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Noisy Energy ノイジー・エナジー  作者: 小鳥乃きいろ
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#4 高速コーナー #再会の筑波 その三

#再会の筑波 その三


 翔吾がコースアウトしたあと、アタシは一人でコースに慣れる様に走っていた。引っ張ってくれる人がいなくなったので、試行錯誤でレコードラインを探っていたが、なかなか難しい。なんとも消化不良なままで走行時間が終わってしまった。


「あーあ、ついてねえ。」

 翔吾が引き上げたバイクを渡辺さんと修理しながらボヤいている。新しいマシンを煮詰めるのには時間がかかるらしい。今日は走行枠はもう一つあったが、翔吾はキャンセルすると言う。

「のんびり一人で走ってこい。」


 困ったな。せっかく筑波に来たのに。

「ついてないのはアタシだよ。」

 アタシはパドックから出て佐藤姉弟と合流し、犬のサクラをもしゃもしゃしてウサばらしをしていた。次の走行時間まではまだ少し時間がある。

「晴海さん、苦労してますね。」

 春男くんが声をかけてくれる。分かる?そーなんだよ。まったく翔吾のバカが勝手にリタイアするからさ。

 なんてグチを言っていると。おや?どこかで見たCBRが二台並んでるのが目に入った。グレーの新車と白い旧車。しかも旧車のカウルにはこれでもかというくらいのシールやステッカーが貼ってある。


 あの二人だ!

 アタシは立ち上がって辺りをキョロキョロと見回した。そこへスタンドから下りて来た二人連れの女の子を見つけた。二人ともレーシングスーツに身を包み、走りに来たようだ。

 アタシは話しかけていた春男くんと夏子にいい加減に返事をすると、女の子達の方に歩いていた。


「こ、こんにゃちは!」

 うわ、ちょっと噛んだ。恥ずい。二人で話しながら歩いていた女の子達は、なに?って感じで不審そうな目を向けたが、アタシが女の子でレーシングスーツを来てることを見て、何となく分かってくれたみたい。

「そのスーツ…NSR…の子だよね。さっき走ってた。」

 ショートカットで前髪に少し赤メッシュの入った子がアタシを睨む。アタシよりもコブシ一つくらい背が高い。結構メリハリのあるボディは迫力があった。

「サキはスグ睨むんだから…。ごめんなさいね。この子って目が悪いのにメガネかけないから。」

 もう一人は長い黒髪の日本人形のような子だった。ほっそりとして上品な雰囲気がある。夏子と同じくらいの背丈で柔らかい物腰、何気ない所作が育ちの良さを感じさせる。


「話すのは初めてだよね。」

 サキと呼ばれた子が、話しかけてきた。何となく口元が綻んでいる。

「そうだね。」

 アタシは笑顔で応えた。

「あぁ…椿ラインの下りで走りましたよね?」

 長い黒髪の子も思い出したみたい。

「うん。」

 サキがズイと一歩踏み出して、更にジトッと睨む。いや、目が悪いから近くに寄って来たんだ。

「あたしはサキ、花菖蒲咲(はなしょうぶさき)。こっちはミズキ、桔梗野瑞希(ききょうのみずき)。春から高校二年生さ。あたしら自分でライセンス取って走ってるんだ。住みがこっちだからね。」

 なんと同学年じゃん!

「アタシはちえり、晴海ちえり。…よかったら、教えてくれる?」

「筑波は初めて?」

「うん。今走ってきたけど、おっかなビックリだよ。」

 と、そこまで話したところで、アタシは背中をツンツンつつかれた。振り返ると夏子と春男くんが心配顔で様子を伺っている。

「誰?」


 アタシは夏子と春男くんを紹介して話しを続けた。どうやらこの後同じ走行枠で走れるみたいだ。それなら今日は引っ張って走らせて貰おう。

「じゃあ、ついてきな。」

 サキとミズキも快く引き受けてくれた。

 翔吾はパドックで渡辺さんと一緒にR25の修理だかセッティングだかで忙しそうだ。ちょっと声をかけても生返事しか返ってこない。仕方ないな。アタシは時間になったのでNSRに跨ってピットロードに向かった。


「最初はミズキについて行くといいよ。ペースを掴みやすいから。慣れたらかかってきな。楽しくやろうぜ。」

 いや、まだまだ今日初めてですから。

 それにしてもバイクはいろんな音がして面白い。サキのCBRは並列二気筒でマフラーを替えている。

 ボロロロッ…ボウォーン!

 ミズキの古いCBRは並列四気筒。古い言い方ではクォーターマルチエンジンだ。

 リュリュリュリュ…フォーン!


 ピットロードにスタート待ちで並ぶ時に、NSRと同じツーストエンジンのスズキガンマを見つけた。これは社外チャンバーを付けていて、独特の排気音がする。

 ビチビチビチビチ…。

 アイドリングは湿っぽい音がする。オイルが飛び散ってんじゃないの?チャンバーからは白い排気ガスが断続的に吐き出されている。

 ビィンビィン。

 ピットロードに移動する時にアクセルを開けると軽く吹け上がる。アタシはサキとミズキについて行ったら、ガンマもアタシの後ろについてきた。

 やがてシグナルが変り走行開始だ。

 ペェーン、ペェーン…。

 後ろのガンマが加速する時には乾いた抜けのいい音に変り、アタシを追いかけてきた。

 いやいや、後ろよりも前の二人を追いかけなくちゃ!

 パァーン!

 アタシはアクセルを開けて第一コーナーに向かって行った。


「うわ、速ッ!ちょっと待って!」

 サキとミズキは速い。今はついて行くのにも苦労する。でも軽くてパワフルなNSRのおかげでそれ程離されなかった。

 ミズキのCBRはNSRと同等の軽さを活かして軽やかに走っている。無駄の無い流れる様なコーナーワークはまるで優雅な舞を踊っているようだ。

 ヒュン!フォー…キーンッ!

 二万回転まで回る超高回転型のエンジンは時に甲高い音を響かせて加速する。

 対してサキのCBRはメリハリのある走りで、ハードブレーキングからの肘を剃りそうなコーナーワークとフロントが浮き上がりそうなほど鋭い立ち上がりが信条のダイナミックなライディングだ。

 ボゥン!ブロロロ…ボォー!

 マフラーを替えて排気量に似合わない重低音を轟かせてストレートを疾駆する。

 アタシのライディングはどちらかと言うと、きっとサキに近いんじゃないかと思う。サキより荒っぽいのが翔吾かな?


 パンッ!ぺぺぺぺ…ペゥーン!

 前に見とれていたら、後ろのガンマに抜かれてしまった。まぁ今日は練習で来てるから別に…。

 パァーン!

 …おっと。アタシもついアクセルを開けちゃったよ。せっかく走りに来たんだから楽しまないとね。

「速い…この人…。」

 追いかけ始めてすぐにガンマの速さに舌を巻く。マシンとしては同等…いや多分ガンマの方がチューンアップでパワーが出ているみたい。立ち上がりが全然違うし、ストレートでは突き放される。かろうじてスリップストリームに入ってもついて行くのがせいぜいだ。たまにチラリと振り返ると少しペースを落としてアタシが追いつくのを待っているみたい。


 サキとミズキはアタシとガンマの様子に気付いたようだ。チラチラと振り返って見ている。ガンマはしばらくアタシと走ると、サキとミズキにターゲットを移した。まずは目の前で優雅に走っていたミズキの旧CBRをつつき回す。

 ミズキはペースを上げて必死に逃げ回る。インを閉めた速いコーナーワークで隙を見せない。仕掛けられても冷静に対処していたが、バックストレートでパワーの差を見せつけられた。ガンマはあっという間に抜き去ると、前を走るサキの新CBRに襲いかかった。


 しかしサキはチラッと振り返るとアッサリとガンマに道を譲った。アレ?バトルしないの?…と思いきや、抜き去ったガンマを猛然と追いかけ始めた。なるへそ、サキはそういうタイプなのね。パワーに差のある相手だがスリップストリームを使ってなんとか食らいつく。コーナーの入口ではなんとか鼻先をねじ込もうとブレーキング勝負を仕掛ける。仕掛けられる場所をすべて使ってガンマをつつき回した。しかし、徐々に引き離されてスリップストリームにもつけなくなってしまった。残念ながら完敗だ。


 アタシはサキやミズキの勝負を見逃すまいと必死で走っていた。いつの間にかミズキをパスして、気がつくとサキのすぐ後ろを走っていた。サキとミズキのバトルを追いかけるうちに筑波のレコードラインを身体で覚え始めたのかもしれない。もちろんNSRが軽くてパワフルだから、なんとかついて行けたのだろう。

 このまま終わりたくない。走行時間はあとどれ位残っているだろうか。もう一度ガンマに挑戦したい!アタシはホームストレートでサキのスリップストリームを使って、第一コーナーでサキの前に躍り出るとガンマを追いかけ始めた。

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