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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第三章

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第四十二話 世界の理と、白の式と。

翌日。俺たちは再びスクエアの長、ゼラドと対峙していた。

アルマも後ろに控えている。

灰忍衆と呼ばれた組織は、一体どんな立ち位置なんだろうか。


「まず、テオロッドの特使よ。この三百年が世界の歴史だと思わないことだ。長い歴史の中で、物事は循環している。アークネイヴァーがオルディアとなり、新たな歴史を生み出そうとするのも、また循環の一つだ」


ゼラドは、ゆっくりと語った。

アウレオ=テオロッドが作った式術が中心の現在の世界。

テオロッドの中ではそれが歴史として語られている。

式術学校で教わった歴史も、それ以降の話だ。


「まず、循環の歴史を教えよう。

あるいは、知っているかもしれぬが。

——赤のお主は、零式だろう。

我々の知る歴史は、霊峰ライゼルの〝図書館〟にも残してある。

あそこは、スクエアの民が作った場所だ」


「……確かに、雰囲気が似ていますね」

イエナが言った。

霊峰ライゼルに行ったことがあるのは、イエナだけだ。


「……霊峰ライゼルには、今俺たちの仲間が行っています。

まだ、〝図書館〟最深部には行っていません」

俺が続けた。


「そうか。世界の歴史は時に残酷だ。

知らなくていいこともある。

知る人間を制御するために、

選ばれたものしか知れないようになっている。

お主たちは……今世界の真ん中にいる。知ってもよかろう」

ゼラドは俺たちを見まわしてから、言った。


「まず、世界の理だ。世界には、まず白が生まれる。

白は人々に新たな力を与えるきっかけとなる。

今の世界の式術は、ある一人の男から始まった。

お主たちの知る歴史では、式術の祖はアウレオ=テオロッドだろう?

彼は白の男からきっかけをもらったにすぎない。

すべての始まりは、白だ」


イエナは、黙って聞いている。

幼き頃から聞いていた常識が覆る。

衝撃もあるはずだが、表情を変えない。


「そして、時が流れると、必ず黒が現れる。

それと同時に、世界からは式術が失われる。それが、循環の理だ。

循環にかかる時間は、様々だ。短い時もあれば、長い時もある。

式術が悪い方向に進化したとき、黒は現れる。

その意味では、今のテオロッドは──式術を正しく扱っていると言えよう。三百年の歴史がそれを表している」


ゼラドは、イエナを見てそう言った。

イエナは、黙って頷いた。

テオロッドが目指していたもの。

正しく式術を使い、世界を平和に、それぞれの自治の元統治すること。

それが間違っていなかったと感じたのだろう。


「だからこそ、お主の存在は理から外れている」

ゼラドは俺を見て言った。

「本来、白は一つの歴史が閉じてから現れる存在だ。

今、世界の歴史は閉じていない」


確かにそうだ。

この世界の理からは外れている。

そもそも異世界からきている時点で理もなにもない気がするが。


「過去、短い歴史があったんですか?」

俺は、ゼラドに聞いた。

テオロッドの三百年が長いというのであれば、

過去の世界はもっと早い循環をしてきたということだろう。


「我々の存在が、それを示している。

二千年前、白が生まれ、式術が世界にあふれた。

その後、人々は式術を殺し合いに使った。

またたくまに世界は乱れ、崩壊の危機になった。

残念ながら白の式者そのものは式力は強くない。

止める力は、なかった。

そして、黒の式者が、すぐに誕生した。

理に従い、世界から式術は消えた。

しかし、その後、起きてはならないことが起きた」


「……なんですか?」


「白の式者と、まだ十代の娘だった黒の式者が、出会い、そして惹かれ合った。

本来対をなす存在だ。

惹かれ合うのは、ある意味必然とも言える。

同じ時代に生まれてしまったこと、それ自体が歯車を狂わせたのかも知れぬ。

——そして生まれたのが我らの先祖。

灰の一族だ。

理から外れた禁忌が生み出したのが、スクエアという国だ」


一族が、国そのものが理から外れた国。

それをわきまえ、二千年間、身を潜めた一族。

悠久の国、スクエアの謎が見えてくる。


「本来、我々は存在してはならない。

以来、灰の子孫は存在を隠すようにこの山の中で暮らしている。

厄介なことに、白と黒から生まれた灰の式は、優性遺伝する。

──白はすべての色を生み出すというのにな。

灰は、どの色との間でも灰の色が生まれる。

我々は、本来の理を見守る存在として、身を潜めて生きてきた。

それから、新たな白が生まれ、黒によって無に戻る循環を、見守ってきたのだ。観測者としてな」


「……この二千年で、式術は生まれては滅びてきたということでしょうか?」

イエナが聞いた。


今の話を要約すると、そう言うことになる。

そして、俺の存在は——どう位置づけられるのだろうか。


「スクエアに伝わる歴史では、その通りだ。

時代によって式術は名前が異なる。

魔術と呼ばれたり、魔法と呼ばれたりしていた。

あえて忌むべき〝魔〟の言葉を避けたのは、アウレオ=テオロッドの最も大きな功績かもしれないな」


魔術。魔法。

俺には余程聞き馴染みのある言葉だ。


もしかすると、元の世界でも同じことが起きていたのかも知れない。

魔女狩り、という言葉が頭をよぎる。

あれは黒の式術の——違ったあり方だったのではないか?


「この二千年で、今式術と呼ばれる力は何度も生まれ、滅びている。

灰の式者を生み出した白の式者。

我々は過ちを繰り返さないために、観測者となった」


世界の秘密。

それを知ってなお、俺の存在の意味は見出せない。


「……本来は次に生まれるのは黒、ということですよね?」

俺は聞いた。


「テオロッドが式術の扱いを間違えれば、あるいは。

しかしその兆しはなかった。そして、滅びの前に白が存在したことはない。

——理が崩れているのかもしれない。あるいは、お主が理を壊す存在やもしれぬ」


本来の白は、次世代に式術者を生み出す、いわば製造装置的な役割ということだろう。

そもそもがイレギュラーな存在。

ゼラドは俺の方を見据えて言った。


「白のお主は、あるいはここで生きていくべき人間かもしれん。灰の式術は、白と黒を行き来して成り立つ式だ。

まずはここで白の使い方について知っていく方がいい。

——アルマ。彼を〝原理の間〟に連れていけ」


「原理の間——こちらにもあったんですね」

イエナが反応する。


「お主は、霊峰ライゼルに登ったのだな。

あの石を加工できるのは、黒の血を引く我々だけだ。

もっとも、黒の式者がすでに現れていれば別だが」


「分かりました。お前、修行に行くぞ」

アルマはそう言うと俺を手招きした。


「ユイト」

イエナに声をかけられる。


「気をつけて。多分、かなり体辛いと思うから」


え?体きついの?

嫌なんだけど……。

俺はアルマに催促され、仕方なく寺院の外に出た。


寺院から少し歩いたところに、洞窟があった。

中に入ると、広い空間が広がっていた。


真ん中には、黒い石が置かれている。

その瞬間、体から式力が抜かれるような感覚になる。

——体が重い。


まるで、重力室みたいだ。

入ったことはないけど……。


アルマは平気な顔をしている。


「辛いか?それ、まだ白の式を理解していない」


「……どういうことだ?」


俺は重い体を動かすのに必死だった。

息が切れる。


「白の式は、式力を使わない。見ていろ」

するとアルマは、俺の目の前から、遠くの場所へ瞬間移動した。


「……その技か。それはどうなってるんだ?」


「白は、無の状態。黒は、有の状態。黒の自分を行きたい場所に創り出すと、そこに白の自分が引っ張られる。そして、一つになる。それが瞬間移動。これ、灰の式者しかできない」


「……じゃあ、俺はできないじゃねえか」


俺がそう言うと、アルマは頷いた。


「普通、原理の間では式力をとられた状態で式術を使う。

そうすると、式力が強くなる。

でも、お前は完全に無にするやり方を覚えたほうがいい。

白の本質は、無だ」


「……今、無になってないか?」

式力を鍛えてきたこの数ヶ月の中で、初めて式力が奪われる感覚を感じている。

どの色も、押さえつけられている感覚。


「無意識に、式力を使おうとしている。全てを黒の石に委ねろ。何もない自分を想像しろ」


これ以上気を抜いたら、倒れてしまいそうだ。

しかし、アルマはそれを求める。


「安心しろ。気を失ったら起こしてやる」

アルマはこともなげにそう言った。


なかなか厳しい師匠だな……。


俺はその場に座り、黒の石に式力を奪われるがままにする。

体から、どんどん力が抜けていく。


必死に意識を保とうとする。


しかし、直後。

俺は気を失った。




顔面に冷たい衝撃を感じる。

目を開けると、アルマが空の桶を持っていた。

どうやら、冷水をかけられたらしい。


体は、まだだるい。

風邪を引いた時のようだ。


「その状態で、意識を保て。今お前からは式力を感じない。

それを維持できれば、白が発動する」


白はつまり無。

サイレスの予想していた、全ての色を極めれば白になる、とはまったく逆の発想らしい。


俺はその練習を繰り返した。

倒れそうになる度に、無意識で緑の回復術を発動したくなるが、それをぐっと堪える。

その度に意識が遠くなる。

ブラックアウトを繰り返す。


その度にアルマは冷水をかけ、俺を起こす。


こんなん続けてたら死んじゃうぞ。


何度目だろうか。

意識が飛びそうになった瞬間、体が急に楽になった。


体から、白い光が薄く光っている。


「成功だ。その状態が白だ。式術が効かない状態になる」

アルマが言った。


「え?無敵状態ってことか?」


「物理攻撃は防げない。が、式力による攻撃は効かない。

——例え、零式でも」


なんと。それは凄い。

タツオのインフェルノさえ無効化できるということだろうか。


「ただし、その間は当然式力は使えない。切り替えられる訓練をしろ。式力を解放している時と、無にしている時。

それができれば、式者との戦闘では負けない」


確かに。しかし、たまたま発動したが、切り替えとなるとまだまだ練習が必要になりそうだ。


正直かなりしんどい。


「……それ、明日じゃだめか?」


「明日もやる。でも、今日もまだやれる」


ものすごいスパルタ師匠だ。

俺はそれからも何度も気絶を繰り返し、修行を続けた。


脳みそがぶっ壊れちゃうんじゃないか……。



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