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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第三章

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第五十三話 仮面の男と、白衣の女と。

激しい衝突音と共に目が覚めた。


「……なんだ?」


辺りを見渡す。

気が付くと、夜になっていた。


嫌な予感がする。


俺は起き上がり、部屋を出た。


隣の部屋から、ミサキが出てくる。


「ユイト、起きたか。あの音……」


「ああ。探知できるか」


俺がそういうと、ミサキは探知を始める。

そして、直後、目を見開いた。


「……最悪だべ。大量の生体反応がある。

城が取り囲まれている」


生体反応。魔獣か、人か。


「皆を起こそう」


俺とミサキは部屋に戻り、全員を起こした。

揃ってミサキの誘導に従って城を進んだ。


「まさか……オルディア?」

イエナが言った。


「恐らく。──こんなに早く、しかもこんな時間にくるなんてな」

俺は答える。


「仮面の男か」

アルマが呟く。


青の領を襲い、シオンと通じていたあの男。

俺は、シオンの強さを思い出す。


──楽な戦いではなさそうだ。


道中、走ってきたカイとナギと合流する。

カイは本当に残っていたらしい。


「カイさん、本当に残ってたんですね」

俺は半分呆れながら言った。


「当たり前だ!そして予想通り……来たってことだろ!」

カイはどこか嬉しそうに言った。


城を出ると、すぐに敵の全容が分かった。

十代以上の蒸気戦車。

数十体はいるであろう魔獣。

青の領を侵攻した時より、はるかに規模が大きい。


仮面の男の言葉を思い出す。


『問題ない。魔獣はいくらでも補充ができる。今回の目的は脅しに過ぎない』


──今回は、本番ということか。


しかし、いくらなんでも情報が早すぎる。

まさか──内通者が他にも?


城門が、砲撃により崩されている。

先ほどの大きな音はこれか。


俺たちは、それぞれの役割を認識している。

指示なんていらないだろう。


「ナギさんは、城の中で避難していてください。

カイさんは、護衛を……っておい!」


俺が言うと、カイは地面を蹴って走り出した。

振り向きざまに吐き捨てる。


「そんなつまらんことできるか!俺は、大将首を獲ってくる」


じゃじゃ馬だ。

仕方ない、ナギの護衛は……


「ミサキ、頼めるか?幻惑を駆使して——敵から遠ざけてくれ」


「分かったべ。その代わり、紫の領の件、約束だべ」


……緊急時に交換条件。


さすがというべきか、したたかというべきか。

俺はそれをしぶしぶ了承した。


「行こう。アルマは先陣を。俺とタツオは——イエナを囲んでいこう」


陣形を決め、俺たちは進んだ。


アルマは先陣を切り、ヘイトコントロールをする。

俺とタツオは、両翼として魔獣たちを撃破していく。


「レゾナンスシェイク!」


「インフェルノ!」


「トニトルス!」


俺は魔獣の属性を見ながら式術を使い分ける。

しかし、基本は各個撃破だ。

対して、タツオは一撃で数匹を燃やし尽くす。

改めて恐ろしい火力。

イエナは、隙を見ながら戦車に水を放ち、無力化していく。


俺たちは敵陣を突っ走る。


そして。


あの仮面の男にたどり着いた。


すでに、カイが対峙していた。


「お前、強いだろ!俺には分かるぞ!」

叫んでいる。


仮面の男は、それには答えず剣を抜いた。


「カイ……私の獲物を」


アルマが小さく言った。


しかし、戦士の矜持なのか、割って入ろうとはしない。

このあたりの思考はよく分からない。


「俺の示現流は一撃必殺。二の太刀要らずだ」


カイは、手の内を思いっきり言った後、左足を前に出す。


向かい合う二人。


緊張感が走る。


直後。


激しい金属音があたりに響いた。


交錯した二人が、入れ替わる。


しばらく、動かない。


「……やるじゃねえか」


カイは、そう呟くとその場に倒れた。


腹から、血が噴き出る。


「カイさん!」


俺たちは走っていく。

仮面の男は、振り向いた。


そして、その仮面にひびが入る。

カイの剣が——捉えていたのか。


ピシッ。

音を立て、仮面が割れる。


そして、その下の素顔が明らかになった。


俺は、その顔に見覚えがあった。


太刀筋の既視感。


その理由が、一瞬で飲み込めた。


──〝不退〟のヴァルド。



「ヴァルド……さん?」

俺は思わず言った。


仮面の男は、何も言わず近づいてくる。


イエナは、カイにヒーリングをかける。


「久しぶりだね。〝奇術師〟ユイト。

ヴァルド、か。その名前も、懐かしいよ。」


その柔らかい話し方。

脳裏に、闘技場の日々が蘇る。

グライスと名乗った男は、ゆっくりと歩いてくる。


「……偽名、だったのか?」


「ああ。本名はグライス。 

——グライス=ネイヴァルドだ。

君たちが殺した、グラディオ=ネイヴァルドの息子だ」


──グラディオ。

アークネイヴァーで戦った、あの執政官。

そして──アークネイヴァー騎兵団長。


最後の戦いが、フラッシュバックする。


式術を無効にする身体能力。

そして、最後の瞬間。


燃え盛る業火の中、グラディオが呟いた言葉。


『グライス……』


点が、線になる。



「ヴァルド……いや、グライス。いつからオルディア側だったんだ」


俺は、その旧友と対峙し、聞いた。

あの闘技場での振る舞いに——悪意は微塵も感じられなかった。

まさか、あの時から──?


「つい最近さ。君とシャインがいなくなってからすぐ、僕はSランクになった。

君が提案した対人戦は、僕にとっては退屈だったよ。

誰も相手にならない。目的を達成した僕は、闘技場を出た。

そこで、多くの事実を知った」


グライスは、俺の前で足を止めた。


「父が殺されたこと。祖国が、なくなっていたこと。

そのすべてが——テオロッドによるものだということ。

まさか、君が関わっていたとはね。

青の領で君に会ったときは、驚いたよ」


アルマと交戦した際に見せた、一瞬の隙。

あれは──俺と出会ったからだったのか。


「待て。今の話は間違っている。アークネイヴァーを転覆させたのは……

グラディオとノクスだ」


俺は、グライスに言った。


「なに?どういうことだ。ノクスから聞いた話とは違うな」


やはり。


グライスも──きっとノクスに操られているだけだ。


「俺たちは、確かにグラディオと戦った。

誘拐されたテオロッドの王子を取り返すために。

その時、確かにグラディオは言っていた。

〝カルゼル王は自分が斬った。今の王は、自分だ〟と」


俺がそう言うと、グライスは笑った。


「ははっ。そうか。まあ、そんなことはどうでもいい。

ユイト。僕はね。父に認めさせるために闘士になったんだよ」


──初めて聞く、動機。

グライスは続けた。


「父は、騎兵団に入りたいと言った僕に言った。

お前の力では無理だ。市民として生きろ、とね。

情けなかったよ。

代々騎士として仕えてきたネイヴァルド家の男が、市民だなんて。

——僕は、家を飛び出した。

闘技場でSランクになり、父に僕の強さを証明するために。

名前を変えた。父に見つかりたくなかったからね。

ただ、家の誇りは残した。

ネイヴァルドのヴァルド。それが僕の闘士名になった。

時間はかかった。体中に傷を作り、死線を超えた。

だけど僕がSランクになった時──父はもう死んでいたんだ」


そこまで話すと、グライスは剣を抜いた。


「その虚しさが、分かるかい?

さあ、やろうよ。〝奇術師〟ユイト。

あの時は共闘だったね。今度は……敵として」


……本気だ。

説得ができる状態ではない。


俺は、覚悟を決めた。


「アールウォール!」

目の前に土の壁が盛り上がり、俺とグライスを隔てる。

そのまま後ろに距離を取る。


しかし、グライスはその壁を剣で斬り崩し突っ込んでくる。


──父親そっくりだ。


「トニトルス!」


雷を放つ。電流は頭上にかざした剣を通り、グライスの体を抜ける。


──痙攣しろ。


グライスは、まるで何もなかったように剣を振り下ろす。

ギリギリのところで俺はそれを避ける。


化け物じみた耐性。

——そんなところまで似ているなんて。


「アースホール!」


土の式術で落とし穴を作る。


──読まれている。

即座に場所を変え、落とし穴を避けるグライス。


再び剣が襲ってくる。


「くっ……!」

剣が、腹をかすめる。

血が噴き出てくる。


まずいな……剣技では勝負にならない。


「グライス!話を聞け!」


俺は叫ぶが、グライスが動きを止めない。

くそっ!ダメか。


俺に剣が振り下ろされる瞬間、間に影が入った。

ギィィイン!

金属のぶつかる音。


アルマだ。


「ユイト、退け。私の敵だ」


俺は、腹に緑の式をかけながら、後ずさる。


「邪魔だね。闘技場Sランカーの対決なんて、プラチナチケットだぞ」

グライスは、剣を構え直す。


「何言ってるか、分からない」

アルマは直後、白と黒の影を創り出した。


——分身の術。

エイルも使っていた、あの技。

二つの影が、グライスに襲いかかる。


その影に対し、グライスは剣で斬りつける。

——無駄だ。その影に物理攻撃は……。


効いた。

剣に斬られた影が、消失する。


「……バカな」


アルマが動揺する。

切り掛かるグライスを、ギリギリのところで避ける。


強い。明らかに闘技場の時より速く、そして、剣が洗練されている。

まるで——グラディオのようだ。


アルマは、少しずつ押されている。

あの瞬間移動を捉えられるのか。


アルマが窪みに足を取られた一瞬。

グライスの乱撃がアルマを弾き飛ばした。


「攻撃が軽いよ。それじゃあ、グラスハウンドさえ殺せない」

グライスは笑った。

「そうだな。君はBランクってところか。さぁ、次は誰だ?

Sランカーが相手になってやるぞ」


おかしなことを言い始めた。

目の焦点が合っていない。

狂っている——もしくは——操られている?


「僕が相手だ」

アルマとの間に、タツオが入る。


「ほう。赤の式者か。いいね。ランクづけしてやる」


俺は、一つの可能性を考える。

グライスを操るものがいるとすれば……

この近くにいるはずだ。


くそっ、ミサキがいれば探知ができるのに。

そこで、俺は思い出す。

エーテルリンク。イエナの紫の式の進化。


イエナに駆け寄る。

「イエナ!探知はできるか!?」


「やってみる。何を探すの?」


「もしかしたら、グライスは操られているかもしれない。

もう一人の敵がいるかどうかだ」


「分かった!」


イエナは目を閉じ、式を発動する。


「……いた。あそこの林の中に、一人いる。

——!!物凄い式力……!」


俺は、アルマに近寄り、ヒーリングをかける。

それを伝えると、アルマは林に向かって跳んだ。


タツオはフレアショットを多発して応酬しているが、

グライスの剣撃を食らっている。

長くは持たない。


「イエナ!幻惑を!ミラージュヴェールだ!」


イエナが放った幻惑で、グライスは包まれる。


「どこだぁぁ!ユイトぉぉお!出てこぉおい!」

叫びながら、剣を振り回している。


——明らかに様子がおかしい。

今のうちだ。


「イエナ、カイにヒーリングをかけて、連れてきてくれ!

俺は先に林に向かう!」


イエナは頷く。

俺はアルマの後を追った。


林の中には——テーブルとベンチがあった。

戦場に似つかわしくない空間。

そこに座り、優雅にお茶を飲んでいる女がいた。


アルマは一定の距離を保ち、その女を見ている。


切れ長の目。長身。眼鏡。

科学者のような、白衣を着ている。

後ろで束ねたオールバックの髪は——目が覚めるように鮮やかな紫。


女はチラリとこちらを見る。


「あら。バレちゃったのね。せっかくここでゆっくり観戦しようと思ったのに」


女は、カップを置いた。


「ユイト。近づくな。あの女、危険」


——アルマが、震えている。

初めて見る。

この女——何者だ。


「はじめまして。私はリーヴァ=ヴァレンタイン。

オルディアの科学副長官よ」


女は名乗った。

リーヴァ。

——ハルカゼが言っていた名前。


女が近づくと、アルマは後ずさる。

「ユイト、白を発動しろ」

震える声で、小さく言った。


リーヴァは、微笑みながら、しっかりと俺の目を見据えた。

そして、呟いた。


「ノエシス」


凝縮された紫色の思念が、俺の中に入ってくる。


——!!なんだ、これは——。


瞬間、白の式術がそれを消し去る。


もし、白がなければ——どうなっていた?


「あら?変ね。これが効かないなんて。そっちのお嬢さんはどうかしら」


リーヴァは視線をアルマに移す。


アルマは、俺の背後に回った。


「すまん、逃げる。ユイトも逃げろ」

アルマは、その場から瞬間移動で退避した。


「残念。スクエアの民なんて珍しいから、覗いてみたかったのに」

リーヴァは小さくため息をついた。


「……オルディアの手先だな。何者だ」

俺は言った。


「さっき名乗ったじゃない。あなたも名乗ったほうがいいわよ。

テオロッドのユイトさん」


「!!——なぜ俺を知っている」


リーヴァは、笑った。

「ここに来る途中で、ハルカゼに聞いたわ。

——さぞかしあなたを気に入ったみたいね。

ユイトがいるうちは、テオロッドは裏切れん、ですって。

久々に腹が立って、やりすぎちゃった」


「ハルカゼに……何をした!」


「ちょっと精神を壊してあげただけよ。アゲハとサブも一緒にね。

今頃、三人仲良く夢の世界にいるんじゃないかしら?」


精神を——壊す?

まさか、さっきの式術が。


「グライスを操っているのも……お前か?」


「察しがいいわねえ。さすがハルカゼのお気に入り。

でも、私の力は最初の少しだけよ。

後はあの仮面で正義感を制御しているだけ」


「……連邦は崩壊寸前だぞ。世界はオルディアの思い通りにはならない」


俺がそう言うと、リーヴァは顔色を変えた。

「おい、クソガキ。お前のようなものが、ノクス様の理想を否定するんじゃない。ここで殺すぞ?」


ノクス様——ノクスの信奉者か。

それなのに……またも式術者。


俺はその表情に少したじろぐ。

しかし、ここで引くわけにはいかない。


「やってみろよ。俺には、式術は効かない」


「……へぇ。強気だねぇ。確かにノエシスも効かなかったし……

お仲間も向かっているようね。敬意を表して、ここは退いてあげようかしら」


リーヴァは、そういうと歩き出した。


「待て……!逃げられると思ってるのか?」


「追ってくればよいじゃない。お望みなら、あなたの仲間全部廃人にしてあげるわよ?——ハルカゼのようにね」


……くっ!

アルマが怯えるほどの、式力。

そして、ノエシスという式。

恐らく——精神干渉の類だろう。

防げるのは、俺だけだ。


俺は黙ってリーヴァが去るのを見ていることしかできなかった。

リーヴァは、後ろ向きに手を挙げた。


「賢明な判断ね。また、テオロッドかオルディアで会いましょう」


今は——勝てない。

準備が必要だ。


俺は唇を噛んだ。




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