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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第三章

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第五十六話 俺とタツオと、異世界と。

ミサキが修行に入ってしまってから、

俺たちは〝夢幻の館〟で数日生活をすることになった。

修行中は部屋に入ってはならないと言われたので、

終わるまで俺たちは時間を潰さなければいけない。


館は意外と広く、一人一室が与えられた。

まるでホテルのような作りになっている。

さすが、ユラ=キサラギ。

事実上、セブンスロッドの主みたいな人だ。来客も多いのだろう。


俺は、手持ち無沙汰になったので、タツオの部屋に出かけた。

意外と二人きりで話をする機会が減ったように思う。

唯一の異世界転移組として、色々と話しておきたいこともある。


「よう。何してるんだ?」


部屋に入ると、タツオはベッドに寝ころびながら本を読んでいた。


「読書。これ、青の領の市場で売ってた」


こっちの世界に来た最初は驚いたが、

普通に本は読める。

式術学校での教科書も、なぜだか読めたし、理解できた。

書いてある文字は日本語とはほど遠い文字だというのに。


「それ、何の本だ?」


「タイトルは、〝式術の解明について〟式術の力を、

数学で解こうとしている面白い本」


「……お前好きそうだな。で、解けそうなのか?」


「こっちの数学知識が稚拙すぎて、何も解明できなそうだけど、とっかかりにはなるかも。数学で表現できたら、色々やれることが増えるね」


「例えば?」


「まったく新しい式術作ってみたり。例えば、新たな色とか。

意外なのが、風を操る式ってないんだよ。赤の火力で疑似的にはできるかもしれないけど。これも、例えば青の派生とかで作れるかもしれない」


「……やめとけよ。黒の式が出てきて、全部飲まれちまうぞ」

俺は、スクエアで聞いた、黒の式について触れた。

式力が暴走したとき、世界を止めると言われている黒の式。


「むしろ、黒の式も作れるかもよ?式力を潰すだけなら、式の動力源が解明できれば、そこを防げばいいだけだし」


「……世界の理を壊そうとするな。こっちの世界も壊れたら、俺たちはおしまいなんだぞ」


「うん。それなんだけど、ユイト、帰る気ある?」


「なんでだ?そろそろコンビニのアイス食べたいとか、美味いラーメン屋に行きたいとかは毎日思っているぞ」


「いや、帰りたくなくなってるのかなーって。前も悩んでたし。まあ、僕はユイトの判断に従うから。決めたら言ってよ」


「……タツオは帰りたくないのか?」


「うーん。半々かな。新しい数学知識は欲しいけど、どうせほとんど頭に入ってたから。どっちかというと、こっちで知識を生かしてやれることの方が多い気がする」


「……悲しむやつはいないのか?親とか、兄弟とか」


「どうだろうね。うちは父さんはアメリカ、母さんはイギリス、兄さんはエジプトに住んでるから。もともと自立心高い家族なんで、今僕がここにいることも気づいていないかも」


うん。中々激しい家庭環境だ。

思えば、出会ってから半年くらい経つが、タツオのことをほとんど知らないな。

そして、俺のことも、ほとんど伝えていない気がする。


まったくの異世界で、出身が同じというだけで、奇妙な信頼と、安心感を感じていた。

そしてその信頼は、戦いや旅を経て、どんどん強くなって言った気がする。

言葉なんて、いらないくらいに。


「数学にはまったのはいつからなんだ?」


俺は、ベッドに腰掛け、そのままタツオの横に寝転がった。

二人で同じ天井を見ている。


「覚えてないなあ。二歳くらいで掛け算やってた気がする」


「……なんでそんなこと覚えてるんだよ」


「あ。僕生まれてから今までのこと全部覚えてるんだ。

全部、記憶の中から引き出せる。

いわゆる完全記憶体質ってやつ?」


「……要するにまた新たなお前の特殊能力が出てきたってことだな」


こんなに時間が経ってから出てくるというのもいかがなものか。

知っていれば、もう少し生かし方もあっただろうに。


「ユイトは?なにしてたの。生徒会長としか知らないけど」


「何って……普通の高校生だよ。中学校はサッカー部で八番。

一応レギュラーだったけど、群馬県大会二回戦負け。

高校から始めたギターも、バンドを組むほどじゃない。

何をやっても中途半端な普通の高校生だ」


「いや、普通じゃないと思うよユイトは」


「どの辺がだよ。まっとうな高校生男子だろうが」


「普通の高校生はこんなに異世界に順応しないだろうし、ましてや世界の情勢に巻き込まれたりしない。十分ぶっ飛んでると思うよ」


「え?でもそれは流れ的に……」


「普通の高校生は、流れの途中で違和感に気が付くと思うよ。それで、離脱する。

ユイトはこの旅の道中、全部の流れに乗ってきたじゃん。

僕はついていくのに必死だよ。まあ、楽しいけどね」


そんな風に思っていたのか。

タツオは、いつでも飄々と自分のペースで生きていると思っていたが……

まさか、俺に合わせていたなんて。


「ま、無理やり転移に巻き込んだ責任があるからね。最後まで付き合うよ」


「最後までって、なんだよ」


「世界が終わるか、ユイトが死ぬまで」


「縁起でもないな……。ハッピーエンドはないのかよ」


「老衰はハッピーエンドじゃないの?」


「なるほど、そう言う意味か」


二人で寝転がって話していると、だんだん話の軸がなくなってくる。


「なあ、タツオ。久しぶりに聞くけど……元の世界に戻る方法って、あるのか?」


「なんで?」


「中途半端にあると期待しちゃうから、いっそ無理だと思った方が揺らがないかなって」


「ああ。じゃあ期待に沿えないけど、十年くらい時間くれれば——戻れるとは思ってるよ」


「え?お前、PCがないと無理って言ってなかったか?」


「まあ正確には高精度の演算が可能な機械だけど、多分オルディアの技術をうまく転用すれば、十年くらいでそこまでいける気がする。

SF漫画よりはペース遅いけど」


俺は、某科学高校生が主人公のSF漫画を思い浮かべた。


……そそるぜ、これは。


「転移の数式みたいのが、あるってことか?」


「空間のねじれを利用しつつ、意図的に跳ぶって感じだね。

元の世界ではタイムリープって呼ばれてたけど、あれの超時間版。

まあ、完全に元の世界に戻れるかはぶっちゃけ厳しそうだけど」


「……ん?じゃあ、別の世界に行く可能性もあるってこと?」


「うん。いくら精度を上げても、元の世界に限りなくよく似た世界に着くと思う。」


「……じゃあ、無理ってことじゃないかよ」


「確かに。その意味では、もう戻れないね」


それを聞いて、なんだか複雑な気持ちになる。


——今俺は、ほっとしなかったか?

それほどまでに、〝戻りたくない〟と思ってしまっているのか。


袖触れ合えば他生の縁というが、俺は袖どころかガッツリこの世界に関わりすぎてしまっている。


戻る戻らないも、その辺が片付いたら考えよう。


俺たちが寝っ転がっていると、扉をノックする音が聞こえる。

開けると、アルマがいた。


「ミサキとユラ、帰ってきた。ミサキはまだ寝てる」


寝てる?かなり大変な修行だったのだろうか。

いずれにしても、二日間は経っている。

——何か美味いものでも用意してやるか。


「よし。じゃあ食材探しに行こう」

俺は横で転がってるタツオに声をかけた。



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