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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第四章

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エピソード・オブ・イエナ 運命の子

イエナは、森と一体化していく感覚を感じていた。

緑の式が生み出した波動が、森の木々と繋がっていく。

その波動は、やがて一つの塊になる。

体から意識が離れ、イエナは森と一体化していた。

森の意識が、流れ込む。


声が、聞こえる。


『来たか、運命の子』


『……あなたは、誰ですか?運命の子、とは?』


『私は、この森そのもの。白の式者、テオロッドが作った森の意志だ』


白の式者……テオロッド?

この森を作ったのは、アウレオ=テオロッドではなかったのか。


『今では、この森は〝アウレオの森〟と呼ばれています。

……テオロッドとは、アウレオのことではないのですか?』


『私の現在の契約者は、アウレオのままだ。

運命の子よ、契約を更新するか』


……的を得ない。会話というより、意志が勝手に流れ込んでくる形だ。

油断していると、意識の奔流に飲み込まれそうになる。


『アウレオの契約は、どんな契約なのでしょうか』


イエナは、意識を必死に保つ。

森は、答えた。


『自ら直接見に行くがいい』


その直後。

景色が一気に流れ始める。

あっという間に、周りから木々が消えて行く。

残ったのは、まばらな木々が生えた草原だった。


そこに響いていたのは──赤ん坊の泣き声だった。

裸のまま、草原に、寝転がっている。

───まだ、生まれて間もないように見える。


腹を空かせているのだろう。

泣き声が、止まらない。


親は──どこに行ってしまったのだろうか。


そこに、近づく、一人の男の影。

冒険者のような風体をしている。

髪の毛は、白。

どことなく──ユイトに似ているように感じる。


『忌み子とみなされたか……』


男は、呟くと、赤ん坊を抱き上げた。

慣れない手つきで、それでも座らない首の後ろを支えながら、

慎重に。


男は、その草原に住んでいるようだった。

木々の影に隠れた家に──ひっそりと。


そして、景色は再び目まぐるしく変わった。


赤ん坊は、頼りない足取りで、歩き始めた。

白の男は、それを無表情に見つめている。


表情の少ない男だ。


それでも──歩いた赤ん坊が倒れそうになった時、

少し慌てた表情を見せたのは、見逃さなかった。


景色が巡る。


赤ん坊は、少年になっていた。

そして、家の周りの草原は木々が増えていた。


木に登ったり、降りたり。

はしゃぎ回る姿は、やんちゃな少年という様子だ。


椅子に腰かけながらそれを見つめる白の男は、

相変わらず無表情だ。


一体──何を見ているのだろうか。

イエナがその意味を知ったのは、次に言った白の男の言葉だった。


「アウレオ。そろそろ夕食にするぞ。降りて来い」


「はーい!」


アウレオ。

黄色の少年は──アウレオ=テオロッド。

そしてそれを育てたのは──白い髪のこの男ということだろうか。


そこからは、一気に情報が流れ込む。

二人きりで過ごす日々。


少年の背が白い男に追いつき、

喉の突起物が目立ち始める。


二人は見慣れない土地にいた。


ここは──。


霊峰ライゼル。

イエナにも見覚えのある場所。


三百年前も──今とまったく変わらない。


白い男は、何かを決意したようだ。


舞台は、アウレオの森に戻る。

二人の生活を見守り──包みこむように、森は広がっていく。


白の男は、一人で生活をしていた。

時折、アウレオは家に帰ってきては、近況の報告をする。

家を出て、新たな生活を初めたようだ。


家族ができ、アウレオによく似た金髪の子どもを連れている。

その子供が、白の男に抱っこをせがむ。

慣れた手つきで抱き上げると、

男はほんの少し微笑んだ。


白の男は、晴耕雨読の生活を続けていた。

様々なところから書物を集め、

それを読み込み、自分の考えを整理していく。


年月が流れ──別れの時がやってきた。


アウレオは、白の男──テオロッドの手を握りながら、

話を聞いていた。


『アウレオ。式術が発展すると、黒の式で世界は滅びる。

発展を抑えろ。世界を守ってくれ』


アウレオは、強く頷いた。

何度も、繰り返し聞いた話のようだった。


それから時代は跳び──アウレオは、中年になっていた。

髭を伸ばし──風体は、〝王〟のものになっている。


アウレオは、テオロッドの眠る土地に座り、

緑の式を発動した。


──緑の式。アウレオの副式は、緑だったのか。


『森よ。世界は今式術となんとか制御できている。

しかし、民の式力を意図的に下げるこの施策は、私の功罪だ。

王家としての責任を果たしたい』


『テオロッドの子、アウレオよ。何を望む』

森は、アウレオの問いに答えた。


『王族の──特に高位者から、生命力を奪ってほしい。

高位者が長生きすれば、黒の式の危険が高まる』


──王家の短命の呪い。


それは──アウレオ自身が結んだ契約だった。

イエナは──いや、正確にはイエナの〝意識〟は、そのやりとりを固唾をのんで

見つめていた。


『対価に欲しいものはなんだ』


『父さん──テオロッドの話では、王家には黄の式しか生まれない。

だがもし、緑の式者が生まれたら……それは〝循環者〟だと。

そのものに……その運命の子に、溜め込んだ力を与えてほしい』


『分かった。それでは、契約の成立だ。

私は、アウレオの血筋──黄のものから、生命力を奪う。

運命の子が現れたら、そのものに渡す』


イエナの意識は、再び元の空間に戻った。


『これが、アウレオの契約だ。運命の子よ。

アウレオの望み通り、そなたに力を渡そう。

それとも、契約を捨て、新たに私と契約をするか』


森の言葉通りなら──とてつもない生命力が、

イエナに渡されることになる。

それが式力という形なのか、あるいは奪い取った寿命なのか──。

それは分からない。


『新たに契約をすると、何が手に入るのでしょうか』


『私と──森と、常につながる。

いつでも、どこでも緑の式を最大限発動できるだろう』


──常時接続。それは大きい。

木々のない場所でも、緑の式を使える。


三百年溜め込んだ力を得ることは、凄まじい力を得ることになるだろう。


王国の祖──アウレオ=テオロッド。

彼が、贖罪のために掲げた契約という名の呪い。

そして──その対価の受け取り先は自分だった。


だが——

それで手に入れた力は、自分で掴んだものではない。

誰かの犠牲の上に立った力は、誇れるものではないだろう。


イエナは、心に決めていた。


『契約を破棄します。

私に、力は要りません。奪い取った生命力は──

すべて元に戻してください』


『……分かった。まだ存命のものには還そう。

しかし、すでに死んでしまったものには戻せない。

三百年分の生命力が残るが、それはどうする』


『……その使い道は、考えます。

新たに私と契約してください』


『分かった。契約内容を示せ』


『今後王家から生命力を奪う必要はありません』


黒の式が発動すれば──式力が、文明が滅びる。

スクエアやユラから聞いた話を踏まえれば、その原因は式力の暴走だ。


イエナには確信に近い、覚悟があった。


『今の世界で、式力が暴走することはありません。

──いえ、させません。

テオロッドは、世界の式力を下げる政策も、今は行っていません。

すべての民が自由に出会い、自由に結ばれていく。

その中で、王家だけが贖罪を続ける意味はありません。

世界は、それぞれの意志で考え、選択する。

自分の人生も、未来も。時代は変わったんです』


『分かった。それでは、契約の対価だけ説明する』


『対価?』


『もし森が滅びれば、〝運命の子〟イエナ。お前の命も滅びる。

──異存はないな』


──そういうことか。

常時接続、つまりイエナは森になり、森はイエナになる。


『分かりました。自分の命として──この森を、この国を護ります』


イエナが答えると、あたりは真っ白い光に包まれた。

自分の中に、森の意志が、森の想いが、歴史が流れ込んでいく。


白の式者──テオロッドの意志。

アウレオの贖罪。世界の平和を祈る思い。


すべてが光となって、イエナに注ぎ込まれていく。


イエナは、目が覚めると、泣いていた。


「タツオ、イエナ、起きた」


──アルマの声が聞こえる。

タツオが、近寄ってくる。


「よし。──テオロッドに戻ろう。

イエナ、早々に悪いんだけど、王都がピンチみたいだ。

たった今ミサキからエーテルリンクが入った」


タツオは全員を乗せると、馬車を走らせた。

イエナは、振り向く。

森が遠ざかっていく。

しかし、森はイエナの中にある。


これで──王家の呪いは解けたのだろうか。


イエナは考えていた。

〝運命の子〟という言葉。

そして、〝循環者〟の意味。


テオロッドとアウレオの意識が流れ込んだイエナは、

その意味を分かっていた。


彼らが一生をかけて作りたかった世界も。

この国の未来も。


今、自分に託されたことを理解する。


──すべては、私の覚悟にかかっている。


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