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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第三章

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第四十七話 祭りの後と、別れの言葉と。

頭が痛い。これが、二日酔いというやつか。

俺は、ハルカゼに強要され、昨日ついに禁断のラインを越えてしまった。

元の世界なら停学か退学か。

生徒会長にあるまじき行為である。

もう考えても仕方ない。

こっちの世界では十五歳で成人らしいし、気にするのはやめよう。

しかし、あれはアルコールハラスメントというやつではないのか……?

痛む頭を抱えながら、起き上がる。

一瞬自分の居場所が分からなくなるが、こっちの世界では珍しい布団を見て思い出す。

ここはクアドリス峰山頂の寺院だ。

周りを見渡すと、タツオとハルカゼ、サブが雑魚寝している。

タツオの足がサブの顔にかかっている。サブは寝苦しそうだ。

──もはや、テオロッドもトランジアも関係ないな。

俺は水を飲もうと部屋を出ると、

ちょうど隣の部屋から出てきたイエナと出会った。


「あ、ユイト。大丈夫?昨日、かなり飲んでたけど……」


心配してくれている。ありがとう、天使よ。


「うん、ダメかもしれない」


「ヒーリングかけようか」


「お願いします」


イエナが緑の式術を発動する。

もったいない使い方だ。

エネルギー源となる木々は寺院の周りにたっぷり生えている。

あっという間に緑の波動が集まり、俺の体を中和していく。


「おお。さすが。あっという間に全快だ。ありがとう」


「この前お世話になったし、お互い様だね」


俺は、前回イエナの暴走シーンを思い出す。

昨日は飲酒を防げたが、もう少しハルカゼに押されたら危なかった気がする。


すると、イエナに続いてミサキが部屋から出てきた。


「あーん?なにいちゃいちゃしてるべ」

目がすわっている。

顔が赤い。

……こいつ、二日酔いではない。

まだ酔っている。

続いて、キャハハハという甲高い笑い声が聞こえる。


「おーい、ミサキぃ。まだいけるっしょー。

ん……朝じゃーん。うけるー!」


アゲハである。


……こいつら、今まで飲んでたのか?

化け物か。

すっかり仲良くなっている。


「……この人たち、全然寝ないの。おかげさまで、私もほとんど寝れてないよ」

イエナがぼやく。確かに、目の下にクマが見える。

話をしていると、ハルカゼとサブも起きてきた。


「おはようさん。すっかり朝やな。しかし、いいところやで。自然たっぷりやし、飯は美味いし」


そう。確かに昨日の宴で食べた飯は美味かった。

二千年間の鎖国の中で、

この国は美食国日本のプライドを守り続けていたようだ。

そして、念願の調味料も発見できた。

醤油と味噌である。

この国には日本の魂が残っていたのだ。

俺はゼラドに交渉し、船に積めそうな量の醤油と味噌、

それに麹をもらった。

大豆の栽培はテオロッドでもできる。

これは、食生活のレベルが飛躍的に上がる。

ローディンも舌を巻くに違いない。

ペンディング中のガルフ篭絡作戦も更に進化できる。


「ハルカゼたちは、いつまでここにいるんだ?」

俺は、ハルカゼに聞いた。


本来の目的であるオルディア連邦入りの打診が無理となれば、長居する必要もない。


「せやな。もう数日いたら帰るわ。リーヴァの姉ちゃんからどやされそうだけど、関係ないわ。サブの言ってた通り、トランジアはあくまでトランジアや。オルディアの属国になったつもりはあらへん」

ハルカゼは、さっぱりした様子で言った。

その態度が気持ちいい。


「そうか。俺たちは、今日帰ろうと思ってる」


「今日?また急やな。もうちょい遊んでいこうや」


「船長を待たせてるんだ。次はセブンスロッドに行かなきゃならない」


外交上のルートを敵に伝えるのはどうかと思うが、

もう、ハルカゼを敵と思えなくなっていた。

俺が言うと、ハルカゼは「おお」と頷いた。


「七領会議の国やな。あそこはめんどくさそうやな」


「行ったことあるのか?」


「ない。けど噂は聞くで」


酔っ払ったままのアゲハが横から口を挟む。

「議会国家って、決めるの遅いんだよねー。あーいうのイライラする」


「お前は決断早すぎやで。ホンマに考えとるんか?」


ハルカゼが軽く頭をこづいた。


「超高速回転してるから早いだけだし」

サブは黙って立っているが、俺の方を見て軽く頷いた。


タツオはまだ起きてこない。

安定の寝ぼすけ野郎である。


「まあ、でもおもろかったな」

ハルカゼはそう言って、両手を頭の後ろで組んだ。


「テオロッドも、悪い国やなさそうや」


「まだ疑っているのか?」


「そらそうやろ。オルディアの言い分では、連邦中がそう思っとるで」


ハルカゼは肩をすくめた。


「でもな」


少しだけ真面目な顔になる。


「国なんて、外から見ても分からんもんや。

結局は、そこで生きとる人間を見るしかない」

それから、にやっと笑った。


「ユイトらは、まあ、いいやつらや」


「ありがとう。ハルカゼたちも、いいやつらだ」


俺たちは、黙って握手をする。

「オルディアにはうまいこと言っとくわ。やけど、次は何を仕掛けるか分からへん。セブンスロッドにも、連邦入りを仕掛けているはずや。気をつけえや」


「オルディアには負けねえべ」

ミサキが腕を組んで言った。まだ目がすわっている。


「おお、その意気やな。まあ、次に会うときはどんな形か分からんけど、また一緒に飲もうや」

ハルカゼは笑う。


タツオはサブの方を見て言った。


「花火、作れそう?」


サブは少し考えてから答えた。


「ああ。やってみる」


「分かんなかったら手紙くれれば教えるよ」


二人はそれだけで会話を終えたが、

地味に国交が成立している。


アゲハは大きく伸びをする。


「はーあ。さて、私もテオロッドについていくかあ。

こっち女子いないしー」


「勘弁してくれや、アゲハさん」

ハルカゼが即座に反応する。

「そんなこと言わんといてや。俺らを路頭に迷わす気か」


「もうちょい欲しいな」

アゲハが言葉を催促する。


「アゲハ様がおらんと、トランジアは成り立ちまへん!」

軽口の応酬。俺たちはそれを見て笑った。


準備を終えると、俺たちは寺院を出た。


トランジアだけでなく、ゼラドも、見送りに来てくれた。

「アルマを頼む」

俺は、小さく頷いた。


アルマは小さく頭を下げ、俺たちに合流した。


初めてスクエアから出ることに、少し緊張している様子だった。

俺は、ハルカゼに向かって言った。

「またどこかで会うかもしれないな」


「せやな」


ハルカゼは頷いた。


「また祭りやろうや」


「戦いじゃなくてか?」


俺が冗談で言うと、ハルカゼは少しだけ考えてから答えた。


「祭りの方がおもろいやん」


その言葉に、俺は少し笑った。


「じゃあな、ユイト」


ハルカゼは片手を上げた。


「死ぬなよ」


「そっちもな」


俺たちはクアドリス峰の山道を歩きだした。


馬車がないのは辛いが、今回は道案内人のアルマがついている。

往路よりは早く船に戻れるだろう。

クアドリス峰の広場が、ゆっくりと遠ざかっていく。


振り返ると、ハルカゼたちはまだそこに立っていた。


三人並んで、小さく手を振っている。


ミサキがぽつりと言った。


「……なんだか寂しいべ」


「そうだな。でも、きっとまた会えるさ」


俺は答える。


保証はどこにもない。

それでも。


いつかきっとまた楽しい夜を過ごせる。

そんな気がした。



アルマは、迷わず山道を進んでいく。

仲間というよりは、先導役のようだ。

俺たちも大分旅慣れてきているとはいえ、

そのペースについていくのに必死だった。

俺たちは行きは一日半かかった往路を、一日で踏破した。

夜の港。一角に、見慣れた船が停泊している。


フォーリナー号。


急に、故郷に帰ってきたような安心感を感じる。


甲板の上で、釣り竿を持って座っている男がいた。


マレク。想定していた二週間以内には帰ってきているが、

大分一人で待たせてしまった。

「早かったな、お前ら。もうちょいゆっくりしてくれば良かったのに」


マレクである。


横にある樽には、魚が何匹も入っている。

寂しくしていないか心配していたが、海の男は一人の時間も慣れているようだ。釣りを堪能していた様子だ。


「今日はかなり釣れたんだ。ちょうどいい。焼き魚で夕食にしよう」


「おっ。いいね。じゃあ、ちょうどいいのがありまっせ、船長」


俺は、クアドリス峰でもらってきた醤油を出した。


「なんだそれは?」


「すべての料理がおいしくなる、神の調味料です」


「ほう……それは楽しみだ。で、なにやら人が増えているが」


あ。紹介するのを忘れてた。


「こちらは、アルマ。スクエアの灰忍衆です。

色々あって、俺たちと一緒に旅をすることになりました」


「なんか、説明が雑だな……。まあいい。

アルマとやら、年はいくつだ?」


「十八歳」


アルマは一言だけ答えた。

俺と同じか、一つ上だろう。

小柄のため、見た目はもう少し若く見えるが、

精神的には落ち着いていそうに感じる。


「ユイトとタツオと一緒だな。まあいい。子守の人数が一人くらい増えても変わらんさ」


「私、子どもじゃない」

アルマがつっかかる。


冗談に慣れていないのか、顔面受けしている。


「アルマ、これはマレクの冗談で……」

俺は、フォローをする。


「子ども扱い、腹が立つ」

アルマはまだ怒っている。


その様子を見て、マレクは笑った。


「嬢ちゃん、すまねえな。まあ、これから長い旅になる。仲良くしようや」

白い髭をなびかせながら、樽から出した魚を串に刺した。


出発は、明日の朝。

悠久の国スクエアを発ち、議会国家セブンスロッドへ。

海へ山へ、そしてまた海へ。

俺たちの旅路も大忙しだ。


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