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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第四章

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第五十八話 旅の帰路と、アウレオの森と。

フォーリナー号は、旅の途中にも微調整が加えられていった。

「やっぱり、現場じゃないと分からないこともあるね」

船を設計したタツオはそう言った。

その話を、マレクは満足そうに頷いていた。


帆の位置、船の重心などの微調整を経て、

フォーリナー号は出発時より更に速くなっていた。


ククノチ島から、一旦スクエアに立ち寄り食料を補給。

イグナ島を経てナギラ岬に帰るというコースだ。


スクエア、セブンスロッドを経て、

まさか旅の仲間が二人も増えるとは想像もしてなかった。


アルマは──世界の情勢を見届けるという大義名分がある。

少なくとも世界が一つの答えを出すまでは、俺たちと旅を共にするつもりだろう。


カイは──ただの勢いと気まぐれでついてきているだけだ。

飽きれば帰るだろうし、面白ければずっといるだろう。

現在の所、剣の腕以外で尊敬すべきポイントが見当たらない。

一番年長者なのに、一番手がかかる。


「おい、ユイト!なんか今、失礼なこと考えていなかったか?」

俺がぼんやりとカイを見ていると、不意にカイがそう言った。


鋭い。野生の勘というやつか。

さすが剣の道に身を置く男。

第六感が冴えている。

そして、一切の船酔いもなさそうだ。

アルマですら最初はダメージを食らっていたのに。

このあたりのフィジカルはさすがだ。


「テオロッドに行くのは初めてだな。

強い奴はいるのか?」

カイが俺に聞いた。


「ひとり、とんでもない剣士がいるぞ。

テオロッド騎兵団長、テリーズ=ブルーム。

俺の知る限り、世界最強の剣士の一人だ」


「なに?俺よりもか!?」

カイは文句がありそうに言った。


「……剣技の種類が違うから分からないけどな。

少なくとも、アークネイヴァーの騎兵団長……

グラディオ=ネイヴァルドとは互角に渡り合っていたぞ」


「世界最強と言われた、あの騎兵団長とか!」

カイは、驚くと同時に、目を輝かせた。

「テオロッドに到着したら、ぜひ勝負してもらおう」


「うん……まあ、いいんじゃないか」


テリーズは確か二十五歳。

二十七歳のカイより年下だ。

が、まったくそう見えない。

というかカイの精神年齢は恐らく十四歳くらいで止まっている。

強いやつと戦いたい、とか、喧嘩すれば仲良くなるとか、

発想が少年誌そのものだ。


まあ、そんなノリに救われる部分もあるのだが。


テオロッドに帰ったら、きっとやることが山積みだ。

旅の報告はもちろんだが、

マルカドールのガレオンとの書簡やり取りもしなくちゃいけないし、

やり残した……ガルフ篭絡作戦もある。


果たして、そんな余裕が今あるのかはさておきだが。


リーヴァが言っていた──トランジアの状況も気になる。

ハルカゼたちは、オルディアに拘束されているのだろうか。

状況を把握し──助けに行きたい。


どうあれ、この戦いも最終局面が近づいてきている。

俺は、どこまでも続く水平線を見つめた。


元の世界では、日本という国は平和だった。

ただ、その日本もほんの数百年前まで戦国時代だった。

武将たちが領土を争い、主権を争った。


もしかしたら、長い歴史の中で、俺たちのいた時代は奇跡的な時代だったのかもしれない。


為政者のほんの少しの気まぐれで、世界はすぐに戦火が生まれる。

そしてそれは二元論で片づけられるものでもない。

テオロッドにも正義があるように、

──オルディアにはオルディアの正義がある。


ただ、その主張の仕方が違うだけだ。


俺はこの戦いの決着について考えていた。

ただ式術と科学の争いで、武力決着でいいのだろうか。


それらを融合し、新たな価値観を作り、共生していくことはできないのだろうか。


そのためには。


ノクス=ルミナスと対話しなければいけない。


俺たちはあまりにも敵を知らなすぎる。


科学の天才であり、科学を信奉する──テオロッド出身の男。

その過去にあり、なぜ世界を一つにしようとしているのか。

なぜ式術の世界を否定しようとしているのか──。


考えを知る先に、答えがあるのかもしれない。


ナギサ岬に到着したのは、スクエアを出発し三日後だった。


到着すると、海の男たちから歓声が上がった。

「おい、フォーリナー号が帰って来たぞ!」

マレク、とか、親方と叫ぶ声が船を包む。



船長マレク。

白髭の親方のおかげで、俺たちの船旅は無事終えることができた。

感謝しなければならない。


「マレクさん。本当にありがとうございます。

おかげで……無事仕事を終えることができた」

俺は言った。


「なあに。こっちこそ、楽しかったぜ。

クラーケンにも驚いたが、なにしろシーサーペントを倒せたんだ。

もう年だから長い旅はこりごりだが……またいつでも遊びに来い」


俺とマレクが握手していると、男たちが集まってくる。

「クラーケンだって!?」

「シーサーペント!?よく無事だったな」

興奮しながら、矢継ぎ早に聞いてくる。


それを見て、マレクは肩をすくめた。

「せっかくだから、今日は泊っていけ。こいつらに一緒に旅の話をしてやろう」

俺は頷いた。


「マレク、船の改修箇所、まとめておくね」

タツオが言った。まだまだ改修の余地があるのか。


「おう。タツオ。お前はここに残って設計士になってもいいぞ」


「ダメだよ。ユイトの人生を見届けなきゃいけないんだから。

でも、フォーリナー号は残しておいてね。設計は全部真似していいから」


「ははっ。また振られたな。

もちろん残しておいてやるさ。お前らの大事な船だ。

またいつでも旅ができるように整備しておいてやる」


その晩、俺たちはナギラの男たちが用意してくれた宴を行った。

シーサーペントとの戦いをタツオが語るのを、マレクは嬉しそうに見つめていた。

まるで、本当の孫みたいに。


翌朝、俺たちが旅立つとき。

マレクはほんの少し、寂しそうな表情をして言った。

「お前ら。必ず、やり遂げろよ」


「やり遂げるって……何を?」

タツオが聞いた。


「なんでもいい。お前らのやるべきことを、だ。

──お前らはまだ若い。

もし勝てないと思ったら、必ず逃げろ。

何度だって立て直せる。

そして、何年かに一度でいいから、元気な顔を見せてくれ」


そう言うと、最後に大きく笑った。

この世界に──まだカメラはない。

でも、その表情は、俺の心に確実に焼き付いた。


馬車に乗り組み、テオロッドへ向かう。

往路と同じく、トネアの街を経由する。


明日には……テオロッドに到着する。


アレクシオは、テリーズは戻ってきているだろうか。


そして、この不毛な争いに終止符を打つために、

俺は何ができるのだろうか。


馬車を走らせながら、俺はそんなことを考えていた。


ノクス=ルミナスに会う。


こけた頬、どことなく疲れた表情の科学者の顔を思い出す。


俺は、その時に気が付いた。

テオロッドでも、できることがあるじゃないか。

イエナは──ノクスがテオロッド出身と言っていた。


ノクスのルーツを探る。

もしかしたら、そこにヒントがあるかもしれない。


俺は、ほんの少し手綱を緩め、馬車のスピードを上げた。



テオロッド領内から、少し離れた大きな森に到着した。

イエナの希望で寄り道をする。


「──ここは、通称〝アウレオの森〟と呼ばれる、手つかずの樹海。

王家では——禁足地とされている場所」

イエナは真剣な表情で言った。


「なぜ禁足地に?」

俺は聞いた。


「王家の伝承。近づくと、命が縮むと言われている。

森の果ては……霊峰ライゼルにも繋がっている」


広大な樹海。

ククノチの森でヤクモに言われたように、

イエナはここで森との一体化を試みる。


「……危険はないのか?」


「危険だとしても、この先の戦いのために、やる。

——ミサキだって、試練を乗り越えたんだもの」

イエナはそう言って、ミサキを見た。


「精神世界は……時間の感覚が違うべ。体感時間と一致しない」

ミサキが答える。


「何が起きるのか……やってみないと分からないね。

もし私が戻らなかったら、置いていって」

イエナが俺たちに向かって言った。


「……起きるまで、待つよ」

俺が言うと、イエナは笑った。


「ありがとう。でも、世界は待ってくれない。

……そうね、一日。

——明日までに戻らなかったら、先に戻って。

私は後から戻る」


イエナは、覚悟を決めたように言った。

大きな木にもたれるように座り、

──目を閉じた。


緑の波動がイエナを包む。

そして、それの波動が森へつながっていく。


神秘的な光だ。


俺たちは、そこで待った。

何時間かかるか──分からない。


野営の準備をし、焚き火を焚いた。

イエナは、まだ戻る気配がない。


交代で、睡眠をとる。

俺は──眠れそうになかった。


イエナから、ずっと緑の波動が伸びている。

式力は──常時使っている状態だ。


イエナの呼吸に合わせるように、森が揺れる。


俺はただ、黙ってそれを見ていた。


美しい光景だ。

だが、もしも——ククノチの森のヤクモように、イエナが森そのものになってしまったら。

それを考えると、恐ろしかった。


気が付くと、朝日が射していた。

俺は、ほんの少し、意識が飛んでいたようだ。

ハッと目を覚ます。


イエナは、まだ──目を覚ましていない。


そしてその日も目を覚ますことはなかった。





「なんで起きないんだべ!どうしたらいいか、ユラ様に聞くべ!」

ミサキは、慌てて精神世界との接続を始めた。

もうすっかり慣れたものだ。

しばらくすると、ミサキが目を開く。


「ダメだべ。ユラ様に探してもらったけど、イエナは精神世界に見つからないって。

恐らく、閉じられた世界にいるだろう、って」

ミサキは言った。


「……それはどうやったら連れ戻せるんだ?」

俺は聞いた。


「無理やり起こしたり、この場から離れたら危ないって。

……魂と身体が離れてしまうかもしれないって。

本人が目を覚ますまで──待つしかないって言ってたべ」


待つ。しかし、イエナが言っていた通り……いつまでもここで野宿するわけにはいかない。

俺は、判断に迷った。

イエナを一人、ここに置いておくわけにはいかない。

あまりにも無防備すぎる。

今のところは魔獣の影はないが、襲われればひとたまりもない。

俺が思索していると、タツオが言った。


「ユイトとミサキは、先に帰っててよ。二人がいれば、報告には事足りる。

僕たちはここでイエナを守っておくよ」


──合理的な判断だ。

むしろ、俺が一番しそうな判断を、タツオがしてくれるとは。


少し、冷静さを失っているのかもしれない。


「分かった。俺たちは先に戻る。食料と馬車は置いていく。

何かあったら、ミサキからエーテルリンクで繋ぐ。

多分、今のミサキなら……できるはずだ」


俺がそういうと、ミサキは少し驚いて頷いた。


「多分、できる式術は増えていると思う。

きっと、シオンの使っていた術もできるはずだべ」


シオンの術。──酸素を操る術、動きを遅くする術。

心強い。

今までデバフが中心だったミサキが、

より攻撃的なポジションをできるようになった。


俺とミサキは、タツオ、アルマ、カイにイエナを任せ、

テオロッドへ向かった。


ここからなら、徒歩でも半日あれば着くだろう。


前にタツオが言っていたが……

一瞬で知っている街へ飛べる式術があれば。


異世界の旅路は、ゲームほど便利ではない。



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