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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第二章

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エピソード・オブ・アレクシオ 原理の間

〝図書館〟の第一層は、音のない空間だった。

広い空間に、規則正しく並ぶ書架。

分類は色ごと、年代ごと。整然としている。

一言で言えば、無駄がない。

中央を歩いていると、背後から声が落ちる。

「閲覧は自由です」

感情がない、〝編纂者〟の声。

目は開いているが、見ているのか分からない。


アレクシオは、試しに一冊の本を抜き取った。

革表紙の装丁に、歴史を感じさせる。

刻まれた文字。

『テオロッド家系譜』


「……こんなのもあるのか」

王宮にも家系図の記録はある。

だが、ここには別の視点があった。

アウレオ=テオロッドから続く、

十五代の歴史。それぞれの式位。寿命。戦歴。

その中に、

エリサ=テオロッド

セレフィア=テオロッドの名を見つける。

故人となると、追加されるのだろう。

本には、まだ十分な頁が残されている。

いつか、父や、自分もここに載るのだろう。

胸の奥がわずかに揺れる。


編纂者は何も言わず、ただ、立っている。

アレクシオは本を戻した。


やがて、石床の奥にある螺旋階段に目が向く。

下の階に続いている。


「……あれは?」


「第二層です」

〝編纂者〟の無機質な声が響く。


「二式以上の者のみ、入れます。興味があれば、どうぞ」


アレクシオは振り返る。

「俺が入れるって、なぜ分かる」


「その判定は我らではありません」

視線を動かさず、〝編纂者〟は答える。

「〝図書館〟が決めます」


意味が分からない。

「降りれば、分かります」


それだけ。説明はない。


「こういうことだ」

テリーズは、先に階段に向かっていく。

階段に一歩踏み出そうとした瞬間──

目に見えない何かに弾かれたように足が止まった。

何もない空間で、動けない。

編纂者の声。

「資格が足りません」


「二年前に来た時と一緒だ。

私はもちろん、イエナも弾かれた。

お前ならいけるだろう?アレクシオ」


アレクシオは階段へ足を向ける。

一歩。

空気が、わずかに重くなる。二歩。

胸の奥が、微かに震える。

三歩。


階段の下から、冷気が上がってくる。

ここからは一人。


アレクシオはさらに降りる。

足音だけが響く。

第一層の乾いた紙の匂いは、すでに消えていた。

冷たい。

石の温度だけが、空間を支配している。

どれくらい降りたのか分からない。

やがて、階段は途切れた。


第二層。そこは、広い石室だった。


書架はない。

机もない。

装飾もない。

中央に、ただ一つ。


巨大な石碑。


天井は高いが、光は少ない。


どこからともなく差し込む淡い明かりが、碑面を照らしている。

音は、ない。

風もない。


呼吸の音だけが、やけに大きく聞こえる。

アレクシオは、ゆっくりとその石碑に近づいた。



刻まれた文字は古文だった。

だが、なんとか読める。アレクシオは、それを目で追った。


原初に白と黒ありき


これぞ万の式の始まりにして また終はりなり


白と黒とは 表裏一体にして相離るることなし


黒は万を染め 万を無へと還すものなり


白は万を包み 万を受け入るるものなり


巡る時の中にて 対となりて現る



これは……式の話か?

白がはじまりで、黒が終わり、ということだろうか。


白、と聞いて思い浮かぶのは一人だけだ。

だが、それが何を意味するのかは分からない。


アレクシオは、これまで聞いていた歴史と違う部分に違和感を覚える。


式の祖はアウレオ=テオロッドであり、

原初の式は黄の式だと聞かされてきた。


ここに書いてあることは……式術学校でも教えていない。


これを、見た王族はいるはずだ。

サイレス、セレフィア。

──二式以上の王族。


なぜこの話が隠されているのだろうか。


テオロッドに戻ったら問い詰めなければいけない。

そして、第三層にはなにがあるのだろうか。


アレクシオは、更に続く螺旋階段に足を踏み入れる。


すると

──その足が見えない何かに弾かれる。


……資格不足、ってことかよ。


アレクシオは、小さく舌打をし、第一層に戻った。

そして、〝編纂者〟に聞いた。


「なあ。第三層って、どうやったら入れるんだ?」


「最深部は、零式を超えたものだけです」


零式。セレフィアは入った、ということだろうか。

それとも、零式になる前にここに来たのだろうか。


「過去、入ったやつはいるのか?」


「この〝図書館〟を作ったアウレオ=テオロッド以降、

誰も入っておりません」


なんということだ。

三百年間。封印された場所。

そして、セレフィアは入っていなかった。

恐らく、ここを訪れた十五歳の時には、

覚醒前、一式か、二式だったのだろう。


「分かった。じゃあ、俺がはじめてのお客さんになってやるよ」

アレクシオは言った。


「なんだ?やる気になったのか?

テリーズは言った。


〝図書館〟を出ると、改めて空気の薄さを実感する。


「テリーズ。ここに何日滞在するんだ?」

アレクシオは聞いた。


「さあな。お前次第じゃないか」

テリーズは少し笑って答える。


「テオロッドの王子。修練をお望みですか?」

〝編纂者〟が突然言った。

いつの間にか真横に立っている。


「ああ。原理の間を案内してくれ」

アレクシオに代わって、テリーズが答える。


原理の間?

一体どんな間なんだ。


〝編纂者〟に連れられ、街並みを抜けていく。

街並み、と言っても建物は無機質で、ほとんど生活感がない。

それでも、道で何人かの人々とすれ違う。

皆、頭巾を被っていて、表情が見えない。


不気味な場所だ。


街のはずれに、修練場とおぼしき広場があった。

その奥に、薄暗い洞窟が見える。


「ここが、修練場。洞窟が、〝原理の間〟です。

宿は時間までに来てください」


そういうと、〝編纂者〟は去っていった。


テリーズはそのまま奥の洞窟に歩いて向かっていく。


「なあ。〝原理の間〟ってなんなんだよ」

アレクシオは足早に歩くテリーズの後ろから聞いた。


「イエナは、三日しか持たなかったな。

まあ、それでも飛躍的に式力が伸びたが」


「なんだ?何か式力をあげてくれる場所なのか?」


「いや──逆だ」


「え?」


「〝原理の間〟に入ると、その間式力はほぼ無になる。

その状態で式を訓練することで地力をあげる──らしい。

私には式力がないのでよくわからんが。

イエナは三日で六式から四式まで上がった」


「じゃあ……二式の俺がやったら……」


「どこまで上がるかは分からんがな。

ただ、相当しんどいと思うぞ。あのイエナが、

泣きながら帰りたいと言っていた」


はじめる前に、嫌なことを言う。

アレクシオは強がって言った。


「だったら一週間だっていてやるさ!」



洞窟に入ると、中は広い空間が広がっている。

式術学校の訓練場くらいの広さはありそうだ。

中央に、大きな黒い石が置かれている。


アレクシオが入ると、黒い石が仄かに光った。

直後、アレクシオの体から力が奪われていく。

身体が、重くなる。


「こういうことかっ……」


全身から力が抜ける。

まるで、風邪をひいたときのような、節々の痛み。

恐らく、熱も出ている。


この状態で、式術なんてできるのかよ……。


アレクシオは、全力の雷を放つ。

しかし──出ない。


小さな電流が、パチッと走っただけだ。

ドラゴンを撃ちぬいた閃光が現れることはなかった。


生まれつき六式だったアレクシオにとって、

それは初めての経験だった。


これじゃあ……虫も殺せないな。


アレクシオは、倦怠感と戦いながら何発も雷を放つ。

少しずつ、雷の形になってくる。


しかし、確実に体力は奪われていく。


これを何日続ければいいんだ?


一時間ほどそれを繰り返すと、

体力が尽きたアレクシオはその場に倒れこんだ。



「ここは……」


目を覚ますと、そこは、王宮の自室ではなく、

見たことのない部屋だった。

そうだった。

霊峰ライゼルに連れてこられたんだった。


横を見ると、テリーズが椅子に腰掛け、

腕を組みながら目を閉じていた。


直後、目を開ける。


「起きたか」


「ああ……テリーズが運んでくれたのか?」


「そうだ。まだ余裕で運べるな」


どうやら、また失神してしまったらしい。


「俺、失神してばっかりだな」

アレクシオは、上半身を起こし、呟く。


「同じ失神でも、意味が違う」

テリーズが言った。

「前は、現実から逃げた。今回は、真摯に修行に向き合った。

前向きな失神だ」


「前向きとかあるのかよ」

アレクシオは笑った。


「あるんだよ。安心しろ。お前は成長しているよ。

テオロッドから、書簡が届いていたぞ。

明後日ごろ、ブルーオーダーの連中も合流するそうだ」


「ブルーオーダー?」


「式術学校を卒業したばかりの、王宮式術師だ。

アレクシオの護衛にやってくる」


「なんで新米なんか寄こすんだよ。要らないだろ」


「その新米だったユイトたちに命を救われたのは誰だ?」


「……俺だ」



「まずお前はそういう強がりをやめろ。

大きく見せたところで、人はついてこない。

素直な自分をさらけ出せ。それ以外にお前の生きる道はない」


「大げさだろ!」


「次強がったら、斬ってやろうか?」

テリーズが腰の剣に手を触れる。


俺は一瞬身構える。

テリーズは笑った。

「冗談だ。大事な王子様を斬ったら、私も斬首刑になる」


「やめろよ……目が本気に見えたぞ」


「守りたいものを斬るわけがないだろう。早く寝ろよ」

そう言ってテリーズは部屋を出て言った。


なにか嬉しいことを言われたような気がするが、

アレクシオは溜まった疲れに誘われるように、再び眠りについた。


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