると、似合わないきれいな字で書かれていた。
「よう、ユイト。元気か。俺は字がうまくねえから、
フィオラに頼んで書いてもらっている」
そういうことか。道理で字がきれいなわけだ。
「あれから、観光地づくりは順調だ。みんな、生き生きと働いているぜ。
そば作りも上手になったし、温泉はかなりいい感じだ。
簡単には来れないと思うが、遊びにこい。
もしかしたら、お前らが来る頃には、家族が増えているかもしれないがな」
……ん?もしかして、フィオラ……ご懐妊か!
「アルヴァルドの爺さんは、新たな趣味を見つけて楽しんでる。
釣りに飽きたと思えば、今度は山だ。一人で山に登って、野営ばっかりしている。人に仕事を押し付けて、気楽なもんだ。
当分はくたばりそうにない」
要するに、キャンプが趣味になったっていうことか。
アルヴァルド元王も、呪縛から解かれてのびのびと生きているようだ。
よかった。
往復合わせても、たった数日しか過ごしていないが──
ブレイヴェンの皆も、忘れられない仲間になった。
続いて──シャイン。
マルカドールで別れてから、無事カムイに着いて……王になったということか?
「〝奇術師〟ユイト。マルカドールでは世話になった。
俺がカムイにつく直前、親父が倒れていた。
幸い今は回復したんだが、いかんせんいい歳だ。
王位の継承でもめている所に帰ってしまったもんで、
うっかり王になってしまった。
正直、面倒くさい。
だが、良い点もある。
それは、カムイは正式にテオロッドと同盟を結ぶ決定をしたことだ。
カムイに戻る旅の途中、様々な話を聞いた。やはり、オルディアのやり方には疑問を感じる。それに、どうせ手を組むなら、仲の良いやつのほうがいい。
もう少ししたら国も落ち着く。そうしたら、テオロッドに向かう。
俺たちも待っているだけでは駄目だと気づいた。
共にオルディアと戦おう。また新しい式の名前を考えてくれ。
〝不殺〟のシャイン」
短いながらも、シャインらしい文章だ。
そして──彼も、動いてくれていた。
俺が旅で出会った人たちが、テオロッドの──世界のために動いてくれている。
それが、何よりも嬉しい。
俺は、その書簡を丁寧にしまった。
──これは、俺がこの世界で生きた証だ。
この戦いが終わってどうなるかは分からない。
だが、いずれにしても──宝物にしよう。
書簡を棚にしまいながら、ふと気づく。
ん?シャインの書簡……
テオロッドに向かう、って書いてあったな。
いつ出したものなのか分からないが。
向かっているとすれば───
俺が考えていると、呼び鈴がなった。
扉を開けると、そこには。
「久しぶりだな、〝奇術師〟」
相変わらずの、美青年。
透き通る肌。百八十を超えるであろう、高身長。
グラデーションの、青と白の髪。
カムイ王となった、シャイン=カムイが立っていた。
訂正しよう。
どうやらパーティは十一人ではなく。
十二人になったようだ。




