表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/87

第五十四話 疑惑の追及と、グライスと。

俺が戻ると、グライスは倒れていた。

顔は——不気味に微笑んでいる。


「ユイト!——敵は!?」

イエナが駆け寄ってくる。


「……ごめん。逃げられた。……グライスは?」


「あの後すぐ……痙攣して倒れた。今は……気絶している」

イエナが答える。


「離せ!負けた武士は生き恥を晒すわけにはいかねぇ!

俺はここで死ぬ!」


カイが、刀を腹に当てている。

それを、アルマとタツオが止めている。


ミサキとカイも、走ってやってきた。

「イエナから通信きたべ!……あれは何してるべ?」


カイを見ながら言った。


「ああ……なんかめんどくさそうだから、やっちゃってくれ。

ドリームヴェールでいいや」


俺がまだそう言うと、ミサキは頷いた。

紫の霧がピンポイントにカイの口元に集まる。

濃度の濃い式を受けて、カイは眠りについた。


俺たちはグライスを念の為縛ると、カイと一緒に荷台に載せた。

——戦闘狂の二人が、仲良く寝ている。


……全く羨ましい。


昨日から、ハードな戦いが続いている。


俺も疲れた。

一緒に荷台で寝たいくらいだ。


城に戻ると、俺たちは再び応接の間に集まった。


俺は、ナギと対峙していた。

確認しなければいけないことがある。

「ナギさん。昨日の会議から、オルディアの襲撃まで、あまりに早すぎます。

——心当たりはありませんか?」


俺は指を組み、できるだけ威圧的に言った。

確証はない。だが、これくらい言わなければ、本音が引き出せない。


するとナギは、椅子を降り、頭を地面にこすりつけた。

「すまない!こうするしか……オルディアを迎撃できる機会はないと思ったんだ!」


やはり。何か裏がある。


「からくりを話してもらえますか」

俺は、高圧的な態度を続ける。


「……シオンが裏切り、死んだこと。オルディア連邦入りが完全に否認になった情報を市井に流した。あとは勝手にオルディアが拾ってくれると予想して。

君たちがいるうちに襲ってくればと思っていたが……思ったより早かった。

本当にすまない」


「なぁ、ナギさん」

俺は更に凄んで、ナギの胸ぐらを掴んだ。


「今、何に謝ってるんだ?敵が早くきたことか?

俺たちが、危険にさらされたことか?」


「……どっちもだ。私の考えが甘かった」


「だとしたら、全然分かってないよ。

俺が怒ってるのは——助けてくれ、って言わなかったことだ」


ナギは顔をあげた。


「何のために臨時会議をした?

国を一つにして、戦うためじゃなかったのか?

なんで他の領主や、俺たちにその策を言わない。

一緒に戦ってくれと言わない?

周りを思い通りに動かしているつもりかよ。

——舐めるのもいい加減にしろよ」


俺は、胸ぐらを話し、突き放した。

ナギはそのまま倒れ込んだ。

「……言い返す言葉がない。領主失格だ。

調停機関の件も……白紙に戻すよ」


「……テオロッドでは、レオニス王が直接頭を下げて頼んだぞ。

手伝ってくれ、助けてくれって」


俺がそういうと、ナギは一瞬顔を上げ、目を見開いた。


「おいおいユイト!それくらいにしてやれよ!

ナギが可哀想だろう!」


カイだ。

……豪放磊落バカ男が会話に入ってきた。

いつの間に目を覚ましたんだ。


「あんたは黙っててくれ。……ていうか、さっきまで切腹するって騒いでなかったか?」


「おう!寝たらスッキリした!次は負けないぞ!

ナギは口は回るけど、弱虫なんだ。

あんまりいじめるな!」

カイは大きい声で言った。


「カイ……。やめてくれ。これは俺の責任だ。皆を危険な目に合わせてしまった」


ナギがそう言って遮ると、カイはいきなりナギの頬をビンタした。

バチン!と大きな音が鳴って、ナギは一メートルほど吹っ飛んだ。


「な、なにを……」

思わず俺は声が出た。


「いつまでビービーいっとるんじゃい!カッコつけよって。

そんなんやけん筋肉つかんのや!」


——方言。これがカイの素なのか?

ナギは起き上がり、今度はカイをビンタした。


「いきなりなんしよんねん!ボケカス!

すぐに暴力ふるうけん友達おらんかったんやろうが!」


「いや、あの、二人ともですね……」

俺が止めに入ると——

バチン。

俺もカイからビンタされた。


カイはにやっ、と笑う。

「何で俺が叩かれるんだよ!」

俺はカイに掴みかかる。

ナギはそれを止めようとするが、カイの返り討ちにあう。


めちゃくちゃだ。

なぜか、その争いにタツオも混ざっている。

いや、じゃれあっているわけじゃないぞ。

俺は結構怒っているんだが……。


しばらく揉み合うと、息切れと共に争いは終わった。


「雨降って、地固まるだな!」

カイが腰に手を当てて言った。


「いや、雨降ってねえし、固まってねえよ……」

俺はもはやこの男に敬語を使う気がなくなっていた。


「む。じゃあ、終わりよければすべてよし!だな!」


「いや、だから何も終わってねえって……」

俺は息を切らしながらツッコミを絶やさない。


「ユ、ユイト……。はぁ…はぁ。本当にすまない。約束する。

ヘリオス=テオロッドに誓って、今後君たちに隠し事はしない。

——それで、許してもらえないか」


「……分かったんならもういいよ。

ただ、ここまでセブンスロッドのために働いて、

何も褒美なしはいかがなものかなと」


「……ありがとう。私にできることならなんでも言ってくれ」


ナギがそう言ったので、俺はイエナとミサキを見た。

紫の領、緑の領へ行きたいと言っていたのを俺はちゃんと覚えている。


「……ということらしい。小旅行の手配くらいはしてくれるんじゃないか?」


俺がそう言うと、イエナとミサキはキャー!と手を叩き合った。

ポイントは稼げたかもしれない……が、

旅行……果たしてそんな余裕はあるんだろうか。




グライスが目を覚ましたと報告があったのは、それから数時間後だった。

仮眠をとっていた俺は、一人でグライスの捕縛された牢に向かった。


皆一緒に来ようとしたが、一人で行かせてほしい、と頼んだ。

——その方がいいと思った。


牢越しに見るグライスは、まるで憑き物がとれたようなさっぱりした顔をしていた。


「やぁ、ユイト君」

そう言って笑う顔は、まるで闘技場で出会った頃のようだ。


「グライスさん。——ヴァルドさん。

どっちで呼べばいいんだろうな」

俺は、困惑した。

今見る顔は、ヴァルドの時のものだ。


「グライスでいいよ。十五年間呼ばれた名前は——なかなか捨てられない。

ヴァルドは、闘技場の闘士だ。今の僕は——何もない犯罪者だよ」

グライスは笑った。


「……どこまで覚えてるんだ?」


「残念ながら、全部覚えているよ。君の仲間を斬りつけたことも。

——どんどん自分を失っていくのも。

仮面をつけている時は平気だったんだけどね」


あの仮面は、意志の支配と制御、両方を担っていたのだろうか。

それが式術によるものなのか、科学なのか、俺にはわからなかった。


「……あの話は本当なのか?」


「ああ。父が死んでるのを知った時、生きる方向性を見失った。

頑固で、口数の少ない人だったけど、国の英雄だったからね。

憧れたさ。

その父を——グラディオ=ネイヴァルドに認めさせ、剣で倒すこと。

それが生き甲斐だった」


「……グラディオを殺したのは、俺たちだ。ごめん」


「正直に言うんだな。驚いたよ。

……でも、戦いの結果だろう?それならば、あの人は本望だろう」


「グラディオは、強かった。俺たちが六人がかりで戦って、それでギリギリ勝てた。しかし、すべての黒幕は、グラディオじゃなかった」


「……ノクスだろ?多分、父は操られていた」


——!俺の仮説と一緒だ。


「気づいていながら——なぜオルディアへ?」


「本当の敵を、見極めたかった。

父の書斎に、これまでの悪事が書き記されていた。

まるで、誰かに気づいてほしかったように、詳細にまとめられていたよ。

魔獣の製造。意図的な放逐。そして、自作自演の討伐。

ノクスのいいようにされている自覚もあったみたいだ」


そんなものが、残っていたのか。

ノクスにとっては、あってはならない証跡になる。


「僕はそれを持って、ノクスに問い詰めた。最初はしらを切っていたよ。

でも最後には認めた」


「——その上で、オルディアの手先に?」


「ノクスはなんて言うか……うまいんだ。

僕の人生を肯定したり、否定したり。

ネイヴァルド家の偉大さを語ったかと思えば、父の罵倒をしたりする。

いつのまにか僕はノクスの言うことが正しいと感じるようになった」


——洗脳だ。繰り返し接点を持つうちに、ノクスの信奉者にさせられたのだろう。


「今、本当の敵は、誰だと思ってるんだ?」


「——分からない。でも、君じゃないことは分かるよ」


「……なんでだ?」


「知り合いでもない僕の傷を治してくれた。

一緒に魔獣と戦った。

それだけじゃだめかな?」


そう言ってグライスは無邪気に笑った。

俺は、少し目が潤むのを感じた。


操られていたとはいえ、街や城を破壊し、数々の人を殺した。

許されることでは、ない。


しかし。

この無邪気な笑顔が悪だとは、どうしても思えなかった。


「グライス。最後に聞かせてほしい。

あの女——リーヴァは何者だ?」


「リーヴァに会ったのか。よく無事だったね。

彼女の術は——精神干渉、精神攻撃だ。

目が合った人の精神に入り込む。

恐らく、彼女と出会った時から、僕はその術にかかっていた」


俺は、ハルカゼたちの顔を思い浮かべる。

——無事でいてくれ。


「……オルディアでの立ち位置は?」


「科学副長官。ノクスの直下で、オルディアのナンバーツーだ。

研究に籠っているノクスの代わりに実質オルディアを動かしているのは、リーヴァだ」


リーヴァが言っていた通りの情報だ。

そこに嘘がないということは、余程自信があるのだろう。


「分かった。……これから、グライスはどうなる?」


「さあね。この国の法律に従って刑罰が決まるだろうけど……

まぁ順当に行けば死刑だろうね」


さらっと言うその姿が余計に辛い。

やってしまったことが大きいだけに

——ナギに嘆願するわけにもいかない。


「……」


口を開きかけて、閉じる。


一緒に行かないか。


その言葉は、喉の奥で止まった。

俺は、言いかけた言葉を飲み込んだ。


「じゃあ……また」


最後に、目が合う。

その真っ直ぐすぎる瞳が、俺の心を見透かすようだった。


沈黙が落ちる。

その沈黙が、やけに長く感じた。

やがて、先が切れたようにグライスは言った。


「うん。最後に会えてよかった。死ぬなよ、〝奇術師〟」


俺の言った〝また〟を聞かなかったように、グライスは手を振った。


俺は、涙を堪えて、部屋に戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ