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惑星降下猟兵3192~獣亜人と恋に落ちた少年の物語  作者: きぬごしさむえ
第二章 "Liberal Of The Mars" fighters
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2-7 古傷

「やったぞ!? 蘇生しやがった!!」


 そう言っていつになく子供染みた口調で雄叫びを上げ、レンのことを強く抱きしめるのはシウだった。戦場でこそ相棒(バディ)といえる彼だが、レンにとってはそれ以上でもそれ以下でも無いと思っていた。だから、レンはなぜシウがそんなに自分のことで喜んでいるのか理解するのが難しかった。


「シウ……俺……?」

「シウ!! 離れて!? まだ電極(パッド)が付いてるから!」


 誰かがレンの胸に張り付いている粘着シートを慌てて引っぺがす。パメラだ。看護師見習い崩れの衛生係で、メリッサの友人の中では比較的まともな方の糞女(ビッチ)。少なくとも、レンの認識ではそうでしかなかった。虚ろな視線で彼女を一瞥すると、今にも泣きだしそうなくらい表情を歪ませて、ほんの一回だけレンに縋り付いてきた。でも、すぐ顔を真っ赤にして離れて、他のゲリラの救護へと回った。いつもなら煩わしく感じるだけなのに、パメラの甘ったるい香水のにおいが不思議と心地よかった。


 ただ、香水のにおいなんてすぐに掻き消されてしまった。洞窟は吐き気がするほど血生臭くて、あとはうめき声と悲鳴で充満していた。あちらこちらでAEDの作動音や寄せ集めの医療電子機材のブザーも鳴り響き、そのたびに誰かが叫んだり、喚いたりした。


「パム! これ、まだトラックに残ってた!」

「ああ、えっと……。あ、ありがと、リズ……!」


 泥だらけのメリッサがモルヒネ注射器の格納ケースをパメラに投げ渡す。そして、おそらく五、六本の注射器を大事そうに両手で抱え込んで、レンのところまで駆け寄ってきた。もちろん、途中で蘇生した姿のレンに気が付いたようで、呆気に取られ魂の抜けたような顔になりながら彼の真ん前まで顔を寄せてきた。


「メリッサ……お前……」

「なによ」

「……ひでぇ顔。化粧が崩れたせいで、目元がタヌキみてぇになってんぞ」


 メリッサが、ぶわっと泣いた。レンの言っている意味が分からなかったけど、馬鹿にされていることだけは分かったようで、グチャグチャの感情を喚き散らかしながらシウを押しのけるようにレンに泣きついて抗議した。


「なによ……なによ、なによ!!! クソが!! テメェ、生きてんなら心配させんなや!!! ブチ犯すぞテメェ……っ!!」


 レンはメリッサのせいで、意識とともに取り戻しつつあった身体中の痛覚が鋭く痛んだが、不思議とその感覚に安心した。それよりも、いつも自分のことを貶めて笑っているムカつく彼女が、今まで見たことの無い顔と声色で泣きじゃくりながら震えているのが意外でムズムズした。とりあえず、メリッサの背中を遠慮がちに片手で撫でた。思っていたよりも、ずっとか弱い背中だった。


「シウ。あのさ。えっとさ」

「なんだ」

「あー、……敵は?」

「敵?」

「いや、爆撃……? 砲撃……? 分からねーけど、反撃されたんだろ俺たち」


 レンは平静を装わないと格好が悪い気がした。だから苦し紛れに今この場で思い付く限りの質問をシウに投げかけてみた。相変わらず片手でメリッサの背中をさする。服のデザインがジャングルには似つかわしくないオープンバックのブラウスだったから、下着と素肌との段差が気になって、何となくそこばかり触っていた。


「攻撃を受けたことは確かだが……手段については断言できない。あくまで俺の予想だが、連合の長距離爆撃機か、あるいは軌道突入戦闘機が仕掛けてきたんだと思う。ガバメントの空軍にマリネリスを精密爆撃するだけの索敵・攻撃能力がある機体は無い。戦闘中は一切支援をせず、俺たちを不意打ちするためだけの砲兵部隊が潜んで居たとも考えにくいしな──」

「レン……? レンじゃねぇか! 生き返ったのか、ボウズ!」

「レン! おい見ろよ、レンが生きてるぞ!」

「レン!!」


 レンはシウの話がまるで耳に入ってこなかった。気が付けば、いつの間に顔だけは知っているゲリラたちに囲まれていて、なんともいえない感情に支配されていた。

 自分にとっては、何もかも失った末に、ただ漠然と縋り付いた復讐の手段でしかなかった火星自由主義統一戦線。誰を認めるわけでもなく、自分が誰かに認められたいわけでもなかった。


「レン……約束して。アタシより先に、くたばんないで」


 レンは「はあ?」と、小さく息を吐いた。メリッサのブリーチで痛んだ髪の毛と、温かい頭皮が顎先で震えていた。


「なんで、そんなこと」


 ──メリッサが何かを言っていた。でも、レンは目頭を擦るシウと遠くの方から遠慮がちにこっちを見つめているパメラに気を取られて、その何かを聞き逃した。気が付くと、メリッサとキスをしていた。化学的なチューイングガムのフルーツ味がじわりと口の中に広がった。


 爆撃で負った胸の切り(キズ)が鋭く痛んだ。まるで怒った猫に引っかかれたような感覚だった。

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