表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/87

第三十四話 引越と、料理長と。

王宮から少し離れた場所。大きな門の前に、三人は立っていた。


「……想像以上だな」


俺は思わずそう言った。

なかなか元の世界ではお目にかかれない、いわゆる豪邸である。

しかも平屋。日本円なら何億円するんだろうか。

庭付き一戸建てである。


家が決まったら、次にすることは決まっている。

引越である。

俺たちは翌日、早々に引越をはじめていた。

もともと異世界から流れ着いた身だ。

そんなに荷物は多くない。

俺の荷物は木箱一箱に収まった。

俺は、なぜか荷台にいっぱいの荷物を積んだタツオとともに

寮からの道のりを歩いてきた。

途中、同じく荷台を引いたミサキと偶然合流した。


「ユイト、荷物それだけだべか?」

ミサキは驚いて言った。


「逆になんでそんなに荷物があるんだよ……」

引越先は家具がそのまま置かれていると聞いている。

つまり、持っていくべきものはせいぜい衣類くらいだと思うのだが。


十五分ほど歩くと、我らが新居に到着する。

新居とは言っても、前の住人が数十年住んでいる中古住宅だが。

玄関を開けると、開放的なリビングが広がる。

これまた、調度品も含めて豪華な造りである。


「……ここ、家賃とかどうなってるんだ?」


俺はタツオに聞いた。


「レオニスは、しばらく無料でいいって言ってたよ。

王宮の仕事を大分手伝ってもらってるからって。

そういえば、今回の仕事の報酬ももらってきたよ」


そういうとタツオはどん、と金貨が詰まった袋を机に置いた。

かなりの量である。


「なんじゃこりゃ。一体いくらあるんだ?」


「一億ソルだって。三人で分けてくれだってさ」


タツオが答えた。

円にすると、八億五千万円くらい……?

そんなものをこんな無造作に、しかもこんな適当に人間に預けるなんて。

レオニスもどうかしている。

三等分しても、三億円近い。


いわゆる一市民の生涯年収くらいもらってしまったということか。

国にとってもブレイヴェンおよびマルカドールとの関係構築は、それほどまでに大きかったということだろう。

当面、生きていくことに困らないのはありがたい。

もらえるものはもらっておこう。


「さて、部屋割りはどうしようか。僕は正面の部屋がいいんだけど。作業するには、広い部屋がほしくて」

タツオが荷物を置きながら言った。


間取り的には、玄関を入ると左右に二部屋ずつ。

正面に大きな一部屋という作りである。

おそらく本当は六部屋あるところを、正面の部屋だけぶち抜いて五部屋にしていると言った形だ。


「じゃあ、俺は左の手前でいいよ。隣の部屋も荷物置き場にする」

俺は言った。


「私は、右の手前にするべ。隣はクローゼットだべ」

ミサキが続く。


意外とすんなり三人の部屋割りは決まった。

荷物部屋にする、とは言ったが、

俺はほとんど荷物はない。


タツオは冷蔵庫作りやら色々と実験をしているようなので、

そっち関係の荷物を荷卸している。


ミサキは荷台に積んできた大量の服を自室の隣部屋に持ち込んでいる。

実質、ウォークインクローゼットだな。


ひとしきり搬入と設置が終わると、俺たちは居間で一息ついた。


居間の真ん中には大きな机とソファがあり、

くつろぐには最適な環境が整っている。

その奥には、カウンターキッチンのような作りの厨房。

前の住人は、料理にもこだわりがあったように見受けられる。

タツオは厨房の方に歩いていくと、大きな木箱をそこに設置している。

その隙に、俺はミサキに耳打ちした。


「なあ、なんでこうなったんだよ?」


タツオと一緒に家を探すだけのはずだったのに、

まさかの三人ルームシェア。

どんな作戦を実行したのか確認しておこう。


「どうしたもこうしたも……ガンガンいったら、こうなったべ」

ミサキも小声で返す。


「まあ、結果的にはよかったのか?首尾はどうだ、順調か?」

俺は続ける。


「……まったく手応えがないべ。一緒に住むのもあっさりOKだったし。意識しているかけらも感じないべ」


うーむ。ダメか。

難攻不落のタツオ城のメンタルは、ちょっとやそっとじゃ崩れないようだ。

いや、そもそもメンタルなんてあるのか?

ある意味、最も難しい恋愛作戦の参謀となってしまったのかもしれない。


「よし、設置できた」

タツオが作業を止め、こちらに戻ってくる。


「それ……前から作っていた冷蔵庫か?」

俺は聞いた。


「うん。試作品。氷があれば、冷やせるはずだよ」


「氷はどうするんだよ」


「シャインが青の式で氷出してたって言ってたよね。

ユイトやってみてよ」


「……やるだけやってみるけど」


俺は手をかざす。

小さな氷の塊ができる。


「これが限界みたいだな」


「うん。何回かに分けてやっていこう」


「簡単に言うなよ」


科学でやれよ、と言いたいところだが、


テオロッドの技術ではほど遠い。

オルディアの技術──それこそ、ノクスの力があれば、

冷蔵庫も夢ではないのかもしれない。

諸々、発展させられるのは、この世界のゴタゴタが片付いてからだな。


そんなことを考えていると、玄関の呼び鈴が鳴った。

来客だ。引越初日に、誰だろう。


「はーい。いまいくべ」

ミサキが玄関に向かう。


玄関のドアが開くと──そこに立っていたのはイエナだった。


「お引越し、おめでとうございます」


手元には、菓子折りらしくものを携えている。

「待ってたべ!さあ、皆で引越祝いやるべ」

ミサキがイエナを手招きし、居間に誘導する。

グッジョブミサキ。恐らく、声をかけていたのだろう。


「わざわざ来てくれたのか」

俺は突然の来訪の喜びを隠しながら言った。


「王宮からも近いですから」

イエナは中に入ると、広い居間を見回した。

「……いいですね。私も住みたいなあ」


ドキッとする話をする。


確かに、この四人は長旅をした中である。

一緒に住んだとしてもおかしくはない。

いや、本音を言えば、一緒に住みたい。


「イエナも住めば?」

タツオが急に言い出した。


そうだ。それが叶うならとても嬉しいのだが。


「ガルフさんが許してくれないべ」

ミサキが言った。


うん。だろうな。


「もう少し頭の柔らかい父だといいんですが……でも、たまに遊びに来ますね!」


「いつでも待ってるべ!」

ミサキが言うと、イエナは持ってきたお菓子を取り出した。

小麦粉を焼いたものに砂糖をまぶした、簡単なビスケット。

それでも、この国の食べ物の中では美味い方だ。


俺はそれをつまみながら、ガルフ篭絡作戦の次の手について考えていた。

やはり、キーマンはガルフである。


風呂は、サイレスの協力もあり準備が進行している。

次の武器は、胃袋を掴む料理。


そば、わさび、米。カードは増えた。

後はどうやって戦うかだ。


俺は、あの男を思い出す。

料理長、ローディン。

式術を諦め、料理に命を注ぎ、一度は諦め、

——それでも帰ってきた男。


不屈の料理人、ローディン。

彼なら、きっとよいアドバイスをくれるだろう。


それに、新しい食材も提供しておきたい。

栽培、収穫フローまで、情熱を持って取り組んでくれるに違いない。


その後談笑をすると、イエナが王宮に戻るというので、俺は送っていくことにした。

ローディンに話に行くという口実もある。

久しぶりの二人での並びに、少し緊張する。


「まさか三人で住むとは思っていなかったよ」

俺は話題を探す。

「あれ?ユイトさんの希望じゃないんですか?」


「違うよ。二人で勝手に決めてきたんだ。俺の希望だったら……」


あ。危ない。

イエナと住みたいと口に出そうだった。


「希望だったら?」

イエナは聞き返す。


「も、もう少し狭い家にするかな。掃除が大変そうだ」

俺は焦って適当にごまかした。


「でも、皆で住むなんて楽しそうです。私は同世代と過ごしたことがあまりないですから」


「そうなのか」


「幼少期から式者として鍛えられ、十五歳で霊峰ライゼルに登ってからは、式術者兼特使として働いていますから。

この非常時に不謹慎かもしれないけど……。

皆さんと旅ができて楽しいかったです」


意外だった。いつも明るく聡明なイエナは、

てっきり充実した学生生活を送っていたのかと思っていた。


「世界情勢が落ち着いたら……ちゃんと旅をしたいですね」

そういって笑った。


「そうだな。また、ブレイヴェンやマルカドールも行きたいな」

俺は、平和な世界でのんびりイエナと旅をする妄想を浮かべた。


新しい土地。新しい国。二人で見つける喜び。

いや、タツオとかミサキがいても楽しいんだけど。

なんとなく二人を想像してしまった。


「まずは、世界平和!ですね。

——頼りにしてますよ、リーダー」



イエナと別れた後、俺はその足で寮に向かった。

ローディンは、生徒向けの料理を仕込んでいるところだった。


「おお。ユイト。久しぶりだな。旅はどうだった?」

髭面の、父とも呼べる年齢の友人は、早速本題に入った。


「喜べローディン。大収穫だ」


俺は、そば、わさび、米をローディンに見せた。

わさびは栽培が難しいかも知らないが、ブレイヴェンとの交易で手に入れればいい。

そばと米はテオロッドでも栽培できる。


「栽培については、レオニス王に打診しておく。

ローディンは料理のアイデアを考えてほしい」


「分かった。栽培ができるまでは量が限られているからな。慎重に考える。それと……この黒いのはなんだ?」


ローディンは、俺が並べた食材の一つに興味を持った。


「これは……昆布だ。魔法の海藻だ。これがあれば料理が劇的に変わる」


そう。俺はタツオたちに服の返品をさせている間、マルカドールのマーケットで、食材と調味料を発見していた。

迷わず持てるだけ買い込み、馬車に積んであった。


「なんだと……どう使うんだ?」

ローディンは唾を飲み込み言った。


「水に一体時間つけるだけだ。やってみろ。……飛ぶぞ」


ローディンは、水を煮立て、そこに昆布を入れた。

十分ほど煮立て、ひとすくい煮汁を飲む。


すると、ローディンは目を見開いた。


「ユイト……これは芸術だ」


「そうだろう。そして、もう一つ頼みがある。

——これを舐めてみてくれ」


俺は、黒い液体を差し出す。


「なんだ……すごい匂いだな。うおっ……塩辛いな」


魚醤である。

俺も試食はしているが、味は強烈である。

だが、調理に使えば劇的な進化が見込めるに違いない。


「こっちは、あくまで飛び道具的に持っておいてくれ。

お願いしたいのは……醤油作りだ」


「醤油?」


「同じ発酵食品だが、俺の国では、昆布と同等、いやそれ以上の存在だった。時間はかかるかもしれないが、挑戦したい」


俺は、タツオから事前に仕入れと醤油の作り方をローディンに伝えた。

材料は、テオロッドの国内にすでに存在している。

大豆、小麦、塩。

かなり時間はかかる。それでも、取り組む価値はある。

この国の産業のために。

いや、俺の嗜好のために。


「ユイトの話が本当なら、すべての料理に革命が起きるな。

時間はかかりそうだが」


「ああ。それに、肝心の麹菌がない。

そっちについては、うちの理系男に相談しておく」


醤油のない生活はまだまだ続きそうだが、

光は射した。

米とそばの栽培に成功すれば、それだけも素晴らしい成果だ。

着実に俺の食生活は改善していく。


俺は、ローディンと対ガルフ篭絡作戦に向けた料理について議論をした。

表向きは、王族を招待した成果のお披露目会、ということにしてある。

順調にいけば、決戦は残り一週間を切っている。

それまでに試作を含めて詳細を詰めておかなければいけない。


打ち合わせを終えると、俺は今度は温泉の候補地に向かった。

作業の進捗状況を確かめたい。


サイレスに頼んでおいた職人は、俺が渡した設計図に基づき、

既に作業に入っていた。


着々と、施設が組みあがってきている。

素晴らしい。


俺がその様子を見ていると、頭にヘルメットのような防具をつけた

サイレスが図面を見ながら指示出していた。


「なにしてるんですか……」

俺は声をかける。


「おお、ユイト。いや、研究所にいても落ち着かなくてな。

早くこの施設の完成を拝みたいあまり、気が付いたら現場監督の真似事をしていた。お前の図面を一番理解しているのは私だしな」


確かに、図面についてはサイレスと何度も話し合って決めた。

どこにサウナを置くか、仮眠室の広さはどうするか、テオロッドの国民性や集客見込を踏まえて決定している。


「なんか、思ったより早くできそうですね」

サイレスに職人の依頼をしたのはわずか数日前である。

しかし、すでに建物の土台は組みあがっているように見える。


「国家事業を止めてこっちに職人を回したからな。

現在数百人が稼働している」


「国家事業って?」


「レオニスの墓だ」


……笑えない。


「勘違いするなよ。レオニスの決定だ。死人より、未来の国にこそ投資すべきだ、とな」


素晴らしい名君である。

どこかの国の王様に聞かせてやりたいところである。

まあ、元の世界の話だけど。


俺は現場をはりきりまくるサイレスに任せ、

家に帰った。


作戦準備はいいペースで進んでいる。


しかし、物事は思うように進まないのが世の常である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ