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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第二章

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第二十九話 闘技場との別れと、浮かれた仲間と。

「二年間、よく働いてくれたな。これが、解放金を引いたお前の報酬だ」


翌日、闘士寮最上階のガレオン私室。

ガレオンは、シャインに金貨の詰まった袋を渡した。

重い革袋。

シャインが闘技場で稼いだ総額は、三千万ソル。

一千万は、解放金に充当されたそうだ。

残る二千万が、彼の手元に戻る。


「それと、カムイ行きの船を手配しておいた。

そっちはサービスだ。受け取っておけ」

ガレオンがそう言うと、シャインが頭を下げて礼を言う。

「あんたには世話になったな。恩に着る」


粋な計らいである。

やはり、俺の見立て通り、ガレオンは意外と義理堅い。

恩義には、恩義で返す。


ガレオンは一瞬、間を置いてから、続けた。

「しかしつくづく惜しい。お前のような闘士は、二度と現れんだろう。

——最終戦績五十五戦、五十五勝だぞ。

お前のファンからは、

銅像を建てろと署名運動が起こっているようだ。

まあ、たまには顔を出せ。

次に来るときには自分の銅像が見られるかもしれんぞ」

シャインは、ほんの少しだけ笑って答える。

「そうだな。新しい興行を見にくるよ」


新しい興行、と聞いて、ガレオンの視線が俺に向く。

「ユイト。お前の描いた画だからな。

テオロッドに帰ってからも、書簡でやり取りするぞ。

返事はすぐに書けよ」


「……はいはい。分かっておりますよ。

興行の状況なんかも教えてください。

他にもアイデアはあるので。ところで、俺の報酬は……?」


鮮烈デビューからAランクでの五連勝。

Sランク昇格での、あの大興行、対人戦の主役。

過去最大の観客動員数。

当然、報酬は期待していいだろう。

俺は、少し胸を張りながら言った。


ガレオンは、少し不思議そうな顔をする。

そして、机の引き出しから一枚の紙を取り出し、俺の前に置いた。


「最初に受付で説明があったと思うが……。

Aランク五連勝分の報酬は、Sランク昇格金に充当される」

俺は、紙をじっと見る。

確かに書いてある。

【昇格希望者は、昇格金を支払うことで昇格ができる】


「お前の勝利報酬は合計百万ソル。

Sランク昇格金は、百万ソル。よって」

ガレオンは続ける。

「お前の報酬は、ない」


え?


俺は、呆然とする。


「え、ちょっと待ってください。あんなに戦いましたよ?

蛇とか蛙とか、猫とか狼とか。それで……なし?」


「契約だからな。お望みなら、Sランクで稼いでいくか?

まだ魔獣もいるし、Sランクで勝てば百万ソルだぞ」

ガレオンはにやり、と笑って言った。


俺は、天井を見上げた。

こんなに必死に戦って、命を張ったのに……。

契約とは、商売とは恐ろしいものである。

俺は小さく息を吐いた。


「いえ…もういいです」


「強がるな。本当は稼ぎたいんだろう?」


「いえ。その代わり、新しい興行がうまく行ったら利益の三割を俺にください。」


「なっ…!!そんな契約はしていないぞ!」


「嫌ならいいですよ。そっちがその気なら。

残念だなあ。俺が提案した興行には実は更に儲かるやり方があるんですが……

契約していないので、それは教えられませんねえ」


「……お前、完全に商売人になったな」

ガレオンは、呆れながらも、マージン交渉をしてくる。

最終的に、興行利益の一割で手を打った。


「あと、最後にお前と話がしたいというやつがいたから、呼んでおいたぞ」

ガレオンがそう言って手招きをすると、部屋の中に知った顔を入ってきた。


灰色の髪の、〝不退〟の闘士。

「ユイトくん!」

ヴァルドだ。


「Sランクになったと思ったらすぐに引退なんて……忙しいね、君は」


「はい。色々と、お世話になりました」

俺は言った。


ヴァルドの戦い方は、危険が伴う。

決して全面的に模倣すべきではないが、最後の一歩、踏み込む勇気。

あれがなければ、五連勝は無理だっただろう。


「シャインさん、はじめまして。Aランクのヴァルドです。

願わくば、僕も一度お相手願いたかったです」

ヴァルドは、シャインにそう言った。


「〝不退〟のヴァルドか。あと一勝でSランクだろう。頑張れよ」

シャインが答える。


「ユイトくん。最後、シャインさんが構えた一瞬で踏み込めば、逆転できたかもしれないよ。

あそこで君は少し腰が引けたね。勝利の分かれ目は、あそこだ。僕は見ていて悔しかったよ。

──大体あの攻防の中で、僕が見るだけでも三回はチャンスがあったはずなんだ」


……戦闘オタクの解説がうるさい。

そういえば、残された闘士のランクを継続するのかどうか、まだ決まっていなかったな。


暫定でランクを維持し、敗北したらランクが下がる仕組みを提案するか。

対人戦かつ武器なしになると、今と戦闘条件は変わるが……。


まあ、ヴァルドなら大抵の相手には負けないだろう。


これからのことは、ガレオンが決めることだ。

俺がとやかく言う話ではない。


「まるで自分なら勝てた、かのような言い方だな」

ヴァルドの熱弁にシャインが言った。


「あ、いえそんなわけでは。僕は剣を振るしか能がないので。ユイトくん、寂しくなるけど、頑張ってね。

闘技場は、僕が守るよ」

ヴァルドはそういって俺に右手を差し出した。


「はい。ヴァルドさんも」

俺はその手を握り返した。


ガレオンとヴァルドに別れを告げ、俺とシャインは闘技場を出た。


「シャインさん、このまま行くんですか?

俺の仲間に会っていきませんか?」

俺はシャインに聞いた。


「お前のレゾナンスシェイクの名付け親にも会ってみたいが……。

ガレオンの用意してくれた船の出発が近いんでな。

カムイに帰って、落ち着いたらまたテオロッドにでも顔を出すさ」

シャインは答える。


「そうですね。また、会いましょう」

俺は笑ってシャインと握手をした。

たった数日の付き合いとは思えないほど、

分かりあえたような気がするのは俺だろうか。


——きっと、シャインもそう感じてくれている。


俺はそんなことを考えながら、タツオたちが泊まる宿に向かった。


「おかえりなさい、ユイトさん」

ドアを開けると、マイエンジェル、イエナが迎えてくれた。

テンションが上がる。

怪我の治療をしてもらって以来、しばらくイエナと会っていない。


イエナ成分が完全に枯渇している。


なんなら今すぐ抱きしめてしまいたいぐらいではあるが、

そんな勇気はもちろん、ない。


「ただいま……って、なんだよこれは」


部屋中に、大量の服や装飾品が並んでいる。

そして、部屋も広い。Sランクの部屋くらいある。

——多分、スイートルーム的なやつだ。


「ユイトが帰ってくる前に、皆で買い物行ったべ。

さすが商業都市。おしゃれな服とかアクセサリーがいっぱいだったべ」

ミサキが嬉しそうにネックレスを手に取っている。


よく見ると、まるで貴族のような衣装を着ている。

そして——サングラスをかけている。


「……金はどうしたんだよ。まさか盗んだんじゃないだろうな」

俺は聞いた。旅の資金は帰路を考えると、そこまで潤沢ではなかったはずだ。


「呼んだかい、平凡な市民よ」

奥から、タツオがやってくる。

こちらもサングラスを着て、派手なスーツを着ている。

手には指輪がじゃらじゃら付いている。

酒も飲めないくせに、ワイングラスを片手に持っている。


「カジノ王の僕、タツオの活躍で、旅の資金は三千万ソルに増えたのさ。

ユイトも闘技場の報酬があるでしょ?いくらもらったの?」

タツオが、報酬を見せてみろ、と言わんばかりに手を出してくる。


「……ない」

俺は小さい声で言った。


「ん?なんて?」


「……だからないって言ってんだろうが!

っていうかなに楽しんでやがる!

こっちは命がけで大変だったんだぞ!」


「私は、止めたんですが……」

イエナが割って入る。

しかし、その手には見たことない装飾品がいくつもついている。

俺は、覚悟を決めた。


「お前ら、座れ」

俺は声を低くして凄んだ。

一同、それを聞いてびくっ、となる。


「今からお説教だ」


俺は、全員を正座させた。

いささか羽目を外しすぎである。


その後、小一時間説教し、返品可能なものを返品しに行かせた。

旅に、余計な荷物は不要である。


「久しぶりにユイトのビーストモードを見た」


返品周りを終えると、タツオはそう呟いた。


返品周りの途中、街のマーケットで面白いものをいくつか見つけた。食材や、調味料である。俺は返品で得た金でそれを仕入れた。テオロッドに戻ったら、ローディンと作戦会議だ。


とにもかくにも、目的であるシャインの解放に成功した。

後はテオロッドに戻るだけである。


とはいえ、船でポートオーリオ、そこからブレイヴェンを経由し戻ると、十日くらいはかかる。

長旅だ。

体調は万全で出発したい。

俺たちは翌日の船を予約し、一日ゆっくりすることにした。


夜、食事をしながら俺たちはこの間の話をする。

「そのオーレンっていうボスの逃げ足が速くてさあ」

タツオが、奴隷売買組織潜入の話をしている。


「そいつはどこへ逃げたんだろうな。もうマルカドールにはいないだろうけど……

で、その時にエーテルリンクが使えるようになったわけだ」

俺は、肉料理を頬張りながら言った。


「段々慣れてきたので、〝つなぐ〟のは早くなりました。

結構式力使うので、一度にできるのは五往復くらいが最大ですが……」

イエナが言った。


回数制限があるといえども、あの式があると作戦の幅が大幅に広がる。

二手、三手に別れて行動する時には、連携が必須だ。

テオロッドに戻ったらサイレスに研究してもらおう。


「シャインが解放されて、これで世界は安定するんだべか?」

ミサキが言う。


「カムイは味方になってくれると思うが、オルディアの勢いを止めるにはそれだけじゃ足りないだろうな。

——でも、もう一つ大きな収穫がある」

俺は答える。


「なんだべ?」


「マルカドールが、オルディア連邦の脱退を検討してくれる。まあ、いろいろ条件付きだが……。

少なくとも、オルディア連邦は一枚岩でないことが分かった。つけ入る隙があるとすれば、そこだ」


まずはテオロッドに戻ろう。

そして、王と今後について話し合おう。

アレクシオは、元気になっただろうか。

サイレスは──相変わらずサウナに入っていそうだな。

テリーズとガルフは、無事オウシュウとの同盟を締結できているだろうか

ローディンに、そばの実の栽培を依頼しなければいけないな。

新しい食材、喜ぶだろうな。

ブルーオーダーの連中は、無事試験に合格したんだろうか。


俺は、そんなことを考えていた。


ふと、テオロッドに大事な人が増えていることに気が付く。


タツオに巻き込まれてたどり着いたこの世界で、

俺はいつの間にか守りたい場所ができていた。


元の世界が恋しくなる時もあるが──。


俺は本当に帰りたいんだろうか。


食事をしているイエナの横顔や、軽口をたたき合うタツオとミサキを見ていると、

自分の本心が分からなくなってくる。


今は、考えるのをやめよう。

目的をやり遂げた達成感の余韻にひたりながら、

──この幸せな時間を楽しもう。


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