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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第四章

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第五十九話 帰還と、襲来と。

テオロッドの城門を見ると、帰ってきたという安心感が湧く。

だが——今はそれに浸っている時間はない。

俺たちは到着するなり、王宮に駆け込んだ。

急遽、レオニス王を通じてサイレス、ガルフに招集をかける。

全員、会議室に集まる。

「よく無事に戻った。しかし、イエナとタツオがいないようだが……何があった」

レオニスが言った。


「安心してください。全員、無事です。今は——まだ。

まず、旅の報告をさせてください」


「分かった。話してくれ」

王に促され、俺は旅で得た情報をできる限り簡潔に伝えた。


スクエアでのゼラド。

トランジアとの三番勝負。

セブンスロッドの騒動。

ユラとの出会い。


そして——式術の真実。


かいつまんで、ただ要点は逃さず伝えたつもりだ。


「テオロッドは意図的に式位を下げている——この件は、王族は知っていたんですか?」

俺は、単刀直入に聞いた。


「いや……初耳だ。そんな歴史があったとはな。

そして——話を聞く限り、この国は式術王国ではなく、むしろ逆の存在だったのだな」

レオニスは答えた。


「アウレオ=テオロッドは、式術が過度に発展すると、黒の式が発動することを恐れた。

結果、そのような国づくりを行ったのでしょう。

結果——テオロッドは三百年続く国となった。

これが、この国の真実です」

俺は、できるだけ落ち着いて言った。


この話は——サイレスにとって残酷だ。

サイレスは、白の式の秘密が短命の呪いを解く鍵になると信じ、式術の研究をしていた。

それがすべて意味のないものと、証明されたことになる。


サイレスは話を聞くと、自嘲気味に笑った。

「——白の式はある意味きっかけにすぎない、ということだな。

だとすれば、この短命の呪いも解く術はないということか」


「……いえ。あるいは黒の式なら——呪いを解けるかもしれません。

すべての式を消し去ると言う、黒の式なら」


「しかしそれは——現在の文明の破滅と同義なのだろう?

どんな破壊が起きるのか、どんな犠牲があるのか。

想像もつかない。

王族の問題に、世界を付き合わせるわけにはいかない」

サイレスは強い眼差しでそう言った。


自分たちの命より、守るべきものがある。

そう言っているようにも聞こえた。


「イエナと、タツオは何をしている」

ガルフが言った。


遠征から戻っていたガルフは、一人娘の身を案じる一人の父親になっていた。


「今は、〝アウレオの森〟にいます。

森と対話し——緑の式のその先を見つけるために。

タツオと旅の途中で仲間になったアルマ、カイも一緒です。

彼らがいれば、安全です。

報告が終わり次第、俺たちも戻る予定です」


俺がそういうと、ガルフは安心したような表情を見せた。


「そうか。ならいい。お前を信頼してイエナを任せたんだからな。

——何かあったら、分かってるな」


ガルフは俺に向かって言った。


……信頼と脅迫を同時にもらった気がする。

喜ぶべきか、怯えるべきか。


「テリーズさんとアレクシオ……それと、ブルーオーダーは、まだ戻らないんですか?」

俺は聞いた。もし戻ってきているなら、この場にいるはずだ。


「ああ。君たちが先に帰ってくるとはな。霊峰ライゼルで苦戦しているのか。

そろそろ様子を見に行くべきかもしれんな」

レオニスが言った。

ここにも、子を想う親がひとり。

ましてやアレクシオはまだ十一歳だ。

成長を期待する気持ちと、不安な気持ち。

両方を抱えながら送り出したのだろう。


イエナの修行が終わったら——俺たちが行ってもいいかもしれない。

そう考えていると、会議室の扉が大きな音を立てて開いた。

兵士が一人立っている。


「なんだ。会議中だぞ」

レオニスが言うと、兵士は答えた。


「レオニス様——敵襲です!城門が……破壊されました!」


なんだって——?


「いくぞ、お前ら。レオニスはここにいろ。サイレス、護衛を頼む」

ガルフが、騎兵団長の顔に戻り、迅速な指示を出す。


俺とミサキは、ガルフについて走った。


このタイミングで敵襲——しかも、王都に直接。

オルディアだとしたら……性急すぎる。


対話を考えていた最中で、最悪だ。


王宮を出て、城下を見下ろす。

そこには——青の領で見た蒸気戦車が、数百台並んでいた。


砲弾が、街に撃ち込まれている。

テオロッドを象徴する城門は、バラバラに破壊されていた。

三百年テオロッドを守ってきた門が——跡形もなく。


戦車の数が——多すぎる。

そして、今ここにはタツオもいない。


俺たちだけで迎撃するしかないのか?


「なんだ——あれは。鉄の塊が——動いている」

ガルフは、呆然としていた。

無理もない。これまで戦ってきたのは生物。

魔獣や人だ。

機械相手の戦いなど、経験もないだろう。


「ガルフさん!あの機械に、剣は効きません。

式術者を集めてください!」


「……分かった。剣士は何をさせればいい」


「民の避難を!……ミサキ、いくぞ!」

俺はそう言って走り出した。


青の領で、戦い方は分かっている。

砲弾を、青の式術——水で濡らしてしまえばいい。


俺は、戦車の群れを観察する。

——しかし、砲筒が見当たらない。

青の領で見たものと……型が違う。


一体、どうやって撃っているんだ。


すると、一台の戦車がこちら側を向いた。

一瞬、光が見える。


「ミサキッ!!避けろっ!」

俺は咄嗟にミサキを抱いて、地面に転がる。


ドンッ!!

音を立てて、弾は俺たちの数メートル先に着弾した。


「あいつら——改良してるべ。

戦車の中から弾を撃ってる」

ミサキが言った。


「対策済みってわけか……まずいな。数も多いし、有効打がない。

ミサキ、何かないか」


「幻惑も、空間操作も、機械が邪魔で効果が薄くなるべ……!

相性最悪だべ。魔獣なら一網打尽できるのに」


話をしていると、再び戦車がこちらを向く。

それも、数台が同時に。


——完全に捕捉された。


俺は、ミサキと共に建物の裏に隠れる。

レンガの建物の裏側で、激しい着弾音が鳴った。


やばいな。攻め手がない。


すると、戦車の群れの中から、声が聞こえる。


「テオロッド諸君。降参せよ。

私は、カール=クラウス。オルディア連邦、フォージリアの総統だ。

降参し連邦入りすれば——民の命は助けよう」


俺たちは、建物の影を移動しながら、その声に近づく。

ベレー帽を被った、口髭の男が、戦車から顔を出し叫んでいる。


「フォージリア……オルディア連邦か。

話が通じる相手でもなさそうだな」

俺はミサキに言った。


「あの男……ノエシスをかけられているべ」

ミサキは、遠目に男を見ながら言った。


ノエシス——リーヴァが使った式術だ。


「ノエシス——式術か?」

俺が聞くと、ミサキが頷く。


「精神干渉の式術だべ。人の心に入り込み、人を操る。

——紫の零式しか使えない技だべ」


紫の零式……まさか。

俺が頭に思い浮かべると、話をするカールの横に、女が現れた。


——リーヴァ=ヴァレンタイン。

白衣をきっちりと着こなしながら、カールに何か話している。

そして、こちらを指差した。

カールは頷く。


すると、戦車が再び数台。

こちらに顔を向けた。


「ミサキ!まずい——探知された!」

俺たちは、再び建物の影を移動する。


別の建物についた直後。

一斉砲撃が発射される。


ドンッ!ドン!


——さっきまで隠れていた建物が一瞬で崩れ落ちる。


「くそっ……。場所までバレたら、逃げ場がない」


「今、空間干渉で探知を断絶したべ。

しばらくは、見つからないはず」


「……それにしたって、時間の問題だな」


「もう少し近づけば、ノエシスの上書きはできるかもしれないべ。

でも、あの数の戦車に撃たれたら——

一瞬で消炭だべ」


ミサキの言うとおりだ。

迂闊に顔を見せれば、すぐに狙われる。


隙を見つけるしかない。


すると。再び戦車がこちらを向いた。


「おい、ミサキ……バレないんじゃなかったのか」


「バレてるはずないべ。あれは——」

ミサキが言い終わる前に、俺たちは走り出す。


「手当たり次第だべ!」


ドンッ!ドンッ!

ドドン!


広い範囲が、撃たれる。

そして——響き渡る悲鳴。叫び声。


街の民に、着弾している。


俺たちは、咄嗟にアースホールで穴を掘り、そこに入った。

いわば簡易シェルター。

しかし、強固なシェルターではない。

砲弾が直撃すればひとたまりもない。


「ギリギリだべな……」


ミサキが呟く。

そう。このままでは何も変わらない。


「ミサキ、タツオたちに、エーテルリンクできるか?」


「——もう伝えたべ。こっちに向かってるはずだべ。

どこら辺にいるか、探知してみるべ」

さすが。仕事が早い。


しかし、到着を指を加えて待っているわけにもいかない。


ここで逃げ回っている間に、街の人々の被害が増えるだけだ。

俺は、テオロッドの人々の笑顔を思い出す。


この国の人間でもない俺たちに、いつでも優しくしてくれた。

これ以上、被害を出すわけにはいかない。


「ユイト!……が、……ってるべ!」

探知をしていたミサキが言ったが、

爆音で聞き取りづらかった。

——なるほど。

であれば。

僅かな可能性に、賭けてみよう。


俺は覚悟を決めた。

ゆっくりと、立ち上がり、外に顔を出す。

事前に白の式を発動し、リーヴァの術をガードする。


「ユイト!」

ミサキが、穴に隠れたまま俺を引っ張る。

が、手遅れだ。完全に捕捉された。


「大丈夫。なんとかやってみる」

一か八かだ。


「カール総統!

——そして、リーヴァ=ヴァレンタイン!

話がしたい!

砲撃を止め、戦車を降りてくれないか!」


撃たれたら、お終いだ。

だが、もはや手はない。

セブンスロッドで会ったリーヴァのあの雰囲気。

狂気を孕んでいたが——恐らく本質はリアリストだ。


交渉の結果、より自分たちに有利になる可能性があるなら——

話は聞くはずだ。


——少し時が止まった。

直後。


カールとリーヴァが、連れ立って戦車から降りた。

こちらに向かってくる。


「白のユイトさん。久しぶりね。

私たち、縁があるのかしら?」

リーヴァが、眼鏡を持ち上げながら近づいてくる。

——釣れた。

ここからが、勝負だ。


「そうかもしれないな。で、オルディア連邦がいきなり直接攻撃なんて、

ノクス長官は焦っているのか?」

俺はあえてノクスの名前を出す。

それが、リーヴァの精神を迷わすポイントだ。


「ノクス様なわけないじゃない。私の判断よ。

で、話って何かしら?

降参して、オルディア傘下に入って話?」


——予想に反して、リーヴァは冷静に答える。


「……残念ながら、それを決めるのは俺じゃなくてレオニスだ。

その判断をするために、色々と聞きたいことがあってね」


「お前に話すことなどない!我がオルディア連邦に従えないムシケラどもが!」

カールが、そう叫んだ。

直後。

リーヴァはカールの肩を掴み、目を見つめる。

カールは白目を剥いてその場に倒れた。


「ごめんなさいね。ちょっと洗脳しすぎちゃったみたい。

うるさいから黙らせておくわ」

リーヴァが言った。


ポツリ。空から、雨が降り始めた。


「大した式術だな。——ハルカゼたちは無事なのか?」


「あら。お友達の心配?余裕があるわね。

安心して、命は無事よ。中身の方は——分からないけど。

さて、聞きたいことは何?」


雨が、強さを増してくる。

気がつけば、空は黒い雲に覆われている。


「なぜ、オルディアはテオロッドを狙う?

科学の発展に、式術は邪魔にならないはずだ」


「簡単よ。式術が発展すれば——黒の式が発動する。

式術がある限り、常に文明は滅びの危機にあるのよ。

科学が発展しても、滅びはないのよ。

であれば、式術国家の存在は——世界の害悪でしょう?」


リーヴァは、淡々と言った。


「——テオロッドは、そうならないようにやってきた。

それに——科学の発展だって、世界を滅ぼす」


空に稲光が光った。

遠くに、雷が落ちた音がする。

雨は、さらに強さを増す。


「——あなたはコウイチみたいなことを言うわね。

そんなおとぎ話より、歴史から学んだ方がいいわよ。

スクエアに行ったんでしょう?」


「コウイチ?誰だ、それは……」


「ノクス様の先代——ノクス様の師匠よ。

最後には、科学が世界を滅ぼすと触れ回っていたそうよ。

自ら科学を発展させたのにね」


——先代の科学長官。

シャインの話を思い出す。


「おとぎ話じゃない。それも——歴史だ。

俺たちは、知っている」


俺は、少しずつリーヴァとの距離を縮める。

俺の動きにリーヴァを注目させるように。


「それで?テオロッドはどうするつもりなの?

文明の発展を止め、式術者だけが生きやすい世界を続けるつもり?

そんなの——滅べばいいじゃない」


「……お前は、紫の零式だろう。なぜ式術を嫌う?」


俺の問いに、リーヴァは少し表情を曇らせた。


「……まるで式術者が偉いかのような言い方ね。

私が育ったアークネイヴァーではね——式術者は嫌われ者よ」

リーヴァは、少し語気を強める。

「髪の色が違うだけで、疎まれ、虐げられ、敬遠される。

この私の力を認めてくださったのは——ノクス様だけよ。

あの方が目指すのは——科学が世界を支配し、式術者を奴隷にした、超生産的な社会よ」


——ノクスの理想。

やっと核心に近い話になってきた。

だが。


「リーヴァ。すまない。是非続きを聞きたいところなんだが。

続きは——オルディアでいいか?」


俺が言うと、リーヴァは顔を引き攣らせた。


「はぁ?何を言っているのかしら。

この包囲網の中で、交渉するつもり?

選択権なんてあるわけないじゃない」

明らかに苛立っている。


「そうなんだよ。だから困ってたんだけどさ。

ちょっと当てが見つかって。

——おい、もういいぞ」


俺が合図をすると、穴の中から少年が顔を出した。

金髪の、生意気そうな顔。

何にも変わってない。


だけど、表情から——覚悟を感じた。


「待たせすぎだぜ」

少年が空を見上げた。

「いくぞ」

黒雲の奥で、雷が奔る。

——次の瞬間、空が割れた。


「トニトルス・ゼロ!!」


少年が叫ぶと、無数の雷光が走った。

戦車の群れを、撃ち抜く。


リーヴァは、戦車隊を振り返る。

戦車は、煙を上げ、機能を停止している。

中にいる人間も——恐らく動けないだろう。


続いて穴から顔を出したのは——

テリーズ。

「ユイト、そいつを斬ればいいのか?」


レインが、雨で濡れた髪をかきあげる。

「ユイト=カタギリ。久しぶりだね」


「さて、俺も雷ぶっ放しにいくか」

ノエルが言った。


「怪我人はいませんか?」

フィルが続く。


「さて、形勢逆転だ。リーヴァ。

お引き取り願おう。それとも雷を味わっていくか?」


「……どうやらまた多勢に無勢ね。

いいわ。オルディアで待ってるわ。

とはいえ、カールは連れて帰らせてもらうわ。

まだ使い道があるの」


「……敵前逃亡は許されるのか?」


「むしろ、許されないくらいがちょうどいいわ。

この戦車隊は、好きに処理して。

——また、ガクが怒られるのかしら。ずるいわ」


そういうと、リーヴァは倒れているカールに目を合わせた。

カールが起き上がる。

リーヴァはまた、悠々と歩き出す。


「逃すか!」

テリーズが剣を抜き向かっていく。

リーヴァは振り向くと、テリーズに目を合わせる。

斬りかかるその瞬間——何かを察したテリーズは動きを止めた。

しかし、紫の濃霧がテリーズを包み、その場に倒れた。


「テリーズさん!!」

俺は駆け寄る。


「……相当な剣士ね。グラディオと同格ね」


「何をした」


「少し精神を読んで、昔の傷を思い出させてあげただけよ。

人間、皆心に弱い部分はあるのよ。

——もういいかしら?」

リーヴァは言った。

あくまで、余裕がある。

この精神干渉の術がある限り、負けることがない。

そう確信しているのだろう。


「——待つべ!」

ミサキが、リーヴァの前に立った。

「私は、ミサキ=オイカワ。

あんたを——倒す女だ。覚えとくべ」


——ただの宣戦布告。

ミサキらしくない行動だ。

だが、それはミサキが新たな境地に辿り着いた証でもある。


リーヴァは、ミサキを見ると少し目を細めた。

「あら。あなた、私の親戚じゃない?

シオンより——上ね。

いいわ。オルディアに来たら遊んであげる。

ただ、零式くらいで勝てると思わないでね。

多分私の式位は——ユラより高いわよ」


リーヴァは、大雨の中颯爽と去っていった。


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