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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第二章

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第三十五話 ブルーオーダー帰還と、新たな指令と。

翌朝。新居の寝室は、かなり広く落ち着いて眠れた。


俺は大きく伸びをする。

そして寝覚めのコーヒーを……ないんだった。

この異世界に来てもう数か月が経つが、

長年培ったモーニングルーティンは意識より体が覚えているものらしい。

そのうち、コーヒーも探さなきゃいけないな。

俺は諦めて、タツオのお手製アナログ冷蔵庫で冷やした水を飲んだ。

すると、呼び鈴が鳴った。

俺は寝巻のままそれに応対する。

朝から一体なんだ。

すると、そこに立っていたのは、イエナだった。

「おはようございます、ユイトさん。……寝起きですか?」


しまった。油断していた。まさかイエナとは。

俺はすっぴんを見られた女子みたいな気持ちになった。

いや、分からないけど。


「イ、イエナ!こんな朝からどうしたんだ?」


「レオニス王に呼び出しがありました。皆を連れて来いって。どうやら、ブルーオーダーが戻ったみたいです」


「え?レインたちが?随分早くないか?」

「そのことで緊急招集みたいです。タツオさんやミサキは?」


「まだ寝てる……あ、イエナ、ミサキ起こしてきて」

俺とイエナは二人を起こし、出発の準備をした。

向かうは王宮会議室である。


……なんとなく、嫌な予感がする。

朝からの招集。そして、会議室。

アレクシオに何かあったのか?

それとも、霊峰ライゼルで何か問題が?

俺は嫌な予感を抑え込むように歩いた。


会議室に着くと、すでにブルーオーダーが座っていた。

レインが片手をあげる。

しかし、テリーズとアレクシオの姿が見えない。

「レイン! テリーズさんとアレクシオは……?

なにかあったのか!?」

レインは、いつもより少しだけ真面目な顔をしていた。


「落ち着け、ユイト=カタギリ。テリーズさんも、アレクシオも無事だ」


レインが答える。


良かった。ひとまず危険な状況ではなさそうだ。

「でも……お前たち、戻りが早くないか?霊峰ライゼルに行ったんじゃないのか?」


俺は聞いた。

レインは頷く。

「ああ。〝原理の道〟の三千段は、地獄だったぞ。

本来はライゼルで式力を強化する修行をしてくる予定だったが……予定が狂った」


「オルディアが、動き始めているようだ」

レオニスが話を遮った。

「霊峰ライゼルに、オルディアの使者らしき人間がいたとのことだ。

あくまでレインたちの報告だが、恐らく……赤の零式」


「赤の零式……?式者が、オルディアにいるんですか」

俺は、タツオの髪を見ながら言った。

この世界に来た時よりはるかに鮮やかに染まった赤。

この色が、零式の証明でもある。


「これまで、聞いたことがない。式者でない人間や家系が集まってできた国だからな。それも零式など……式術研究所でも認知できていない」

サイレスが答える。


「その使者……エルデネと名乗った女は、第三層まで行った可能性が高い」

レインが続けた。


第三層。サイレスが言っていた、〝入れなかった〟場所。


「式にまつわる重大な情報が、オルディアに持ち帰られた可能性が高い。第二層以上の機密情報だ。誰かが第三層に行く必要がある」

サイレスが言った。

その瞬間、皆の視線がタツオに集まった。

この中、いや、テオロッドにいる零式は、タツオだけだ。


「僕が行けってことかな?」

タツオが自分を指さしながら言った。


「最短距離だとそうかもしれない。だが……

私はアレクシオを信じたい」

レオニスが言った。

補足するように、レインが頷いた。

「アレクシオは、自分が零式になって情報を持ち帰ると約束してくれた。ライゼルでの厳しい修行も、必死で乗り越えていた。

きっと彼ならやってくれると思う」


「アレクシオが、初めて自分でやり遂げると決めたことだ。

——親馬鹿かもしれないが、見届けたい。

それに、タツオ……いや、君たちにはやってもらいたいことがある」

レオニスが言った。

「中立国家、スクエアに行ってほしい」



「スクエア?」

 俺は記憶をたどるが、聞いたことのない国名だ。



「スクエアは建国以来、領土保持のみ徹底し、国家間の争いに不参加を表明している国だ。修験道を軸とし、王政でも民主制でもない」


「じゃあ、無害だべ」

ミサキが言った。普段はきゃーきゃー言っているが、

こういう時の理解はすさまじく早い。



サイレスが補足する。

「本来であればな。だが、連邦入りを画策されているという情報が入った。主幹はオルディア連邦のトランジアだ」


トランジア。オルディア連邦の貿易国家。

元の世界の地図に合わせると、関西地方に位置する。


「連邦入りを阻止する、ということですか?」


俺は聞いた。

「スクエアが連邦になびくとは思えないが、オルディアが武力行使に出れば、どうなるか分からないからな。

まずは、現状を把握したい。そのための調査だ。

旅が続いてしまうが……行ってくれるか?」

レオニスは、少し申し訳なさそうに言った。


嫌な予感はこっちだったか。

やっとゆっくりできると思ったのに、

世界情勢はそれを許さない速度で動いていく。


「……分かりました。地図、ありますか?」

俺がそういうと、レオニスは円卓に地図を広げた。

レオニスが指したスクエアの場所は、元の世界で言えば四国地方である。そして、海を挟んで対岸にトランジアが位置している。


「スクエアの情報はありますか?」

俺は聞いた。


「現状、テオロッドとスクエアに国交はない。

数十年前の記録では、山奥の寺主が主権を持っているとある。山の名前は──クアドリス峰」

レオニスが答える。


サイレスがそれに続くように補足する。

「スクエアの歴史は古い。テオロッドの建国よりはるか昔……二千年前から続く国だ。ほぼ他国との国交はない。

そして、もう一つ。ユイト、灰の式を覚えているか」


灰の式。忘れようもない。

アークネイヴァーで交戦した、白と黒のツートンカラーの女。

ためらいもなく俺の腹を刺した、あの冷たい瞳。

影分身のような式術と、瞬間移動。

エイル、とグラディオに呼ばれていた。


「灰の式は……スクエアにしか存在しない式術だ。

古の幻の式と言われている」


オルディアの底が、見えなくなる。

科学主義を標榜しながら、古の式を使う暗殺者を雇い、

今度は赤の零式まで現れた。

一体、世界のどこまでその触手を伸ばしているだろうか。


新たな脅威の出現と、底が見えないオルディアの策略。

世界は、俺たちを休ませる気がないらしい。



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