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テオロッド戦記—異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第二章

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第二十四話 粘液蛙と、不退の闘士と。

翌日。ガレオンは約束通り二戦目を用意していた。

前回の戦いも、観客の評判はいいとのことだ。

Aランクからスタートした無謀な新人が、どこまでやれるか注目が集まっているそうだ。

俺の賭けの倍率も下がってきているので、

魔獣は強くしていくぞ、と言われた。


マジかよ。

俺は剣ができるわけでもないし、式術も破壊力があるわけじゃない。

引き続き、頭を使って戦うしかないか……。


また同じように、檻が上がる。

だんだんこの演出も慣れてきた。

歓声に迎えられ、俺は舞台に入場する。


対面の門が開く。


ぬちゃり、と湿った音。

現れたのは巨大な蛙だった。


緑褐色の皮膚が、濡れている。

四肢は異様に太く、発達している。


「第二戦——ボグトード!」


観客が盛り上がる。


蛇の次は、蛙。

よくもまあこんなに種類を揃えたものである。


ボグトードと呼ばれた蛙は一瞬しゃがみ込むと、消えた。


次の瞬間、視界が上に持ち上がる。


蛙は——高く跳躍した。


俺はその空中からの体当たりを、横に転がり避ける。

巨体の着地の衝撃で砂が弾ける。


踏み潰されたら、終わりだな……。


間髪入れず、舌が鞭のように伸びてくる。


……そんな攻撃もあるのかよ。


かろうじて避けるが、足元が滑る。

蛙の舌から飛び出た液体が、地面に飛び散っている。


——粘液だ。


とっさにその場を退避する。

毒とかあるかもしれない。


何か仕掛けないと。後手に回っている。


俺は、レゾナンスシェイクを打とうとして、

——やめた。


蛇の時と同様、蛙の体の中身のイメージがつかない。


くそ、こんなことなら蛙の解剖ちゃんとやっておけばよかった。


再びボグトードは跳躍する。


全身から、粘液が飛び散る。


正直……気持ち悪い。


ん?粘液?

その瞬間、気づく。


全身が濡れている。


どこかで、この状況あったような……。

記憶をたぐり、思い出す。


——実地訓練の……ゴーレムだ。


ブルーオーダーが、

青の式で濡らし、

黄の式で倒した、あのやり方。


蛙は、着地の一瞬、地響きと共に止まる。


俺は両手を構える。


ぶっつけ本番だが、一応、式術学校で訓練はした。

——できるはず。


「雷の式……トニトルス!」


掌から、細い雷が走る。

その頼りない雷は、それでもボグトードの脳天を直撃した。


蛙の身体が一瞬跳ね上がり、痙攣する。


水分の多い身体に、電気は逃げない。

蛙はそのまま横倒しになった。


が、たいしたダメージはないだろう。

今のうちに……。


「アースホール!」


地面に、大きな穴を空ける。

蛙は、地面に沈んでいく。

もがいているが、やがて完全に地面に埋まった。


「ボグトード、戦闘不能!勝者、〝奇術師〟ユイト!」

アナウンスと共に、歓声が上がる。


ふう。なんとかなった。

ありがとう、ブルーオーダー。

ありがとう、アレクシオ。

しかし、また勝手に技の名前をつけてしまった。


タツオに感化されているのか、

どうにも名前がないと技が締まらない気がする。


アースウォールやアースホールは安直すぎたので、

トニトルスは少し凝ってみたが……

なんだか少し恥ずかしい。


控え室に戻ると、またガレオンがいた。


「……暇なんですか?」

俺はつい、軽口を叩く。

毎日顔を合わせていると、なんだか親近感が湧いてくる。


「ご挨拶だな。

期待の新人の試合を、見逃すわけにはいかんだろう。

今日も見事だったな」

ガレオンは、言った。


「もう爬虫類は勘弁してほしいです」


「確かに続いたな。明日は考えておく。

とはいえ、こんなにトントン拍子に行く闘士も珍しいもんでな……また手強い相手になるかもしれんぞ」


「粘液とかなければ、なんでもいいです」


「心強いな。しかし、お前も魔獣を殺さないんだな。

こちらとしては再利用できるので助かるが……」


「殺すような技がないだけですよ」


「そうか。まぁ、色んな闘士がいてもいいと思うが。

観客の中には、血を求めて闘技場にきているものもいる。

次の試合は……それ目当ての客ばかりだ」


「次?すぐやるんですか?

すいません、穴作って、埋めちゃいましたけど……」

闘技場舞台の真ん中に、ボグトードが埋まっているはずだ。


「それを全部片付けたら、な。

できれば、あの技はやめてくれ。

次の試合まで時間がかかる」

そう言って、ガレオンは肩をすくめた。

「次も、お前と同じAランクだ。

〝不退〟のヴァルド。せっかくだから観ていけ」


俺は、ガレオンに連れられ、上階の観覧席に連れて行かれた。周りには貴族らしき服装をしたものばかりだ。

席に座る前に、何人から声をかけられた。

「おかげで儲けさせてもらったぞ!」

「次も〝奇術〟を楽しみにしているぞ!」

俺はそれらに愛想笑いで応え、席についた。


先ほど俺が蛙を埋めた場所は、きれいに整地されている。

闘技場スタッフも、仕事が早い。


「Aランク戦——〝不退〟のヴァルド対サヴァンレオ!」

アナウンスが流れる。檻が空いて、男が現れる。

澱みなく進み、闘技場中央に立った。

髪は灰色。

——式術者ではない。

背中に剣を背負っている。

年齢は、俺より少し上くらいだろうか。

若い。


しかし、その背中には長年の年月を思わせる覚悟を感じる。

ヴァルドはゆっくりと剣を構えた。


相手のサヴァンレオは——俺が戦った個体だ。

凶暴な唸り声を上げながら、男に向かって突進する。


ヴァルドは——避ける素振りもない。


正面から、それに斬り込む。

踏み込みからの、剣閃。


獅子の肩口に深い傷が走る。


血が散る。


だが、ヴァルドの体をサヴァンレオの爪が掠める。

ヴァルドの腕が裂ける。


しかし——表情は変わらない。


次の瞬間、さらに一歩踏み込む。

サヴァンレオがもがく度に、傷を受ける。

まるでそれが前提のように。


しかし、剣は止まることはない。


相手の動きを見極めながら、何度も斬りつける。


血が飛び散る近接戦が終わると、

——やがて獅子が崩れる。


舞台は、サヴァンレオの血と、ヴァルドの血で、

真っ赤に染まっている。


ヴァルドは膝をつかない。

腕から血が滴る。

だが呼吸は乱れていない。

観客から、怒号に似た歓声が上がる。

俺の時とは違う、興奮の声。


これが——闘技場。

自分とはまったく違う戦い方。

そして、勝ち方。


横で、ガレオンが言った。

「また医務室行きだな。毎回ヴァルドはこうだ。

緑の式者が待機してなかったら、とっくに死んでるだろうな」


毎回?


こんな死闘を、何回も——何十回も繰り返しているのか?


そこまでして、彼は何を得たいのだろうか。

俺は、このヴァルドという男が気になった。


「あの、俺も緑の式使えるんですけど。

医務室で手伝いましょうか?」


「なに?それは助かるな。

あの怪我だと時間がかかりそうだしな。

おい、〝奇術師〟ユイトを、医務室に案内しろ」

ガレオンは、近くにいた従者にそう言った。


医務室に着くと、上半身を脱いだヴァルドが、

緑の髪の女性に手当てを受けていた。

ヴァルドの体は、古傷だらけだった。

無数の傷跡。

その中に、先ほどサヴァンレオに裂かれた傷が生々しかった。

どうやら緑の式で治療をしているようだが、

見るからに式力が足りていない。

血は止まってきているが、傷が塞がるほどではない。

恐らく、九式か八式程度だろう。


「あの、代わりますよ」

俺はそういうと、緑の式を発動する。

女性のものより大きい緑の光が、ヴァルドの傷を包み込む。

少しずつ、傷が塞がっていく。

イエナには及ばないが、俺も六式だ。

これくらいはできる。


女性は、俺に礼を言うと、医務室で待機していた別の闘士のところへ行った。

図らずも、ヴァルドと二人きりになる。

「あの、さっきの戦い、見てました」

俺は、沈黙を破るように話しかけた。


「ああ……見られていたんだね。

ひどい戦い方でしょ?」

短い返事が返ってくる。


「傷を受けるの、怖くないんですか」


「怖いよ。だけど、退けばもっと深く斬られる」

静かにそう答えた。

「君は、最近Aランクからデビューした、

〝奇術師〟ユイトくんだね」


どきり、とする。

俺のことを知っていたようだ。


「はい。ご存知だったんですね」


「危なげない戦いだよね。

式術の使えない僕には、あんな戦いはできない。

命をかけるしか、ない」


「これまで、どれくらい戦ってきたんですか」


ヴァルドは少しだけ考え、答えた。

「百五十六戦。八十八勝、六十八敗。

それが僕の戦績だ。Aランクに来るのに、三年かかった。

才能のない、凡人だよ」


百五十六戦。

気の遠くなる数だ。

Eランクから積み上げ——ここまで来たのだろう。


「何度も死にかけたよ。

だけど——剣だけは置かなかった」

沈黙。


俺は、続ける言葉が見つからなかった。

すると、今度はヴァルドが俺に聞いた。


「君はブレイヴェンから来たらしいね。

ガレオンさんから聞いた。

——ラグナさんは知っている?」


「はい。ラグナから闘技場のことを聞いて、来ました。

知っているんですか?」


「僕が低ランクの頃、Aランカーだった。

憧れの存在だった。

僕と同じように、式術の使えない男が、

剣一本でのしあがる。

一年経ってラグナさんはSランクになり、

この闘技場を出て行った。

話したことはなかったけど……

彼がいなければ、僕の心は折れていたと思う」

少しだけ口元が緩む。

「僕は、ここでSランクになる。

凡人がどこまで登れるのか。それを確かめるためにここにいる」


復讐でも名誉でもなく、力を試すため。


「〝奇術師〟ユイトくん。君は何のためにここにいる?

遊びで来たわけじゃないだろう?」


俺は、その質問に咄嗟に答えることができなかった。

シャインの解放、と伝えるわけにもいかない。


俺が戸惑っていると、ヴァルドはそれを察したのか小さく笑った。


「——まぁ、そのうち分かるか。

僕は、あと三勝でSに上がれる。負けなければ、ね。

君もあと三勝だろう?

三年かけた僕と、三日目の君と。

どちらが先に上がれるかな。

なんにせよ——今日は治療、ありがとう。

できれば、また治療してほしい。

ここの式者は、あまり式力がないからね」

最後だけ小声で言うと、ヴァルドは立ち上がり、医務室を出て行った。


その傷だらけの背中に、覚悟を持ち戦う男の姿を見た。

俺は少し気を引き締める。


油断すれば、命に関わる。

改めて、ここが闘技場だということを強く実感した。



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