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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第三章

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第五十一話 内通者と、式術戦と。

『アルマに通信して、先に向かわせているべ。

私も向かう』

ミサキの声が頭に響く。

探知から指示出しまで終えている。さすがうちの名参謀だ。

「どっちに向かえばいい?」


『北棟の方だべ。奥の中庭に向かってる』


「タツオ、急ごう」

階段を駆け上がり、奥へ進む。


息がわずかに上がる。


そこに、アルマの姿が見えた。


敵を見つけているようだ。壁を背にし、姿を隠している。

「捕捉した」

アルマが小さく言った。


「状況は?」


「……誰かと合流して、話をしている」


俺たちは壁に身を寄せ、慎重に覗いた。


月明かりの下、シオン=キサラギの紫色の髪が揺らめいている。


向かいには、黒い外套の男。

仮面をしている。

——あの男だ。

やはりか。


シオンは、オルディアと繋がっている。


俺たちは息を殺し、会話を聞く。

「今日の七領会議も概ね三対四だ。手筈通り進んでいる」


シオンの声だけが響く。

「予定通り、私が賛成派につけば決議される。

今回の侵攻で、大義名分は整った」


仮面の男は何も言わない。

ただ、聞いている。


「青の領が落ちかけた事実は重い。次の会議では、それを理由に私は

賛成派に回る。決議は覆り、無事セブンスロッドの連邦入りは決定だ」


そういう算段か。

——完全に、計算済みのようだ。


「しかし思ったより損害が出たようだな」


「問題ない。魔獣はいくらでも補充ができる。今回の目的は脅しに過ぎない」

仮面の男が答えた。


「ふん。まあいい。約束は守ってもらうぞ」

静かな声だった。


「ああ。連邦入りが決定次第、お前は連邦の幹部となり、

セブンスロッドの王となる。望み通り、議会制は廃止だ」

仮面の男が、低い声で答える。


「やっと、無能な領主どもとの付き合いから解放されるよ。

このセブンスロッドの王は私こそが相応しい。

オルディアのように、国の名前も変えるか。

そうだな、偉大な私と同じ名前にするか。シオン国。どうだ?

いい響きだろう」


……自分の私利私欲のために、国を売った。


要約すると、そういうことだろう。

仮面の男が、低く言った。


「状況は分かった。次の七領会議はいつだ」


「三日後だ。そのあとにはいい報告ができるだろう」

シオンが答える。


「では、その後また来る」


仮面の男はそういうと闇へ消えた。

追うべきか。いや、今はシオンの対応だ。


俺は一歩踏み出そうとした。

——その瞬間。


「待て」

アルマが制止する。


「……気づかれてる」

次の瞬間。


「——そこにいるな」

シオンの声が、夜を切り裂いた。


空気が変わる。


「ちっ」

アルマが舌打ちする。


もう隠れる意味はない。


俺たちは、中庭へ踏み込んだ。


「シオン=キサラギ」


俺はまっすぐに言った。


「お前が内通者だったのか」

シオンは、わずかに目を細めた。


「……やはり、貴様たち、書記ではないな。何者だ?どこの領の手先だ」


否定しない。そして、逃げる様子もない。


「……答える義理はない」

俺は言った。


そこに、ミサキがやってくる。

「いきなり正念場だべな」

息を切らしている。

「……また増えたか。全部で四人か。まあ、問題ないな」


シオンが言った。紫の長髪が、揺れる。


その目が、俺たちを捉える。


周囲に紫の霧が立ち込める。


──紫の式術か。

俺は、青の式を発動させ、霧を作る。


レインがやっていた。霧を打ち消す方法。

しかし……効果はない。そして。

「……っ!」


体が、沈む。

「なんだべ……これ。こんな式術知らないべ!」

ミサキが叫んだ。


「ほう。紫の高位者か。我が領——キサラギ家以外では珍しいな。

これはイナーシャという式だ。

まあ、知るわけはないだろう。

紫の領に伝わる、高位式術だ。

しばらく、ゆっくりとした時間を楽しむがいい」

シオンが、静かに言って剣を抜いた。



──!まずい、やられる。

その瞬間、アルマが灰の式で霧を飛び出し、

シオンに斬りつけた。

ギィン!


シオンは剣で斬撃を受け止める。


「ほう。……霧を抜けるとはな。だが」


シオンは新たな霧を作り出す。

「アナエア」

シオンが呟くと、アルマの周りを霧が包む。

途端、アルマの動きが鈍る。

苦しそうな表情をする。

「酸素濃度を下げた。そのまま窒息するがいい」

アルマはその場に倒れこむ。


「フレアレイ!」

式が切り替わった瞬間を狙い、タツオが火線を放つ。

すると、シオンはアルマの霧を自分の前に移動させる。

火線は、シオンの目の前の霧に触れた瞬間、消えた。


「知らなかったか?酸素がなければ、火は燃えない」

シオンはそういうと、手をかざし——火線を放った。

赤の式!?

火線を食らい、タツオが燃え上がる。

「うわっ!!熱っ!」

俺はすぐに青の式を発動させ、それを消火する。


「今度は青の式か。なかなか良いチームのようだな」

シオンは余裕である。

紫の式に続いて——赤の式。

式術で戦ってきた俺たちにとって、式術で返された経験はない。


「次は、こんなのはどうだ?──オキシア」

また新たな霧を作り出し、それが俺たちと包む。

再び周りの空気が変わる。

途端、めまいと吐き気が襲う。


なんだ──なにをされた?


「酸素濃度を上げた。濃度が高い酸素は毒になる。

それに──赤の式を使えば引火する」


タツオの火力を封じられた。

頭が回らない。くそっ、強い。強すぎる。

このまま──やられてしまうのか。

その瞬間。地面が弾け、目の前に男が現れた。

刀がシオンの目の前に向かう。

シオンはそれを剣で薙ぎ払った。

「貴様ぁああ!シオン!裏切ったのかあぁ!」


──カイ=ムラサメだ。

横には、ナギとイエナがいた。


「カイ。それにナギか……こいつらはお前らの手先か」

剣と刀がぶつかり合う。


「なんで裏切った!セブンスロッドの誇りを忘れたのか!」

カイがすさまじい速度で斬りつける。

しかし、シオンもそれを捌いていく。


シオンの霧が解ける。

俺たちはその場に倒れこんだ。


「ユイト!」

イエナとナギが駆け付け、俺たちにヒーリングをかける。


「……助かった。さすがにダメかと思った」


「念のため、エーテルリンクの内容は二人にも聞いてもらってたの。

でもまさかいきなり戦闘になるなんて」


「……ああ。それも、今まで一番の強敵だ」


激しい応酬の後、カイとシオンは離れた。

一瞬の間ができる。

すると、カイは左足を前に出し、刀を頭上に掲げた。


「一の太刀を疑わず」

周囲の空気が変わるようにひり付く。

──奥義か。

「蜻蛉の構えか。古臭い剣技を、よく続けるものだ」

シオンはそれを見て笑った。


「死ぬぞ、シオン。降伏しろ」


「……相変わらず頭が悪いな、カイ」

シオンが言った直後。


カイの脳天に、雷が直撃する。

カイは構えのまま、地面に倒れこんだ。

雷の式術。

俺たちが振り向くとそこには……

黄の領主、ツバサが立っていた。


「ツバサ!?お前……まさか」

ナギが叫ぶ。


「連邦に加盟しましょう。もう式術が支配する時代は終わったんですよ」


「ツバサ……今お前が使った力はなんだ」

ナギが言う。その通りだ。


——式術を使いながら、式術を否定している。


「こんなもの、科学の前では子ども騙しですよ。

まったく歯が立たないことを、青の領が証明してくれたじゃないですか」

ツバサは言った。


——更に、敵が増えた。

そして、カイの剣も不発に終わった。

人数では圧倒的有利だが──勝てる気がしない。


アルマは倒れたままだ。

回復に向かうには、距離がある。

——万事休すか。


「さて。邪魔なバカ男も倒れたことだ。面倒くさいからまとめて殺してやろう。まずはそうだな──そこで震えている、何もできない青の領主からだな」

シオンは剣を再び抜くと、ゆっくりと近づいてくる。


「視界を奪うべ!ミラージュヴェール!」

ミサキが俺たちの前に出る。

シオンに向かって、ミサキが幻惑を放った。

正解だ。まずは態勢を整えなければ──。

しかし。

シオンは目をつぶったまま迷わずこちらへ向かってくる。

「──!」

ミサキは言葉を失った。

「お前らの場所など探知できる。幻惑など意味がないことが分からないか?」


「ミサキっ!避けろっ!」

俺は叫んだ。直後——

シオンは、ミサキに向かってためらいなく剣を振った。

直撃は回避できたが、肩を斬られ、その場に倒れる。

血が溢れる。


そして再び、俺たちに向かって呟く。

「オキシア」

再び、高酸素の霧が俺たちを包む。

ナギを残し、身動きが取れなくなる。

「お前らはそこでナギの最後を見届けるがいい。ナギ、言い残すことはあるか?——無力な無式者よ」


「くそっ……俺たち、七領は同じ国の仲間だろう……なぜ裏切るような真似を」


「仲間?俺とお前がか?」

シオンはそう言うと、大きな声で笑い始めた。

「笑わせるな。無の領の市民風情が。

俺は由緒正しきキサラギ家の長、シオン=キサラギだぞ。

お前らと一緒にするんじゃない。

式も使えないくせに式を守るなど、笑わせる。

——もういい。死ぬがいい」


くそっ、苦しい。式力が、発動しない。

このまま、何もできないのか。

すると、声が飛んできた。

「ユイト!白の式だ!」

アルマの声。起き上がり、叫んでいる。


そうか。

式力に頼るから、縛られる。


——式を、捨てればいい。


俺は、アルマとの修行を思い出した。

すべてを無に。心を無に。

無意識で発動していた緑の回復の式が切れる。

一気に高酸素の毒が体を周る。

しかし、これでいい。

直後、俺の体は白い光に包まれた。

そして。

紫の霧が、消滅した。


「…なに!?」

剣を振り上げていたシオンがこちらを見る。

その瞬間、俺は式力を解放した。

「トニトルス!」

雷が、シオンを直撃する。

──火は消せても、雷の速度にはかなわないだろう。


「シオンさん!」

ツバサが、俺に向かって雷を放つ。

しかし、俺は白の式を発動しそれを打ち消す。

攻撃と絶対防御。切り替えができれば、怖いものはない。


「お前の相手は僕がしてやるよ」

タツオが起き上がり、みるみるうちに火球を作り上げる。

それを見るなり、ツバサは怯えた表情をした。

「ひ、ひいぃぃ!」

その場を逃げ出す。


「ミサキ!大丈夫!?」

イエナがミサキの元へ駆け寄り、治療をする。

傷がみるみるうちに塞がっていく。


「……貴様らあぁぁ!どこまでも邪魔をする気か。全員殺してやる!」

雷に撃たれたシオンが立ち上がり、火球を作り出す。

それを、俺たちに放つつもりなのだろう。

だが、それが俺たちには届かないことは、分かっていた。


シオンの後ろ。

刀を上段に、左足は前に。

「──さっきのは不発だからな。これが一の太刀だ」

小さく呟く声が聞こえる。


直後、カイの体は視界から消え——シオンの体を両断した。

シオンの体は、上下二つに割れた。

作っていた火球は、シオンに着弾し、自らを燃やす。

「うぎゃああああ!!」

──断末魔の叫び。

何度聞いても、慣れない。人の死。


カイは、振り向くこともしなかった。

その後ろでは、シオンが自らの火で灰になっていく。

「じゃあな。シオン」

カイは一言だけ言うと、目をつぶる。


こうして、内通者探しの任務は終わった。


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