第三十一話 第二回恋愛作戦会議
「さて、第二回作戦会議を始めるべ」
ミサキが切り出した。
ブレイヴェンからの帰路。
ミドルリッジの宿。
タツオとイエナが寝た後、再びミサキから集合をかけられた。
この旅におけるそれぞれの進捗を確認する、という目的だった。
「まず、往路におけるユイトの誕生日作戦……これは成功と言っていいべ」
ミサキはまるで監督のような口調で話す。
「その後の野営におけるギターの活躍を見てもそれは間違いない」
「いや、まあ、ギターは確かに毎晩のように弾いていたが……むしろ活躍したのは俺じゃない気がするぞ」
確かに、毎日のように焚き火を囲んで演奏会をやっていた。
俺の国の歌、という名目で色々な曲をやった。
しかし、主に活躍していたのはメインボーカルのタツオな気がする。
「確かに、あの歌声は胸に染みるべ。しかし、それもユイトの演奏あってこそだ」
ミサキは少し顔を赤らめ、思い出すように上を見上げた。
「ラグナとフィオラの結婚式では盛り上がってたな、ミサキ」
俺は言った。
「あれは……ロマンだべ。身分が違いながらも、思い続ける二人。
愛を貫いたフィオラさんの強さ……私もあんな恋がしたいべ」
「結構、ぐいぐい行っていたように見えたが。相手の出方はどうだ?」
俺が聞くと、ミサキは立ち上がり身を乗り出した。
「そう!私は作戦通り頑張ったべ!ガンガンいこうぜ、で行ったのに……。まったく手ごたえがないべ!」
「落ち着け。お前の動きはいい感じだ。俺も見習うべきところが多い。
だが、相手を難攻不落の城だと思うんだ。一朝一夕では落ちるもんじゃない。焦らずいこう」
「にしても、あの男。こんな美少女が迫っているのに、大した動揺も見せないべ!」
ミサキのツインテールが荒ぶっている。
「奴隷売買組織の時の自作自演はどうだったんだ?」
「自作自演じゃないべ!捕まったのは本当だべ。脱出をあえてしなかっただけで……でも、土の階段から落ちる私を受け止める姿は……ときめいたべ」
ミサキはほっぺたを両手で押さえ、顔を赤らめる。
いちいち表情のうるさいやつだ。
見ていて飽きないが。
「うむ。時間はかかるだろうが、ミサキは方向を間違えていないと思う。次に必要なのは……二人でのデートだ」
「デート!?それは……二人きりで会うということだべか」
「ああ。実は、俺はすでにそのイベントをクリアしている」
俺は腕を組んで言った。
「……なっ!いつの間に!」
「だいぶ前にな。まあ、偶然の産物だがな。とにかく、お前らに必要なのは二人きりの時間だ。テオロッドに帰ったら一気に攻め込むぞ」
「そんな……どうやって誘うべ」
ミサキは見るからに動揺をしている。
やはり面白い。
「口実を作ろう。そうだな……買い物だと一人で行けば、ってなるしな。必然性があるもの……家探しとかどうだ?」
「い、家探し!?飛躍しすぎだべ!」
「別に一緒に住むっていう話じゃない。ミサキも、俺たちも寮に住んでいるままだろ?そろそろ、引っ越しした方がいいだろ。俺はタツオに任せるという名目にして、場を作る。あとは……ガンガンいけ」
「……ずいぶん場当たり的な作戦な気がするべ」
「デートなんて、リズムが大事だ。その場にならんと分からん」
「そんなもんだべか……まあ、やってみるべ。そっちはどうするべ?」
「ふむ。戻った後は俺はサイレスと話したいし、向こうは報告業務とかいろいろやることがあるからな……一旦落ち着いてからだな」
「なんか、余裕こいてねえか?突然向こうに縁談とか来たらどうするべ。
王家のお嬢様、結婚適齢期だぞ」
「け、結婚!?一七歳だぞ。早くないか?」
「一五歳で成人したら、二十歳までには普通結婚するべ。
決まった相手がいなければ、レオニス王あたりが相手を探していてもおかしくはないべ」
俺は想像する。
イエナがいけすかない貴族の男に嫁いでいくシーンを。
その結婚式で、寂しそうに俺を見つめるイエナ。
どうして、私を引き留めてくれなかったの……。
ガルフに送られ、嫁いでいくイエナ。
その背中は、何かを語っているように見えた。
「ああぁぁ!!ダメだ、そんなん絶対ダメだ!」
俺は頭を抱えて叫んだ。
「むしろ、私よりユイトの方が焦った方がいいべ」
確かに……そんな気がしてきた。
勝手にゆっくり行けばいいと思っていたが、
残された時間はそんなに多くないのかもしれない。
「私が思うに……本丸は本人じゃなく、その父親だべ」
「なに……?」
俺は、あの髭面の強面の父親を頭に浮かべる。
「目に入れても痛くない一人娘を、どこの馬の骨とも分からない白髪にとられるなんて、簡単に許すわけないべ」
「白髪は関係ないだろ!……要するにどういうことだ」
「ユイトは、親御さんにご挨拶作戦だべ」
「……なんの挨拶だよ!結婚の申し込みでもないのに」
「とりあえず、仲良くなっておかないと今後の進展の障壁になるべ。まず、この旅で得た手土産を披露すればいいべ。
そうだな。米、そばあたりを食べさせて、最後は温泉連れていけばいいんでないか?」
うーん。ミサキの言っていることも一理あるが……。
気が進まない。
あの無口な男と、二人きり……。
しかし、いつかは超えければいけない壁であることは間違いない。
うまく行けば、他の縁談を阻止する強力な味方になる可能性もある。
「……分かった。やってみよう」
「お互い、作戦決まったべな」
ミサキは満足そうである。
「しかし、お互い他人のことはよくわかるのに、自分のことになるとからっきしダメだな……」
俺はため息をつく。
「……だからこその作戦会議だべ!これにて第二回作戦会議終了。次は、良い報告ができるように頑張るべ!」
俺とミサキは握手をし、それぞれの部屋に戻った。
こうして、今回も対象者の名前が出ない作戦会議が終了した。
果たして、俺はうまくやることができるのだろうか……。
いや、やるしかない。




